テンプスタッフではどのようにチャットボットが使われているのか

前田貞嗣氏(以下、前田):パーソルテンプスタッフ事業推進部 事業推進第二室の前田と申します。弊社は2018年の9月に、社内で初めて社内問い合わせ用のチャットボットを導入しました。どんな経緯で導入したのか、また導入してどんなことがわかったのかについて今日はお話しさせていただきます。

チャットボットの導入を考えられている企業であれば、「あ、こういう効果があるんだ」ということを、またチャットボットの開発に関わっている方なら「社内の営業はこういう使い方をするんだ」といった、参考情報を提供できればと思っています。

まずは私の部署の紹介をさせてください。私の部署は事業推進第二室と言いまして、営業活動やバックオフィス業務を見直し、営業活動の生産性向上や効率化を実現することをミッションにしているオフィスです。

今日のお話のアジェンダです。まずは弊社の組織について、社内組織がどうなっていて、その中でマニュアルの運用をどうやっていたかについてお話をします。続いてそういった社内組織や運用が、社内にどんな不満を生み出していたか、そしてその不満の解消に向けてどういった解決策を検討したのかをお話しします。4番目以降はチャットボット導入後の話で、現在チャットボットがどう使われているかという話をします。

それから、その運用にあたって、裏で我々がチャットボットをどのように操作してどのように運用しているかという話をします。また導入してみていろいろな成果も出ましたが、「そうだったのか」という、あまり最初は予想していなかったこともありました。そのようなお話についても最後にまとめたいと思います。

今までの社内マニュアルの運用

ではまず、弊社の組織とマニュアルの運用についてのお話です。こちらが弊社の組織です。テンプスタッフでは、部署の最小単位を「オフィス」というような言い方をしています。これが営業部門と間接部門で大きく2つ分かれていて、営業部門は(場所によって)「新宿一家」や「所沢オフィス」などという言い方をしていて、これがだいたい全国に300超あります。

これに対して間接部門は、「総務室」や「人事企画室」などといったオフィスがだいたい40ぐらいあります。営業部門300に対して間接部門が40。こんなような社内組織で運営しています。

では、社内マニュアルの運用の話をします。弊社では社内に「イントラ」を置いていて、その中にマニュアルやQ&Aを置いています。営業部門が活動しながらわからないことがあると、そこに見に行って、他方間接部門が何か新しいルールが決まったり、あとはルールが変わったりすると、せっせとマニュアルとFAQをアップロードします。だいたいどこの会社もこういう運用をしているのではないかなと思います。

実はこの運用が、社内的にはかなり不満をもたらしていました。どんな不満をもたらしたかというと、例えばもともと想定している運用として、営業部門がいろいろな新商品のルールや契約の「これやっていいのかな? 悪いのかな?」について、わからないことがあったとします。そんなとき、まずは社内のイントラで、マニュアルを探しにいきます。それを読んでもよくわからないときは、それを担当している間接部門に電話します。

これだけ見ると何も問題がないように思うんですけど、実はこれがけっこう評判が悪くて、営業部門からはこう見えるそうです。

ずらっと40ある間接部門のオフィスが並んでいて、彼らが社内イントラに好き放題入れているような、そんなふうに見えるそうです。ですから営業部門の人が、例えば「パソコン増設のやり方を知りたい」「パソコン増設の申請をしたい」といった、ほんの一言を探したいだけなのに、対応のイントラの中から探しに行かないといけないということで、営業に非常にストレスを与えている状況だったのです。

営業から見ると、マニュアルがぜんぜん見つからないと、そんなふうに見えていて、こういう状況が続くと営業部門はどんな行動を取るかというと、まず電話をします。マニュアルは探すと時間がかかることがわかっているので、探しに行きません。ですからとにかく間接部門に電話をする。

こんなふうに営業部門がとにかく電話すると、間接部門がどうなるかといえば、まずよく作業が中断します。当たり前ですが電話は予測不可能ですから、いつかかってくるかわかりません。

例えば朝早くやることがあって早めに出ても、電話がかかってきて結局何もできなかったり、あとはお昼を食べようと思ったら電話がかかってきたり。また帰ろうと思ってパソコンの電源を落としたら電話がかかってきたりなど、間接部門の人にしてみたら、非常に効率が悪くなるという不満を共通でもっていました。

ただ実は、間接部門が一番不満をもっていたのが、マニュアルが使われていないということでした。

実は間接部門の人たちは、一生懸命マニュアルを作って、イントラにアップはしているんです。当然マニュアルの制作には一定の時間もかかりますし、厳しい上司に何度も差し戻しされているマニュアルもあるわけですが、結局それが読んでもらえなくて、かかってきた電話に対して自分がマニュアルを読み上げることもあり、これがけっこうつらいと言っていました。

ちょっとまとめますと、営業部側は、わからないことを解決してもらうため、まずは担当部署を探して、電話して、教えてもらっていました。たった3つのステップなのですが、実際に問い合わせる側にしてみたら、(担当部署を)探すのにも時間がかかるし、私の部署は先ほど言ったとおり事業推進第二室と言いますが、第二があるということは第一があるわけで、1と2の違いでよく間違い電話が入ってきます。つまりよく部署を間違えるわけです。

また電話が中心なので、担当者がいたりいなかったりすることも。逆に自分が商談に入っちゃって折り返し電話に出られなくなることもあります。それで教えてもらっても、だいたい口頭でやるため、間違った解釈をすることもあります。営業にしてみたら、こんな感じでいろいろと不満が溜まっていました。

問い合わせされる間接部門も、業務はよく中断するし、せっかく作ったマニュアルも見てもらえないということで、不満が溜まっていました。だんだん不満が溜まって、イメージにするとこんな感じ。営業の人はだんだん怒りが上がり、問い合わせされるほうもどんどん怒りが溜まっていく。こんな感じが、テンプスタッフにチャットボットを導入する前の状態です。

チャットボットを導入

そんな中で、こういった状況の不満を解決する方法の検討ということで、私に呼び出しがかかりました。ただ、いきなりチャットボットを導入したわけではなく、いろいろなことを考えました。例えば、マニュアルのルールをもっと整理したらいいじゃないか、とか。

また、社内に総合問い合わせセンターやコンシェルジュみたいなのを作ったらいいんじゃないかとか、FAQシステムを入れたらいいんじゃないかなど、いろいろな話が出ましたが、結局、少しのキーワード入力とボタン操作で答えにたどり着ける仕組みがいいんじゃないかとなりました。またマニュアルやFAQはすでにイントラにあるので、そこにうまくリンクできるものがいいのではないかと。

あと操作も、LINEのようなものであれば、直感的にできるのではないかということで、チャットボットをやってみようとなりました。これが2018年の9月。

このチャットボットを導入して、今どれぐらい使われているかというと、こちらです。

まずチャットボットは、Q&Aが中に何も入っていないと回答できませんので、リリース当初は968件のQ&Aを入れました。実は968のうち、400ぐらいは部署の住所や電話番号なので、厳密には500ぐらいのQ&Aでした。私もいろいろな部署に頭を下げてQ&Aの提供をお願いしましたが、最初はみなさんチャットボットに懐疑的でQ&Aをもらえず、968件でスタートしました。

今はどれぐらいあるかというと、3,542件で、だいたい4倍ぐらいまでQ&Aが増えています。

この3,542件のQ&Aを流して、今はどれくらいの人が使っているかというと、リリース当初は1日平均で111人でしたが、今は1日平均561人。利用者が5倍ぐらい増えている状態です。

ではチャットボットがどれくらいユーザーに答えを提供しているかというと、リリース当初は1日178件ぐらいでしたが、今はだいたい870件。かなり答えを提供しています。

これはつまり、だいたい1日平均560人ぐらいの「よくわからない」「これどうやってやるんだろう」と疑問をもったユーザーが、誰に聞くこともなく、誰かの作業も中断させることもなく、弊社の社内向けのチャットボットで870件ぐらいは自分で解決している、そんなような状況が実現しているということになります。

特集コンテンツの運用と継続的なQ&Aの追加

このチャットボットについて実は、私の部署で、裏でいろいろと細かいアナログ的な運用もやっています。これは弊社のチャットボットそのものではありませんが、特集というのを頻繁に使っています。

実はチャットボットの検索履歴を見てみると、魚や野菜と同じように、旬があることがわかったんですね。例えば、ゴールデンウイークの近くになると決まって入ってくる問い合わせ、年末になると入ってくる問い合わせ、こういうのがだいたい見えてきました。

そこで、こういった質問がすぐに直感的に探せるように、特集ボタンを作っています。そして例えばゴールデンウイーク期間が終わると、すぐに引っ込めて今度は夏休みにしたり、10月になるとまた別の話、というように頻繁に変更しています。

それからQ&Aは、継続的に少しずつ増やしています。どうやって増やしているかというと、弊社のチャットボットは、Q&Aに答えがないと左の画面のように「ごめんなさい。勉強不足で答えられません」と謝ります。この謝った記録をずっと私のほうでウォッチしていて、謝った件数が一定数増えると、それを担当している間接部門に話に行くんですね。「こういう問い合わせ最近増えていない?」と。

そうすると多くが「増えている」と言って、「なんでそんなことわかるの?」と聞いてきます。「実はこういうチャットボットでわかるんだよ」と言うと、「じゃあすぐ入れてくれ」という感じで、みなさん協力的になり、Q&Aをどんどん入れてくれます。

このように、チャットボットQ&Aの社内営業みたいなことを私はやっていますが、実は導入直後はQ&Aを入れてくれたオフィスが3オフィスしかありませんでした。

3オフィスのうちの1つは私の部署なので実質2オフィスでしたが、今は増えて18ぐらい。着実に増えている状態です。増えれば増えるだけ答えられる回答が増えてくるので、ユーザーにとっても非常に便利になっているんじゃないかと思います。

チャットボット導入の成果

では次はチャットボットを導入して具体的に成果が出たことと、こういう使い方をするんだとわかってきたことの話をしたいと思います。

まずは成果。先ほど言ったように、例えば「社員が1人増えたのでパソコンを1台増やしたいんですけど、どうしたらいいですか?」という質問があったとします。1枚申請書を出すだけなのですが、これはやり慣れていないとわからないんですね。

これに対して、今まではどれぐらい時間をかけていたかと言うと、まずどこの部署に聞くのかを考えます。なんとなく、パソコン関係だからIT部門かなと。これはだいたい当たるわけですが、問題はそのIT部門のオフィスが10ぐらいあるので、今度はどこかなと考えるわけです。それでようやく電話をします。電話をすると、取ってくれた人が丁寧に教えてくれて、結果解決。

これにだいたい450秒。これは実際に私の部署の何人かやってもらったので、だいたいこれぐらいの数字だと思います。

じゃあチャットボットを導入したらどうなったかというと、「パソコン増設」と質問を入れると、だいたい14秒ぐらいで答えが出ます。ですからこの質問だけで言えば、不明点を解決するのにかかった時間が95パーセント以上短縮できたことになります。

こんな質問ばかりではありませんが、こういった細かい積み上げが増えているんじゃないかなと思っています。

実際にチャットボットを導入してから2ヶ月後に、現場に対してアンケートを取ってみました。「このシステムどうですか?」という簡単なアンケートを取ったのですが、みなさんいろいろ書いてくれて、主だったものをちょっと挙げてみます。

例えば、チャットボットを導入する前は、イントラの中で迷う「イントラ迷子」といった言葉があったそうです。また、営業に言わせると「決まり切った答えだったら機械的に教えてもらったほうが早い。別にていねいに言わなくてもいいよ」なんていう意見もありました。

あと、弊社も環境に合わせて組織変更しますので、「組織変更されちゃうと部署がよくわかんなくなって困っていたのが、すごく解決できた」という声ももらいました。これは私のほうでも、担当部署がわからなくても答えを探せる仕組みを作りたかったので、一定の成果が出たんじゃないかなと思っています。

ユーザーは手入力がかなりお好き

では次は成果ではなく、やってみてわかってきたことをお話しします。まず1つ目が手入力ですね。ユーザーは手入力することが、かなり好きということがわかりました。

実は弊社のチャットボットは、ボタンを押していけば最後答えにたどり着くという仕組みがあります。もともと導入するときに、弊社の営業からいわゆる「外回りで忙しいときに手入力で入力している暇はない」「ボタンとかでなんとかできないか」というのをすごい言われたので、ボタンで操作できるところをメインで作ったんですね。

ところが実際にやってみると、ほとんどみなさんキーワード検索をしています。なんでキーワード検索をしているかというと、ここでAIが出てくるんですね。キーワードを入れると、AIがサジェスト機能を使って、いくつか候補を出してくれます。これを出していって、自分が知りたいのはこれだなと当たりをつけてからボタンを押す。そうすると「この中に答えはありますか?」と、またここで今度はレコメンド機能が働いて聞いてくれるんですね。

みなさんボタンは押さずにキーワード検索からどんどん始めているということがわかってきました。私のほうで毎日計算をしていますが、今はボタンを押している数が、だいたい1.9回から2.1回ですね。このことから、営業はいっぱいボタンを押さないで、1、2回アクションをして答えが出ないと怒って電話してくるという流れがわかってきました。

ユーザーは解決確認を押さない

それからもう1つわかったことは、解決確認を押さない。これは何かというと、答えを出したあとに「あなたはこれを解決できましたか?」というQと「はい」「いいえ」というボタンを用意しています。

当初私がこれを導入したときに、この「はい」「いいえ」の情報を集めたら、日々いろいろな改善に使えるんじゃないかと期待をしていました。ところが現実は、ほとんどボタンを押しません。だいたい2割ぐらいが押してくれますが、8割から9割ぐらいはまったく押さないです。おそらく答えを見つけたら、次のアクションにみんな入っているんですね。

これについて、実際に営業のマネージャーに聞いたら、「当たり前だ」と言っていました。「次のことで忙しいんだよ」と言っています。ただ、今私がすごく注目しているのが、たった2割の「はい」「いいえ」に対して、特に「いいえ」を押されたとき。これはかなり営業が頭にきている可能性があるんですね。

ですから、この「いいえ」ボタンが押されたときには、すぐに関係部署と協議して、Q&Aを見直しできないかという話をして、逆に見直しが実現すると、またそれをイントラにアップして、「チャットボットがまた進化したよ」というアナウンスしています。

利用促進に必要な4つのこと

最後にまとめとして、チャットボットは使ってもらってなんぼの世界なので、利用促進に必要なことを4つ書きました。

実は弊社でチャットボットを開発するときに、コンペじゃないですが、関係会社8社にいろいろなことを聞きました。私が8社に必ず聞いたのが「今までチャットボットを提案して開発して導入したけど、あまり使われない会社はありましたか?」ということです。

これを聞くと、だいたいみなさん「あります」と言うんですね。「せっかく作ったのにあまり使われていないんですよね」と。みなさんログを見ているからわかるんでしょうね。

では使われていない会社の特徴を教えてくださいと言うと、だいたいこんな意見でした。例えばチャットボットがあるのに、あまり現場に積極的に伝えていない。IT部門は設置はしたけど、推進はやっていない、など。

あとはメンテナンスが行われていない。これは要するに部署の名前が変わってもぜんぜん変わっていなかったり、間違った答えが永遠に出ていると、やっぱりユーザーは嫌になって信用しなくなるんですね。

あとはメンテナンスのルール。特にこれは、文言の言い回しがバラバラだと、やっぱり読みづらいというのがありました。

あとは逆に、チャットボットに不満があったときに、どこに文句を言ったらいいかわからないので、担当部署を明確にしてほしいということを言っていました。

ですから、弊社は全部この反対を今やっています。

より精度の高いチャットボット

そしてこれは、これから開発をやられる方にぜひお話ししておきたいのですが、今後はより精度が高いチャットボットが求められると思うので、それについて2つ書きました。

現場は、何だかんだキーワードの入力が好きです。これはGoogleとかYahooの検索にも慣れている世代なので、キーワードを入れるということにまったく抵抗がないのです。そうなると、このサジェストやレコメンドが、すごく重要になってくると思っています。

例えば弊社の場合、1つのチャットボットですべてやっていますので、営業だろうと事務担当だろうとコーディネーターだろうと、同じサジェストとレコメンドが出てきちゃうんですね。例えばこれが、ユーザーが営業だったら、営業的なサジェストやレコメンドが出たり、コーディネーターだったらコーディネーターに合ったサジェストやレコメンドが見れたり。そんなことがAIで実現できたら、ボットがさらに広がってくるんじゃないかなと、そんなふうに思って、新しいチャットボットの開発を計画しているところです。

アナログとAIをブレンドする

今までは不満がいっぱいだった職場でしたが、このチャットボットを導入したことによって、みなさんけっこうハッピーになれました。このような世界を今後も実現していきたいなと思っています。

導入してわかったのが、やっぱり裏方のアナログ対応は一定数必要です。でもやはりさっきも言った、サジェストとかレコメンドのようなAI的な機能も、ものすごく重要になると思います。

ですからこれからは、この2つのアナログとAIをよりよいかたちにブレンドしながら、より使いやすい、わからなくても何も困ることなくハッピーになれるような、そんな職場環境を作っていきたいと思っています。

以上、弊社がチャットボットを導入してからその顛末を、恥ずかし部分も含めてお話ししました。ご清聴ありがとうございました。