本セッションの3つのテーマ

佐藤雄介氏(以下、佐藤):ではさっそく始めたいと思います。タイトルは私が読みます。株式会社SmartHR佐々木さん、金岡さんによる「成長を加速させる両利きのプロダクト開発」です。よろしくお願いします。

佐々木昂太氏(以下、佐々木):それでは本日、「成長を加速させる両利きのプロダクト開発」と題して、SmartHRで既存と新規の両方経験したPdM・PMMから話したいと思います。少しでも参考になる話ができればと思うので、よろしくお願いします。

まずは本日話すことを紹介します。PdM・PMM、この協業に関して話したいテーマがさまざまあります。しかし、本日は15分と時間も限られているので、みなさんも気になっていると思う内容、組織、要望管理からロードマップ、そしてKPIの評価の3つに絞って話せればと思います。

登壇者紹介

本題に入る前に最初、私たちの紹介をさせてください。まずはPdMの金岡さん、よろしくお願いします。

金岡亮氏(以下、金岡):みなさんこんばんは。SmartHRよりきました金岡です。よろしくお願いします。私はSI系の企業でAIプロダクトのPOを経験して、2020年にSmartHRにジョインしました。みなさんがたぶん「SmartHR」だと認識している人事労務向けのプロダクトを担当したあと、今は新規プロダクトである「従業員サーベイ」を担当しています。本日はよろしくお願いします。

佐々木:続いて、自己紹介遅れました、SmartHR PMMの佐々木です。前職はコンサルで、経営企画としてSmartHRに入社して、PMM組織の立ち上げ、新規プロダクト企画の立ち上げと、現在は既存プロダクトのチームのマネジメントをやっています。よろしくお願いします。

SmartHRのPdM・PMMの協業モデル

では、前提知識としてPdMとPMMの協業モデルについて紹介したいと思います。SmartHRでは、このようにPdMとPMMのミッションを定義しています。PdMが「課題解決のために『何を作るか』を考え『価値の提供』に責任を持つ」。そしてPMMが「事業成長のために『何が売れるか』を考え『どう売るか』に責任を持つ」です。

具体的に領域を合わせると、こんな感じです。プロダクトマネジメントとプロダクトマーケティング、そしてこの真ん中で一緒に協力していくかたちです。PdMとPMMを一言で言うと、プロダクトとマーケットのハブになる役割です。プロダクトサイドのさまざまな人たち、そしてビジネスサイドのさまざまな関係者と、コラボレーションしていく仕事です。

PMMについて、いくつか紹介したいと思います。PMMとマーケティング、このすみ分けについて、「よくイメージがつきにくい」という声を聞きます。こちらはSaaSにおいての文脈になりますが、SmartHRの整理でいうと、PMMが4Pでプロダクト、プライシングを見る価値創造、そしてマーケティングがプロモーションとプレイスに主眼を置いたリードマネジメントやブランディング価値の伝達に貢献する構図です。

そしてもう1点、最後にPMMで業務のイメージがつきにくいところがあるので、以下の4つの責任と役割を紹介します。マーケットポジション、プライシング&パッケージング、そしてリリースマネジメント&プロモーションプラン、カスタマーレスポンス。この4つに役割を分けています。詳細に関してはいろいろnoteを書いているので、ぜひ私のnoteをご覧ください。

最後に、SmartHRのプロダクトの歴史も少し紹介します。SmartHRについて簡単に紹介すると、シェアNo.1の労務管理クラウドソフトです。おかげさまで登録社数3万件以上、99.5パーセント以上の継続率のサービスを展開しています。

今日のテーマになりますが、既存と新規のプロダクト。既存というのはSmartHRの登場から進化、人事労務業務の効率化を推進するプロダクト、そして新規は、今後の発展として人材マネジメントの高度化、人事情報を活用した新規のプロダクトを展開しています。

PMMとPdMはどう協働しているか?

ではここからが本題です。「両利きのプロダクト開発」と題して、3つのトピックを話します。ここから、金岡さんにバトンタッチして話してもらいたいと思います。よろしくお願いします。

金岡:よろしくお願いします。改めて金岡です。ここからは人事労務系の既存のプロダクトと、人材マネジメントという新規のプロダクトにおいて、PMMとPdMはどう協働しているかを、具体的ないろいろな組織の話なども交えて伝えたいと思います。

PMMとPdMのミッションと組織です。冒頭のおさらいですが、PdMが「課題解決のために『何を作るか』を考えて『価値の提供』に責任をもつ」。PMMが「事業成長のために『何が売れるか』を考えて『どう売るか』に責任をもつ」という役割分担になっています。では、具体的にどんな組織でプロダクトに関わっているかというと、こんなかたちになります。

PdMは、大きくSmartHR本体のプロダクトと、各オプションに分かれています。PMMは、既存と新規といった感じで分かれています。それぞれ考え方の背景があります。

プロダクトですが、PdMも入社したのが2018年の最後のほうだったり、PMMが生まれたのも、2019年の最後のほうだったり。実は組織もまだまだ手探りというのを伝えた上で、今の組織の状態について伝えられればと思います。

PMMとPdMの体制

現在のPdM、PMMの体制ですが、PdMは主にプロダクト規模と開発スキームに合わせています。SmartHRの人事労務系のプロダクトは今非常に大規模で、さまざまなことができるようになっています。これを1人のPdMでマネージするのはけっこう大変で、今はPdMを複数置いている体制です。開発体制については、後ほど詳しく伝えられればと思います。

各オプション機能は小規模のアプリになるので、各プロダクトにPdMを1人ずつ配置するかたちでやっています。

一方、PMMですが、プロダクトというかたちで今は区切っておらず、既存と新規で分けています。既存の労務系のコアプロダクトの成長に寄与するユニットと、ゼロイチの立ち上げをしてそこからグロースするユニット。そんなかたちで分かれています。PdMはプロダクト規模と開発スキームに合わせて、PMMはプロダクトライフサイクルとドメインに合わせて分けるかたちで今はやっています。

佐々木:これは、PdMが既存というまとまりじゃない中で、どうPMMが有機的に動いていくかですね。たぶん疑問に思っているかなと。

金岡:はい。既存のコアプロダクトは、年末調整と文書配布も含めて、今は一緒に動いています。ここと既存コアプロダクトを担当する既存ユニットのPMMが協働して、新規は新規のユニットと協働するかたちを取っています。それぞれけっこう特徴があるので、ここからは既存のコアプロダクトと新規プロダクト、それぞれのPdM、PMM業務の連携の仕方について、具体的に伝えられればと思います。

佐々木:はい。金岡さんは既存と新規両方のPMMを経験しているなかでの違いについてもぜひ話せればと思います。

PdMとPMMの要望・企画/開発・ロードマップの管理

金岡:ありがとうございます。PdMとPMMの業務で非常に重要なものになってくると思うので、要望と企画/開発、ロードマップ管理の3点について伝えられればと思います。では、既存の人事労務系のプロダクト。まず、ユーザーニーズの抽出と企画というトピックについて、伝えたいと思います。

既存プロダクトの場合、今はだいたいproductboardというSaaSを運用しています。各顧客接点を持っている方、セールスやインサイドセールス、カスタマーサポート、カスタマーサクセスの方々が、目安箱みたいなサービスで、お客さまの要望を社員が代理で投稿できる製品になっています。

ここに対して要望を一元集約して、ドメインエキスパートとPdMとPMMが閲覧できる場をPMMメンバーが運用してくれています。既存プロダクトの場合、ユーザーニーズの抽出はわりと仕組みで担保していて、常にユーザーの要望が上がってくるかたちを取っている感じです。

新規のプロダクトも、実は要望を投稿する側のセールスやインサイドセールス、カスタマーサクセスなど、さまざまな顧客接点の方々がいます。productboardの運用はしていますが、新規のプロダクトになるとユーザーのオンボーディングや営業のノウハウが実はぜんぜん形式化されていないので、要望もダイレクトに投稿しづらいというのがあります。

そこで、PMMが実際の商談に同席したり、お客さまのオンボーディングに入り込んで、実際に生のお客さまのご要望を聞くこともやっています。ツールだけではなく、PMM経由でユーザーの生の反応がPdMに伝えられている。そこが企画に生かされる、なんてことも起きています。佐々木さんも新規のプロダクトを担当していて、実際の商談に行ったりもしているんですよね。

佐々木:そうですね。売り方がわからない中で自分が現場に出て、お客さまの実際の生の声を聴いて、それをプロダクトにフィードバックする。それを仕組みで解決したり、プロダクトのアップデートのようなことも必要なので、当時はいろいろやっていました。

金岡:初期はPMMがわりと先手になってきます。ここでちょっと補足します。プロダクトライフサイクルで、既存のコアプロダクトは、今は成長期にあるのかなと思っていて、仕組みが継続的に途切れないような仕組みで担保するかたちを取っています。

一方で、新規プロダクトはまだ市場では導入期で、ニーズがあるかないか、プロダクトマーケティングフィットもまだわからない段階になっています。そこで、泥臭く生の顧客の声をPMMが積極的に聞きに行く。そんなかたちでプロダクトの開発に関わっています。

では、先ほどのPdMのチーム体制、開発で複数のPdMがいるので、どんな感じか気になった方もいるかなと思います。まず既存の労務系のプロダクトですが、今、Large-Scale Scrumというスクラムの一形態を採用しています。既存のプロダクトは非常に機能が多くなってくるので、機能ごとにエンジニアとデザイナーのチームを分けて、それぞれにPdMを配置するやり方をしています。

別の言葉で、フィーチャーチームと言うんですね。このフィーチャーを1人のPOが取りまとめつつ、みんなで相談しながらロードマップを作っていく。

一方で新規の場合、オーソドックスなスクラムを運営しているケースがほとんどですが、初期は少数のエンジニアとデザイナー2人で開発する、そんなPdMすらいないケースもあります。それで初速を出し、徐々にスクラムに移行していると思います。あと、新規プロダクトの場合は、PdMがPOを必ず兼務している感じです。

ロードマップの話ですが、既存の場合はロードマップも入り組んでおり、フィーチャーごとに複数のPdMでロードマップを検討しています。こちらの機能をいじったら、こっちの機能にも依存が出てきたりするので、どちらを優先してやるのかとか、エンプラ(エンタープライズ)の要望があるので、こちらを優先するべきかみたいなことを、PdM全員を交えて話する感じになります。

重要なものに関しては、けっこう経営判断も重要になってくるので、一緒に経営陣を交えて会議することもあります。決まったことを、PMMがステークホルダーに周知していくかたちを取っています。一方、新規のプロダクトは今のところ各チーム個別にロードマップを検討していて、エンジニアを交えてロードマップを機動的に変更するやり方を取っています。

新規プロダクトはPMM、新規プロダクトユニットと書いたと思いますが、ここのPMMで横断してロードマップを把握するやり方を取っています。

まとめると、既存のプロダクトを効率的に分業しつつ、その仕組みを担保することによって成長を止めない。そんなことをPdM、PMMで意識しています。一方、新規プロダクトはまだまだマーケットフィット前で、市場検証と速度重視なので、PdMもPMMも臨機応変に役割を変えています。佐々木さんも私も両方経験しているので、どちらの方法もわかる強さがあるのかなと思っています。

PdMとPMMのKPI設定と評価

気になるところだと思いますが、PdMとPMMはどんなKPIを持って、どうやって評価されるのかをちょっと触れておきたいと思います。既存のプロダクトの場合です。既存のプロダクトで評価される重要なポイントは、ステークホルダーとWhyに合意して、何が優先的に作られるべきかをちゃんと決めきって、目標としていた結果が出せるところを重視しています。

新規プロダクトですが、プロダクト別のMRR、ARRという、生々しいところもちゃんと見ています。あとはマーケットフィットも達成できたか。例えば、事例がゼロイチで獲得できているかも評価のポイントになってきます。それぞれちょっと考え方も違うので、説明できればと思います。

既存は多様な属性の顧客がいます。それこそ巨大企業から、スモールビジネスのお客さま。いろいろなお客様がいて、ステークホルダーも社内外に多くいます。実は、全体最適の視点が求められる比較的定性的な評価を、既存のほうではされています。価値の定量化は、今チャレンジ中という話になっています。

新規プロダクトはプロダクトごとに独立しているし、まだ成長過程にあるので、かなり市場の初期ということです。アクションが売り上げに比較的直結しやすいので、わりとデジタルな状態かなと思います。佐々木さんはここら辺どうですか?

佐々木:そうですね。やはり新規のときにはクイックに動いて、それが成果で見やすくて動きが定量的にわかりやすいというのがありましたが、既存プロダクトが今試行錯誤していますね。何が正解なのかは、ぜひみなさん意見とか、ディスカッションしてみたいなと思っています。

金岡:そうですね。すごく巨大なプロダクトというところで、課題もいっぱいありそうです。今ちょっと話にも出ましたが、既存と新規で実はまだまだ課題があります。例えば、今みたいに定量的な評価ができない話もあれば、あとはいろいろな要望を常に改善していますが、中長期のプロダクトだと「将来どうなるんだ」というところがなかなか見通しづらく、社内にも伝えづらいということがあります。

既存プロダクトは、PdM間で継続議論して、「理想のSmartHRはなんだろう」みたいなディスカッションを始めています。一方で新規のプロダクトは、個別に小規模なチームで速く作っているところがありますが、わりと個別最適になりがちで、全体としての体験を考えたときに「どうなるんだろうと」ちょっと不安になってきている。こんな課題が出てきています。

新規プロダクトについてもPdM間で情報連携を開始しつつ、最近はPdMもPMMも両方席に着いて、みんなで全体のプロダクト中長期の戦略を考えるようなこともやっています。少しずつ全体の整合性も取っていくのかな、という感じです。では、私たちの発表は以上となります。ご清聴どうもありがとうございました。

佐々木:ありがとうございました。