マネージドサービスを導入する上での教訓

>

及川卓也氏(以下、及川):パッケージとマネージド環境って、実は類似点が多いと思うんですよ。やはりマネージドはどうしてもブラックボックス的になったり、実際にいくつかのサービスは、そのベンダーしか提供していないものだったりして、それに頼り切ってしまうと結局ロックインになってしまう。

なので、パッケージやマネージドの良い活用の仕方・悪い活用の仕方について、現在に至るまでの失敗と、うまくいきつつあるところの経験を踏まえて語るとしたら、どんな教訓がありますか?

澤田寛央氏(以下、澤田):1つは、PoCと言われていた頃と今を比較すると、パッケージを使っていた頃は、私たちは利用されていたなと思います。

今回失敗してしまったところからまた持ち直す際に、自分たちでデータモデルを作り上げることができました。それは、マネージドのいい部分をうまく利用して、自分たちのアーキテクチャに取り入れる主体性が大きなキーワードになったと感じています。

及川:自ら選択しているんですよね。以前は選択しているようで、おそらく選択させられていたんですね。

澤田:そうですね。

黒田雄大氏(以下、黒田):技術選択の仕方も、大きく分けて2つあると思っています。

「ここでしか使えない」みたいなロックインがかかりがちなマネージドもありますが、逆に言えば、クラウドベンダーであればどこもやっているようなサービスは、そこが不当に釣り上げてきたら「ほかに移ればいいや」という考えもできるので、マネージドのほうが自前で立てるよりも安くて、ロックイン度が低いのであれば、ある程度は積極的に取っていきます。

一方で、先ほどCassandraで出たような自分でやるには大変すぎるものは、自分でやったあとにボリュームをつかんだ上で、「何がどう大変だからここは頼ろう」という判断をちゃんと意思決定しているのではないかと思います。ですので、2つの違う意味でちゃんと選択できているかなと思います。

及川:デンソーもそうですし、ほかのIT専業メーカーではない一般事業会社さんは、日本のIT業界においては、良いパートナーと悪いパートナー、良いマネージドと悪いマネージドはいろいろあると思うので、そこはやはり強くあって欲しいし、そのためには戦略的な判断ができる理解をし続けていかなければいけないと思います。

ストレスなく開発するための環境

及川:次に人の話についてもう少し深堀りしたいと思います。先ほど開発室のことを「動物園みたい」と言っていましたが、どんな環境で開発されているのかを教えて下さい。

矢ヶ部弾氏(以下、矢ヶ部):そうですね。では、私たちの動物園についてご紹介させていただきます。

(一同笑)

まずは、私たちが働いている場所について説明します。なるべく開発者がストレスなく、生産性高く働くためにはという観点に基づいています。また現在、刈谷と秋葉原の2つオフィスで開発をしています。

アジャイル開発を主としていますので、全面ホワイトボードを作り、そこにバックログを入れて、毎日朝会でタスクの割り振りをやっています。

もう1つ特徴的なのは、ヒトづくりです。一人ひとりの技術向上のために、モブプロ・ペアプロに取り組んでいます。

あと、なるべく息抜きできるような仕掛けとして、バランスボールを用意したり、ボールを用意したりしています。

また、オフィスは土足厳禁にしています。そうすることで清潔さを保てますし、床に寝そべることができるし、開放感が全然違うなと思っています。

ここで言いたいのは、仕事もゆるくやっていると思われるかもしれませんが、実はめちゃめちゃきっちり、かなりシステマチックに業務に取り組んでいます。

10時〜19時までが秋葉原オフィスの就業時間なのですが、朝会・昼会・夕会をしっかりやっています。時間も10分以内と決めています。だから、ダラッとしたり、メリハリなく、21〜22時までやるということは一切ありません。

なぜこんなことができるかと言うと、私たちのような事業会社の社内システム開発では、「明日対応が必要なの?」みたいなことは調整がききやすいからです。このあたりをプロダクトオーナーが調整しながら、開発者が安心して仕事に取り組め、生産性が一番高くなるようにしています。

ただ、これがお客さま対応になるとどうなるかというと「今、それが本当にいりますか?」「明日までにやらなければいけないのか?」ということが調整しづらくなります。このあたりは、日本全体として考えていく必要があると思います。

及川:最後は過剰品質みたいなものですよね。実際使われないものを作って、本当に満足されているのかを考えなければいけないというところについての提案ですよね。

矢ヶ部:はい。

澤田:そもそも開発者としては19時以降働きたくないので、クラウドプロジェクトが全部20時ぐらいにシャットダウンします。なので、普通に開発できなくなります。

及川:強制的にストップするんですね。

デンソー内の変わり者が集まった?

及川:所属しているのはどんな人なんですか? 動物園やサファリパークなど、いろいろなことを言われていますが、ここにはデンソーの典型的な人が集まったんでしょうか? それとも変人が集まった感じですか?

矢ヶ部:どちらかというと異端だと思います。工程設計者、ソフトウェア技術者が集まっていますが、他の組織に比べて変人のほうが多いですかね。

黒田:変人のほうが多いんですけど、みんな「私以外は変わっているな」と思っています。

及川:いずれにしろ、私はIT活用を進めましょうというときの人材として、エイリアンとミュータントだという例えをしています。

まさに澤田さんのように外部から加わってくれる人と、内部で声をあげるような人材をいかに集めておくかが大事であり、今やられている生産技術の方々は、そういった人材がうまく集まったなと思います。

一方で、バラバラだと行く方向もバラバラになります。みんなが「今からあっちの山に登るぞ」と言っているのに「私はこっちに登りたい」と言ってる人を多様性という名の下に集めても、結局何も起きません。やはり1つの方向に行くというところをしっかり見せられたのかなというイメージを持っています。

矢ヶ部:忘れもしない2019年2月1日に、内製プラットフォームの元、みんなで意識を合わせたことがありました。開発メンバーを全員集めて「本当にあなたたちが達成したいものは何ですか?」と書いてもらいました。そのとき、ほぼ全員が「製造部に貢献したい」と書いたんです。

みんなそれだけ合ってたんです。バラバラのことをやっているように見えて、目標は1つなんです。今でもみんなそこは守ってやっています。

求めるのは尖った人材

及川:ほかに人材面で特徴的なところはありますか? デンソーの生産技術でのIT活用がおもしろいということを世に知らせたいと考えたときに、どんな人材に来てほしいでしょうか?

黒田:そうですね。私はどちらかというと製造現場のほうから上がってきた人間なので、両方知っているということは非常に重要だとは思います。ただ、外部の人に今からジョインしてもらうのであれば、いっそすごくITに尖った人にきてほしいなと思います。

いろいろな人材が集まっているとは言いましたが、本当のITのITから来ている人は今のところあまりいません。ですので、そんな人たちにぜひジョインしていただいて、そういう空気を持ってきてほしいなと思っています。

黒田:逆に私たちからも攻めていこうと考えています。東京のソフトウェアミートアップにもよく参加するようになってきているので、どんどん距離を詰めていきたいなという気持ちがありますね。

澤田:私もITに尖った人で、あとはモノづくりを分かっていて、なおかつITを分かっているという人材も……なかなかいないとは思うんですけど。

そういう方がいると、実際の工場の中でこういう活動がしたいと上がってきたときに、それに対してソリューションを提供できて、速いサイクルでアプリが作れる。私たちは稼働率アップ、生産性アップを目指しているのですが、そんな人材であれば生産性アップにすぐにつなげていけるかなと思います。なかなかそんな人はいませんが、そういったモノづくりとソフトを分かっているような人材が欲しいなと思っています。

リアルな世界との結びつきがもたらすもの

及川:2人に共通していたのは、IT業界のIT人材に来てほしいということだと思います。昨今、DX等で内製化し始めている会社もあるなかで、IT人材の争奪戦が非常に厳しい。その方々にデンソーはどこがおもしろいか、とくに今回の生産技術におけるIT活用、Factory-IoTはどこがおもしろいのか、魅力を語るとしたらどんなところでしょうか?

澤田:1つは、実際のモノとつながっているところかなと思っています。例えばWebだと、クリックからはじまるIDの紐づけですべてが流れていきますが、モノづくりはそれだけではありませんよね。実際にモノが流れていて、そのIDをどう振って、どうやっていろいろなものと紐づけていくか。その実体があるところがけっこうおもしろいかなと思います。

及川:リアルな世界との結びつきですね。

矢ヶ部:例えば、純粋なソフトウェア会社とは違い、自動車部品(ハード)を主幹事業としているので、それが私たちのアドバンテージになるかなと思っています。さらにソフトウェアも作れるのであれば、そのハードと組み合わせていろいろなサービスを作ることができるので、その意味で私たちにはアドバンテージあるんじゃないかと思ったりもします。

私たちのシステムは社内工場向け、すなわち社内投資なのでお客さんからお金を頂かず、中でROIを描きながら、どんどんそういったものを作ることができます。そこからソフトウェア技術者がファクトリーを飛び越えて、モビリティなど活躍できる土壌を作れるのではないかと思っています。

及川:そうですね。先ほど、実際に動いているものを見たときにうれしかった、という話がありました。それがリアルに感じられるところかなと思うんです。自社の工場ですから、そこで動いている自分たちのシステムにどう役立っているのかをリアルに見ることができる、モノづくりのうれしさというところ。

あとは、技術者というのは、一方で本当に使われているところに喜びを感じるとともに、自分の成長を求めていますよね。今後ますますリアルとネットの融合、いわゆるサイバーフィジカルの領域が広がっていくなかで、リアルのところで実際に腕試しできる、実力を伸ばせるところも、将来的なキャリアを考えたときに魅力になってくるのではないかと思います。

矢ヶ部:今日はどうもありがとうございました。

(会場拍手)