2024.12.10
“放置系”なのにサイバー攻撃を監視・検知、「統合ログ管理ツール」とは 最先端のログ管理体制を実現する方法
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広木大地氏(以下、広木):みなさんこんにちは。今日は「『2つのDX』とDX Criteria 2021」というタイトルで発表します。日本CTO協会の理事で、このイベントの発起人でもある広木です。よろしくお願いします。
私の自己紹介ですが、2008年に新卒第1期としてミクシィに入社して、その後いろいろやってきました。2016年にレクターという会社を創業しました。「CTOのノウハウを広く世の中に還元する」ことを目指しています。最近はCTO協会の理事もやって、このイベントもやっています。『エンジニアリング組織論への招待』という書籍も販売しています。おもしろいのでぜひ読んでみてください。
今日のテーマは「DXって最近よく聞きますが、あれってなんですか?」という話です。最近よく聞きますよね。「流行るんじゃないかな」と何年も前から見ていた者としては、こんなにたくさんDXと言うようになるとは思わなかったぐらいには流行っている感じがします。
もともとのデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の話をします。デジタルトランスフォーメーションの定義は何か。初筆は2004年のスウェーデンのエリック・ストルターマンさんの発表です。随分前ですよね。16年前、17年前かな?
「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でよりよい方向に変化させていく」と。「デジタルトランスフォーメーションにより、情報技術と現実が徐々に融合して結びついていくという変化が起きるだろう」とか、「デジタルオブジェクトが物理的現実の基本的なマテリアルになるだろう」とかが書かれていました。
「今日の情報システム研究者が、より本質的な情報技術研究のためのアプローチ、方法、技術を開発する必要が、固有の課題として出てくるであろう」という話でした。今言われている(DXの)話とは、パッとはつながりにくい部分だと思います。ただ、こういった話がデジタルトランスフォーメーションの初出でした。
20年前ぐらいから、社会はやはり実際に急速に変化していきました。Marc Andreessenが言っているように「ソフトウェアが世界を食っていく」ようなことが起きて、平成の30年間、世界の時価総額で上位を占めた日本企業はランキングから消え去り、GAFAM、FANGと呼ばれるIT技術を制した企業が並ぶようになった。この変化は本物で、きっとこれからも続くんだろうと、社会で認知され始めます。
社会が変化してきたことに合わせて、企業の変革もまた求められてくるようになってきました。社会がデジタル技術の発展によって急速に変化していく中で、「企業も今のままではいられなくなるのではないか?」という危機感が生まれて、そこから企業にとってのDX、デジタル技術を使った改革、変革が言われるようになりました。
「デジタルトランスフォーメーションって何?」をまとめてみると、「デジタル技術の発展により、社会にとってデジタルオブジェクトが物理的な実体と同じような価値をもつようになる。その中で人々の生活はより豊かに変わっていくだろう」という予測が最初にありました。確かに世界は大きく変わり、きっとこれからも変わっていくだろうと思われる。
「変化に取り残されてしまっては、自分たちが生き残れないのではないか」という危機感から、“企業のDX”という言葉が生まれました。つまり、企業にとってのDXは、このままで10年後も生き残れるのだろうかという、問いかけです。この問いかけこそがDXだと捉えておくと、さまざまなことの捉え方が簡単になっていきます。
2018年に出された経済産業省のDXレポート。2020年末には新しいバージョンも出ていて、読み応えがあって大変おもしろいんですが、企業がデジタル技術をうまく使いこなせない理由の、要因と対策について述べられています。それについての1つの答えです。
“企業のDX”は、実は無理にデジタルを使わなくてもよくて。例えば「ゴーストレストラン」があります。それが何かというと、客席がなくキッチンだけしかないような店舗があって、そこにオンラインでデリバリー専門店を作っていきます。というようなことをしているレストランです。
あとは、インスタ映えを狙った築地本願寺の朝ごはん。18品目の朝ごはんを出して、大行列でした。変化を捉えて、自分たちを再定義することも、企業のDXの1つの答えです。
その中で大事なのは、社会の変化、社会の取引コストの変化を捉えることです。Uber Eatsなどのプラットフォームの進出で、店舗のコストをかけずに客を集客できるようになりました。店舗の代わりに、原価をかけたおいしいデリバリー店を作ろう。うまくいかなければ、メニューと店舗名をすぐに変えていこう。食事を取る理由が、“おいしいものを食べる”という時代から、“楽しかった体験を切り取った映像・画像を残すこと”に変化している。だから〇〇しよう。
ECを作るのは、ヤフーや楽天のような技術力がないとできなかったけれど、ShopifyやBASEを使えば、誰でも自分のECを簡単に立ち上げられるから、オンラインショップを作ろう。これまで画像認識AIの実装は難しかったけれど、クラウドサービスで簡単にできるから、レコーディングダイエットアプリをトレーニングジムが作ろう。このように、今まで社会でちょっと難しかったことが、変化によって、できるようになってきました。
このできることの変化を捉えて、自分たちの状態やビジネスを変化させていくことが重要ですよ。
デジタルトランスフォーメーションという言葉を聞いて、僕みたいな古い人間は“デジタル”という言葉自体がけっこう古臭く感じてしまいます。それはなぜかというと、アナログとデジタルの対比みたいなことを想起するからです。デジタルという言葉の原義は、指で数える、測れるようにする。アナログの情報を離散・量子化して計数化していくことにあります。
一方で、最近言われているデジタルは、デジタルツインや、デジタルコイン、デジタルカレンシー、契約書のデジタル化、デジタル署名のように、インターネット上の仮想的な役割ではなく、社会の実体の1つとして扱います。最初にストルターマンさんが述べていたような、現実の社会の1オブジェクト、ファーストクラスのオブジェクトとして扱うことを、最近では“デジタル”と言うようになっているようです。
バーチャルという言葉には“実質上の”という意味があってそれでもよいのだと思いますが一方で、“架空な”“仮想的な”など、何か現実社会とは離れたものというイメージがついていると思います。一方で、今言われているのはそうではなく、社会にとって価値のあるデジタルなオブジェクトというものがあるというところで、“デジタル”という言葉を使うようになっている。
そう捉えると、「デジタルトランスフォーメーションは何か」がわかりやすくなってくるんじゃないかなと思います。
(デジタルトランスフォーメーションが)何かの答えとしては、デジタルな実体が社会の一員になる大きな変化が起きていて、その時に私は、企業は、人々は生き残れるのだろうか。何か変わらなきゃいけないのではないかという“問いかけ”。これがデジタルトランスフォーメーションという言葉が投げかけているメッセージです。
ところが世の中の人がDXについて語るとき、どうしてもいろいろな「答え」が最初に語られてしまいます。「クラウド化しないといけない」「内製化しないといけない」「SaaSを使わないと」「ゼロトラストじゃないと」「ジョブ型雇用じゃないと」などなど。たくさんみなさん聞いてきて、FUD的な不安と恐怖を煽るようなセールストークも出てきて、「それって桶屋が儲かるよね」みたいな感じで胡散臭い。
でも誰もが合意できるところまできているのは、きっと社会は変化し続けている。この問いかけを投げかけられている状況は、きっと変わらない。だから、デジタルトランスフォーメーションが何かと言ったら、“問いかけ”だと捉えるのが、私たちにとって一番有意義な捉え方でしょう。
では、その問いかけを他の観点で見てどういうことがあるか。この1997年から2020年までの、世界の政策不確実性指数みたいなものを『ものづくり白書』から引用します。2008年ぐらいから急速に世界が不安定な感じになってきて、不確実な時代です。そこからもう十数年経っている。“不確実であること”が前提みたいな時代になっています。
そうなってくると、2020年や2021年に起きたwithコロナやコロナ騒動はとても大きな変化ではあるし、恐ろしいほどの不確実性ではあるけれど、これはずっと起きていることだと。実はニューノーマル、新常態と呼ばれているものは、もう十数年前から来ていて、それは変化し続けることである。急速に変化する社会の中で、何かを予測して、計画して実行するだけではなかなか対応できません。
業務を効率化すればするほど、遊びの部分がなくなり変化に弱くなってしまいます。技術的・社会的な取引コストや社会情勢を敏感に感知して、タイミングよく自分たちを書き換えていく能力が必要です。戦略のようにあらかじめ決めて考えていたことが、すぐに無効化されてしまう時代。例えばちょっと前の、インバウンドを攻めて中国人向けの観光客に対してビジネスを展開していくのは、戦略としてとても有効な考え方でした。
世の中の変化を捉えて、その変化に対して計画して実行する。しかし、実際にはこの戦略は無効化されてしまいました。こんな中では、組織文化に注目したメタ戦略、ダイナミックケイパビリティのようなものが重要になってきます。動的に変化する組織能力が重要な時代になったよ、ということです。
このダイナミックケイパビリティは、カルフォルニア大学のデイヴィッド・ティース氏によって提唱された経営戦略で、けっこう昔からあるものです。最近『ものづくり白書』にも引用されるなど、よく使われるようになってきました。「環境や状況がものすごく激しく変化する中で、企業がその変化に対応して自己を変革する能力」は、Sensing(感知)、Seizing(捕捉)、Transforming(変革)という3つの系統で捉えられています。
おもしろくてわかりやすい例えを聞いたことがあるので、ご紹介するんですが、イチローというスーパー野球選手は、「自分がまったく予想しない球が来たときにどう対応するか。それが大事です。試合では打ちたい球はこない。好きな球を待っていたのでは終わってしまいます」と。
きた球を打ち返す能力が自分にある。だからヒットが量産できる。あらかじめ「ここに来るかも」と待っていたらダメで、待つのではなくきたところに対応できる速さがあればいいという話をしていました。
ダイナミックケイパビリティはオーディナリー・ケイパビリティという既存のものと対比がされています。“ガバナンス、オペレーション、そして管理”が“感知、捕捉、変容”になり、“ベストプラクティスを見つけよう”というものが“企業固有の文化や遺産”になっていき、“コストコントロール”ではなく“企業家的な資産の再構成とリーダーシップ”で、“ものごとを正しく行う”ことから“正しいことを行う”に変わってきています。
こういう能力が必要になってきて、技術的機会やビジネス機会の一致みたいなところが重要なんです、というのがダイナミックケイパビリティで語られていたりします。
(次回につづく)
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