ARやVRによる現場の改善

中村薫氏(以下、中村):次の話に移る前に。(スライドを見て)うちではこういうパッケージを作っています。これがどういうものかというのはどうでもよくて、最近のお客さんは、例えば少子化によって働く方が減っていくとか、海外の方が増えているのでコミュニケーションの取り方が難しくなったとか、それから高齢の方がどんどん引退していくので、技能の継承とかが難しいよねっていうような課題を抱えています。

そこに対してこうしたデバイスが役に立つんじゃないの? っていうのが、わりとみなさんの共通理解です。それに合わせたパッケージを作っているんですけれども、その中の1つに、これで言うと一番右側に手放しマニュアルというのがあります。これは現場作業支援で、従来の紙や動画、静止画のマニュアルをARにするというようなものになっています。

さっきの被り物の特徴として、被ったところの目の前に、例えばテキストだったりとかPDFだったりとか画像だったりが見えるんですね。現場で作業するときにそういうのを見ながら作業したいんですけれども、従来は、例えばタブレットを持ちながら作業をするとか、どこか傍らに置いて作業するとかっていうので、どうしても両手を空けながら、説明を見ながら作業をするようなことができなかったんです。

それによって作業に時間がかかるとか、デバイスに対する堅牢性みたいな話が出たりとかっていうのがありました。それならそれを全部この中に入れてしまえば、目の前で見ながら両手を使って作業ができるよね。それは現場の方にとって嬉しいよねっていうようなかたちで作っています。

よくこういうARやVRは、3Dにするっていうのが至上命題的に語られるんですけどもそんなことはなくて、2Dのテキストだったり画像だったり動画だったり、従来のリソースをそのまま使って作業環境を改善するみたいなこともできるようになっています。

暗黙知と形式知

なぜこういう話をしたかと言うと、実はこれ、ソフトウェア自体の価値もですが、それを作っていくフェーズのほうが大事なんじゃないの? よりお客さんにとって価値があるんじゃないのかな? というのを、さきほど平鍋さんの話を聞きながら思い出したんですけれども。

実際にこのアプリをお客さんのほうに持っていくと、1回お客さんのほうでマニュアル通りに作業していただいて、それを動画に撮り直したり、実際の作業とマニュアルの間の差分を見つけるみたいなことをやっていて。そういうのをやるとだいたいがドキュメントに対して実作業が合っていないというケースがあるんですね。

それは何かと言うと、例えばドキュメントが更新されていないというのが1つ。それから現場の最適化がかかっているというのがありまして。やっぱりドキュメントは机上なので、それを実際現場に持っていくと日々改善されていって最適化されていくので、そこでドキュメントとの差異が出てきて、ドキュメントにフィードバックがされないというケースがあります。

実はそこで、それを引っ張り出すという行為をしていて、その行為自体に価値があるんじゃないかなというところはお客さんとも話をしています。要は現場で最適化されたものというのが暗黙知になっていて、その暗黙知を1回フローを通すことによって引っ張り出して形式知になるんですね。

その形式知をこのアプリに突っこんであげることによって、暗黙知を形式知にして、その形式知をみんなで共有できるようになる。そういうこと自体が価値なのかなと思っていて、そこはもうARとかVRとかMRとかまったく関係なくて、仕事の進め方の話になってくるのかなというふうに思っています。

HoloLensの進化

ちょっと話が変わって、これもおもしろかったので紹介しようかなと思うんですが。自分視点で見えるマイクロソフトの進め方というので、マイクロソフトがHoloLensというMRと呼ばれるデバイスをやり始めたのが、だいたい2015年とか2016年です。最初のデバイスとなるプロトタイプが世に出てリリースされてから、だいたい4、5年くらい経っている状態です。

マイクロソフトはだいたい毎年5月に開発者カンファレンスをやっていて、そのときに、今の注力分野に対してこういう状況ですみたいなキーノートをやります。2017年にキーノートが出たときは、こういう世界を目指すというフワッとしたビジョンが出ている状態だったんです。

これが1年経って2018年になってくると、今度は適応分野というのが見えてきます。最初、HoloLensはけっこうクリエイティブとか設計とかデザインとかそういうところに使えるだろうというのがプロモーションビデオとかにもいっぱい流れていたんですけれども。蓋を開けてみると、そういったところよりも現場の作業支援、さきほどもそうなんですけれども、現場の方々に使ってもらうというところに効果が出るんじゃないかというところがわかってきたみたいです。適応分野にファーストラインワーカーと呼ばれる現場の作業の方。

実際にコンピューターの恩恵を受けている人たちをオフィスワーカーと呼んでいるんですけれども、だいたいオフィスワーカーとファーストラインワーカーの比率が4対6くらい。要はコンピューターの恩恵を受けている人たちって、まだ4割くらいしかいないというような話をしていて。

こういうHoloLensみたいなデバイスというのは、そうではない6割の現場で動いている方々に対してコンピューターの助けをあげられるというような話をしていました。ここで実際にビジョンと仮説からやってみて、より具体的にここに適応できるよねという話が出てきました。

ちょっと日が空いて2年経った2020年です。どうなったかと言うと、価値を生み出すまでの時間が早く、投資収益率が実証されている分野というふうに書かれています。いわゆるROIというやつです。こいつがもう実証されましたという状態になっているんですね。

その状態というのが、今度は分野ではなくてシナリオとして6項目出ています。この中であればこういうデバイスを導入して実際にやってみると、その投資に対してちゃんと効果が出るよということがわかっているというふうになっています。

きちんと仮説を立てて実証していくと、数年できちんと結果が出るというところまできているんだなというふうに感じています。僕らはこれを見ながらお客さんとも話をしながら僕らの中でも仮説と検証を繰り返すようなことをやっていたりします。

DXのおはなし

少し先の話というところで、次に出てくるのがDX、いわゆるデジタルトランスフォーメーションっていうやつです。この話がやっぱりこのご時世もあって、かなり出てきて、僕の周りでもこういう話が出てきています。デジタルトランスフォーメーションは日本から出ているわけではなくて、それこそアメリカのマイクロソフトの基調講演なんかにも出ています。

日本のデジタル化というのがほかの国に比べてどうかという話は一旦置いておいて、デジタルとかコンピューターというところが比較的根付いていると思われるアメリカですら、そういうトランスフォーメーションをしないといけないというような状態なんだろうなというふうに認識をしています。

この話のコアに入る前に少し背景の話を共有すると、もともと僕らに来る話というのは、さきほども言ったとおり、3Dデータを活用したいというところが1つあるんです。要は1つのポイントとして3Dのデータがあって、それをARとかVRで見たいというお話があって。それはそれで、「わかりました。やります」というのでできていて。比較的効果が出るよねというのは前述のとおりです。

最近、ここから今度は横にデータを活用したいというような話があります。例えば3Dデータを活用するために、最初にも言ったとおり、有象無象のデータ形式があるので、例えばそのデータ形式をどういうものをどういうふうに使えばどういうふうに効果が出るのかというところとか。それからいろんな会社が関わっている中で、どういうデータをどういうフローで流したいのかみたいな話ができるといいのかなというふうな話も出始めています。

当然今まで点で動いていたものが今度は線になっていくので、今度は広がったところからいろんな活用の仕方が出ていくと、それ自体がやっぱり投資に対する効果として反映されてくるのかなというところです。入り口はたぶん、どこでもいいと思うんですけれども、そこから入り込んで広げていくというところで、技術を広めていくというようなことをこれからしていくと。

僕らはその起点が3Dデータなんですけれども、おそらくみなさんはみなさんの環境、例えばWebだったりとか金融だったりとかいろんな最初の入り口のポイントがあって、そこから入り込んでいくと、その根っこはデータの活用というところに入ってくるのかなというふうに感じています。

一方でDXというキーワードって危うさを感じていて。1年、2年くらい前にAIがワーっと盛り上がってきたときに、いろんな方と話をして、僕はAIはぜんぜん詳しくはないんですけれども、話を聞いている中で、AIという中でも、人によってそれがディープラーニングだったり機械学習だったり画像処理だったりボットだったりコグニティブだったり、けっこういろんなイメージがあるんですよね。

わりとそれと同じ匂いをDXに感じていて、例えばデジタル改革だったりとか業務改革だったりとか、単純なデジタルツールの導入だったりとか、その人の見えている世界だったりとか。そういったものによって知っている世界とか定義が変わってくる。

AIって言われたときには、「あなたのAIは何ですか?」っていう問いをけっこう投げかけていたので、たぶんDXに関しても同じようなことをやらなければいけないのかなというふうに感じています。

DXはアナログ的?

いろんなお客さんと話をしていく中で、これは非常に個人的なDXの所感なんですけれども、デジタルトランスフォーメーションと言いつつ、僕はすごくアナログだと思っています。何かと言うと、文化の変化。

要は今までアナログだったものからデジタルに変わるという文化の変化とか。当然変化というのが発生すると、人は変化に対する恐れを感じるので、そこをどうケアするか。どう乗り越えていくかというところが肝なんじゃないのかなと思っています。

この話はたぶん、アジャイルでも最初のころに同じような話が出ていたんじゃないかなというふうに記憶していて、今までやってきたこと、たぶんみなさんが今まで現在進行形でやってきたところが、この先、同じような話がもう少し大きな枠で出てくるんじゃないかなというふうに感じています。

マッキンゼーからの緊急提言

最近Twitterとかのタイムラインでけっこう話題になっていて、みなさんの中でもご覧になった方もいるかと思うんですけれども、マッキンゼーからの緊急提言で、デジタル革命、DXの本質っていうのが出ていて、これけっこう中身がおもしろくてですね。

けっこう後半のほうにあるんですけれども、そもそもDXとは何かというDXの定義の話が入っていて。もともと2004年くらいに出ていたらしいんですね。これが日本の場合は2018年に経産相からDX推進のガイドラインというかたちで出ていて。

もともとがITの浸透によって人々の生活のあらゆる面で、よりよい方向に変化させるというのがDXの本質。これが日本の中では、企業がビジネス環境の激しい変化に対応してデータとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化、風土を改革し、競争上の優位性を確立することっていうので、わりと馴染みのある単語が節々に出てくるんじゃないのかなぁというふうに思っています。

要するにDXとは事業変革、ビジネスモデルの変革、ビジネスプロセスの変革で、かなり多岐に渡って変わるっていうことが発生します。やはりそこに対して人の変化とか、変化に対する抵抗とかが入ってくるので、先ほども言ったとおり、デジタル的なところとは別にアナログ的なケアというのが必要になるんだろうなというふうに感じています。

このPDFをいろいろ読んでいくとおもしろくて。デジタル変革における大きな障壁は、文化、人材、組織面っていうので、完全にアナログなんですよね。人なんですよね。

たぶんこの話って、同じようにアジャイル、スクラムでも出ていて。アジャイルは文化だったり人だったり、それから組織作りの話が出たりというところで、やっぱり同じような話が出るんだなと。詰まるところソフトウェアの開発というのは人がやるので、根本は人に起因するのかなっていうところとか。

そしてこれも同じような話で、ユーザー企業とかSIerとかっていう話に代表される、日本はITエンジニアがユーザーに雇用されてないよねと。SIerさんが大きく仕切っていて、SIerさんがユーザーに対してITを提供するっていうのがあるよねという話だったり。

DXとアジャイル

それからDXとは何か? というところで、ここがおもしろいのが、例えば人材で言うと内製化という話があったり、組織で言うとアジャイルに活動するというのがあったり、システムで言うと柔軟な開発を可能にするというのがあったり。要はたぶん今みなさんがやっていることとか、やろうとしていることそのものの延長にあるというところが特徴なのかな。

たぶん今まで、アジャイルというのをやろうとすると、どうしてもウォーターフォールとの対立構造だったりとか、ウォーターフォールから変わりきれないみたいなところがあるという話があったと思うんですけれども。DXってなったときに、たぶんアジャイルが前提条件になってくるというところが、この数年での大きな変化なのかなという感じがしています。

6要素というので、このあたりもちゃんとアジャイルとかデリバリーというのが要素として入ってきます。それからチェンジ・マネージメントとかですね。このあたり、たぶんみなさんがやっていること自体がこの先のそれこそ日本がどうなるかみたいなところに根本から関わってくるみたいな話が出てくるのかなと思っています。

こういったところでより大きなものが見えてきたので、足元を固めつつ、より根っこから新しい取り組みを進めていくみたいなところをやりたいな、やっていかなきゃいけないのかなというふうに感じています。

(次回につづく)