自己紹介

藤門千明氏(以下、藤門):みなさんこんにちは。ヤフーCTOの藤門です。「クリエイターカルチャーの醸成」と題し、DMM.comのCTOの松本さん、そしてメルカリ CTOの名村さんを招き、各社のクリエイターカルチャーについて、CTOの思いを語ってもらいたいと思っています。まずはパネリストの2人を紹介します。最初にメルカリのCTOの名村さん、自己紹介をお願いします。

名村卓氏(以下、名村):よろしくお願いします。メルカリでCTOをやっている名村です。メルカリに入る前は、サイバーエージェントで、いろいろな新規事業の立ち上げをずっとやってきました。メルカリに入ったあとは、最初はUSのメルカリに少しいて、そのあと日本でCTOをやっています。

実は最近、株式会社ソウゾウという子会社を作って、そこのCTOになりました。主務がそっちになるので、またちょっと変わりますが、そんな感じで、いろいろとやっております。よろしくお願いします。

藤門:よろしくお願いします。続いてDMM.comのCTOの松本さん、自己紹介をお願いします。

松本勇気氏(以下、松本):みなさんよろしくお願いします。DMM.comのCTOの松本です。僕自身は学生時代からいくつか起業をしていて、3つぐらい会社を経てから、Gunosyという会社に行きまして。そこのアルバイトから執行役員を経て、CTOになって、新規事業担当になりました。基本的にずっと会社の立ち上げなど、グロースをやってきました。

2018年辺りでDMM.comのCTOとして招聘されて。DMM.comは本当にいろいろな事業が中にありますが、そういった事業群のCTOとしての業務。それ以外にも、例えば人事や総務。あと一時期は経営管理なども管轄しながら、データドリブンだ、アジリティ高めるぞと。そういった話をしながらここまで推進してきました。

本日はいろいろな事業をもっている会社として、あとは、ある意味ターンアラウンドというか、変革のタイミングの話を中心にできたらと思います。みなさんよろしくお願いします。

藤門:よろしくお願いします。最後にモデレータを担当します、ヤフーCTOの藤門です。私は2005年にヤフージャパンにジョインし、サービス開発エンジニアとしていろいろなサービス開発を経験したあと、ヤフーを支えるインフラやプラットフォームの責任者を経て、今CTOをしています。今日はどうぞみなさんよろしくお願いいたします。

名村さん……。今日サンダルなんですね。

(一同笑)

名村:そうです。年中サンダルで。

藤門:年中サンダル!

名村:やらせてもらっています。

メルカリのクリエイターの規模とカルチャー

藤門:最初のお題で、各社のクリエイターの規模やその構成。各社ならではのクリエイターカルチャーなどがあれば、簡単に紹介してもらえればと思います。まずトップバッターとして、名村さんからお願いします。

名村:そうですね。メルカリは、アメリカと日本、そしてメルペイと今回新しく作ったソウゾウという会社で、4社くらいあるんですけど。全体としての正しい数は数えていませんが、クリエイターの規模は、たぶん4〜500ぐらいだと思っています。

メルカリJPでいうと、おそらく2〜300。その辺りの数字で見ています。年々人数が変わるので正確には見ていませんが、“数百名程度のエンジニア”という感じの規模で見ているので。まぁまぁな規模かなとは思っています。

メルカリならではのカルチャーという取り組みでいうと、外国籍の方を非常に多く採用していまして。特にエンジニア組織でいうと、半分以上が外国籍の方で。シリコンバレーやヨーロッパで開発を経験した方がメルカリに入ってくるので、日本的なカルチャーもありますが、マージして作っていくのが、メルカリならではの難しいところとしてあります。

取り組みとしては、メルカリには「Go Bold」「Be a Pro」「All for One」というバリューがあるんですが、そのバリューだけだと具体的な行動がわからないので、全社的にカルチャードックという「メルカリのカルチャーとはこういうものですよ」というドキュメントを作っています。

Netflixが昔、カルチャードックを作って公開した時に、シリコンバレーですごく話題になって。「なんてすばらしい部署だ!」みたいに。

(一同笑)

名村:それにちょっと影響を受けて、「我々もカルチャードックを作らないとね」というので作って。例えば「採用はこういう考え方です」とか、「お客さまに対してこういう価値観です」とか。そういったカルチャードックみたいなものを作って、社内に公開をしています。

エンジニアの取り組みでいうと、バリューだけではエンジニアも何がプロかがわからないので、具体的な行動に落とし込んだ“エンジニアのプリンシプル”を社内で定義して。日本人と外国人が一緒になってプリンシプルを定義するってけっこう大変でしたが、ディスカッションしながら作って、それをまた言語化して。

「人数が増えてくると、言語化はすごく大事だな」ということを比較的感じているので。「こういうことが大事ですよね」「こういうかたちで評価していきます」のような言語化を一生懸命して。その言語化の過程で、できるだけみんなを巻き込んでやっていくような。

メルカリではボードメンバーだけで決めるのではなく、「言いたいことがある人はぜひ言ってくれ」という感じでみんなをできるだけ巻き込んでやるのは、エンジニア以外のところでもけっこうよくやられていて。メンバーを巻き込んでカルチャーを作っていく空気がある会社だとは思っています。

メルカリの合意形成方法

藤門:みんなでドックやプリンシプルを作ることは、なかなか合意形成が難しいじゃないですか。最終的にどのように合意形成しましたか?

名村:最初に僕が「こんな感じのが大事だよね」といった、たたき台を出して、エンジニアのオールハンズという全体の会でも発表して。これに対して意見があったり。メルカリはGoogle Docsをよく使っていますが、「これに意見があったらぜひ」と言うと、すごくコメントが付くので、それを公開して。

「もし興味がある人は一緒にディスカッションしましょう」とオープンドアで1回開いてディスカッションをしたときに、「なんかこいついいこと言うな」「こいつなんかいい視点でものを見てるな」という人たちに「ちょっとコミュニティを作りましょう」と声をかけます。

現場のメンバーから出てきたプリンシプルに対して、いい意見を出す人たちを集めてコミュニティを作って、そのコミュニティの中で「一番君が思いが強そうだから、リーダーとして取りまとめくれ」と言って、1人リーダーを決めます。そしてコミュニティを形成してもらって、そのコミュニティの中でディスカッションを重ねて作ってもらいました。

トップダウンでボンと来たというよりは、現場から選出されたコミュニティによって作られたプリンシプルというかたちにして。そのコミュニティのメンバーがすごく現場のメンバーを巻き込むのが上手な人たちだったので、現場の意見もうまく吸い上げて、引き上げながら少しずつドキュメントを整理して。修正に修正を重ねて最初のバージョンができたような。けっこうそんな感じで作りました。

藤門:けっこう「ボトムアップが大事だ」と言うけれど、やったのがすごい。胆力があると思いました。

名村:メンバーがたぶんすごい。そこに対してモチベーションがあったのは、コミュニティのメンバーが合っていたのがよかったなと思います。やはり「ボトムアップでこういうのを出して」といっても出てこないので、こちらからも何かしらいい球を投げておかないと。良くも悪くもたたき台のようなものを出して「こうじゃない」みたいなことを言わせるというか、言ってもらうのはすごく大事だなと。

藤門:いい球を全力で投げて、全力で打ち返してもらう感じなんですね。

名村:そうですね。それが一番理想でしたね。

藤門:いいチームができあがっていく感じですね。

名村:そうですね。良くも悪くも、メルカリは「こういうのどうですか?」と言うと、意見がどんどん出てくるカルチャーなんです。おそらくメンバーの意見を比較的尊重したり、心理的安全性のようなものを大事にしているので。あとは外国籍の方が多いのは、なんとなくあると思います。ものを言う文化は、海外の方のほうが強いと思うので。

藤門:確かに。

名村:そういうのもあって、プリンシプルに関してはこのやり方がうまくいったとは思います。

カルチャードックの浸透方法

松本:カルチャードックの浸透まで、そのコミュニティで一緒にやっていく感じですか?

名村:カルチャードックはまた別で、「ピープル&カルチャー」という組織が別にあって。

松本:ピープル&カルチャーがあるんですね。

名村:人事のような組織ですが、そこは「メルカリのカルチャーをもっと浸透させたい」と話をスタートさせて。そこも同じですね。1回たたき台となるカルチャードックを作って、それをオープンドアやオールハンズなどで発表して、オープンドアで「なんか意見がある奴はここにコメントしてくれ」「もしくはディスカッションをしましょう」と意見をバーッと出して、それをもとに修正を重ねてバージョン1ができるような。そういうやり方がメルカリは流行っているというか、うまくいくケースが多いです。

藤門:そのパターンでうまくいかせる感じなんですね。すごく参考になりました。ぜひDMMの事例も聞きたいので、松本さんお願いします。

DMMのクリエイター規模とカルチャー

松本:まずは基本情報的なところ。僕らの今のチームは、グループ全体でエンジニア、デザイナー、あとはそれをディレクションする人たち合わせてだいたい1,000人前後ぐらいの規模です。

もともとこのDMMという会社は、4年ぐらい前までかな。わりと受発注型の開発に近かったというか。ビジネス側が「これを作るぞ」と決めて、それをウォーターフォールに作っていくかたちだったところから、前社長の片桐さん(※片桐孝憲氏)が入った辺りから、会社をテックにしていく動きが進み始めて。受発注型からワンチームとして戦える会社にしていこうね、ということが始まりました。

僕が入ったのは、それが進み始めて1年ちょっと経った頃。どちらかというと「これまでDMMのカルチャーはこうでした」よりは、「そのときどう変えようとしたのか」の話になるんですけど。そこからやり始めたのは、「ワンチームとして開発するために必要なことは何か」。名村さんとたぶん対照的で、これをものすごくトップダウンにやりました。

強く推進するリーダーが、まだまだチーム内に欠けている状態だったので。僕が入社してすぐ百数十人をヒアリングして。そこから課題をまとめて構造化して作ったのがTech Visionという資料。これはインターネットに上がっていますが。

Tech Visionというかたちで、我々の開発組織のあり方と、それに紐づいたバリュー戦略までを1つのパッケージにまとめて、社内に公開しました。

DMMは非常に事業数が多いです。だいたい56ぐらいだったかな?事業数でいうと日々年々増え続けている状況で、事業軸も普通のWebサービス。ゲームだけでなくて、例えば、消防車、救急車の設計・製造やサッカークラブの運営だったり。メルカリさんも関連していると思いますが、そういったスポーツクラブの運営など。

本当に多種多様な事業があるので「この戦略を追求すれば、絶対にすべて伸びる」ということはあまりないと思っていて。その中でも最低限の僕らのモチベーションとして、僕らが考えるべきものをまとめたのが、このDMM Tech Visionと。

それをベースに今戦略を全部組み立てていて、僕が就任してから2年半ぐらい時間が経ちましたが、カルチャーが浸透してきて、そんな感じの会社の文化になってきています。

現状は、「4つのバリューに紐づいた行動原則」を、みんなが守り始めているのかな。1つがAgility、「細かく検証していこう」という文化をどう作るのかを、戦略の中で例を見せながら少しずつ浸透させたり、Scientificでデータを見て、事実に向き合って事業を改善していこう。僕らの開発の意思決定をしていこうという回り方。

そしてMotivation。モチベーション高く働くことがすごく大切だと。これは、バリューにも置いているぐらい大切なことだと伝えながら、人事制度の設計などを全部作り変えて。4つ目のAttractiveは、社内・社外両方にとって魅力的な会社であることは、追求すべきことだと。

「これがあることで、みんなも楽しく働けるんだ」というのでコミュニティ貢献や、自社内の勉強会のようなものを支援する。この4つのバリューと、それに紐づいた、例えばSRE部を立ち上げて「DevOpsはこうあるべきだよね」という話を浸透させたりとか。「データを見るために、こんなダッシュボードを作っていこう」とか。

その中で「Motivativeはマネジメントがこうあるべきで、採用はこうあるべき」のようなものを実際に見せながら、「こういう振る舞いがTech Visionで語られる4つのバリューに紐づくんだ」と浸透させていくことをこの2年半やってきて。それがみんなの口からも自然に出るぐらい浸透したのが、今なのかなと思っています。中央集権が改革をしてきた感じです。

(次回につづく)