できるようになった途端にやめちゃう問題

及川:次に「できるようになった途端に辞めちゃう問題にどう対応しているか」。如何に自分の組織を魅力的にしてタレントを引き留めておくかという話だと思いますが、何か工夫されていることありますか?

西場:じゃあ一言だけ。僕の昨日のTwitterを見ていただければいいんですが、例の僕のチームメンバーはすごく優秀なので、転職でスカウトしたい人はいい待遇でスカウトしてください。まぁ、引き留めるというよりは魅力的な場所を作ったらいいのと、やはりそのうちみんな辞めていくので、「キャリアアップしてくれたら僕としてもうれしいよね」みたいな。

「エムスリーの機械学習出身の人たち、いろんなところで活躍してるよね」って言われる世界を僕は目指してます。なので、辞める時は仕方ないかなって思ってます。

及川:これはもう少しブレイクダウンしたほうがいいかなぁって思い始めたんですけど。辞める人はなんで辞めるんでしょう?

西場:……え!?

(会場笑)

いまのところ、ソフトエンジニアの人が辞めたケースはありますが、MLやデータを専任で一緒にやっている人たちで辞めた人は今のところいないので、わからないですね。

ただ、他のチャレンジしたい人というのは僕自身もそうなんですが、おそらく同じところにいると成長が鈍化するかなぁみたいなことは思いますよね。僕も一時期、本当にscoutyさんを受けたいなぁとか思っていたので。チャレンジしたいなぁって。新しいチャレンジというところはあると思うので、仕方ないかなと思います。

及川:今言われてるのは、成長の機会を求めてってことですよね。とすると、事業が1つしかないとなかなか難しいですが、社内にできるだけ成長の機会を用意しておく。少し大きくなって事業が増えたり、もしくは同じ事業の中でも画像系があり、自然言語があり、何がありと増えていくと、そちらに行く可能性を求めて残るということは十分あると思います。

他には、成長の機会以外でも辞めてしまう例もあると思います。ちょっとこじつけでいくと、下の「機械学習人材の年収バブルについて。現状でどう考え、今後どうなっていくと考えてるか聞いてみたい」……。

(会場笑)

分かりやすいこと言うと、年収がこっちにいったら倍になるという状況が下手すると普通にあって、年収に惹かれて辞めちゃう人も出てくるのではないかと思います。そういうところはどう対処します?

今井:これはわからないんですけど、数年前のゲーム会社などでの札束バトルみたいなことがバブルの時期はありました。仕方ないと言えば仕方ないんですが、もう魅力と魅力で戦っていくしかありません。決してスタートアップだからといって安いということではなくて、しっかりと誠意として示していくという愚直な話になってしまいますね。

及川:要は年収だけじゃないので、年収はある程度競争力があるものを出しつつ、技術者として、機械学習エンジニアとしておもしろいという魅力作りをしていくことで対抗したいという話ですね。

今井:はい。ここでこうしているのもそれかもしれないな、というところです。

(会場笑)

機械学習エンジニアへの投資は上がっていく?

及川:他になにか……。どうぞ。

高濱:さっきおっしゃられたように環境とか働く内容ももちろんありますし、その会社が実現したいビジョンももちろん強く影響するとは思いますが、そもそもすべての会社が給料を出せるようになっていくのでそれは戦いになるのではないかと思っています。今って小さい会社は給料を出す基礎体力がない場合が多いので、それこそストックオプションとかで人を引き留めようとするんですけど。

本当に機械学習エンジニアとか、あるいはデータサイエンティストというのは、プロダクトに良い価値提供をしていて、それでプロダクトが勝つとなれば、絶対に会社も必要とすると思うので、それがないと成立しない世界観が本当にくると思っています。

それで本当に高給を出さないと雇えないとなれば、たぶん投資額がだんだん上がっていくんじゃないかなと思うんですよね。たとえば10パーセントの株を出したときに、そこに返ってくるお金の額もおそらく全体として上がるんじゃないかなと思っています。それで結局、市況に対して全員なんでか倍ぐらいもらってるけど、みんなお金はなぜかタプタプでもらっていて、という状況が来るなぁって思って、僕は期待してます。

(会場笑)

及川:ということは「まだバブルの始まりだぜ」が回答ということでよろしいでしょうか?

高濱:そうです。そうであってほしいと、僕は心の底から思ってるんですけど……。

(会場笑)

もちろんそれは僕たちが価値を提供できてるという前提で、なんかこう「みんななんとなくやりたいからやっていて、実際は価値がありませんでした」という場合ははじけると思いますし。

及川:確かに。バブルという言い方がよくなかったですね。本当にそこに価値があったら、それはバブルではないので。バブルじゃない実態をきちっと作っていけば、その投資額に見合った価値を生み出すようになる。なので年収をそれなりにもらったとしても、その人がそれ以上に事業に貢献するようになっているようになればいい、という話ですね。

高濱:ありがとうございます。その通りです。

及川:なるほど。わかりました。他の方は何かありますか?

期待が先行している

原島純氏(以下、原島):僕は、たぶん落ち着いていくんじゃないかなぁと……。みなさんのようにハッキリ言えませんが、落ち着いていくと予想しておきます。やはり価値を出せてるかというと、期待が先行してしまっているという状況はすごくあるかなと思います。

あとは別の話になってしまうかもしれませんが、待遇が良いところに行くためにどんどん転職したほうがいいとは思いますが、転職ばかりするのはやっぱり良くないと思っていて。というのは、ある会社にいて、その環境に慣れて成果を出せるということがあると思うんですけど、とくに機械学習の場合だとそれは大きいと思っています。

機械学習の場合、その会社ごとに前処理って全然違うじゃないですか。例えばデータどこに入ってるかとか、このデータをとってきたとして、弊社のレシピに対してどういう前処理をするかというのは会社によって違うので、そこに慣れるのにすごく時間かかるし、それに慣れてから、やっと機械学習エンジニアはバリューが出せると思うんですよね。

なので、そういう力が発揮できるところにどんどん移っていくのは重要なんですが、お金ばかり考えるのではなく、そういったところも見ないと、最終的に本人の市場価値が上がっていかないと思うので、それは気を付けたほうがいいかなと思っています。

及川:なるほど。今、データの在処やデータをどう取り出すかというテクニカルな部分のお話をしていただきましたが、一方で、恐らくそこにドメイン知識のようなものも含まれていて、ドメイン知識の習得にも当然時間が掛かり、価値を出せるようになるまではある程度の時間が必要だという話でよろしいですかね?

課題抽出を誰が担当するか?

及川:今みなさんの会社では、課題抽出のところも機械学習エンジニアがやってるのか、それともプロダクトマネージャーなどの全体の事業を理解したうえで何を課題としてデータを見るかを考えているか、誰が担当されていますか?

高濱:いいですか?

及川:もちろん。

高濱:社長から「話せ」って圧力がすごいんで……。

(会場笑)

僕はアルゴリズムマネージャーという役職ではないのですが、ロールを持っていて。これは最近だとプロダクトマネージャーがいて、その下にプロダクトオーナーがいて、プロダクトの優先順位を付けます。

その他に、プロダクトマネージャーでは必ずしも機械学習プロジェクトの難しさや効果を正しく計れないので、ある程度詳しい全体を見ている人がそれを統括するのがよかろう、という気持ちです。POと並列かどうかも怪しいんですが、アルゴリズム関係の開発プロジェクトの優先順位を付けたりする仕事を僕がやっています。

ビジネスとの兼ね合いというか、ドメイン知識を十分身に付けたうえでやっていく仕事は絶対必要だし、マネージャーがどれだけ発達しても解決できない問題だと思っています。そういう人間をPMと実際開発するチームのまわりに置くという考え方は、ワークするんじゃないかなって思って試しています。

及川:なるほど。わかりました。他の3社はどうされてますか?

今井:そもそもデータがたくさん溜まっているということで、POの林と、「何かおもしろいことできるんじゃないかな?」みたいな感じで始めたので、そこに理解はあります。CSOもデータに対して非常に理解があるので、あまりハードルなくドメイン知識で話せます。

ただ、機械学習エンジニアというかエンジニアサイドも、「顧客への価値」で話せないと精度の話をしても仕方ないなと思っていて。だから、「この精度が上がるとどれだけ価値が提供できるのか?」というのは、エンジニアとしても話しているほうがおもしろいと思いますね。

及川:なるほど。全ての社員がある程度データに対する知見があり、事業サイドから来るときにも機械学習を理解した上でくるし、エンジニアのために作るのではなく、価値を考えると。

今井:はい。

及川:なるほど。わかりました。他ありますか?

原島:はい。

及川:原島さんお願いします。

原島:どういったタスクに機械学習を適用するかという話だと思いますが、これはすごくよくいただく質問なのでいつも同じことを答えていますが、半分半分です。半分は他部署からいただいていて、「他部署からこういうニーズがあるので、機械学習でなんとかできませんか?」といったものです。ただ、それだけではなかなか……。他部署の方は機械学習に詳しいわけではないので、ちょっとズレていたり、思いつかなかったりすることがあるんですよね。

なので半分はこちらサイドでシーズを持って「こういったものを作りませんか?」とサービスのイメージまで具体化して、「一緒にやりませんか?」と話をしていくようにしています。どちらにしても楽しく一緒にやるんですが、半分は向こうからニーズがきて、半分はこちらからシーズベースで「何かありませんか?」とタスクを見せている感じです。

及川:わかりました。エムスリーさん何かありますか?

誰がやるかではなく、みんなが考えなければいけない

西場:僕の上司がプロダクトマネージャーでVPoEをやっているんですが、僕もプロダクトマネージャーの勉強を一生懸命したり教えてもらったりしています。

そこで思うのが、「強いプロダクトを作る」といったときに、誰がどこをやるかではなく、みんながちゃんと考えなければいけません。みんながみんなプロダクトマネージメントやプロダクトについて考えようとしていくと、自然と将来マネージドなサービスになったとしてもエンジニアがおもしろいプロダクトを作るために他の人と協力してやっていく、みたいな体制ができていくのかなと思っています。

現状では僕もビジネス側というか、企画をやって提案もしますし、他の人から来た提案を一緒にブラッシュアップしています。僕の動きが特殊なわけではなくて、そこにいる笹川もそうだし、最近入った河合さんも普通にビジネスサイドと議論したり、売り込みに行ったりしています。

社内における機械学習エンジニアの利点って、機械学習に対してめちゃめちゃ詳しいことなんですよね。だから、機械学習をあまり知らない人が機械学習を使ったプロダクトを考えるよりも、一緒になって考えたほうが絶対いいですよね。そして歩み寄ることで、向こうの専門領域のあるビジネス企画も僕らが理解して、一緒に議論できる環境を作れるようにがんばっています。

将来自分がマネージャになったりしたら、僕としては、おもしろいプロダクトを作るスピードが速くなってうれしいなぁと。もし僕が今コード書いてるやつを5分でできるようになったらいい世界だなぁと。どんどんどん医療が良くなっていく期待しかないんで、まぁいいかなと思ってます。

及川:なるほど。その技術だとか、自分自身が本当に1から作るってことにこだわるよりも、その事業に対する貢献を考えたときに、楽できるなら楽できたほうがいいと。

西場:はい。そして、周辺のエンジニアリングは自分でやりたいな、みたいな(笑)。

及川:なるほど。わかりました。