スタートアップの定義と種類

西武史氏:最初に自己紹介から。西と申します。父親が西武ライオンズファンだったので「西武」と、歴史の「史」でお馴染み、西武史です。Twitter(@_takeshi_24)もやっていますので、よろしくお願いします。

テーマは「スタートアップで働くというエンジニアキャリア」についてです。まずは私の経歴を簡単に。最初は福岡県のシステム会社でエンジニアをやったあとに、フリーランスのプログラマーとして勤務。それから東京のスタートアップ企業で最初CTOとして創業に関わりました。その後もフリーランスとしていくつかの会社のスタートアップのプロダクト開発に携わったりしています。

そのあと株式会社diffeasyという福岡の会社で取締役CTOを経験。そして2020年4月7日、緊急事態宣言が発表された日に、株式会社OneSmallStepを設立いたしました。

そもそもスタートアップってけっこう広い意味で言われるので、まずは定義から説明します。起業した会社や新しい事業、技術を提供する会社。イノベーションを通じて世界を大きく変える企業とか、ごく短期間で急速に成長する企業、イグジットを狙っている。このような企業が幅広くスタートアップと言われています。ごく短時間で急速に成長するのがスタートアップと言われる企業の特徴ではないでしょうか。

スタートアップ企業もいくつか種類があるかなと思っています。例えばテック系のスタートアップは、AIとかブロックチェーンとかそういった革新的な技術でイノベーションを起こす企業。こういった会社は、けっこう特化したスキルのエンジニアがやっぱり求められるし、CTOの方も技術志向の「その道のプロ」の方がいたりするイメージです。

一方、テック系以外の事業系のスタートアップ。革新的な事業アイデアでイノベーションを起こす企業の場合は、オールラウンドプレイヤーなエンジニアが求められます。経営と技術をつなぐようなCTOがいるイメージです。

私はどちらかと言うと事業系のスタートアップにいました。実際にさまざまな役割を兼任しないといけませんでした。

スタートアップの戦い方

スタートアップは会社ごとに戦い方がけっこう違うなと思っていて。資金体力がある企業で、資金と人がいれば、資金がある間はプロダクトの開発に集中できます。やはりスタートアップの場合は、資金も人もない状況からスタートです。この青いところが、例えば生存できる資金力とラインだとすると、やっぱり最初お金がないので、お金がないうちに一定の結果を出さないと、次がありません。

調達を繰り返して資金力を上げて、プロダクトを改善していくと思います。最初はここがなければ次がないので、やはりスタートアップの戦い方は独特というか、大手の企業と同じようにはできません。だから、最初は長期的な運用をどうするかまで、考えられなかったりします。このあとも説明していきますが、大手の会社とはやっていることも戦い方も違うなというのが正直な感想です。

よくあるスタートアップの勘違い

スタートアップについてみなさんがよく勘違いしていることもあります。1つ目が、自社サービスの開発にじっくり取り組めると思っていること。じっくり向き合うのは顧客や顧客の課題なので、「顧客の課題が本当に正しいか?」とか「そのプロダクトが本当にこの課題を解決するものか?」に最初は時間をかけます。

じっくりアプリを作るというよりは、MVP(Minimum Viable Product)レベルの最低限の機能のアプリを作って検証する。違えば壊してもう1回やり直す、という作業の繰り返しです。時間をかけて作ることはあまりできません。

チーム全員が走りながら考えないといけないし、少人数でプロダクトを立ち上げていくので、幅広い役割が求められます。エンジニアとして入っても、お客さんのところに説明に行くとかユーザーの声を聞くことは、私もけっこうやっていました。

あと、明日やることが変わることもあります。例えば前にいた会社だと、それまでWebアプリを作っていたのに、急に代表が「ちょっと豪華客船に興味あるからやりたい」みたいな話になりました。「マジか……」と思いますが、これが「楽しいね」と考えられる人じゃないと、スタートアップは居心地悪いかなと思います。

「何をやるか」「このアプリおもしろそう」より、「誰とやるか」が大事なのではないでしょうか。「この会社で」とか「このメンバーでやっていけると楽しいよね」の考え方は、非常にいい労働環境になるからです。

次に、(スタートアップは)最新の技術が利用できたり、スキルアップできるイメージもあると思います。前例やしっかりした組織がないので、「こうやりたい」というのは比較的採用しやすいです。

とはいえ、ただ技術が使いたいからではなくて、やっぱり最短で目標を果たすための最適な技術選定が必要になります。なんでもかんでも新しいのに挑戦できるわけではありません。ただ、けっこう動きのフットワークは軽いので、いろいろなことにチャレンジはできると思います。

あと、教育に投資する資金とか時間もありません。基本的に自分で学べる人じゃないときついかなと思います。スタートアップでスキルアップするよりは、スキルを活かして会社の成長を一緒に楽しむことになると思います。経験あるメンバーも最初は少ないので、相談する人もあまりいません。

エンジニア、プログラマーとして技術をスキルアップしていくより、そのスキルを使ってメンバーみんなでビジネスを構築していく視点が大事です。自分で成長できないと、スタートアップは居心地が悪い場所なのかなとも思います。

個人の成長が会社の成長につながる

このグラフは、青い線が個人一人ひとりの成長で、赤い線が会社の成長です。基本的に、個人成長を会社の成長が追い越していくと思ってください。

最初のうちは、経験豊富なエンジニアの採用は難しいです。「会社の理念に共感してくれた」「サービスに共感した」「この人と仕事したい」といったメンバーが入ってきてくれます。ある程度プロダクトが完成して売上も上がってくると、経験のあるエンジニアを採用できるようになり、会社としては成長していく。

さらに成長すると、今度は必要な技術に特化したエンジニアを採用できるようになります。フロントエンドが得意とか、インフラが得意なエンジニアとかですね。

そうなると、個人の成長を組織としての成長が追い越していくということが起きます。ほかの人を見て自分を評価してしまうような人だと、「あの人はすごいのに、自分はあまりできていない」といった感じで落ち込んだりとかもあるかもしれません。なんだかんだ会社にずっといると、ほかの人に刺激を受けて、どんどん成長していく人もいます。

次に労働環境などについて。おしゃれなオフィスで働けるとか自由な労働時間・環境とか言われていますが、実際に合っている部分も間違っている部分もあります。創造的な仕事をするために必要なオフィス環境はあるので、ちょっとリラックスできるスペースとかもありますが、最初のうちはマンションの狭い一室などからスタートです。

その中で、大きい机がほしいけど、狭い中でやっている。椅子も「いい椅子がほしいけど、椅子にお金を使うぐらいなら、ほかのに使いたい」みたいな感じが多いので、あまり設備にお金をかけることはできません。

働く時間も確かに自由はありますが、それはアウトプットをちゃんと出すことが前提です。これができないと、居心地が悪くなっていくだけなのかなとは思います。あとは、ワークライフバランスではなく、ワークライフミックスみたいな感じで、常に仕事のことを考えている人が多いですね。

福岡市のスタートアップの話ですが、最近は東京の大きい企業がオフィスや開発拠点を構えたりしています。LINEやメルカリなどいろいろな企業があって、スタートアップの企業もたくさん出てきている状態です。

東京に比べると少ないですが、福岡市もITの勉強会の数は多いという印象を受けています。ただ、チャンスとかいろいろな人とつながる目的で、東京だと、勉強会に行ったらGoogleの人がいたとかありますが、福岡ではあまりない印象です。

スタートアップは自らの手で開拓していく荒野である

まとめに入っていきます。スタートアップは資金体力がありません。そのため、短い期間で「最高」なアウトプットではなくて「最適」なアウトプットが求められます。またエンジニアを育てるような環境がありません。エンジニアが会社を作っていくような場所で、自分で考えて行動する人が必要です。

社内に相談する人もいません。私が前にいた会社とかでは、外部の技術顧問みたいな人に相談することをやったりしていました。正解がないので、自分たちで正解を作っていく感じです。

こういう感じでやっていくので、じゃあ成長できないのかというと、いろいろなことに挑戦できます。さまざまな経験が積めるので、気づけばすごく成長していることを感じれるかなと思います。

スタートアップはエンジニアにとって楽園ではなく、自らの手で楽園を作る荒野です。こういったところで働くのが好きな人には、本当にいい場所かなと思います。発表は以上です。

ちょっと時間もあるので宣伝をさせてください。今日の発表内容などをnoteに「エンジニア人生を振り返る」というタイトルで、まとめて書いています。よかったら読んでください。

名前は変わりますが、今は「共感でつながるマッチングプラットフォームFLAPTALK」という自社サービスを作っていて、まもなく公開予定です。Twitterのフォローもぜひよろしくお願いします。

以上です。ありがとうございました。