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プロジェクトリスク&クライシスマネジメント(全2記事)

プロジェクトを成功させたければ人を信用してはいけない 大学教授が考えるプロジェクトマネジメントで重要な3つのこと

年に一度のプロジェクトマネジメントに関するイベント「Backlog World 2020 re:Union」。今回「プロジェクトリスク&クライシスマネジメント」のテーマで登壇するのは、数多くのシステム開発の現場でプロジェクトマネージャーに従事し、現在は広島修道大学で教壇に立つ佐藤達男氏。前半はプロジェクトマネジメントに必要なことなどを、現場を知る人間の目線で語ってもらいました。

プロジェクトマネジメント論を教える現場経験豊富な大学教授

佐藤達男氏:みなさん、こんにちは。今回のテーマは「プロジェクトリスク&クライシスマネジメント」です。とくに、プロジェクトマネジメントの中でも、リスクと危機管理にフォーカスして話をしたいと思います。

あらためまして、佐藤達男です。出身は東京で、もとはSI企業で多くのシステム開発プロジェクトでプロジェクトマネージャーを経験。そのあと、全社のプロジェクトを統括する、SIerだと大きなプロジェクトなんかのPMOと言われるようなプロジェクトマネジメント部の部長をやっていました。現在は広島に移りまして、広島修道大学でプロジェクトマネジメント論を教えています。

現場で長くプロジェクトマネージャーを経験しつつ、大学のレベルでプロジェクトマネジメント教育をしている人もなかなかいないと思います。本日は大学教員らしく知識と理論を踏まえつつ、現場の経験も取り入れながら話していきたいです。

まずはじめに、「プロジェクトマネージャーは知識と経験のどちらが重要ですか?」について。この質問は、現場にいた頃からよく聞かれていました。

とくに現場では「知識だけじゃPMはできない。プロジェクトマネージャーできない」とか「経験に勝るものはないんじゃないか」と、よく言われていました。今時は言うのか分かりませんが。

知識だけでも経験だけでもダメです。知識と理論の両方が備わっていないと、経験が活きてきません。

つまり、なんらかの経験をしていってもそれがうまくいく場合とうまくいかない場合があります。どんな結果になっても知識や理論というバックボーン......ベースは必要です。それがないと、今自分がやっている経験が正しいものからどのぐらい離れているか、距離感が全然掴めません。

だから、たまたまうまくいってもこれは理論的にはおかしい。うまくいかなかったんだけど、知識とか理論的にはちゃんとやってたのにうまくいかなかった。それは何に原因があるんだろうという距離感。そういうものを測るのに知識と経験も重要だと思います。

ですが、知識と経験だけでもダメだと思っています。このへんは教科書には書いていない、私自身の経験がベースとなる話です。

重要なものは知識とKKD

あまりいい意味では使われませんが、KKDという言葉がありますよね。経験と勘と度胸。「ちゃんと理論とか知識を駆使してプロジェクトマネジメントをやりなさい。経験とか勘とか度胸に頼ってはいけませんよ」ということで、悪い意味で捉えられることが多いです。しかし、私は非常にこのKKDが重要だと思っています。

知識も重要。それを、知識をベースにした経験も重要なんですけど、経験だけ積んで引き出しを増やしても、経験というのは全部過去のことです。その引き出しだけじゃ新しい事象が起きたときに対応できません。

経験を積むことで新しいことにも対応できるような勘を養うことが、重要だと思っています。いろいろな経験をしていれば、同じことが起きなくても、その勘所というものが見えてくる。そういったものを養っていくことが必要です。

そして、プロジェクトが重大な局面になったときに、ブレない判断と思い切った行動。これは知識と経験があって、勘を掴むことで度胸が備わってくると思っています。

ということで、知識をベースにして良い悪い含めた経験を積む。経験を増やしながら勘を養って、プロジェクトのここはという局面で適切な判断と行動ができる度胸を身につける。これが重要なことだなと思っています。

話を進めていきますが、プロジェクトを取り巻く環境は大きく変わってきています。近年はより高度、高速に広がっている状況です。その中でも複雑で多様なにより不確実になってきています。

そういった背景を踏まえて、プロジェクトの形式・形や、やり方・方法論というスタイルも変化しています。しかし、時代背景や対象となるものが変わってきても、プロジェクトマネジメントの本質は変わらない。私は考えています。

プロジェクトマネジメントはギャップを埋める仕事

プロジェクトとは何か? プロジェクトというのはギャップです。プロジェクトマネジメントとはギャップを埋めるためのプロセスなんですね。

プロジェクトというのは、今の姿、現状に対して目指す姿、目標があります。その今の姿と目指す姿の間にあるギャップを埋めるための活動です。

このギャップの中にはたくさんの問題があります。この多くの問題の中から限られた時間とリソースを使って「どの問題に対応していくか?」「それが一番効率がいいのか?」「成功に向かっていくのか?」。解決すべき問題を選択します。そして選択されたものが、プロジェクトの中で取り組むべき課題です。

これをプロジェクトマネジメントの用語では「スコープ」といいます。このスコープをブレークダウンしたものが「WBS」今風に言うと「バックログ」です。

みなさんもやることリストを付箋とかを使って書くと思います。ToDoリスト......やることリストって誰でも縦に書き出しますよね。エクセルで書いてもらってもいいんですけど。横に並べて書いていくと見えなくなっちゃうので、普通は横に並べないと思います。逆にスケジュールというのは、時間の流れだから横軸なんです。

「課題」を積み上げた縦軸に「時間」という横軸を引いて、そしてそこに目標の高さを設定する。この目標の高さに到達するために、縦に並べた課題を時間軸に割り当てていく。そして一つひとつの課題をクリアしながら目標に近づけていきます。

これがプロジェクトマネジメントのプロセスです。例えばこの時間軸に割り当てた課題に対して、成果が終わりのほうに出てくるようなかたち。これはシステム開発の中ではウォーターフォール型と言います。逆に最初のほうに成果が見えてくるものがアジャイル型、アジャイル開発です。

ウォーターフォールかアジャイルかというのはゴールまでのやり方の話なので、プロジェクトマネジメントの本質は変わりません。時代を追うごとにやり方は変わりますが。ただ、時代が変わってツールがよくなればウォーターフォールだってアジリティが求められるというだけです。

だから、プロジェクトを取り巻く環境やスタイルが大きく変わっても、プロジェクトマネジメントの本質は変わりません。プロジェクトというのはギャップであって、そのギャップを埋めるためのプロセスであるというようなことだと考えています。

プロジェクトマネジメントで重要なこと

プロジェクトマネジメントで重要なことは3つあります。大学の授業でも第1回のときに話をしていることで、みなさんもぜひ持ち帰ってください。

それは、横軸に時間、目標の高さがあります。この限られた時間と目標の高さを達成するためにプロジェクトを計画することです。これは、先ほど言ったように、プロジェクトにとって最も適切なプロセスを描く、計画できればいいんですが。

そしてもう1つ。目標を達成するためにプロジェクトを実行することが重要です。当たり前ですけど、計画をして実行する。これがプロジェクトの姿です。計画力があっても実行力がなければこの線を描けないですよね。もちろん実行力があっても、計画がもともとこの目標の高さに到達するような計画になっていなければ、そのとおりに実行しても目標は達成できません。ですから、プロジェクトマネジメントには、プロジェクトの計画力と実行力が重要になってきます。

そしてこの3つ目に重要なのは……計画力も実行力も両方備わっていてもなかなか思うようには進みません。目標を下回ってしまうことはよくあります。この差を埋める、目標達成を阻む事象と要因を取り除くことが重要です。

目標と現実のギャップ。この差、ギャップが生じる一番の要因が、プロジェクトを成功に導くためにはこのギャップをリカバリーする能力が重要になります。その一番の要因がリスクとクライシスです。

最初に「リスクマネジメントとは?」ということから。「リスクとは、目標を阻害すると予想される結果と、その起きる確率からなる」と定義されています。

そしてリスクの基本要素は、「リスクの事象」「リスク事象の発生確率」そして「リスク事象のインパクト」。この3つの組み合わせからなります。

つまり、リスクというのは発生確率とインパクトのかけ算で、多くの人はこの変数に対して願望を入れがちです。勝手な変数を入れてしまう。2つの変数をシビアに考えてリスクを評価すれば、防げることはたくさんあります。

例えば今回のコロナの問題にしても、春ぐらいになったら落ち着くんじゃないか。3月には卒業式があるし、卒業式は一生に1回しかないから、卒業式がないなんてことはないだろう。4月には入学式があって授業が始まって、入学式がないとか授業が行なわれないことはないだろうと。卒業したら卒業旅行に行くのは一生に一度しかないんだから、それはコロナの問題があっても関係ない。

ただ、「一生に一度しかないんじゃないか」という願望はこの式の中に……関係のない変数ですよね。なんだけど、そういうことが平気で入ってきます。

だから、この変数をシビアに考えてリスクによって防げることはたくさんあります。しかし、基本的にやっぱり見てると人は「そういうことはない」と思いがちなんです。なんですが、やっぱりそれは基本的に「あったらどうしよう?」という考え方をしていかないと、これからはとくにいけないんじゃないかなと思います。

プロジェクト成功のカギは人を信用しないこと

「プロジェクトにとって一番のリスクは何かな?」と考えると、他人を集めて目標を達成することですよね。プロジェクトマネージャーは私なんだけれども、私が1人でやって成功か失敗じゃなくて、他人を集めて目標を達成すること。みんなそれが一番頭の痛いところだと思います。

部下を持ったら読む本とか、チームマネジメントとかコミュニケーション研修に関する本もたくさんありますが。このへんが一番マネジメントの最初にぶち当たる壁ではないでしょうか。

そのためには信頼関係を築くことが重要です。でも、本当に信頼関係を築きたかったら、基本的には人を信用しないことが一番だと私は思っています。これは誤解を恐れずにということなんですけれども、非常に冷たい人間なんじゃないかと思われがちなんですが人を信用しない。つまり人柄で評価しないことです。

「あいつはすごくいいやつなんだよね」とか「やってくれそうだよね」とかで評価しない。基本的には人の仕事を見て評価するということです。

人を評価すれば、嫌な奴とか合わないやつとやりたくないですよね。でも、人の仕事を評価すれば、嫌な人でも合わない人でも仕事ぶりはリスペクトできます。嫌な人とは一緒に昼ごはん行かなければいいだけの話で、これも重要なマネジメントです。

人を評価すると、信頼は裏切られるかもしれない。反対に仕事を評価すれば、人を信頼できます。つまり、人というのは一律ではありません。人の仕事の能力はでこぼこです。

この赤い線は求めている仕事のレベルだとすると、求めている仕事のレベルより上をいっている人もいれば、下をいっている人もいる。バラバラでガタガタなんです。

これに同じ信頼度というか、同じ距離感で接しているとうまくいかない。だから、平等には接しないことがプロジェクトマネージャー、プロジェクトマネジメントにとって重要です。

だから、求めているラインに対して公平に接します。公平に接するというのはどういうことかというと、仕事の出来具合で距離感が異なってきます。

仕事の求めている仕事のラインより上をいっている人はどんどん仕事を任せればいい。求めている仕事のラインの人はそれなりに信頼を置いていろいろ仕事をやってもらう。下回っている人にはそれなりにちゃんとマネジメントを強化していかなければいけない。このへんはもっとよく注視していく必要があります。

すごく下回っているなら信頼をして仕事を任せられないので、単純な作業だけをやってもらうようにする。ギャップの幅が信頼の幅なんですね。なので、プロジェクトマネージャーはこのギャップの幅をマネジメントすることが重要になってきます。

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