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ソフト&ハード一体型技術開発チームの開発秘話(全3記事)

2021.11.26

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自動運転なのになぜ人間の動作を介在させるのか? トヨタが考える運転手とクルマの対等な関係

提供:トヨタ自動車株式会社

日常で見聞きすることが増えた自動運転技術。トヨタ自動車は、自動運転技術を適用した新システム「Teammate Advanced Drive」を「レクサス LS」と「トヨタ MIRAI」に採用し、発売しました。この安全安心な高度運転支援システム「Advanced Drive」は、いったいどのような技術なのでしょうか。トヨタ自動車の板橋界児氏と奥田裕宇二氏が、その仕組みと開発秘話について紹介します。全3回。今回は、多く寄せられた質問に答えます。前回の記事はこちら。

どこに一番苦労したか

司会者:ではさっそくお二方にご質問なんですが、「どこに一番苦労されましたか?」と、少し広いご質問にはなっているんですが、お二方ともご回答いただいてよろしいでしょうか?

板橋界児氏(以下、板橋):では私のほうから。私は冒頭で説明したWoven Coreで、ソフトウェアの内製開発をしています。自動運転は、本当に巨大なシステムで、このシステムを開発するだけでも、相当大変なんです。

ですが、それに加えてトヨタでは、今までなかなか経験のないソフトの内製化を進めていて、自分たちでコーディングからツール開発、その環境、データのサーバー構築などを行っています。実装されるソフトだけではなくて、周りの開発が9割と言われるんですね。なので、そこを含めた内製開発というかたちで、非常に大きな体制の構築、またはそれだけの投資をしてやってきています。

もう1つ、ソフトの中で大変というと、プレゼンの中でもお話した地図解釈。やはりこれは従来の運転支援系になかった新しい要素だと思っていて、地図を使うことによるメリットももちろんありますが、気をつけないといけないこともたくさん勉強したと思っています。

奥田裕宇二氏(以下、奥田):私はLiDARを担当していて、あまりまだ普及していないセンサなので、知見がないということで、説明はスライドにも出てきましたが、これまで経験したことのないような、いろいろな課題が出てきています。実際に使ってみると、ハードとしてはどうしてもこうしなければいけないが、使う側、認識処理側ではそれだと辻褄が合わなかったりなど、ハードでは成り立つけどソフトでは成り立たないというような話があります。

その新規センサならではというところが1つと、あとは先ほど冗長系という話が出てきましたが、例えば電源は冗長系ということで2つあります。この2つの電源があるということもあまり経験がないことでして、それによって電源の立ち上げりや立ち下りの振る舞いで、意図しないことが起こるんだというところが、苦労したところですね。

サプライヤーとどのように分担しているか

司会者:続いてですが、「デンソーなどのサプライヤーさまと分担して実装しているとテスラのように垂直統合しているソリューションほど自由が利かないと思うのですが、どうやって勝負をしていきますか?」と。

板橋:先ほどの回答と被るところが大きいと思いますが、今回私たちがサプライヤーにお願いしているのはECUの中でも、下回りのI/OやOSの底の部分だけですね。基本的にアプリケーションはすべて私たちWoven Coreが作っています。機械学習やAIに関しても、すべて含めてWoven Coreで開発しています。

こういったソフトの内製開発をする上で、いろいろな体制の構築や仕組みを変更しなきゃいけないことがあって、Woven Coreの前身となるTRI-AD、またはWoven Coreという会社を新たに興して、そこをこういったソフトウェア開発の拠点にと思って作っているので、そのためにこういう体制でやっているところですね。

電力使用量はどのくらいか

司会者:では続いて「電力使用量はどのくらいなのでしょうか?」という質問です。

奥田:具体的な数字は申し上げられないのですが、先ほどのスライドにもありましたように、特にAI認識を行う高度な認識処理というものは純粋にその演算回数が増えるので、ECUの消費電力が多く必要なため、今は電動車への設定としているのは、そういう背景があります。

車線変更時に人間の動作を介在させるのはなぜか

司会者:では続いて「車線変更時に運転手がハンドル保持や後方確認を行う必要があるという話でしたが、そこに人間の動作を介在させるのはなぜなのでしょうか?」。

板橋:システム側から言うと、レーンチェンジの時の、そのレーンチェンジをしても良いかどうかの判断。先ほどスペースセレクターの話もありましたが、そのさらに後ろからすごく速いクルマが来ていたりしたら、制御を止めなきゃいけません。でも私たちの今の認識技術だと、もちろん最大限がんばって認識をしているものの、認識は100パーセントではないものですから、そういったところで認識できない場合を含めて、レーンチェンジ時はドライバーの方と一緒に運転してもらいたい。

ドライバーに助けてもらいながら、運転してもらいたい。なので、ここはハンドルを握ってもらって、きちんとドライバーに運転の意識を持ってもらって、それでレーンチェンジをさせることをしています。これはドライバーにハンドルを握ってもらっていれば、自然と反応速度が速くなり、ハンドルから手を放している状態でも素早く反応できます。そういった安全にも寄与するということで、そういった形態で今はやっています。

FMEA FTAの作成と、フェイルセーフの考慮はどこが大変だったか

司会者:では続いて「FMEA FTAの作成は大変だったのでしょうか?」という質問です。

板橋:これは、システムとしてはもちろんやらなきゃいけません。FTAはトップ事象をどう置くかにもよりますが、もちろん作成をしています。で、大変です。特に冗長系を構築していますので、そこを含めてやらなきゃいけません。あと安全論証の最近の流行りは、STAMP/STPAですね。そちらの流行りもありますので、その手法も使っています。

司会者:では続いて「フェイルセーフを考慮する際、どこに苦労をされていますでしょうか?」。

奥田:そうですね。先ほどもありましたが、いかに安全につなぐかというところですので、冗長系が必要です。難しいのは、完全にガチガチに冗長化することもできますが、そうするとやはりシステムの規模がどんどん大規模になってしまうので、本当に必要なところを冗長化しています。

逆にそれゆえ、全部が全部冗長になっていない部分もあるので、この冗長系が非常に複雑になっています。

競合他社と比べて自負できる部分

司会者:では続いて「他社さま、プロパイロット2.0、アイサイトXに比べて優れていると自負できる点を教えてください」というところですがいかがでしょうか?

板橋:あまり他社さまの話をするのは……。

(一同笑)

板橋:と、思いますが、もちろん私たちは新しいクルマ、新しいシステムが出たら、どんどん乗ってベンチマークをして良いところはお手本にしながら、参考にさせていただきながらやってきています。私たちの優れているところは今回お話ししたとおり、1つは複車線機能です。レーンチェンジをして目的地まで到達するのをサポートできる、支援できるところ。

単一車線じゃなくてちゃんとレーンチェンジを含めた支援をしているところが大きな魅力の1つだと思いますし、もう1個の制御精度という意味で言えば、首都高速道路1周を白線踏まずに制御しきれるというのも、なかなか他社さまだと難しくて私たちの1つの売りだと思います。これをやるためには、本当に認識から制御まで全部手を入れなきゃいけなくて、ローカライズのところも説明しましたが、ああいったところの精度の向上も、一つひとつ積み重ねてやっと性能が出たというところで、そこは自慢していいんじゃないかなと思います。

10割の完成度を求めるジレンマ

司会者:では続いて、ちょっと先ほどの質問と被るところもあるかもしれませんが「10割の完成度を求めるとどんどん製品が出せなくなるというジレンマをどのように乗り越えますでしょうか?」という質問です。

板橋:まさに今回の私たちのAdvanced Driveがそうだと思うんですが、結局巨大なシステムになればなるほど、100点を求めると開発期間がどんどん伸びるし、私たちが100点と思っているものが本当に市場で100点なのかどうかは、出してみないとわからないというところがありますね。お客さまの声と私たちの思いが完全に一致しているかも、やはりそこの確認をしていく必要があります。

ということで、今回のAdvanced Driveでも、私たちは過去の事例も含めて安全は100パーセントきちんと確保する。安全はきちんと確保して、安心も多くのお客さまに受け入れられるレベルを確認した上で、まずはいったん世の中に出してお客さまに使っていただく。

その声を収集する仕組みは、ソフトウェアアップデートのところでは説明しませんでしたが、私たちのデータ収集の仕組みもセットで持たせることで、そういったお客さまの声や実際の挙動というのをデータとして蓄積して、それを素早く次のソフトウェアアップデートで更新していく。

そういったかたちで、私たちとお客さまのズレを修正しながら、早く使っていただきながら100パーセントを目指してやっていく。そういったスキームで開発していく。最初はトライアルだと、私たちのAdvanced Driveは捉えています。

誤作動データはどのように収集されているか

司会者:「中に出てきていた誤作動データはどのように収集されていますか?」。かけなくていいのにかけた、ブレーキのお話ですね。そういったデータはどうされているんでしょうか?

板橋:これはですね。先ほどの市場データ収集で仕組みはありますが、もちろん緊急ブレーキみたいなものは、作動すればもちろん履歴は残りますし、ECUの異常系とかも含めて、そういうのは無線できちんと収集はします。

……ではあるのですが、私たちとしては、どちらかと言うと誤作動が起きないようにきちんと開発をすることが大事で。なので実際に出してから市場データで誤作動が起きないことを確認するのではなくて、誤作動に関しては事前に同じセンサ系で取ったデータ、私たちは54万キロの実走行データを扱っていますが、そういった実走行のデータや市場データを使って、誤作動がないこと、0件になることまで、もちろん余裕度も含めて確認をして、シミュレーション技術を使ってからきちんと世の中に出している。

なので、それを超えるようなデータが取れることはよほどのことがない限り、ないと思って私たちは開発をしているんですが、万が一ということで、そういう市場データも集められるようにはしています。

誤作動データの収集と安全性

司会者:では続いてですが「衝突回避にハンドルを切る動作はありますか?」という質問をいただいています。

奥田:こちらは、実は今回Advanced Driveが説明のフォーカスポイントでしたが、実はこのLSがフルモデルチェンジをした時に、LSS+A(Lexus Safety System +A)という運転支援システムを初採用しています。そのシステムの中に操舵回避支援というものが付いていますので、これが動くことになります。

司会者:では、続いて「LiDARの曇りや汚れを検出したらオートドライブは禁止になりますか?」。

奥田:そうですね。最終的にはそうですが、当然いきなりそういう状況にならないように、段階的に設定してあります。まずは、先ほどの説明にもあったと思いますが、「ハンドルを持ってください」と。そのあとで運転を交代します、というような流れになります。

司会者:またその中で「ぶっちゃけ居眠りをしていても安全ですか?」というご質問がきていますが、こちらはいかがですか?

板橋:もちろんダメです。

(一同笑)

板橋:居眠りに関しては、途中で説明したドライバーモニタのほうで監視をしています。ドライバーモニタは、顔の向きだけではなくて目の開眼状況も見ていますので、そこで制御終了が入ります。

ローカライズに機械学習は利用されているのか

司会者:そうですよね(笑)。「ちなみにローカライズに機械学習は利用されていないのでしょうか?」という質問もいただいています。

板橋:ローカライズそのものは、先ほど説明したような白線の情報などの画像認識結果を使って、自車の緯度・経度、方位角を推定するという技術なので、それ自身は計算なのですが、それに使う基の白線の情報や、看板の情報、それは機械学習を使って認識をしています。なので、機械学習を使った結果を使って、ローカライズの計算をしているということです。

司会者:ではまだちょっと質問がいくつかあって、「シミュレータがそのまま車載AIの教師データになりますか?」というご質問です。

板橋:これはものによってやっている部分も、もちろんあります。要は画像を変換したり、汚したり。そういうので、これはAdvanced Driveというよりは量産のほうのLSS+Aの標識認識のところで、画像変換したものを使って学習させています。教師データとして使うものもありますが、特殊な例だけですね。

ほとんどの場合は、やはりきちんと量産にのるカメラで撮った、カメラの諸元込みでデータを学習に食わせたいので、基本的にはそういうものは使わない。実際に搭載されるカメラで撮ったデータを使うことで、精度を上げる必要があると思っています。

隣車線後方車両に対するセンシングについて

司会者:「車線変更の際に隣車線後方車両に対するセンシング、例えば距離や車速機能についてもう少し教えてください」というご質問がありますが、いかがでしょうか?

奥田:こちらはレーダーセンサを使っていまして、ちょっと先ほどのシステム構成図で、ちょっとわかりにくかったかもしれましたが、先ほど説明しましたLSS+Aから付いていて、後側方に車両を検知するためのレーダーセンサが付いていまして、そちらを使っています。

リアルな協業について

司会者:「エンジンに代表されるメカ系エンジニアの方とソフトウェア系の方、デンソー系の方たちとのリアルな協業だったり、みなさんとの協業話みたいなものがもしあれば教えていただきたい」と質問をいただいていますが、いかがでしょうか?

板橋:私たちは今回のAdvanced Drive開発に際して、社内からの公募で、例えばエンジンをやっていた方とかメカをやっていた方もいますが、やはりみなさん、実際に自動運転をやりたくて、自動運転技術を世の中に出したくて来ていただいている、一緒に働こうということになっている方なので、当然モチベーション高く一緒にやれている訳ですから、向いている方向が一緒という、非常にマインドセットとしては問題がないわけですね。

あとは、やはり知識の上で、今回Woven Coreの中でソフトウェアまで実際に書くといった中で、そういったスキルがないところは、Woven Coreの中にも教育制度が例えばあって、DOJO(ドウジョウ)と言いますが、そういったとことで、実際のソフトウェアとかスクラムの勉強ができますので、切磋琢磨してお互いに足りないところは磨いてやっていっています。

あとは、分野が違わなくても、そもそも違う人たちが一緒に仕事をする。例えばハードとソフトが一緒にがんばらなきゃと言っても、実際にハードとソフトの間には開発の違いがあるわけですから、そこはすごく連携というか、コミュニケーションを密に取らないとうまくいかないですよね。

なので、そういったコミュニケーションが大事なのですが、それとは別に、同じグループにいても隣の席に座っていても、コミュニケーションがうまくいかないと仕事もうまくいかないので、そういったところは出身とか関係なく、配慮してやっていかないと、こういうのはうまくいかないな、と。コミュニケーションはすごく大事だと常々思っています。

奥田:あとは例えば、このセンサ開発だけを取っても、やはりセンサはハードの部分もあったり、ソフトの部分もあったり、あとは認識のアルゴリズムもあって、例えば1つのセンサを開発するだけでもそのいくつかの領域の塊、開発が必要になりますと。苦労した点では、基本的には役割を分けてやっていきますが、その各領域の中間が難しいというところ。

具体的にある問題が起きた時に、それがハードウェアの問題なのかソフトのバグなのかの切り分けが難しいといった時に、お互いが「そっちでしょ」ということになってしまうと、それ以上は進まないですが、そこを協力して一致団結してやっていくなことで、開発を進めていました。

海外への展開について

司会者:続いての質問ですが、「日本の道路環境に対してチューニングされている印象を受けていますが、アメリカやヨーロッパなど他への展開はどのように考えられていますか? 道路環境やデータ精度の違いもあるかと思います。どうぞお願いします」という質問です。

板橋:はい。展開の話はなかなかしづらいので、具体的なお話はできないのですが、私たちは北米での技術開発はしています。やはりご指摘のとおり、道路環境はぜんぜん違いますし、データと言っても特に地図のデータなどは、やはり精度の違いはありますので、難しさは異なってきます。

ちょうど先週、北米のほうでも、このAdvanced Driveに関するイベントをやっていて、記者などにも来てもらっています。たしか動画もけっこう上がっていたと思いますが、興味があれば検索してもらえると見つかるかなと思います。

自動運転は世間の期待も高い技術

司会者:ではご質問をここらで1回区切って、改めて奥田さん、板橋さんから、今回のイベントでご登壇を終えて、Q&Aにお答えいただいた中で気付いたことや感想があれば、ぜひお二人からメッセージをいただきたいなと思うのですが、よろしいでしょうか?

奥田:まずはみなさまご視聴ありがとうございました。こういうオンラインでの、というのは私は初めてだったのでうが、こんなにみなさまからのご質問をリアルタイムでいただけるというのが、素直に驚きました。みなさまたくさんのご質問をありがとうございました。

板橋:本日はご視聴いただき、どうもありがとうございました。私もこれは初めての経験だったのですが、ちょっと参加されている人数もすごい、1,000人を超えているとうかがってすごくビックリしましたが、質問の内容もすごく高度で、みなさんよくいろいろご存知で、勉強されている方が興味を持たれて来ていただいたんだなと思います。本当にありがとうございます。

私も、それだけ世間の期待も高いと受けとめましたので、今後ご期待に添えるようにがんばっていきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

奥田:ありがとうございました。

司会者:ありがとうございました。では改めて奥田さん、板橋さんありがとうございました。

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