モノとしての車の価値を引き出すソフトウェア

最初は車の価値を引き出すためのソフトウェア部分です。これはモノとしての車の価値を引き出す部分で、この右下のところですが、コックピット周辺に関するUI/UX、音声認識エージェントとか、あるいはナビ、マルチメディアなどのOSみたいなところに取り組んでいます。

もうちょっと深掘りして説明いたします。まずUI、ユーザーインターフェースですね。UX、ユーザーエクスペリエンスといったものが、マルチメディアとかエージェントなどに取り組んでいます。

現在は主に運転手が車には必ずいるので、そういった運転手がより便利で安心して快適になるようなユーザーエクスペリエンスを向上する意味でコックピット周辺のUIの向上は非常に重要になってきていて、そこに取り組んできています。

コックピット周辺のUI/UXとは?

じゃあコックピット周辺のUI/UXって何? と言うと、当然ナビとかオーディオとかメーターっていう車の運転手から見えるところの表示、操作といったようなものになります。車はよそ見すると危ないんですよね。それはドライバーディストラクション、散漫運転と言いますが、そういったものにならないようにすごく細かい工夫がされています。

ただ、逆にそれが故に車を移動している間はテレビを見られないよねっていう不平不満も当然そこにはあります。でもみなさんの安全が第一ですから。そこはそういうシステムだと思って理解していただきながら、将来はもうちょっと自動運転の技術とかが入ってくるともっと違うことのユーザーエクスペリエンスができるんじゃないかと思います。

もちろん自動運転中は目を離してもいいような、動画コンテンツが見られるような環境ができるかもしれません。そういったものに向けて技術開発を進めています。

ここで言うマルチメディア・メーター周辺、車の運転手が見えているところのUI/UXについての開発について、まず説明いたします。コックピット周辺のUI/UXの開発は主に設計ですね。デザインの設計の部分と、それをソフトウェアで実装するところっていう2種類あると思っています。

ここでアジャイル開発をしています。よく聞かれるのですが、アジャイル開発はソフトウェアの実装の部分で、少しずつ少しずつ様子を見ながらソフトウェアを肉付けしていくのがアジャイル開発のようなものです。

そこにさらに使い方のデザインみたいなところも繰り返し評価をしながらよりよくしていって、最終的な商品を作っていく。ないしは、できたあともお客様の使われ方を見ながらよりよいものに更新していくような取り組みをしています。

ペルソナ、ユーザージャーニーマップを使って、ユーザーの使用シーンを考える

ここでは例えばペルソナですね。まずどういった人をターゲットのお客様として考えて、そういった人がユーザージャーニーマップと言いますが、例えば子どもを迎えに行くシーンとか、買い物に行くシーンとか、ドライブに行って楽しんで帰ってくるシーンとかを思い浮かべるわけです。

いろいろなシーンを思い浮かべながら何をしたくなるだろうか、何がしたくないだろうかみたいなものを洗い出して、それに合うようなUI/UXのコンセプトをまず作っていきます。

それを実際に実装してみて、ユーザーのみなさん、被験者のみなさんとかにいろいろ試していただいてよりよいものにしていきます。最終的に本当のいいものができあがるような、こういったプロセスを取っています。これはITの世界では当たり前かもしれませんが、車の世界、モノの世界でもそういったことが今どんどん起きています。

現在はコックピット周辺のことを言いましたが、将来はさっき言ったように自動運転とかいろいろなものが出てきて、運転の仕方も変わってくるかもしれません。車は単なる移動手段ではなくなって、Mobility as a Serviceみたいになってくると思います。

そうすると生活の一部としての車の使われ方っていう視点までもっと引いて、車が存在する社会といったものを見てUXを、ユーザーエクスペリエンスをよりよくしていく必要があります。なので運転する機械ものから、生活の中に現れているハードウェアというふうに車を捉える必要が出てくるということです。

エージェントYUIで、人の望んでいることをうまく聞き出す

我々はそういった中で新しいコンセプトとして、エージェントYUIという車が擬人化されてその中でいろいろと我々のやりたいこととか望んでいることをうまく聞き出して引き出してくれるような、そういったインタラクティブなUIのシステムみたいなものでUX向上を検討しています。

例えば発話理解で、「景色がいい。道がいいな」とつぶやくとします。いったいその人の「景色がいい」とはどういうことなんだろう? とか。過去の行動履歴とか、今車に乗っている人は誰だっけ? とか。音の抑揚で感情とか思考とかそういったものがいいかな? 悪いかな? みたいなところを見ながら、周囲の車、周りの状況ですね。

今どこにいるんだろう? どっちに向かっているんだろう? 今何時だろう? スケジュールは後詰まっているかな? みたいな。そういったものも含めて総合的に判断します。コンシェルジュみたいなものですね。

そして人、あるいは状況を周囲の環境をよく見ながら最適なアクションを取ります。アクションは、1つは会話をする。会話をしてもっと情報を引き出したいこともありますし。

「暑い」とか言ったら当然すぐに涼しくしなきゃいけない、冷たくしなきゃいけないとかですね。そういうのはすぐわかりますよね。そういった実際のモノを動かすようなところにフィードバックをかけていく。というような、総合的なUXを今開発しています。

UI/UXを作っていくために必要な要素は対話エンジン、データ、基盤

ソフトウェアの話をしているわりに規格的なことで商品の説明のように見えてしまいますが、もうちょっと深入りして説明します。UI/UXを作っていくためには、大きくは対話エンジンと、対話・分析のために必要になってくるデータ、それとそれらを総合的に機能させる、対話をしていく基盤の3つが重要になってきます。

データは何かと言うと、言葉とか言語とか言葉なんですけど……。ただ、言葉といってもいっぱいあるんですよね。どういうふうに言っているコンテキストなのか、意味なのかみたいな。そういった言葉のデータベースと、今そこに乗っている人の過去の履歴とか背景とか、過去のアクションに対してどう反応したかみたいなそういった履歴も含めてパーソナリティをちゃんとそこで管理していきます。

かつ、その状態をきちっとログを取りながら、今アクションしたものは正しかったかな? みたいなものも含めてデータを取っていきます。それを使って下にあるような、発話分析、意図解析、応答戦略、応答生成とありますが、そういった文章とか言葉とかいったものをしっかりと分析していきます。

このへんはいろいろなソフトウェアの技術が世の中で進歩していますので、そういった最適なものを最適に組み合わせながら我々のもっているデータや、周囲環境のセンサーとかと合わせて何ができるだろうというようなことを分析していきます。

これが対話の基盤になっていきまして、必要があれば対話をしてもっとよりよいものにするためにいろいろな情報を引き出していったり、感情を取るために引き出していくようなことがあります。

よく私なんかが笑い話で言うんですが、「ああ、今日はもう疲れちゃったな~。上司に怒られちゃったし、大変な目に遭ったし」と言っているときに、励ましてほしいですよね?   

司会者:そうですね。

村田:「本当死んじゃいたいよ」って言ったときに、車が山の上まで行って崖っぷちから落っこちて死んじゃいました。それはないわけですよ。

司会者:あはは(笑)。

村田:それはやってほしいことじゃない。そこの感情はやっぱり誰かに慰めてほしい、安心したい、そういう感情があるわけですよね。そういうふうに人の感情というのは言葉のコーパス(辞書的な意味)だけではわからないとこがありますので、言葉の抑揚とかそういうのも含めて分析していくようなことが重要になっています。

今こういったものをトヨタコネクティッドのシステムの中にどんどん足しながらシステムを広げていっているところです。

車載器のミドルウェア、OSも開発

次は、車載器はハードウェアですが、SoCという大きな半導体が載っているハードウェアです。けっこうバソコン並みの処理能力があるようなものが最近は入ってきています。

そこのソフトウェアの量もすごく多いです。ここに書いていないので言ってしまうと、怒られるかもしれないんですけど、3,000万行クラスのソフトウェアになっています。これはパソコンのWindowsにも匹敵するくらいのソフトウェアの量になっています。

こういったものもなかなか、もはや自動車会社ないしは自動車部品会社1社で作ることっていうのはできないようになっています。かつ、もはや差別化するようなところではなくなって、アプリケーションとかデータ分析といったところで差別化するべきなのでこういったプラットフォームとかミドルウェアとかOSといったものは非競争領域だろうということで、みんなで作る方向になっています。

当然こういうのが基盤になってクラウドのセンター連携とか、スマートフォン連携などをやっています。スマートフォンやデータセンターで動いているソフトウェアが、弊社の場合で言うと「クラウンのための車載です」とか、「カローラのための車載です」っていうと合わせながら、クラウンのためのデータセンターです、カローラのためのデータセンターですという感じでバラバラに作っていたら(非効率で)たまらないですよね。データの共通化しないといけないです。

こういったところは、共通プラットフォームとして車載側もしっかり共通化していくことを目指しています。

車載のOS、ミドルウェアはOSSとして協業して開発

これ、先ほど言いましたように、なかなか1社で作るのは無理なんですよ。ですので業界というか、ソフトウェア・ITの世界ではLinuxと言われるオープンソースのソフトウェアがありますので、そういったものをベースにAutomotive Grade Linuxというワークグループを作りました。

今Linuxの産業応用を作っているLinux Foundationの傘下で活動しています。これはすでにいろいろな自動車OEMの企業さん、ここに書いてあるスズキさん、マツダさん、ホンダさん、スバルさんなど、ほか海外も含めて自動車メーカーだけでも11社入っています。

それ以外の自動車部品関連とか、ソフトウェア会社含めて、今140社超で構成されている団体になっています。みんなでソフトウェアを作って、みんなでチェックしてというようなことを進めています。

こういったソフトウェアのプラットフォームをオープンに共同で開発して共同で利用していくという、これがオープンソースソフトウェアの活動です。こういったところを今トヨタ自動車としてもリーダーシップを取って進めているところです。

(次回につづく)