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ゲームのように学ぶアジャイル開発(全2記事)

契約条件は“スクラムに全力で取り組むことを誓う” まるで『ベスト・キッド』の現場で得たアジャイル開発の学び

「Scrum Fest Osaka」はスクラムの初心者からエキスパート、ユーザー企業から開発企業、立場の異なる様々な人々が集まる学びの場です。徳冨氏は、アジャイル開発20年続けて得た学びについて発表しました。全2回。後半は、ホンモノのスクラムを学んだ方法について話しました。前半はこちら

映画『ベスト・キッド』のような開発現場

徳冨優一氏(以下、徳冨):次はスクラムを叩き込まれた話です。ホンモノのスクラムをインストールされたというお話をしようと思います。

「スクラムに全力で取り組むことを誓うか」が契約の条件だったんですよ。こんなの聞かれたことないですよ。みなさんもいろいろなところで面談を受けると思いますが、こんなのないでしょ? 今思えばすごく不思議な面談でした。まるで『スター・ウォーズ』のワンシーンですね。記憶が美化されているかもしれませんが、ヨーダと『スター・ウォーズ』のワンシーンのような面談だったような気がします(笑)。

『スター・ウォーズ』を話しておきながらですが、映画の『ベスト・キッド』ご存知でしょうか。壁のペンキ塗りとかワックスとかをしていたら空手が強くなるんですよ。ジャッキー・チェン版はジャケットを脱いだり着たりしていたら空手が強くなるものでしたが、それの開発版でした。

頭の中ではずっと「俺、『ベスト・キッド』や」と思っていました(笑)。「これがスクラム? こんなので開発上手になるの?」「ペンキが塗りたいちゃうねん。俺は、空手覚えたいねん!」という感じですね。

具体的なエピソードを挙げていきましょう。

アナキン:画面設計しなきゃ。

ヨーダ:1分で画面設計しろ。

アナキン:はぁ? 1分なんて絶対無理でしょ?

ヨーダ:しょうがないな。おまけして2分やろう。

アナキン:はぁ? 1分とか2分とか、そういう単位じゃないでしょ。

ヨーダ:いいからやれ。

アナキン:しょうがないな……。

(……2分後)

アナキン:やっぱりぜんぜん時間が……。

ヨーダ:ぜんぜんできてないな。最大限におまけして5分やろう。その代わり10枚設計しろ。

アナキン:はぁ???!@#$%^&

ヨーダ:はい、スタート。手を動かさないとどんどん時間はなくなるよ~。

徳冨:無茶振りというか無理難題というか……。これスクラム? 仕事? 何のゲーム? あとになって理解するんですが、もうパニックですよ。遊んでるというか、ぜんぜん仕事じゃない気がするんですよね。

起こったことをちょっとだけ解説します。今までSIerさんは、一生懸命1週間ぐらいをかけて1画面作るみたいな画面設計やっていたと思うんですが、そういうのをUnlearnさせています。今からやらなければいけないタスクと、そのために必要な最小限の設計だけに集中させています。それによって今本当に必要な濃密なコミュニケーションをします。あとは発散と収束ですね。いきなり10枚書いて、その中から問題点をさっさと見つけて、良いのだけ残すみたいなことをやっています。

こういうのを、わずか10分程度で身体に教え込みます。従来どおりのやり方では、こういうことはできません。

こういう無茶振りが開発の期間中ずっと続くんですよ。頭で理解するのではなくて、身体がマスターして、習慣化するところまで徹底的にやられる感じでした。鍛えられるというのは、ぜんぜんパワハラとか怖いものではなくて、本当に無理ゲーに振り回されるだけです。

不思議なことに、最初の頃は不満がいっぱいだったんですが、だんだん慣れてくると時間もったいないので不満を考えなくなるんですよ。とにかくそのゲームをクリアしないと生き残れない。サバイバルゲームです。カイジ(『賭博黙示録カイジ』)みたいな感じで、今勝つ方法を考えなければいけません。

最初の頃は、納期が大事だから残業してコミットラインを達成させようとするんです。ところが、そうすると必ず飲みに連れて行かされるんですよ。それで、スプリントレビューの時に「今、スプリントはコミットライン未達! どころか、成果ゼロ~!」とかやられるんですよ。「連れ出したのは、お前やないかぁ~!」と僕は思うんですが、もうね……(笑)。

こういうのに振り回されているうちに、だんだんとフロー状態でタスクをこなすのが当たり前になり、出勤したらさっさとスイッチを入れて、ダラダラしている余裕がないんですよ。とてもじゃないですが、残業はできません。頭が疲労してヘロヘロになります。

それでもコミットラインを余裕でこなす日はぜんぜん来ません。そもそも最初は僕が下手すぎて、トレーニングされているだけみたいなんです。やっと回せるようになってからが本番のスクラム開発かなと思います。

後日、CSM(認定スクラムマスター)研修受けてみたらとても似ていたんですね。当たり前ですが、ここで「ヨーダ」と書いているのはスクラムトレーナーなので、研修でやっていることを実践でやっているんですよ。ちょっと怖いなと思ったかもしれませんが、研修はとてもやさしいです。丁寧な解説もきちんとしてもらえます。

ただ、プロジェクトでは身体にインストールします。締切があるので、いかに短時間でどこまでレベルを上げられるかをやっていました。なので、ティーチングではなくコーチングをやっていた感じだと思います。

大事なことです。スクラムには常にタイムボックスがついて回ります。時間の延長は認められません。延長して達成するのは、偽の達成感です。時間内で達成できなければ、自分が未熟だということを噛みしめるしかないんですよ。常にやり方を工夫し、よりうまくいく方法を模索し続ける活動、それがスクラムの中では大事なんだろうなと思います。

とてもたくさんのことを学びました。モノを作るということがどういうことなのかとか、生産性を上げるとはどういうことなのかとか、ほかにも言語化できない価値観とか、暗黙知とか、いろいろと強制的に脳内にインストールされたと思います。「スクラムの範疇なのか?」は僕は今でも、正解はわからないですが、James Coplien氏の話を聞いていると同じようなことをいっぱいしゃべっているので、全部含めてスクラムかなと思います。最高のプロダクトを作るために最高のチームを作る、それがどういうことかを経験させてもらったいい機会だったと思います。

マスター・ヨーダ、重要です。この人です。マスター・ヨーダ(笑)。予想してたかなと思いますが、そうです(笑)。

学びを得てさらに始まる学び

さて、「新たな学びの始まり」というエピソードを話します。これは学ばざるを得なくなったという転換期のエピソードかなと思います。

先ほどのエピソードでスクラムは一応できるようになりました。スクラムの剣を手に入れた僕は、魔王を倒すべく、新たな冒険の旅に出ます。すなわち新しい開発プロジェクトです。

ところが、スクラムの世間での認知は低く、名前を知っている人はいますが、実態は誰もあまりよくわかっていません。実践者もそうそういません。幸運なことに次の現場で一緒に仕事をすることになった仲間は外国人の方で、スクラム経験者でしたが、なんか違うなと……。

少しずつ伝えていけばいいやと思うのですが、ふと気づくとしゃべれないんですよ。僕は、壁のペンキ塗り方式でスクラムを教わりましたが、他人に勧めても普通はやりませんよ。「1分で画面設計しろ」「ははは。いくらなんでも無理でしょう。徳富さん。あはは(笑)」みたいな展開になるんです。

身体に直接インストールされた僕は、自分の教わることの背景がわからず、言葉も知りません。強引にコーチングできる信頼関係もまだ育っていません。実践は一応できると思うんですが、実践する場所を作れません。魔王を倒すには、パーティを集めたり、村人から情報を集めたりしなければなりませんが、それがうまくいきません。

ですが、一度味わってしまったスクラムの味は忘れられません。毎日脳がフラフラになるまでフロー状態で開発するのは完全に麻薬です。気持ちがいいですね。スクラム開発を渇望してしまいます。それから本を読んだり、イベントやコミュニティに参加したり、詳しそうな人に話を聞いたりという普通の学びが始まります。いつか薬を買うために……。

背景理解、説明する言葉、学びの源泉は重要というお話でした。

コミュニティ活動への誘(いざな)い。職場では学べない世界。

聞こえますか……あなたの心に……直接……語りかけています……。

ホンモノを見る、遊びで実践してみるのは、仕事場ではなかなか難しいと思います。コミュニティや勉強会に参加しましょう。私は「品川アジャイル」「スクラム道関西」などに出没していますので、ぜひ遊びに来てください。お待ちしてます。

脳に直接語りかけてみるオチでした(笑)。ご清聴ありがとうございました。

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