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プロジェクトリスク&クライシスマネジメント(全2記事)

プロジェクトマネージャーは神経質であれ 大学教授が教えるプロジェクトに重要なリスクマネジメント

年に一度のプロジェクトマネジメントに関するイベント「Backlog World 2020 re:Union」。今回「プロジェクトリスク&クライシスマネジメント」のテーマで登壇するのは、数多くのシステム開発の現場でプロジェクトマネジャーに従事し、現在は広島修道大学で教壇に立つ佐藤達男氏。後半は佐藤氏の今までの経験から培ったリスクの危機管理方法やトラブルの対処方法、またマネジメント全体から現場レベルの関わり方について話します。

リスクの底を知る

私は、プロジェクトマネージャーは現場で現状を知るべきだと思っています。

ここから実際の経験の話を少ししていきたいんですが。私がシステム開発のプロジェクトマネージャーをやっていたときに開発の仕事がたくさんある。しかし、依頼を引き受けてくれるソフト開発の会社が見つかりませんでした。

そんなときに「100台のパソコンと100人のエンジニアがいて、御社の仕事を第一にやります!」という触れ込みで、とある地方の会社が見つかりました。結果「じゃあ、そこに任せることにしよう」。そう考えて依頼しました。

そんなある日、これから会社に行こうと思っていたんですが、ふと思い立って会社に行くのやめたんですね。代わりに依頼した会社の街まで行きました。

最寄りの駅に到着したら、まず電話したんですよ。「もしもし佐藤です」と言ったら、相手の会社の人はびっくりしちゃって「こんな朝早くからどうしたんですか?」って。「今、最寄りの駅にいます」って言ったら「えっ、急にどうしたんですか?」ということで、「会社を見に来ました。今から現場に連れて行ってください」と言ったら相手がすごく慌てて。

「いやいや、ちょっと待ってください」とすぐに迎えの車が来ても、なかなか現場に連れていってくれませんでした。「お昼ごはんでも食べましょう」みたいな感じで、現場から遠ざけられる感じで。

「もういいよ、昼ごはんは。早く現場を見せてよ!」と言ったら、ようやく観念したようで、会社に行くとオフィスには何もありませんでした。

なので、基本的には、やっぱり約束は信用できません。

他にもこんなこともありました。お客さんと仕様を詰め、承認もされ開発は順調に進んでいた案件です。相手方の窓口の方と順調にやっていたんですね。そして開発が終わって納品が完了してお客さんのところに検収をもらいに行くと、その方が「すいません。上司に最後報告に行ったら、全部却下されてしまいました」ということが実際にありました。

事前に窓口の方とやりとりをして、契約と承認を貰っている。にもかかわらず最終的にやっていたことは全部受け入れられないということになりました。

通常こういうことは、契約をきちんとするとか仕様をちゃんとハンコを貰うことが担保することになっています。実は、この方法はリスクの最終的な解決策ではありません。揉めたりトラブルになったり訴訟になったりとかね、そういうときのエビデンスとしては有効です。プロジェクトとしては、お客さんとこれから先もやっていかなければいけないような状況であれば、こちらが全部やり直す必要になることもあります。

だから相手も我々も、プロジェクトマネジメントやプロジェクトをたくさん失敗させるように、相手もうまくいかないことはたくさんある。ということが経験上としてはありました。

「リスクマネジメントは重要なので、十分に洗い出しました」と言う人がいたら、私は基本的には信用しません。リスクの幅が上から下まであったら、「十分洗い出しました」ってこの人にとっての一番最悪な状態というのがあって、それより下、それより最悪の状況がもし発生したときは、この人はパニックになってしまう。

つまり重要なことは、リスクの底を知ることです。人は自分が想定したよりも底の深いリスクが発生したらパニックになります。自分が想定した最悪の状況になったら、それは想定できることであってもそのプロジェクトマネージャーにとっては想定外なのでパニックになってしまう。

例えばこれからプロジェクトを開始するときに、歩いている道の途中にマンホールがあったとします。マンホールがあること、マンホールに穴が開いており蓋が取れていることを想定していれば飛び越えることができる。

「普通は開いてないよね」って高をくくって歩いてても、一応想定をしていれば、穴が空いていたらはまっちゃっても落ち方によっては軽傷で済むかもしれません。

しかし「マンホールの蓋が開いてるわけないじゃないか」と最初から想定もしていない。その場合、ストーンと落ちたら最悪死んでしまうかもしれません。つまり、常に最悪の状況を想定していれば、慌てないで済みます。

プロジェクトマネージャーは神経質であれ

そんないろんな経験を蓄積していくなかでKKDでいう勘所みたいなものも掴めてきました。今からはそれについてちょっと話をします。

もう何十年も前のプロジェクトマネージャーになりたての頃です。ある時私宛に電話がかかってきました。

これもまた、私の会社で請けてた仕事でかなり大きな仕事だったのですが、なかなか引き受けてくれる会社が見つからない。そうしたら、「もう全精力を挙げて御社の仕事を第一にやります!」という会社が現れました。ほとんどをその会社に任せて、私はマネジメントをしていた案件です。

ある日、そこの営業の人が「もしもし、佐藤さんですか?」と電話をかけてきました。内容は、すべて仕様が決まって開発も進んでいるにもかかわらず「値上げしてもらえませんか?」と急に連絡をしてきて。だいたいそういう電話って夜の20時ぐらいとかにかかってくるんですが。

さらに、その営業部長が「値上げしてもらえないんだったら、プロジェクト引き上げますよ?」とまで言ってきました。「そんなことになったら御社は信用を失いますよね?」。私の会社が請けている大口のお客さんがいて、「信用を失いますよね?」と。私もようやくプロジェクトマネージャーとして少し軌道に乗ってきた頃なので、「あなたの立場もなくなりますよね?」と脅されてしまいました。

私はどうしたかというと、「あぁそうですか。分かりました」と言って、「お疲れさまでした」と言って電話を切りました。そのまま引き取ってもらったかたちです。

その時の勘所というのは、それなりに大きな会社に仕事を依頼した。しかし、その営業部長が最初から「何か分からないんだけど、信頼できない」という勘が働いていました。なんか来るなと思ったので、密かに「この人たちがもし居なくなったらどうしよう?」ということをずっと考えていて。その会社がなんらかのかたちでダメになったときに、代わりに仕事を任せる会社を準備していました。

あとですごい謝りの電話で「冗談ですよ」とか言ってきましたが。「いや、いいですよ」って言ってもう切っちゃって、本当にやめてもらって。バックアップで用意しておいた会社におまかせした経緯です。

ここで、最悪の状態を常に想定していれば、最悪の事態は切り抜けられます。つまり、どれだけ取り越し苦労ができるかどうかじゃないでしょうか。

プロジェクトマネージャーは、なにもないときは「いくらなんでも神経質じゃないですか?」って言われるぐらいがちょうどいいと思ってます。

トラブル対処のため指示・命令系統は一本化する

クライシスマネジメントという話なんですけれども。広い意味でのリスクマネジメントというのは「リスクマネジメント」と「クライシスマネジメント」に分けられます。リスクが発生しないようにマネジメントすることをリスクマネジメント。重大なリスクが発生した場合に損失を最小限に抑えることをクライシスマネジメントといいます。

ふだんから危機管理マニュアルなどを作成して危機に備える。発生したときに、対応組織を設置して情報管理を行なうことで、被害の拡大を防ぐ。そして速やかに復旧して、事業活動を再開する。といったポイントが挙げられます。

ここからはKKDの度胸というところで、私が過去に体験したことで、全国同時多発プロジェクト炎上というものがありまして。

内容は全国にあるシステム、パッケージをバラ撒きました。そうしたら、パッケージだから品質が悪ければ全部同じものがバラ撒かれるので、全部炎上してしまった案件です。

当時プロジェクトマネジメント部長だったので、社長に呼ばれて「このトラブルを3ヶ月で収束してくれ」と指示を受けました。それまでにいろんな人に当たっても誰もできそうにもないというので、最後は「プロジェクトマネジメント部長がやれ」と私が収束の指揮を取ることに。「分かりました」ということで「その代わり、ここからすべて私に仕切らせてください。あと私が指名するメンバーと会議室を用意してください」と希望を伝えました。

イメージとしては『シン・ゴジラ』という映画のワンシーンです。ゴジラが現れて、対策本部会議室をアサインして専門メンバーを集結させる場面。このシーンを見たときにすごく懐かしい気分になって「ああ、これじゃん」と思いました。

トラブルが起きたときに重要なのは、指示・命令系統を一本化すること。合わせて、すべての情報を一箇所に集約することも非常に重要です。

全国でトラブルが発生していて、お客さんが「すぐこれを直せ」とか「どうしたんだ?」というふうになっています。ここで重要なことは、すべての仕事はいったん止めて、やるべきこととやらないでいいことを明確にすることです。

そうすると必ず現場では、正確には言えませんが50箇所以上同時に燃えていました。そうすると、それぞれの拠点の人たちは止められない。今もお客さんが怒鳴り込んできていて、「あれをやれ」「あれを回収しろ」と苦情が来ている。

そうしたら、そこの拠点の支店長や支社長などの責任者に電話をして、「頭下げて、ごめんなさいって謝って止めてもらうのがあなたたちの仕事でしょ」ということですべて止めてもらいました。その間にやるべきこととやらないでいいことを洗い出して明確する。

そして、やるべきことに対しては速やかに手を打つ。その手を打った効果を観察と検証をして、うまくいけばまた次の手を打つし、うまくいかなかったら次の手を打っていく。状況の変化に応じながら手段を変えていきながら、一つひとつ課題を潰し込んでいくようなことをやってきました。

こういったもうトラブルのど真ん中にいるときに重要なのは、プロジェクトマネージャーの判断。重要なことは、今どのレベルを判断しているのかを常に意識することです。

結局トラブルは、野戦病院と一緒だと思っています。そういうときにも、議論というかな、検討しているときに、踏み台から飛び降りる話をしているのか……少しの段差だったら誰もケガしないですよね。それとも2階から飛び降りる話をしているのか、55階から飛び降りる話をしているのか。そのレベルに応じて適切な判断をすることが重要です。

トラブルは潰すためにある

最後に私からのメッセージですが、プロジェクトマネージャーの役割は目標を達成すること。そのためには、適切な判断をすること重要です。

プロジェクトマネージャーは、トラブルが起きてもトラブルに潰されてしまったら目標を達成できません。トラブルは潰されるためにあるんじゃなくて、我々プロジェクトマネージャーは、トラブルを潰すためにいます。潰すことによって目標に向かって前に進めるからです。

リスクマネジメントとクライシスマネジメント。トラブルに潰されてしまうのか、トラブルを潰すのか。これがやっぱりプロジェクトマネージャーの腕の見せどころだと思っています。

火事と喧嘩は江戸の華と昔から言いますよね。リスクとトラブルはプロジェクトの華です。

なので、そういった状況にも対応できるように、知識や理論というベースを持っていろいろな経験をして勘を磨く。いざとなったときに適切な判断を適切なタイミングでやっていく度胸を、ぜひみなさんにも身につけてもらいたいなと思います。

私の話は以上です。ありがとうございました。

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