DX時代に内製化は必要か?

寺田進一氏(以下、寺田):じゃあちょっとごめんなさい。質問をいただいているところもあるんですけど、いったんちょっと次のテーマいきましょうか。内製化のテーマもちょっとしたいんです。ここはちょっと簡単な投票を作ったので。

DXに内製化が必要だという意見もあるんですけど、どう思いますかということで、ちょっとみなさんの意見を聞きたいです。「やっぱり必要だ」というところと「いや、そうでもないんじゃないか」というのをおうかがいできればと思います。

(投票中)

ありがとうございます。そろそろ締め切ります。では結果を共有しますね。こんな感じで、7割ぐらいの方が「必要」だといったところですが。では、まず山本さんのご意見をいただければと思います。

山本融氏(以下、山本):なるほど。内製化をするか・内製化をしないかというのは、それはその企業の判断ですよね。それぞれにメリットがあってデメリットがあります。別にDXだからってどっちを選ぶのが重要であるっとかっていうことは言えないと思うので、必要不可欠かと言われると、僕はノーだと思います。

逆にどうしてDXに対して内製化が必要と考えいるのか聞きたいです。例えば寺田さんはなにかありますかね?

寺田:一般的に言われていることは、DXって、さっきのチャートでも出てきましたけど、顧客接点に近いところで求められたりとかすることが多くて、そこって基幹システムとは違って要件がバチッと決められなくて、試行錯誤を繰り返しながらよいシステムに成長させていく、スモールスタートして成長させていくようなプロセスがよしとされていると思います。

その際にはアジャイル的な開発が適していると言われています。従来のSIerさんはどちらかというと請負契約が中心なので、一方、DXはアジャイル開発が適しているといったときに、内製化で社内にエンジニアを抱えていたほうがうまくいくんじゃないか。そういうことかなというのが、僕の理解です。じゃあ田辺さんどうですか?

田辺泰三氏(以下、田辺):そうですね。内製化できるのであれば、それがベストだと思います。できなければ外注するというのが今までの従来のやり方だと思うんですけれども、無理に内製に振らなくてもいいかなとは思います。

企画からコーディングまで全部やるとなると、内製のリソースも大変でしょうし、部位によってお任せできるところはお任せする。しっかり押さえなきゃいけないところは、先ほど申し上げたとおり、マネタイズなのかコスト削減なのかというゴールを設定します。これに対する企画領域ですね。どういうことをやるのである。ユーザーさん……ユーザーなのか利用部門に対して、どういうことをやるのである。先ほどもマニュアルにもつながると思うんですけど、ちゃんと骨子を決めて、「DXというのはこういうのである。だからここまで内製化する。ほかの部分はおまかせする」とかっていう、その粒度と棲み分けですね。

発注側がグリップするところはグリップするべき

寺田:今までだとユーザー企業さんによってはけっこう丸投げみたいな会社さんもあったと思います。そうじゃなくて、一部外注は出したとしても、握るところはちゃんと握らないといけない。

田辺:グリップするところはグリップする。

寺田:ちなみにもう1個だけおうかがいしたんですけど、アジャイル開発なのか、請負なのか、アジャイル的な準委任の契約がいいのかみたいなところはどうですか? DXの文脈において。

田辺:アジャイルで速めに開発をするのは大事なポイントだと思います。そこを先ほどのエンドユーザー・利用者に対して、常にクイックリリースして見せていって、ダメだったら戻してという感じで進めていくのがいいかなと思います。

寺田:ありがとうございます。じゃあ佐藤さん、このテーマ、内製化についてはどうですか?

佐藤氏(以下、佐藤):私の部署は、そもそも買ってくれば済むものはもう工場が勝手に買っちゃうので、「こういうことをしたいんだけど、売っていないんだよね」というときに、私の部署に相談が来ます。だから、基本内製です。

実際には「こんなふうにできるんじゃないかな」という見通しを立てて、プログラムを実際に作ってみて、1週間2週間ぐらいで、いけそうとかダメそうとかがわかって来ます。ダメそうだったらまた方向を変えて「じゃあこっちであっちで」とかやっています。3ヶ月とか半年ぐらいで目標を達成していくというようなことをやります。

あとで(その)半年経って振り返ってみると、最初のときにじゃあ仕様を決められたかというと「まぁ、無理だね」と思います。紆余曲折があってたどり着くということがけっこうあります。それを外に出すのってけっこう難しいんじゃないかなという気はします。とにかく思いついたアイデアをすぐに実現させていくやり方がじゃないと、おもしろいものを作れないですね。

寺田:ちなみに、エンジニアが不足しているような状況で、SESみたいな技術者派遣を受け入れるみたいなことはないんですか?

佐藤:いや、いま、技術者派遣が半分以上、入っています。

寺田:じゃあ、それを含めて内製と言っている?

佐藤:そうです。はい。常駐させています。

寺田:ありがとうございます。じゃあ山本さんは、もちろん内製がすべてではないということだと思うんですけど、アジャイル開発だとか準委任契約とか技術者派遣みたいなものって、SIerにとってはどうなんですか。

山本:ちょっとその問いの前に、まず寺田さんの論理って「まずDXはアジャイルがよい。アジャイルは内製化が適している」という、大きくいうとそういう話だと思います。しかしDXをするときに、必ずしもアジャイルが全部の領域に対していいのかというと、そうじゃないと思いますそれは下のレイヤーから上のレイヤーまで言えて、例えば、プラットフォームを作るのにアジャイルで作らないですよね。

なので、そういったアジャイルを適用しない領域が少なくとも(C)(自社がどこの会社とも異なる業務プロセスを構築し、それを付加価値にして、他社に対して競争優位性を持たせたい部分)を扱う以上は必要になってきます。部分的に必要ですから、そういうノウハウはつけなくちゃいけないというのは間違いないと思いますけれども、全部の領域に対してそれをやらなきゃいけないという話じゃないですよね。

寺田:そうですね。

山本:その次に、今度じゃあアジャイルがいいと言われている部分に対して、人材を社内で調達するのか効率いいのか、それとも社外から調達するのが効率いいのかは企業判断だと思います。適切な方法で調達していけばいいという話なので、やっぱり内製化じゃなければいけないという意見はわからないです。

寺田:なるほど。ちょっとじゃあ私の話の前に1個ご質問をいただきました「もちろん100パーセント内製化ではないし、企業ごとには違うけど、内製化を進めていきたいという企業が以前より増えているという方向性はあると思います」というものに対してはどうですか?

山本:なるほど。ファクトとしてですね。

寺田:ファクトとして。「その中で、SIerがそれを後押しするというふうにしていくべきなのか、『いやいや、内製化しちゃったらSIerの仕事がなくなっちゃうし、それだけがすべてじゃないから内製化やめたほうがいいですよ』みたいなふうにSIerは動くべきなのか、どっちですか?」という質問です。

山本:今日はSIer多かったですよね。SIerの立場として、そういう状況を受けてどう動くべきかって話ですね。

寺田:そうですね。

山本:それは自社が何が得意かというところに大きく依存すると思います。つまり、SIerというのが、要は自分たちの価値がどこにあるかって話がまずあります。そんなの専門的な技術なんて専門的な会社のほうが強いに決まっているし、単金だって高いに決まっているわけです。

じゃあ高い単金でやる仕事としてなにが残るかといったら、それは「経営者の話を聞いて全体最適を考えること」だったりとか、「俯瞰して捉えていろいろなものを総合するとこういう仕組みになるんじゃないかということを可視化すること」であったりとか、「全体をマネジメントするとかシステム間の連携を考えること」ですよね。

だから、別に内製化をするという話があったところで、そういう役割ってSIerとしては残るわけですから。僕は、自分たちがそういう役割をして、じゃあそうじゃない会社、自分たちの配下にいる方々にやらせて、顧客に対して価値を発揮していただければいいんじゃないかなと思います。

その上で、プロダクトを売りたいのか、内製化じゃなくて自分たちの会社にお金を落としていきたいのかという戦略に応じて考えていくことになるんだと思います。

だから、例えばそういう問いを投げつけられたとして、僕は今の自分の会社だったらそういうふうに考えて特段の影響はないって判断します。だけど、自分が違う会社に行っていろいろな事情があって、どう判断するかというと、その会社の状況によります。

寺田:まぁまぁ、そうなんですけどね。少し話を単純化すると、SIerのうちの会社はユーザー企業の内製化を徹底的にサポートしようって決めたとします。そしたら、何をすべきなんですか? というのは、僕が思い浮かべられるのは、技術者派遣をするしかないような気がします。ほかになにかあるのかなというのはちょっとわからなくて。

山本:SIerで一般的な技術者派遣は単金分の仕事しかできないですから、よっぽど高い単金で売らないかぎりは会社としてはあんまり進んでやらないですよね。

それに対して応えようと思うと、「自社の社員以外の方を要は招集して、派遣する。自分たちは管理する立場に立つ」という方法しかないと思うんです。あるいは、自分たちがなくなくそれなり(安価)の単金で入って、そのかわりになにか(案件など)をもらう。そういう交渉の道具として使うというのが一般的なSIerとしてのスタンスだと思います。

寺田:ご質問いただいた方はアジャイル開発を中心にやられている方で、「自分たちはアジャイルのプロとしてお客さんを支援していきたい」という話だと思うんですけど。

山本:でも、もともとそういうことをするために人を育てていて、それを価値として顧客に対して売り込めるのであれば、それはお客さん喜びますよね。だから、それはすばらしいことだと思います。しかし、なかなかそういうことができるSIerって少ないと思います。

右にぶつかり左にぶつかりながら、羅針盤となる役割を担える人はなかなかいない

寺田:そうかもしれないですね。確かにね。佐藤さんのところは技術派遣も受け入れられていると思うんですけど、その人たちのスキルとか、要はアジャイルのスクラムマスターみたいな人材がいるかどうかですよね。もしかしたら佐藤さんの会社では、社員の方がスクラムマスターやられていますか?

佐藤:そうですね。スクラムマスターに相当する役割は社員でやっています。だから、もしSIerががんばるとすれば、スクラムマスターになれる人がそうそういないので、すごい価値になるんですよね。プログラムがバリバリできますとか、データベースがすごく強いという人はそれなりのお金で集めることはできるんですけどね。だけど、それを、いろいろなPoCをやりながら、右にぶつかり左にぶつかりながら、でも「どっちに次進めばいいんだ?」という羅針盤となる役割を担える人はなかなかいないです。

寺田:なるほど。そこは価値が高い?

佐藤:価値高いですね。経験と、あとそれから将来を見通す力が必要なので。

寺田:なるほど。ありがとうございます。一方、たぶんお客さんが何を求めるか、またちょっと話が脱線しちゃうんですけど、そういうDXだろうがなかろうが、アジャイル的な開発を求めるユーザー企業さんもいらっしゃれば、そうじゃないユーザー企業さんもいらっしゃると思います。

山本:そうじゃないほうが多いと思いますよ。

寺田:まぁ、そうなんですよね。メディアはアジャイルやDXの事例をたくさん出しています。そのせいで、流行っているような雰囲気を感じると思います。しかし、現実問題、まだまだそうじゃないお客さんとかが多いです。大手のユーザー企業さんであればあるほどその傾向が強いと思います。

山本:だけど、それって当たり前の話ですよね。大手の会社になればなるほど扱うシステムが多岐にわたりますし、大きくなります。そうすると、それを扱うためにはすごく多くの人が必要になるわけですよ。それが正比例的じゃなくて指数関数的に増えていきます。

そうしたときに、そもそも情報システムを扱う会社じゃないわけですから、自社でそんなの全部できるわけないじゃないですよね。当然アウトソースせざる得なくなっていきます。自社の職員だって、管理というほうに徹していかなきゃなくなっていくわけですよ。よって、負える責任というのも短くなってくるわけですから、すごく大きな会社であればあるほど、よっぽど覚悟を決めて人を押さえない限り、やっぱり難しいんじゃないですか。

寺田:そうですよね。そういう覚悟を決めて人を押さえてやられている会社さんも出てきていると思います。けれど、もちろんまだ少数ですよね。

山本:やっぱりDXというテーマはアジャイルや内製化じゃないと思っています。1つの手段であって、大事なのは結局お客さんがGAFAに対して強い立場で出られるような仕組みを作り上げることだと思います。そのためのごくごく一部の範囲がアジャイルに向いているのだと思います。

SIerの立場として考えるのであれば、そんな一部の領域のためにわざわざそれに特化した部隊を自社に置くことをするよりは、もっと多くのいろいろな手段を身につけて、どんな要望があろうがいろいろなものを探して見つけてこられるような状況を作るとか、そういう汎用的な人材を育てることのほうが、SIerとしては僕は大事だと思います。

寺田:そうですね。ちょっと質問じゃないですけど、ご意見いただいたので紹介をしたいと思います。

「DX内製化の是非について、つまるところ要件定義できたものしかSIerは作ってくれません。なので内製化になっているんだと思います」。「顧客側にも課題があり、要件定義をしている間に、クラウドで試行錯誤しながら実現できるからじゃないか」。まぁ、そういうことができるから内製化というほうに振れているんじゃないかということですよね。

「従来のシステム構築でのソフトウェア開発主体からマネージドサービスやシステムのパターンメイド化ができている現状からすると、SIerにそういうことを求めなくなってきているのだと思います」というようなご意見もいただいています。

山本:悲しい話ですね(笑)。