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草創期からPMを務める役員が語る、LINEにおけるプロダクトマネージャーとは(全2記事)

2020.12.16

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「これは誰が決めるんですか」と聞いたら終わり LINE草創期から支え続けた役員が語るPMに求められる資質

提供:LINE株式会社

2020年11月25〜27日の3日間、LINE株式会社が主催するエンジニア向け技術カンファレンス「LINE DEVELOPER DAY 2020」がオンラインで開催されました。そこで横道稔氏モデレートのもと、LINEの役員である稲垣あゆみ氏と島村武志氏が、「草創期からPMを務める役員が語る、LINEにおけるプロダクトマネージャーとは」というテーマで、LINEにおけるPMの役割について対談しました。前半はPMに求められる資質についてです。

草創期からLINEを支え続けるPMたち

横道稔氏(以下、横道):みなさん、こんにちは。このセッションは「草創期からPMを務める役員が語る、LINEにおけるプロダクトマネージャーとは」というタイトルでパネルディスカッションをさせていただきます。

今回モデレーターを務めさせていただく横道と申します。ふだんはプロジェクトマネージャーやアジャイルコーチとして、プロジェクトやチームをサポートしています。パネリストのお二人の自己紹介に入りたいと思います。

まずは稲垣あゆみさん、お願いします。

稲垣あゆみ氏(以下、稲垣):稲垣あゆみです。私はLINEの企画センターのセンター長をしています。ふだんはLINEのプラットフォームの企画や、ファイナンシャルのサービスの企画の統括などをしています。よろしくお願いします。

横道:では続きまして、島村武志さんお願いします。

島村武志氏(以下、島村):私は今、LINEのポータルカンパニーのCEOという役割をやっていまして、LINE NEWSなどのさまざまなメディアサービス、コンテンツサービスを統括する役割を担っています。もともと入社は2004年で、LINEができる前からずっと働いていますので、生き字引と呼ばれています。よろしくお願いします。

横道:よろしくお願いします。ディスカッションに入る前に、前段の話を私からさせていただければと思います。LINEの中でプロダクトマネージャーというロールがあり、企画職と呼ばれたりすることも多いのですが、今の時代のそのロールには何が求められているのかを改めて定義することを社内で進めてきました。

ここにいる稲垣さんと島村さんも入りながら、社内の役員やシニアレベルのPMを集めてディスカッションを進めていきました。その中でのブレインストーミングなどを経て、この5つが大事なのではないかという資質を洗い出しました。

順番にお話をすると、1つ目は当たり前と言えば当たり前ですが、プロダクトマネジメントを進めていくうえでの業務スキルですね。ハードスキルが1つ必要になってきます。

2つ目が結果にコミットする力で、プロダクトをしっかり届けるところも含めてコミットするところが大事なのではないかという話が出ました。

3つ目が多様な中でのアレンジ力という言葉が選ばれています。「アレンジ力」という言葉ですが、なにか伝書鳩のように調整をするよりは、議論の中で出てきたのはオーケストラの指揮者のように、そこにいる人たちの成果を最大化するための振る舞いをするというイメージをもってこの言葉を選んでいます。

4つ目が視点の高さですね。視点が高い、視野が広いところが選ばれています。5つ目が探究力という言葉で、これらの5つを定義しています。

PMに必要な資質とは?

横道:この後、これらを深掘っていこうかと思っていますが、その前にプロダクトマネジメントと一言で言いますが、いろいろなスコープで語られるかなと思っています。まれにプロダクトマネジメントと言いながら、ソリューションを考えてそれをシップするだけという領域を、プロダクトマネジメントと表現される場合があります。

そうではなくて、ビジョンを作って、私たちはなぜこれをやるのか? どこへ行くのか? というところであったり、それを成し遂げるためにどういう問題を解決すべきか? それをユーザーやマーケットからどうやって学ぶのか? という部分であったり。

そして初めてソリューションが何であるか? それをしっかりと市場に出して伸ばしていく領域があると思っています。

もちろん、どの領域においてもすべての資質が大切だと思っているんですが、先ほどお伝えした5つのスキルをマッピングしてみると、なだらかに必要になってくる部分が異なってくるかなと思っています。

ビジョンを作るところでは、より高い視点や、探求する力が必要になります。逆にデリバリーするところではコミットや業務スキルが非常に大切になってくると思っています。

前段はこれくらいにして、さっそくここからこの5つのスキルというのをちょっと深掘っていきたいなと思います。では(稲垣)あゆみさん、この5つはどれも重要だと思うんですが、取り立てて重要だと思っているポイントはありますか?

稲垣:私は探求力が一番大事だというか、始まりかなと個人的には感じています。

横道:それはなぜそう思われますか?

稲垣:そうですね。探求力も、これまでの議論の中で2つの要素がでていて。1つは社会や物事に対して、どんどん新しいものを学んでいくことだったり、「なぜなのか」を深掘っていくパワーについて議論していました。

もう1つは自分自身にとって、何がモチベーションになるのか、自分は何を求めて生きているのかみたいな話です。中に向く力と外に向く力、両方の探求力がPMをやっていくうえでのパワーなのかなと感じているからです。

横道:なるほど。ちなみにこれまで、あゆみさん自身はこの2つの外向きと内向きという探求力は意識されて、ご自身のPMのスキルとして重要だと思ってこられたんですかね?

稲垣:そうですね。自分を理解すること、自分を理解して、なぜ自分はこれをしたいのか。どうしてこれが必要だと思うのか。ストーリーを話す力だったり、ビジョンを作ったり、なぜこれが課題と感じるかを話すことにも、たぶんつながっていくと思っています。そこは探求していくのは意識していたのかなと思いますね。

あとは日頃生きている中で、社会の中で「これはこうなのかもしれない」という疑問だったり、興味をもつ力はすごく大事なんじゃないかなと思います。

探究心は、後天的に獲得できるものか?

横道:私の印象だと、あゆみさんはいつもプロダクト開発もそうですし、組織のことに向き合うにしても、どんどん新しいことを獲得して、その中から次の自分の知らない領域を常に深めていらっしゃるイメージがすごく強いです。これはもともとおもちの資質なんですか?

稲垣:そうですね。もともと……生まれたときはわかんないからあれですけど(笑)。自分が意識している中ではもともとあるなぁと思いますね。

好奇心。これが気になる、興味がある。今は組織づくりや、会社の中でのコミュニケーションもすごく関心があるので。

何をしたらいいとか、どうしてやりたいのか。何をしたら私にとってもみんなにとってもいいのか。それを学んでいくと、知りたいことはどんどん増えてくるし、やらなきゃいけないことはどんどん増えていくので、(資質が)あるなと思います。

島村:その探究心は後天的に身についたと思います? 先天的だと思います?

稲垣:難しい問いがきましたね(笑)。

島村:その探究心は、後天的に技術的に獲得できるものなのだろうか? みたいなテーマで考えたりすることもあるんですよ。

稲垣:私は、後天的であってほしいと願っていますね。探求してみて、それが形になるという経験がそのサイクルを確信していくというか、増幅させる装置みたいな感覚がちょっとあるので。例えば、それだと後天的という回答かもしれないんですけど、「こうかもしれない」と思って少しやってみる。

以前話したときに、小学校のころの経験の話をしましたが、「これは作ったらおもしろい。こういうふうにしたらいいんじゃないか」と、自分の中で仮説を立てて、それを試しに自分でなんとか自力でやってみる。それが、ちょっとみんなが喜んでくれたことだったり、自分がすごく楽しかったという経験が、「またやってみよう」というサイクルが強くなっていく。自分にはその探究心がある確信に変わっていくプロセスなんじゃないかと感じます。

島村:なるほど。でも最初の一歩はやってみたんですよね。

稲垣:一歩はそう! それが先天的なのかな?(笑)。

島村:その一歩を踏み出せる人もいれば、その一歩がまだ踏み出せない人も多いテーマだとは思うんですけどね。

「当事者意識」という言葉が孕むもの

横道:PMは、ほっといても仕事がどんどん足元に出てきます。そんなときでも、探求していくところは本来は本質的かもしれないですけど、重要度は高いけど緊急度は低いので、ついつい後回しにしちゃうと思います。これはなにか対策方法があるんですかね? どれだけ忙しくても、そこに時間や力を張っていくみたいな。

稲垣:コミットの話になっていくということですよね? 

横道:そうですね。あゆみさん、コミットのところもベースになるので重要だと議論でお話をされていたような気がしますが。

稲垣:この議論のときにおもしろかったのが、島村さんが「当事者意識という言葉は嫌いだ」と話していたじゃないですか。覚えています?(笑)。

島村:ちょっと覚えていない(笑)。

稲垣:「当事者意識というのはそもそも当事者ではないということだから、おかしい言葉だ」みたいな話をしていて。

島村:禅問答みたい(笑)。

稲垣:それは「なるほど」と思いました。でも、それに逆に違和感を感じるくらいに自分ごとなんだから当たり前じゃんって思える力や確信めいた状態にあることが大切。それもさきほどの経験のつながりに近いのかもしれないですけど。

私も小さい頃から自分が当事者という立場にいた経験がすごくあると感じましたね。経験したことがどんどん積み重なって、そういう状態にあることをちゃんと理解する感覚があると思います。

「視点の高さ」がPMに必要な理由

横道:あゆみさんのおっしゃられたことも含めて、島村さんは探求力のところではどう思いますか?

島村:私はこの中で一番こだわりがあるとしたら、「視点の高さ」なんですけど。もちろん探求力もすごく重要なんですけど、けっこう解釈の違いの部分はあります。私にとって「なぜ?」と問い続けることは視点の高さに近いんですよ。

なぜ人が歩いているか。なぜ渋谷はこんなに人が多いのか。みたいなことを問い続けることですよね。

稲垣:哲学、哲学(笑)。

島村:それが探求のテーマになるんだけど、それをすることは俯瞰的に物事を見ている状態なんですよね。だから、PMという仕事って、自分が1人でなにかを達成するよりは、人や世の中を巻き込みやっていくとしたら、それぞれがどう動いているかをある種俯瞰的に予測できないといけないんですよね。

例えば、「あの人はこういう気持ちでこうなっているから、たぶん、こういうふうにやってあげると、こういうふうに動いてくれるんじゃないか」と予測する。もちろん、探究心はベースにあって、日々試してみたり、なにかやってみたら「あ~、思ったようにいかなかった」と思うこともあると思います。それはそれで、答え合わせとしては必ずするんですけど。

それがイメージの探究だけをしていると、それこそ地質学者になったり、どこまででもそこに走っていくことができる。その力と少し違うものがPMには必要かなと思っています。

探求したものをどう認識するか。それをどう捉えるか。探求することをやめるためにも、視点の高さが必要です。この探求とこの探求があったら、どっちを選ぶ探求なのか。こうしたことも、その視点によって結局決まることになるので。最終的な行動を決めているのは、視点の高さだと思っていたんですよね。

稲垣:その視点の高さはどう上がっていくんでしょうか?

島村:私は「なぜ?」と問うしかないと思っています。これも先天、後天の話なんですけど、私は完全に先天的っぽいんですよね。

みんながワーって遊んでるときに、そのままワーっと入っていくのが、少し苦手な子どもだったですよね。「なぜ、みんなは先生が誘ったら、ワーって飛び込んでいくんだろう」みたいな(笑)。観察的に見ている。「なぜ?」と問う習慣があったんですよね。

私とすごく違うなと思うんですが、あゆみさんのイメージは行動する人だと思っています。

稲垣:私はそうですね。

島村:まず走る、まず突っ込む感じのタイプからすると、少し引いてみて、自分がやるべきなのか、やらないほうがいいのかを分析しちゃうんですよね。自分の中で、これは行くべきという信念が生まれると、もう誰にも止められない勢いで突っ走っていっちゃうんだけど。

そうでないものには、ほとんど興味を示さないみたいなところも少しあるんですよね。そこが違いとしてはあるかなと思います。でも、良い悪いじゃなくて、タイプの違いがあるかなと思っていましたけどね。

横道:事前に、お2人はたぶん補完的な関係なんじゃないかとおっしゃっていましたよね。

島村:そうですね。

稲垣:今お話を聞いていて、たしかにそうだと思いました。「とりあえずやってみようか」はたしかに強いのかもしれないですね。今年頭から定期的にやりはじめた全役員を集めたワークショップなども「なぜ私がやらなければならないか?」と言うよりは、「とりあえずやろう」みたいな(笑)。

まずやることに意義があると思うんですよね。「走ろう」みたいな感覚で始めることは、もちろんあると思いましたね。

PMは正解をはっきり決められない仕事

島村:私は最初、「え、なんでそれやらなきゃいけないの?」というのが少し強いんですよ。

稲垣:知っています(笑)。

島村:「面倒くさいじゃん」みたいな(笑)。「意味あるの?」という問いからはスタートしているんですよ。でも、それはやらないという意味じゃなくて、「なぜ?」と考えているからなんですよね。意味がわからない。

そこが気づくヒントになることもあったり、「そういう問題があるのか」と思えば、それは急に変わることなんですけど。最初の時点でまず理解しようとすることは、すごくありますね。

そうすることで、「ここに起きているメカニズムはこうなんじゃないか?」と予測しながら先に潰しに行くような感じにはいつもなりますね。

稲垣:島村さんのイメージは、データでそれを実証・分析することとはまた違うじゃないですか。状況を確認するというか、自分なりに理解をまずしてから、中身を分析していくんですかね?

島村:そうですね。データはデータなんですよ。それが数字的なデータだけではないだけで。例えば、PMという仕事はそうだと思うんですけど、正解とか正解じゃないとか、はっきり決められないものじゃないですか。

どちらかと言うと、常にベターやベストに近いか。結局、いろいろな環境や状況の制約があって、私たちがこうありたい姿があります。そこに対して、AかBかよりは、「ここらへんが一番ベストなんじゃないか」を探し出していくようなことが多いですよね。

そのときにみんなとたくさん話して、みんなが示している表情や納得感。お客さんに向けて、リリースされたときにどうなるか。そういうことを総合的に見たときに「これがいいんじゃないの?」と(答えが)出てくるようなところがあります。

例えば、売上が出たらいいサービスかと言うと、そういうわけでもない。売上が出ないからいいわけでもないですよね。ユーザーだけが多ければ、いいわけでもない。定性的に深い満足感で、数字的にはすぐに評価できないけど、そういうものを追求したほうがいいときもある。自分がそれを信じられると思うかは、すごく大事です。

PMとは「リーダーであること」

島村:あ、そうだ。「自分がそれを信じられると思うか」の話をしようと思ったんですよ!

稲垣:どうぞどうぞ(笑)。

島村:真っ先にLINEが求めるPMはどんなPMなのかを話したほうがいいと思っているんですが、「リーダーであることを求めている」と思っています。

プロジェクトを管理したり、正しく予定どおりに進行したことだったり、大きな問題を起こさなかったことだったり、もちろんそれは大事なことです。それが優秀なPMだと表現するときの優先事項ではないと思っています。

そうすると「リーダーであることが結局どういうことなのか」と問うときに、会社が求めていることを理解したのでやりました、というのは私の中ではあまりリーダーじゃないんですよね。

例えば、顧客アンケートで100人の人がこれを欲しいと言いました。じゃあ作りましょう。これもリーダーではない。リードはしていない。リードしたのはお客さんであって。例えば、社長からこう言われました。それは社長がリードしたのであって。

リーダーということは自分がリードしなきゃいけない。自分がリードすることは、必ず自分がどう思ったかがすごく重要です。みんながそれっぽくうなづいていて、「そうしたほうがいいよ」「そうしたほうがいいよ」と言っても、自分はまだ納得できない。まだスッキリしない。

そういう気持ちになったときに、そこから逃げない。「どうして自分はそこでスッキリしないんだろう」「みんながそれがいいって言っているのに、なんかそれは嫌なんだよね」「もっと違うことじゃないかと思ったんだよね」みたいな気持ちが、すごく大事な気はします。

稲垣:島村さんと先週話していたときに、「勝手にやるのが大事」とか言っていましたっけ(笑)。「めちゃくちゃ大事だよね」って盛り上がりましたけど。

島村:勝手にやるのは大事ですよね(笑)。それはやるべきだと思ってやろうとしているんですよね。

「これは誰が決めるんですか」と聞いたら終わり

島村:もう1つ大事なのが、自分の思いどおりだけでいいのかと言うと、そういうことじゃないんですよね。それをみんなが理解してついてきてくれる人。

「あの人は変なこと言ってるし、普通の人とはちょっと違う意見をもってるみたいだけど、そこには一定の真理があるよね」「次に向かうべきはそっちなんじゃないの?」「じゃあ協力するね」という協力者が集まってくる人のことです。

自分の考えをもって、協力者を集めて、それを達成しようとする人。それは自分が言い出したことだから、そこから逃げないのがまさにコミット力なんですけど。自分の源泉にある、「自分が納得しないと納得できないこと」がリーダーの視点だと私は思っていて。どの視点で見るかによって、納得するかどうか変わっちゃうんですよ。

例えば、エコロジーの方向にいくときに、もちろん目の前からやることで満足することもできるし、それが悪いわけじゃないですけど。まず、ビニール袋をやめる取り組みから始めることもできる。でも、より高い目線になると、それだと満足できない。もっと具体的にカーボン減らさないとダメだみたいな。

そうやって視点が高いことによって、コミットメントする規模や方向性が変わる。行動の大きさや、巻き込む人の大きさも変わってくる。そういう意味で言うと、視点の高さがより大きいプロジェクトになればなるほど変わるというか。より規模が大きくなればなるほど、すごく重要になると思うんですけどね。

稲垣:たしかにね。横道さんと話したときに似た議論になりました。「『これ、誰が決められるんですか?』って聞いたら終わりだ」「その発言している時点でPMじゃないわ」みたいな(笑)。わかります?

横道:誰が意思決定者かということですね。

稲垣:誰が決めるって、自分で決めるんですよね(笑)。むしろ決められるように動くのがPMだから。自分が決めていって、登り方や攻略の仕方は考えるものであって。「誰が決められるんですか」って、それはもうボールを投げてしまっているんですよね。

それは社内でもよくあるなと思います。「これは誰が決めるんですか」って言われると。「あー、その質問出ちゃったか」みたいな感じになることはよくありますね。

ペルーで行動した、ある日本人の話

島村:PMのレベルにもよると思うんですよね。昨日、テレビをチラッと見たら、ペルーのマチュピチュを1人で貸し切りさせてもらった日本人の特集をしていました。コロナがひどくなる前にペルーに行っていて、コロナがひどくなってので帰って来れなくなっちゃった。

高い渡航費を出すよりは、現地でチャンスを待ったんですよね。ボクシングのインストラクターをやりながら、資格を取って、いろいろな人に協力してもらって、地元の人に愛されて。そうこうしているうちに新聞記者が聞きつけて記事にしたら、ものすごく話題になって、その人のためにマチュピチュを1人で貸し切りでいい、みたいな感じになったんですね。

稲垣:へ~、すごい。

島村:行動が(周りを)変えている。普通に考えたら、不可能じゃないですか。論理的に考えたら「チャーター機で帰れよ」みたいな話で(笑)。みんなそう思うんだけど。

「でも自分はせっかく来たんだし、ここにいるんだ」って、決断したんですよね。それは不利な決断かもしれない。損したり、何が起きるかもわからないけど、自分で決めて、すべてが始まって。

人と触れ合っていくうちに、普通では起きなかった変化が起きていって、マチュピチュに行きたい人のプロジェクトが、より理想的なかたちで達成されるわけじゃないですか。ぜんぜん違う話のように聞こえるんですけど、メンタリティとしては同じですよね。

なにかプロジェクトをやるときにも、できない理由は山ほどあるんですよ。どこにそのメンバーがいるんですか? 開発リソースはあるんですか? 売上は出るんですか? 本当にやるの? みたいな理由ですよね。

その仕事をすると、とても面倒くさいことが起きる。こんな相談を山ほど受けます。でも、「これって、あるべきじゃん」「本来これは私たちがやらないとできないことじゃん」ということがありますよね。そこで自分の考えで旗を立てる。だから逃げない。だからやり遂げようとする。

誰かのために企画をしたり、誰かのコミットメントがもらいたいから、なにかをやろうとしちゃうと、その時点で自分のことではないですよね。プロダクトマネージャーではなく、「機能担当者」とかになってしまいますね。

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