さくらインターネットは「性別」「年齢」「学歴」などのラベリングで個人を見ない

――ここからは働き方についてお聞きしたいと思います。今お勤めのさくらインターネットさんは、働き方の多様性を尊重されていることもあって、多様性につながる取り組みをされていますね。実際にダイバーシティ雇用が自分の会社で行われているなと感じられますか?

江草陽太氏(以下、江草):多様性に関して気づいていることに関しては、人事部に相当するエンプロイーサクセス部というのがあって、そこの人事のみなさんが、多様性じゃないことだったり、ルールにしなくていいようなことだったり、差があるようなことだったりをわりと気にして頻繁に制度更新をしています。

むしろ制度が変わって、「あ、そういうところがあったんだ」って気づくこともあるくらいに、わりと進んでいるかなとは思いますね。

男女でなにか採用に影響するということは当然ないですし、あとはわかりやすい例で言うと学歴をまったく気にしないなと思います。

それが当たり前だと思っていたんですけど、ほかから転職してきた人や、周りの人の話を聞くと、うちは気にしないにしても本当にまったく意識の外にあるんだなと感じます。それが働き方には直結はしないんだけど、所属やラベル付けで区別をしていないことの1つの例にはなるかなと思います。

中卒でもいいし、高卒でもいいし、大学卒でも中退でも、院卒、院中退でも、博士の人でも、大学を出ているからどうとかではなく、その人がエンジニアであればエンジニアリングに対しての姿勢だったり、できることのスキルであったり、そういった個々人そのものの性質については見るけど、ラベリングでは見ないというのはすごく実感します。

入社時に、大学院卒の新卒の方と高卒の入社の方とで、仮に考え方やエンジニアリングのスキルが一緒だった場合は当然給料も変わらないですし、与えられる仕事も変わりません。なんなら年齢差も気にしないような雰囲気になっていますね。

――それは上の方々がそういう意識を持っているからこそ、全体に浸透しているのでしょうか?

江草:そうですね。エンジニアリング中心で会社が大きくなって、人がたくさん入って成長してきたというところが大きいんだと思います。院卒でも高卒でもプログラミングをするならプログラミングができるかどうかが大事です。

何年勤めたから力があって仕事が進められるとかでもないですし。実際できるかできないかで決まるというビジネス、ないしは仕事内容でさくらインターネットの会社自体が成長してきたからなのかなという気はします。

――今おうかがいしたように、さくらインターネットでは多様性を尊重する施策を推進されていますが、多様性はイノベーションに必要だと思いますか?

江草:必要だと思います。たまたま似た人ばかりがいるのは別にいいんですが、多様になる状況を否定しないという姿勢は絶対にいると思います。なにかが変わる瞬間や、今までとは違うことをするということに対して否定的な考えを持たない、頭ごなしに否定しないという考え方は少なくとも絶対必要です。

それがないと、今いる人の多様性がすでにあったとしても、そこにない多様性に進む時に「いや、でも、それは……」となっちゃって意味ないと思います。多様性がすでにあったとしても、なかったとしても変化することへの寛容さは必要だと思います。

そのうえで、いろいろな考えの人がたくさんいたほうがアイデアは出やすいですし、とある人が気づかないアイデアをほかの人が出すかもしれないし。それは同じような考えをしている人じゃない人同士のほうがより可能性は上がるので、多様ではあったほうがいいと思います。

前例のないセーラー服着用での出社

――江草さんは、セーラー服を着て出社されていますよね。これは今までは前例がなかったことだと思いますし、さくらインターネットにおいて多様性の文化の1つを生み出した当事者だと思うのですが、プライベートでも女性服を着用されているのでしょうか?

江草:そうですね。ふだんも基本的に着ています。面倒くさい時はパーカーにスカートとか、ワンピースとか。服はいろいろですけど、基本的に女の子の服を着ています。

――どうして女性服を着用しているのでしょうか?江草さん自身がジェンダーレスであることを表現しているわけではなくて、単純にかわいいものを着たいというモチベーションで着用されているのでしょうか?

江草:基本的にはそうです。かわいいもの全般が好きです。すごく広がるタイプの服とか、ミニスカートのプリーツスカートとか。セーラー服もわりと好きな服のジャンルの1つなので、普段着でもセーラー襟のワンピースとかはついつい気になっちゃいますね。あとは頻繁に着るわけではないんですけど、ロリータ系の服も好きです。

かわいいキーホルダーとかぬいぐるみとか、かわいいものが好きで、コップもサンリオのキキララを使っているし、かわいいものを見ると「あ、欲しいな」ってなりますね。

――着用するようになったきっかけは何だったのでしょうか?

江草:ハロウィンパーティーとかでコスプレすることがあってかわいい服着るのいいなと思ったのがきっかけだと思います。

着用し始めたのは、さくらインターネットに新卒で入社したあとですね。入社して1年目か2年目くらいかなと。ショートパンツをはいたり、パーカーを着たりしていたので、たまに女性に間違えられることはありました。

――コスプレイベントや、ハロウィンパーティーと違った、初めてプライベートで女性服を着て会社に行た時のことは覚えていますか?

江草:それがですね、あんまり覚えていないんですよね。ふだんショートパンツとかだったのがスカートになったタイミングはたぶんあるんだと思うんですが、ショートパンツの時でもかわいいパーカーを着ていたので、はっきり変わったタイミングがないんだと思います。

――スカートをはいて出社した時の周りの反応や理解はどうでした?

江草:ネガティブなことを言われた印象はまったくないんですよ。みんななにかを思っていたかもしれないですけど(笑)。幸い周りの環境やみなさんがすごく寛容的だったので、少なくとも直接的になにか言われたりしたことはなかったんじゃないかなと思います。

――会社に限らず、ふだんから特に不便さを感じることは特にないですか?

江草:ないですね。強いて言うと外で公共の施設でお手洗いに行く時(笑)。男子トイレに行くか、共用の多目的トイレに行くしかないので基本的にはどっちかを選びます。男子トイレも空いていて、多目的トイレも空いていたら、多目的トイレに行くと思います。

多目的トイレが混んでいたりとか、なかったりとか、そういう場合には周りの人にはびっくりされるかなとちょっと思いながらお手洗いに行くことはありますね。会社のビルのトイレだと全然気にしないですけど。

私はこんな感じでふだん生活していても特になにも言われないのは、そうあるべきだとみんなが思う状況が変わっているんだなとすごく実感しています。そういう意味ではすごくいい世界であったり、生活しやすい環境になったなと思います。

ダイバーシティの広がりに必要なのは「誰がしているか」より「何をしているか」に着目できる考え方

――今までの社会にあった男らしさとか女らしさのジェンダートラッキングが以前と比べてだんだん変わってきたなと江草さん自身、実感されているんですね。

江草:そうですねぇ。ただ、本当にみんなが男らしさ、女らしさをまったく気にせずにいるのかというと、まだそうではないなと思っています。自分自身、パッと見女性として生活しているほうが、明らかに男性より生活しやすいなと思うこともやはりすごく実感としてあります。

区別をしてはいけないとみんなが理解して思っているものの、性別による印象の違いがあるんだなとすごく実感しています。

例えば、公園で女性が1人で写真撮っていたり自撮りをしているのと、男性が撮っていたりするのとでは印象が違うと思うんですよ。

女性が撮っていたらたぶん誰も気にすらしない。だけど男性がしていると、たぶんちょっとは気になる。人によるとは思いますけど、男女で差があるのは仕方ないというか……差別をしているわけじゃないんだけど、あるなというのをなんとなく、私もそう思うし、周りの人もそういうのを感じているだろうなという感じをすごく受けたりしますね。

――そうですね。私も今江草さんに言われるまでは、男性の自撮りに対してそう思うことに気づいていなかったです。

江草:私もそうなので、たぶんみんなそう。両方ともまったく気にせずに考えられる人以外はやはり違いを感じると思うんですよ。

――その差をなくす、日本でもダイバーシティの考え方が世界的に見ても標準になるために何が必要だと思いますか? 

江草:さっきの話だと、誰がしているかというよりは何をしているかに着目できるような考え方が必要だと思います。あるいは男らしさ女らしさではなく、そういうしきたりだったからとか、本当の意味はわからないんだけど単にルールだからみたいな考えで行動したり判断するような考え方が人々から抜けないと難しいかなと思っています。

男女の問題に限らず、例えば他人にまったく迷惑をかけていないし、誰も困らないことをしている人がいた時に、「でもそれはなんとなく今までやったらあかんような雰囲気だったから、やっちゃダメだと思っていた」とか。そういう雰囲気、そういうルールだからそうするっていうだけで違和感なく考えている人々がその考え方から抜けないと無理なのかなという気はしています。

私もそういう考え方をすることはあります。「なんでそれしたらあかんの?」っていう時に、「そういえば、なんでしたらあかんのかな?」と思うことはやはりあるので。いろいろなものを理解して、しきたりではなく、そういうふうにする理由を理解したうえで行動するという考え方がみんなに身に付く必要があるのかなという気はします。

――多様性を互いに尊重するというところで、例えば本当はこれが好きなんだけど、周りの人の目を気にして、「これが好きなんです」と表現できない、公言できないという人も一定数いるとは思うんですが、そういう人に対して江草さんからアドバイスはありますか?

江草:それを周りに知られた時に、周りがすごくネガティブな反応をするような環境だったりすると、自分でなんとかできる範囲は限られてきます。私の場合は環境に恵まれていた部分が大きいなと思うんですよね。

一方で、周りの人の考え方を聞いたり、理解しようとしてみたりして、実は言っても大丈夫なんじゃないかということは諦めずに検討してほしいなと思います。言わないで自分だけで思っている状態はやはりしんどいので。諦めるよりはやったほうがいいかなと思います。

それって言いづらいこと全般に当てはまると思うんですよね。みんなの方針について気になるポイントはあるんやけど、みんな合意しているみたいやし、なんか言ってなんか言われたらどうしよう、みたいなことはよくあると思います。最後まで言わなくてモヤっとしたままになるというのはこういう話に限らずたくさんあるので、言える範囲から言う練習をするだと思います。

中高一貫男子校で触れて理解した多様性の意味

――江草さんはもともと、自分の考えをパッと言えるタイプだったのでしょうか?

江草:小学生の頃は小学校へ行かない時期があったりとか、先生とうまくいかなかったりとかあったので、小さい頃は言わないこともあったんじゃないかなという気もします。

中学、高校がある意味、多様性のある学校で、言うのが当たり前という環境に近かったんですが、そういう環境、そういう考え方もあるんだなぁと、たぶんその時に理解したんだと思います。

相手のことは配慮しつつ、理的に議論をするためだったら言ったほうがみんな幸せだなという実感があったんだと思います。

――中学校、高校で多様性に触れたのですね。

江草:中学、高校は中高一貫の私学で、多様性があると言いながら、ある一点で多様性がまったくない学校で男子校だったんですよ(笑)。

キリスト教の学校で、非合理的なことでなにかがあるというのはまったくなかったんですよね。理不尽がないというので、していい範囲でわりとなんでもできる環境でした。

例えば文化祭で、たこ焼きや焼きそばはあったんだけど、喫茶店はなかったんですね。新しい出し物として喫茶店を出したいなと思った時に、別にダメなことはないし、食堂のスペースは空いているし、まあいいんじゃないみたいな。そういうものの積み重ねだと思うんですよ。

新しいことをしようとした時に否定しないとか。理不尽な理由で頭ごなしにダメって言わないとか。先生たちがそういう行動をすることによってたぶん多様性が生まれていってったんじゃないかなと思います。

ほかにも、私は当時電子工作をやったり、ロボットを作りたいなと思っていたんですが、そういうクラブなりサークルが学校になかったんです。そういうのをしたいなと思った時に、だったら同好会とかクラブとかを作ったらいいんじゃないのと手伝ってくれる先生がいましたし、そもそも学校からもそれに関してなにも反対されることはありませんでした。手続きどおりやればぜんぜんできるよみたいな感じでした。

夢は情報を活用するのが当たり前の世の中にすること

――新しいことをやることに対して、頭ごなしに否定をしないという校風が江草さんの多様性の考え方を作って、結果としてさくらインターネットの社風とマッチしたのですね。先ほどは「sakura.io」について今後目指すところをおうかがいしましたが、江草さん自身の将来の夢はなんでしょうか?

江草:もうちょっと日本全体のITのレベルが上げられたらいいなと思っています。うちの会社でも古典的な方法でやっている仕事がやはりあって、エンジニアがそんなんするのもどうやねんって思うこともやはりあるわけですよ。

ベースラインを上げるのを自社のことでもやりたいし、日本全体としてもITを使うのは当たり前で、多くの人は簡単なプログラムが書けるし、きちんとシステム作る人は現代的なまともな設計でものづくりできるという時代になればいいなとは思っています。

それに私がなにか貢献できるようなことがあるかというと、とりあえず自分の会社からまともにしていったり、お客さんにもっとITを使ってもらったり、そういう地味なことにしかつながらないんですが、でも最終的にはもっと情報を活用するのが当たり前の世の中にすることが私の目標であり、夢ですね。

――日本全体というところだと、今だとデジタル庁が創設されたことがけっこう話題になっていると思うのですが、江草さんはデジタル庁に期待されていますか?

江草:気持ちが二分していて、単純に外注するだけの所管が、情報系がそこになっただけです、みたいな省庁だったらあまり期待することはないなと思う面もあるし、実際に言われているように日本の行政が使うシステムをデジタル庁が自分たちで作れるのであれば、すごく期待しています。

実際に作るというところもそうなんだけど、そうするうえでしがらみだったり、不合理なことに引きずられないように動いてほしいなという気持ちとともに期待はしています。それが日本の政治家なり行政なりにできるかどうかというところだと思っています。

――もしご自身がメンバーだとしたら最初に何に着手したいですか?

江草:難しいですねぇ~。しがらみから解放されたり、誰かを言いくるめたりみたいな政治方面のスキルは自分にはないなと思っているので、現実的な路線で言うと、やっていいんだけどシステムを作るのが難しいところであったり、システム化がまったくされていなくて、これを導入したらみんなが楽になるじゃん、みたいなものを実際に作るところをやりたいなという気はします。そこだったらわりと力も発揮できるかなと思いますし、もし行ったら実際にシステムを作るところかなという気はします。