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withコロナ時代のアジャイルとコミュニケーション〜効果的な場作りとツール〜(全3記事)

「場」の力を活用するとうまくいく開発がたくさんある だからアジャイル開発に場が大切なんだという話

Agile Tech EXPOは、アジャイル開発者やアジャイルに興味がある方向けのカンファレンスです。株式会社永和システムマネジメント 代表の平鍋健児氏が、withコロナ時代のアジャイル開発で重要なコミュニケーション、場作りについて講演しました。2回目は共創の場の作り方について。前回の記事はこちら。

この場所の維持自体がアジャイル開発に近い

平鍋健児氏(以下、平鍋):今日の話です。共創の場作り「アナログ盤」と書いてあるんですけど……。これは「盤」の字が間違っていますねー。いえいえわざとです(笑)。

先々週に出たニュースがおもしろかった。レコードの売り上げがCDを抜くという(笑)。これはとてもおもしろく、時代を「あぁ、そうなんだ」と。「なるほど」と逆に思いますよね。アナログです。

引用:CNN.co.jp

Agile Studio Fukuiを作ったときにどうファシリティを作っていくかとけっこう議論があっておもしろかったんですよね。これをみんなで使えるようにしようと、「アジャイル基地をつくるパタン言語」というのをやってみようということで書いたんですよ。

どういう作り方をするか、どうそこで決め事をしていくかを、他にも2019年に「ぼくたちのひみつきち」という小坂さんがやってくれた企画があって、そこに集まっていたいくつかのアジャイル基地が日本にたくさんあります。そこに参加している方を集めてライターズワークショップというのをやってパターン形式で書いてみました。

(スライドを示し)これはアジャイル基地パタンライターズグループの面々です。こんな企業の方々に参加してもらって自分たちのことを書いてもらったんですね。そしたらけっこうおもしろくて。太文字はあとで作ったカテゴリで、右側に書いてあるのが僕たちはこうやったというその一つひとつのパターンです。他の場所でもこうやったんだと。2つ以上被ったものをここに入れています。

だからわりと汎用的というか、「確かにこれはうまくいくね」というのを書いてここに入れています。それにカテゴリを作っていきました。そしたらいろいろなことが見えてきて、例えばこれは僕たちのために作っていると思ったけど、例えば「内外の人々との交流」みたいなのが出てきたんですよ。見学を推奨したり学生に来てもらったりとか。

「なるほど」という話もあったし、それからおもしろかったのが「変化の民主化」みたいな話が出てきて、つまり場所を変えるときに総務に行ってお願いするんじゃなくて、自分たちで変えられるような仕組みがほしいよねとか。

その場所自体が継続的なフィードバックをして、変えていかないといけないよねという話が出たときに、これはこの場自体がプロダクトだというか、成長していく場所で、この場所の維持自体がもうアジャイル開発に近いというかたちに気付いて、この時みんなで熱狂したんですね。

シンボルを作る

例えばこのシンボルを作るみたいな。Welcomeボードを作るのを最初のアクティビティにしましょうとKDDI DIGITAL GATEの佐野さんが書いてくれています。コンテキストとしては新しいメンバーが入ってくる場面もあるよねと。

問題としては、参画の仕方がわからないみたいな話があったので、ソリューションとしてはWelcomeボードを作るというのを最初のアクティビティにしようよみたいな。それでどうなのかConsequent Contextを書いていて、Known Usagesとしては他にどんなところでこれが使われているかということを書いて、これを全パターン書いていて、みんなでレビューしてこれを公開しました。

そしたらさっき言ったようにいろいろな発見があって、当然中心はプログラマーの仕事場ということだったんだけど、少し上に行ってシンボルを作る話や、それももうちょっと上に行くとそもそも最初にチームで意見が出るよねみたいな話が出てきたし、それから気分を変える場所があったり、壁を中心とする文化。

これもアジャイルではよくあることですけど、内外の人々との交流というのはちょっと外に出っ張っています。一番下に変化の民主化があって継続的なフィードバックとすると、デザインからフィードバックへの円環構造が浮き上がり、かつ外部との構造のインターフェイスがあって、そこがおそらくPOから外の世界ともつながっているという世界観です。おかげですごくおもしろかったというお話です。

これはドキュメントになっているので、ぜひ見てください。

1人対1人の力の関係

これをやりながら思ったのが、「場作りってなんだろう?」ということなんですよ。僕は物理学が大好きで、よくある2つの電荷が引き合う、あるいは弾き合うという話で、距離の2乗に反比例する力が働きますよという方程式を書いて解いたりするんです。もう1つのやり方に実は1つの電荷があるだけでその周りの場が歪んで、その歪んだ場からもう1つの粒子が力を受けるとしたらどうかと。

そうするとたくさん出てきても1つの粒子を作る場というのが、みんなに影響を与えているというのがわかってすごく見通しがよくなるんですね。

かつ物理学ではこのあと電場と磁場というのが実は直交していて、電場が揺れることで磁場もより揺れる。それが光の速さで伝わっていくんだみたいなことがちゃんと言えて、瞬時に伝わると思っていた電荷の引き合いの力というのは実は速度をもっているみたいな話もあって、これで物理学がバッと進んだと。そんなことがわかってきておもしろい。

これを人間になぞられて考えると、要するに誰か1人ともう1人がいて、そこの力関係があって仕事が動いていくという考え方と、チームがあってそのチームが場にいて、その場に力があることでみんなでものを作っていくということはだいぶ違います。この場の力を活用するとうまくいく開発がたくさんあるんじゃないかなと思います。

これはアジャイルの本質と近いという気が僕はしています。その指示・命令が1人対1人に起こるというそんな話ではなくて、全体としてのゴールだったり文化だったりの共有の上に、その一人ひとりの行動がその場から力を受けて自然と発生するというのがアジャイルぽいなと思ったんですよね。

だから「場」という話

場と言えば野中郁次郎先生なのですけど、みなさんご存知かもしれませんが、野中先生はSECIモデルという、知識はどこから来るのかという深遠な問題を解いています。

要するに暗黙知というものが最初人間にはあって、これをしたい・あれをやりたいみたいなことがあります。それを暗黙知のまま経験でもって近くの人に伝わって、それを誰かが形式知に書くことで文書化されます。文書化されると知というのがポータブルになるから組み合わせることもできて、それで新しく違う知が生まれ、それをまた誰かがやってみて「なるほど」と言って変えていくというかたちで回るという話なんですね。

それぞれの場には名前が付いていて、暗黙知・暗黙知変換のことを創発場、暗黙知・形式知の返還のことを対話場、それから形式知・形式知変換のことをシステム場、最後の形式知・暗黙知変換のことを実践場と言うらしいです。だから「場」という話です。

野中先生のお話を聞いた方がいるかもしれませんが、すごくジョークが上手ですね。「外国で『場』と言っても通じないんだけど」「ところが、イギリスでは通じるんだよね。BaはBarと言って」みたいな。しれっとしたジョークを言って会場がいつも笑いでドカンとなります。

僕も行ったことがありますが、イギリスのパブはおもしろくて、食事の前に行くところなんですよね。待ち合わせの場所なんですよ。だから子どももいたりします。集まってきた人と食事に行くのですが、その前にちょっと顔見知りと合うとそこで紹介が起こったりする、そんな場なんですよね。この場はすごくいいなと思います。こういう場なんだな、ということなんです。

最近よく海外から来る理論で「ティール組織」とか「ホラクラシー」を聞きますよね? でもあの中には場という概念がないんですよ。ところが野中理論はこの場の塊なんですよね。これがスクラムの元になっていてけっこうおもしろくて、続きはこの本を読んでくださいという話です(笑)。昨日も野中先生と電話で話をして、おそらくこれは第二版が来年出ると思いますので。

ちょうど『SCRUM BOOT CAMP』の第二版が出たじゃないですか。『SCRUM BOOT CAMP』とこの本は同じときに発売されているから、向こうも改訂したのならこちらもぜひしなきゃと、今第二版をがんばって作っています。

大事なことはリアルでもオンラインでも同じ

ここまでが場作りの話なんですけど、ところが起きちゃいましたよね。この状況。これはどうするんですかという話を少しさせてもらいたいと思っています。この本は僕が昨日買った本なんですけど、俵万智さんは福井の藤島高校出身なんですよ。藤島高校の横に田原町という電車の駅があるんですけど。

これは買ったばかりの本の表紙をさっき撮ったんですけど、左側の短歌と右側の短歌、ちょっと何か感じません?

「トランプの絵札のように」とかね。この2つ、つまり画面にみんなが集まって今日みたいにしているという話と、それから右側には「手伝ってくれる息子がいることの」という「餃子の時間」みたいな話で、今みなさんの生活はこの2つの間を何か両方が存在しているようなそんな時間じゃないかなと思って、すごくうまく切り取ったなと思って感動したので、ここに出しました。

リモートでの場作りをちょっと考えてみました。Agile Studio Fukuiでも最初はこのパターンの中の左2つを考えていたんです。東京や首都圏にお客さまとお客さまのチームがあって、福井にエンジニアがいてそこにリモートで参加するかたちですよね。真ん中のパターンは逆に福井にあったチームがあってPOだけ東京にいてそこをリモートでつなぐパターン。でもこのコロナ禍が始まってみるとほとんどが右に行っちゃったんですよね。

これもぜひご興味があればダウンロードしてみてください。リモートの開発のパターンです。

アジャイル界隈で昔から一緒にやっている倉貫さんも『リモートチームでうまくいく』という話や、あとは雑談・ザッソウ(雑談+相談)の話、すごく時代の先端をいく本を書いていらっしゃいます。最近すごくおもしろかったのはWork Together Anywhereという話でして、ちょうどManagement 3.0 Japan Conferenceが先月あったんですけど、そこでLisette Sutherlandさんが話されてすごくおもしろかった。

引用:TED

これはLisetteさんの話からちょっと引用していますが、基本中の基本は速いネットワークをとにかく準備しなさい・用意しなさいと。ある海外の会社だと30メガビーピーエス以下の接続速度でつながっている人は出社と認めません、とか。ホテルにいてもどこのリゾートにいてもいいけど帯域は確保してちゃんとつながらないと出社ではないですと(笑)。これはおもしろいと思った。

これはみんなやっていると思いますけど、同じ社内にいたとしてもリモートが混じっていたらグループを作らずに個別でやったほうがうまくいくとか。それから常時ビデオオンというパターンもあるし、逆にビデオじゃなくて常時音声オンみたいな話もありますね。

バーチャルオフィスのアプリケーションというかサービスもたくさん出ています。僕も最近思うんですけど、人と話をするときに「何時から打ち合わせをしよう」とZoomなりのスケジュールをセットするのは、それだけでも熱が逃げちゃう。もともともそんな大した話をしたかったんじゃなくて、ドアをノックしたりちょっと出かけていて「ねぇねぇこの話だけどさ」みたいに、ちょっと雑談気味に入りたいときもあります。

「ねぇちょっと」から始まる話を本当はしたいのに、スケジュールを設定するのがつらい。例えばRemoはドアをノックする感覚で入れますよね。部屋があってそこにノックして入っていくみたいな感じなので、そういうのができるとより通常の雑談も含めた会話につながるんじゃないかなと思います。

あと、これは社内で話したときに気付いたんですけど、少し早めに入って雑談とかしません? ちょっと会話の上手な人はこれをやっているんですよ。お客さんから裏情報じゃないけど、この辺を聞いておきたいという話を先にちょっとしたりとか。

それと時間に遅れないは基本です。やり方も元気よく挨拶から入りましょうとか。それからこれも当たり前なんですけど、歯磨きをしましょうとか(笑)。ちゃんと生活のリズムを大切にしましょうという話です。これもおもしろかったエピソードなんですけど、在宅勤務をしている人が家族に「行ってきます」と言うようになったという話なんですよね。

仕事場があって、一応切り替えて入りたいから「じゃあいってきます」と言って入る。おもしろいですよね。よく考えてみるとここに書いてあることはリアルでもまったく同じじゃないですか。この5点についてはリアルもオンラインもまったく同じだったんだなということに改めて気がつきました。

(次回につづく)

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