後払いサービスのパラメータ

山本真人氏(以下、山本):前回は歴史のような感じで、昔から今に向かって順々に時系列で話をしたんですけど、今回はトピックをいろいろ用意していて、引っかかりそうなものを順々に話していければと思います。最近のニュースでやっているものや、トレンドワードぽいのがいろいろ出ていますね。

曾川景介氏(以下、曾川):ちょうど後払いの話をしたから、後払いから入ればいいのか。

山本:そうしますか。

曾川:Affirmと、Klarnaについて話していたけど、日本でもPaidyやNP後払いはやっているし、GMO後払いとかもあって、あまりこれまで注目されてこなかったけれど、僕らもやっていたり。また再び注目されている気がするんですけど。

ここはビジネスの話でもあるから、マークさんからちょっと話を聞きたいんですけど。今僕らはそういう既存の属性に頼らないやり方でできるようになってきて、おもしろいなと思っていて。例えば、いわゆる純粋な決済プレイヤーが、後払いをしていくときに、何ができるようになっていくのか考えると、ぶっちゃけ過去に支払ったことがあるかどうかぐらいのところしか(情報は)取れないかと思うんですけど、どう思います?

山本:そうですね。この辺りは普通に考えると、後払いサービスの側面しか見えていなくて、その裏側に、どういうテクノロジーがあるのかはなかなか見えないし、語られることが少ないんですけど。そっちのほうが大事かなと思うところは僕はけっこう強くて、僕はビジネス側をよく見ます。

でも実態はけっこうそうかなと思っていて、すごい極端な話、2万円までは誰でもどんな人でも、申し込んだらすぐに後払い使えちゃうよみたいな、そういうやり方も極端な話できるじゃないですか。

できるんだけど、それで貸し倒れや払える見込みのない人が使えたりすると問題になるわけで。たぶんこの辺りは、“必要”のパラメータと、“どれぐらいだとそのあとに普通に払えるのか”を、どうマッチングさせてちゃんとやれるかがポイントだと思うんです。

今までの与信は、それをけっこう低く抑えているか、ものすごい高くして、倒れる人がいっぱいいるけど、利子高めにして取るかのような。二者択一なところが少しあったと思うんですけど、どんな情報を使えば、それ以外の部分、その間が取れるようになるのかは、けっこうポイントになるかなと思います。

SezzleとAffirmのビジネスモデル

曾川:ちょうど今、僕らが最近始めたようなサービスの近い、Sezzle(米国の無利子分割支払いプラットフォーム)について、「分割に近いことをやっているところの話を聞きたい」と言っている人がいますね。でもあそこは、利子を取ってない気がするので、どういうビジネスモデルになっているかは分析していないけど、これもたぶん上場時の開示資料をみるとわかりそうですね。

僕らは、最近Affirm(後払いのFintech)が上場したので、その際の上場時の資料を見たりしているんですが、Sezzleも1回見てみてもいい感じですね。バイナウ・ペイレイター(BNPL:ツケ払い)の、まさに1つのモデルを作った人たちだと思います。マークさん知ってます? あまり極めてない?

山本:これもInterest-free(利息なし)ですよね、確か。

曾川:たぶんそうだったと思います。日本には割販(割賦販売法)と言われている若干法律的なことがあって、一括で払うものと長く払うもので、レギュレーションが違うんですけど、この辺は米国も同じなのかな? あまり崩れてない。そういう違いはあまりなさそうな気がするけど。

山本:そうですね。僕、ピンポイントでSezzleの裏側は調べきっていませんが、例えばAffirmでいうと、いわゆる普通に払っている限りの利子は、お客さんからは取らない。ただ、ある意味、後払いと分割払いができることによって、より売り上げが上がるから、加盟店さんからはそれを取るかたちに、分けてやっているケースは多いですね。

あとプラスして、「利子、年利を普通に払っている限りは取らないよ」と言っている反面、「延滞したり、支払いを伸ばすようなことをやると、その分は取りますよ」ということをやっていたりするので、そういう組み合わせはある気はします。加盟店側も含め、そういう手数料体系などを考えるのは、けっこういいかなとは思います。

Financially Empowering The Next Generation

曾川:まさにここのSezzleの中に、さっき言ったような「Financially Empowering The Next Generation」と言って、今はお金を持っていないんだけど、次の世代に期待してというか。今信用ない人たちが、いろいろなものをオンラインで買ったり売ったり。メルカリもそうだし、さまざまなことをしていくと、信用も溜まってくるので、そういう人たちの信用創造をミッションにやっている会社ぽいですね。「Our Value」に書いてある。

オンラインのコマースだと、信用がない人はなかなか買い物ができなかったり、クレカを持っていないと買い物ができなかったりしたんだけど、よりECが広がっていく中で、それまでこういう領域とは無縁だった人が、オンラインの商取引に関わるためには、クレジットカードや後払いの、こういったサービスが増える必要があるんでしょうね。

山本:ちょっと見たらあれですね。4回分割払いに固定してるんですね。4回に分けて「Split your entire order into 4 interest-free payments over 6 weeks」。だから、買った瞬間に25パーセント払う。2週間後に25パーセント払う。4週間後にまた25パーセント払う。6週間後に25パーセント払う、それで全部払い終わるようにしてますね。

曾川:なるほどね。

山本:だからある意味、分割の仕方のバリエーションを増やしたり、長くしたりするほど、貸し倒れたり、取りパグれたり。頭キャッシュフロー的な観点でややこしくなる部分を、もう全部紋切り型で25パーセントを2週間ずつ4回払い、と固定することで、手数料やすくしている感じですね。

曾川:なるほど。日本は給料は月に1回払われるのが普通ですけど、アメリカはペイロールが2週間に1回や、1週間に1回だったりするので、日本のペイロールが変わってくると、こういう払い方の提案も変わるかもしれないですね。

ADVASAを活用した給与前払い

今「資金移動でペイロールしよう」というような話が動いているんですが、それがもし来たりすると、1週間ごとに給料をもらっている人、毎日給料をもらっている人、給料を前払いするとかも、このあと話そうと思ってたけど、そういうのとのセットになるんだろうなという気がします。

山本:そうですね。これはちょっと調べてみようかな。聞いたことありましたね。

曾川:今、給料の後払い、先払いの話をしたので、それをしますか。ちょうどau PAYがそういう話をしてましたよね。何でしたっけ? 始めるんでしたっけ? 始めたのかな? 始めるといっても、給料を資金移動でやってもいいかは判断されていないので、どう始まるんでしょうね。

山本:これは一応、今でもできる方法はあるんですよね。だから、たぶんそれなのかなと思っていて。au PAY自体が作ったんじゃなくて、「ADVASAという会社と協力してやっている」と言っていて。サイトを見たほうがわかりやすいかな。

曾川:ADVASA、なんか出てきましたね。福利厚生ペイメントシステムと書いていますね。ちなみにLINE Payにいた時に、資金移動で給料を受け取っちゃダメ。ダメというか普通に給料を払えないので福利厚生として支給されているものとかなら、資金移動とかにでも払ってもいいということで、やっていたんですけど、そのアイデアにすごい似ている気がしますね。

山本:これが、au PAYと連携しているADVASAという会社のWebサイトのトップページをちょっとスクロールすると出てくるので、そこを見てもらうとわかるんですけど。どう実現しているかというと、最初に、左のスマホの上に人が乗っているのがお客さまで、真ん中が「提携先ブランド」と言っています。これはADVASAから見た提携先なので、今回でいうとau PAYが真ん中にいますね。

右側が「導入企業」と書いてあるんですけど、これはこの左の人たちが働いている会社が導入企業として書いてあって。最初に何をやっているかというと、真ん中のところに事前データ登録があって、これをやっていますと。

ちなみに僕はニュースを見てこのサイトを見ただけの知識なので、読み解き方を間違っていたら申し訳ないんですけど(笑)。

想像で言ってますけど、まず導入企業から従業員情報と従業員の給与情報のようなものをまずau PAY側に、ADVASAのデータベースだと思いますけど、入れなきゃいけないのがあります。そうすると「従業員の〇〇さんがどれぐらい働くと、どれだけの給料がもらえるか」が一応データとして溜まっている状態になります。

その上で、働いた人が「ちょっと前借りしたいんですけど」みたいなことを「振り込みチャージ申請」で送ってくると、勤怠データ自体も導入企業からau PAY側に連携がされているので、そのタイミングで「その人はすでに今月2週間分働いていますね」とか「この日は有給でしたね」とか、そういうデータがもう来ているので、すでに働いた分までに関してなら送金してもよい、という判断をここでしている。

処理上でOKとなると、導入企業側に送金指示が出て、導入企業がその人のau PAYのアカウントに振り込みチャージを実施すると。それで使えるようになる。実際の給料が来るタイミングでは、チャージ申請があった金額を差し引いた部分を給料として振り込む感じになっていますね。

曾川:なるほど。給料が先にもらえるようになっていると。今の日本は基本的に月に1回しかお給料が来ないので、時給で働こうが、日払いでもらっているほうが逆に珍しいので、その1回くらいしかないんだろうけど。いつでももらえるようになるのはうれしいです。

給与前払いと労働基準法の24条

テクニック的に可能にしている理由、できている理由については、給料を振り込むのは、基本銀行口座にしてくださいとか、厚生労働省的なところが決めてるルールに従わないといけない。だから法律を変えなきゃいけないね、というのがあるんだけど、前払いだからある種の債権、債務じゃないけど、ある種の立替債権で入金しているから、給与そのものを受け取っているわけじゃないので、レギュレーションどおりいけてるんですかね。わからないですけど。

山本:これは2つ建て付けているんじゃないかなとなんとなく思っていて。福利厚生と言っているんですよね、システム上で言うと。外資だと福利厚生に「家賃を会社が払います」ってよくあるじゃないですか。あれは、「家賃分を給料から天引きして会社が払ってくれます」と。「引いた分を給料として振り込みますよ」というのがあって、それをやると、本来であれば税金を取られた上で払うところが、福利厚生プログラムだから、節税になるんですよね。

曾川:控除後に払わなきゃですよね。

山本:はい。家賃を払わないといけないのが、税金引かれる前にやれるので。そういうのがあるので、それとちょっと近いのかもしれないけど、たぶんそれだとダメで、これってやっぱりあくまで給与、報酬じゃないですか。

曾川:そうですね。

山本:というのもあるから、たぶんその建て付けじゃダメで、どこかのでちょっと読んだやつで言うと、ちょっともう1回画面シェアして、労働基準法の24条。

曾川:すごい(笑)。

山本:これちょっと調べたんですよ(笑)。

曾川:ここでガッツリ来た(笑)。

山本:仕込みじゃないですけどね、たまたまなんですけど(笑)。なんで資金移動口座に報酬を振り込んじゃいけないかの法根拠がこの労働基準法の24条で、ここに「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を、払わないといけない」と書いてあるんです。だから本当は現金なんですよね。

だから「通貨で」と言っているから現金で、「直接」だから本当は手渡しで払わないといけない。労働基準法の24条だと銀行に振り込むのもダメとなっているんですね。ただ、厚生労働省令で定めるものについては、法令で定めがある場合はいいよと言っていて、省令でOKになので、銀行振込はOKですと。

だけど、まだ資金移動口座に入れることはダメだから、省令なり何なりの改正がいる話だったと一応理解をしていますが、通貨以外のもので支払う場合はここかな。「法令に別段の定めがある」で、今の場合はないけど、「または当該事業……」。

曾川:「事業上の労働者の過半数」。

山本:「労働組合の協定でそういうのOKです」と書いたら、一応やれるんですよ。

曾川:なるほど。

山本:だからやるとしたら、さっき見たようにシステム上で事業者自体が対応しなきゃいけないので、それと同時に、労働協定のようなものにも「これを入れましょう」とやって入れると。その上で、働いた人が自分の求めに基づいてやっているだけなので、それだとOKという話だと思います。

要は、もともと本当は現金でもらいたいのに、会社側の都合で勝手に「今日から全部メルペイで支払うことにします」というと、働く側の不利益になっちゃう可能性があるから、それを無理矢理勝手にやっちゃいけないよ、というので、この法律があるので。いわゆる労働組合側がやっているので、組合側がいいよと定めて、かつ本人がやりたいと言っているときだけはOKの建て付けになっているから、たぶんそれを使っているんだと思います。

曾川:なるほど。そうすると今やるのは簡単ではないので、法律が変わったり、資金移動事業者自体もペイロールをやる上で、ちゃんとしている必要がありそう。資金移動事業者だけじゃなくて、恐らくある種の貸金的要素も含まれているので、ちゃんとやらないと貸金と資金移動の法律は違う人たちが見ているんだけど、でも同じような事業者になってくるので、境目が曖昧になってきますよね。

前払いと資金移動の両方をやっている会社がいるように、今度は資金移動と、そういう貸金や、後払いと割販も、その複数の両方対応を同時にするようなものになってくるのではと感じますね。

山本:そうですね。曾川さんが言ってくれたとおりで、バリエーションがきっとあって、たぶん今回のこのパターンは貸金にしてないと思います。

曾川:そうですよね。してたらマズそうですよね。

山本:あくまで契約は企業としていて働いた分の給与を、払うべきものをただ払っているだけにしているんじゃないかなと思います。

曾川:あくまでも、その人の与信枠を使っているわけじゃないということですよね。

山本:じゃない。

曾川:労働データに基づいて貸付期間をめちゃくちゃ短くする。さっきのSezzleが週ごとに払うとか。週次で給料をもらえる世界の話をしたけど、そういう世界を作ろうと思ったときに、一気に日払いのような概念を導入できるよということなんでしょうね。

山本:そうですね。だから給料の前払いのようなやつで言うと、Revolut(英国の金融テクノロジー企業)がやっているEarly Salaryのような。Monzo(英国発のオンライン銀行)もかな。

ああいうのとか、Uber Eatsのドライバーに対してUber Moneyがなくなったからどうなっているかわからないんですけど。ああいうのがやっていたやつは、そもそも働いた分をいかに早く、いかに何回でも働いた瞬間から「ライド」ごとにお金がもらえるとか、そういう短くするタイプのやつで、ここから先、もうちょっと出てくるのは、働いてもいないのに前払いにしていくみたいな。

ちょっと貸金にはなってくるんだけど、でもある意味そういうのも出てくるようになってくると思いますけどね。

信頼とその報酬の垣根がわからなくなってくる

曾川:要するに、リワード型というかインセンティブ先行型というか。これまではデータもないし、基本的には働いた分だけもらうんだけど、そうではなく、その人が将来働く分も含め、ある程度お金がアドバンスするというか、先に来るような状態になることですよね。これはおもしろいですよね。

せっかくいろいろなものが情報化されてきていますので、デジタル化されているからこそできることもあるので、勤怠データもどんどんインターネットというか、インターネットである必要はないのかもしれないけど、ちゃんとオンライン化されることの意義って、こういうところにあるような気がします。

山本:ここら辺は本当に、信頼とその報酬の垣根がどんどんわからなくなってくるのかな、という気はします。

曾川:そうですね。

(次回につづく)