「Software is eating the world.」な時代に経営はどうあるべきか

松本勇気氏(以下、松本):みなさんこんにちは。

会場:こんにちは。

松本:お昼ご飯の後で眠いかもしれないですね。実は、初めて起業したときはネットエイジさんから出資を受けている会社にいて、このBIT VALLEYという言葉は少し懐かしいです。

今日は「経営とはソフトウェアだ」というタイトルでみなさんにお話をしようかなと思います。実は時間を間違えて40分ぐらいの資料を作ってしまっているので、ところどころ飛ばしながらお話をさせていただければと思います。

先に簡単に自己紹介をしておきます。DMMという名前はみなさんご存知だと思うので、説明はしないでおきますけど、我々は今40ぐらいの事業を持っていまして、本当に軸もバラバラです。

器のような会社と書いているんですけど、なんでもありです。例えば、最近だと消防車のメーカーを買収していて、今は我々の会社で消防車を作っています。あとは、プログラミングスクールをやっていたり、それこそエンターテイメントのアグリゲーターをやっていたり、いろいろなサービスをやっています。

今は創業から21周年で、売上がだいたい2,200億で会員が3,200万人弱という規模になっていまして、会社のメンバーが4,000人ほどの会社になります。

僕自身は、今はDMM.comのCTOなんですけど、大学在学中からずっとスタートアップをやっていて、実はプログラミングを始めたのは大学3年生ぐらいなんですよ。そこからプログラミングを始めて、スタートアップを始めて、3社やったのちにGunosyという会社に入社しました。Gunosyの創業直後ですね。

最初はアルバイトから入って、そこからいろんなファンクションになっていって、だんだんと進んでから執行役員、CTO、そこから新規事業担当などを経て、最後のほうはブロックチェーンをやったり、マシンラーニングのアドテクノロジーをやったりと、いろいろな領域の事業をやっていました。

そこからどうしようかなと思っていたんですけど、日本の中で長い歴史のある会社が変わっていく姿はとても大事だと。「日本は、古い会社がたくさんのリソースを抱えているのに、やっぱりテクノロジーを経営に生かしていないよね」という課題が個人的にはありました。この国をより元気にしていこうということであれば、実はスタートアップ以外の戦い方もあると思っていて、それで昨年の10月にDMMに入社することにしました。

今はCTOをやっておりまして、本当になんでもやっています。「技術はなんでもやります」というタイプです。

本日の話なんですけど、だいぶ昔から「Software is eating the world.」な時代と言われているんですけど、すべてがソフトウェアになる時代に、経営とはどうあるべきか。その中でみなさん一人ひとりがキャリアとしてどう考えていくべきか、というお話をサクサクとさせていただければと思います。

Observabilityとシステム

まずは、キャリアの前に「ソフトウェアと経営」というお話をさせていただこうかなと思います。ここはエンジニアの方も多いだろうし、それ以外の職種の方もいるかもしれないですけど、今のITという産業が興った理由は、このソフトウェアというものが大きいです。

「ソフトウェアって何なんだろう?」といつも考えているんですよ。「なんでこいつが我々の社会をこんなに変えてくれたんだ?」と。考えてみると、ソフトウェアというのは、まず一番大事なことは反復可能性。何度でも同じ動作を繰り返せる。printfで"Hello world"と書いてそれをコンパイルして動かす。もしくは別にインタプリタに食わせれば、毎回「Hello world」と返してくれる。技術力次第で、ちゃんと設計すれば同じ動作を何度でもしてくれると。

この上で、我々はさらにスケーラビリティを持っています。計算リソースは、僕らはクラウドの時代にあるので、何も考えなくてもお金さえあればいくらでもスケールできるよねと。このスケーラビリティがあります。

実は、このソフトウェアの進化によってもう一個見えてきたところが、計測可能性です。ソフトウェアを動かすと、ログが生まれたり記録が生まれるわけですよ。ソフトウェアの挙動をすべて記録できるんです。そういった挙動の中で、ユーザーのアクションなどを一つ一つ計測できて、それを数値に落とし込むことができる。しかも、それが何テラバイト、何ペタバイトというサイズのデータになっても、ある程度は使える時代になってきました。

大規模な分散並列処理、データ処理ができるようになってきて、ビッグデータと呼ばれるような時代がやってきて、数十億のログをちゃんと分析をかけて活用できるようになってきた。同じ動作を繰り返して、かつその過程をすべて記録することができる。これがソフトウェアの持っている重要なファンクションだと思っていて、これが新しい時代を作ってきました。

このときに、とくに我々マイクロサービスをやっているような人たちからすると馴染みのある言葉かもしれないんですけど、少し脱線して「Observabilityとシステム」というお話をしようと思います。

我々の世界というのは、基本的にシステムとして考えることができるんじゃないかなと思っています。「システムって何ぞや」と言うと、いろいろなオブジェクトがあったときに入力と出力があって、その中に何らかの状態があって、それらのたくさんのオブジェクトがお互いが相互に関係し合いながら、インとアウトをやり取りしながら動いている状況です。

基本的に、人間だって空気を吸ってご飯を食べて活動するということをやっていて、いろいろなものがシステムとして考えられるよねと。

そのときに大事なことは「システムを知る」ということです。我々が科学をするためにシステムを知るということが必要だと。それを観測できるということをObservabilityと呼んでいます。日本語では可観測性と言いますね。

観測することで、システムというのは初めて中身を理解することができます。見えないものは何も理解できないけど、見えてしまえばそれは仕組み化できます。

事業を科学するためのObservability

この“仕組み化できる”ということが、先ほどのソフトウェアが計測できることにつながってくるんですけど、我々が事業や経営をする上で、事業や経営そのものをシステムとして捉えてみようと。

事業をシステムとして捉えたら、我々が何をインプットにしているかと言えば、例えば資本金ですね。バランスシートに溜まっているお金があって、それから人がいて、物があって。これらを入力すれば、最終的には売上や利益、社会貢献、顧客の満足度とかいろいろなものになってくる。それで、その事業をより知るためには、その中を観測しないといけないので、Observableでないといけません。

観測すればそのシステムについてきちんと理解ができて、理解ができれば我々が事業を科学できて、細部まで理解ができるようになります。

なので、会社と事業のObservabilityが大事になってきていて、「事業を複数の要素の集合からなるシステムだと考えてみよう」という地点から僕たちはスタートしてきて、それを観測して科学的改善をしていこうというスタンスが、ソフトウェアが事業に対して与えている大きなインパクトだと思っています。僕自身、Gunosyという会社からずっとやってきているのはそういったレイヤーだと思っております。

中身を科学すると改善が回せる

それで、事業をシステムとして考えて、それをソフトウェアで定義をしていくと、ログが生まれてきますよね。それを分析基盤に食わせれば数値となって、それを分析していけば事業の仕組みが見えてきます。

それをせずになんとなく事業をやってしまうと、例えば、スタートアップとしてシードで3,000万円調達しましたと。そこから3,000万円をどう使っていったらどうなったのか。例えば、その結果としてユーザが10万人になったんだけど、なぜそうなったのか。それがわからないと、次に1億円入れても10億円入れても同じことができるかわからないんですね。

これを解釈しないといけない。システムを確実に改善するためにも解釈する必要がある。その解釈をするために、Observabilityを意識しないといけない。

だからこそ、そのために我々の会社というものすべてを、ソフトウェアでワークフローを構築してあげたりする必要があります。例えば、ワークフローを構築する例で言うと、「ユーザーさんから問い合わせが来てそれに返す」みたいなところをどういうシステムに落とし込んでいけばいいのかとか。

会計的なお話だったら、我々がパソコンを1台買う、サーバを1台増やすといったことに対しても、すべてを記録するソフトウェアにワークフローをちゃんとマネージしてあげるようにするとか。そうすると、その段階でログが残るわけですよ。それを全部分析できるような環境まで持っていくと数値として見えてくるよねと。そのように、数値として見えるためには、ソフトウェアが大事です。

さらにちょっと余談ですけど、オフラインで物流のサービスをやっている方であれば、倉庫があると思います。倉庫の中で物を運んだりするときも「今倉庫のどこに何があって、誰がどういうふうに持ち込んで来て、誰がどういうふうに持ち出して行ったか」とか。

こういったアクションの一つ一つはIoTと呼ばれていますけど、例えば、QRコードを貼ってバーコードを読み取る、RFIDを貼ってそこで電波を読み取るとか。そういったかたちでどこに何があるかをちゃんと計測できて、オフラインの環境であっても我々はソフトウェア化することができて、計測できると。

そうすると、事業のObservabilityが向上されて、科学的な改善ができるようなフローになってきます。要は中身を科学できる。そうすると改善が回せるという話になってきます。