2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
デンソー寺部氏 講演(全1記事)
提供:株式会社デンソー
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寺部雅能氏(以下、寺部):デンソーの寺部です。私は先端技術研究所に所属しており、4年前に量子コンピュータを使って事業を創出する取り組みを始めました。今日は、私たちがどんな挑戦をしているのかを知っていただけたらと思います。
まず、私の自己紹介をしたいと思います。
みなさん、この「63」という数字、なんだと思いますか? これ、実は私が行った国の数です。
私は昔からバックパッカーをやっていました。リュック1つで航空券だけ持って、その日にホテルを取って、次の日の行き先もそこで決めて。泊まるのは100円、200円の相部屋の安宿で、相部屋の外国人といろいろ放浪する。そんなことをやり続けて、63ヶ国に行きました。
私は「世界」という言葉と「挑戦」という言葉が大好きです。この量子コンピュータも、そんな世界への挑戦ということで始めました。
次にデンソーの紹介をします。みなさん、デンソーという会社をご存じですか? 当然、ここに来てくださっているみなさんが知らなかったら悲しいんですけれども。
(会場笑)
「走る」「曲がる」「止まる」「ぶつからない」「つながる」「伝える」「快適」。クルマのあらゆるところにデンソーの製品やシステムが入っています。世界中のクルマのシステムを下支えしている、そんな会社がデンソーです。
自動車業界は今「100年に一度の変革期」と呼ばれていることを、みなさんご存知ですか? 自動車業界の方はよく知っていることですが、ほかの業界の方は知らないかもしれません。
どんな変革が起こるかというと、自動運転、電気自動車、コネクティッドカー、クルマのシェアリングが始まります。こういった大きな変化に対して、私たちの会社は挑戦し続けています。今日はそんな挑戦の1つである量子コンピュータのお話をします。
量子コンピュータの取り組みを説明する前に、私が目指したい姿をご紹介します。みなさん、クルマには乗られますか?
(会場挙手)
やっぱり東京だと(ほとんどが手が挙がらず)こうなりますよね。デンソーの本社がある愛知県ですと100パーセント手が挙がるんですが。ぜひクルマを買ってください。
(会場笑)
クルマに乗られる方は、おそらくいつもこう思っているはずです。「自分が一番早く着きたいな」って。だって、例えば隣のレーンがスイスイ進んでいて、自分のレーンが混んでいたら、嫌じゃないですか。慌ててレーンチェンジして早く着こうとしますよね。ですが、実は自分が一番早く着きたいと思っていると、みんな早く着けないんです。
まず左の絵を見てください。みんなこのスタジアムに行きたいんです。みんな一番最短のルートに行きます。混みます。そうなると、渋滞を鑑みて次に一番早いルートに集まります。すると、また渋滞します。このようにどんどん渋滞が起きて、みんな幸せになれないんですね。
では、ちょっと発想を変えてみます。みんなで早く着こうと思ったとすると、「じゃあ私は左から行くわ」「私、右から行くわ」と最初から街中でクルマの経路が分散されれば、左と右でまったく同じ数になり、渋滞しないんですね。この場合は、目的地に到着する数も2倍以上になります。
このように、世の中を大きな視点で最適化すると、実はもっとよくなる可能性があります。ですが、こういったことをやろうとすると計算がとても大変で、今までのコンピュータではできませんでした。
ですがそこに、これを実現できそうなコンピュータが登場しました。それが量子コンピュータです。
この量子コンピュータと、100年に一度の変革期と呼ばれる自動車の世界を掛け合わせて新しい価値に挑戦する。そんなことに取り組んでいます。
量子コンピュータは、0と1を重ね合わせている量子ビットという謎の物体を持っていて、これによって超高速に最適な答えを見つけ出すことができます。
これによって、どんなことが起きるのか。そんな量子コンピュータはあと5年ぐらいで実社会で使われるようになるかもしれません。
これはビット数のロードマップですが、先ほどお話のあったD-waveマシンは、現在2,000ビット、来年には5,000ビットが出るといわれています。そんなスケールで進んでいて、これをもってあと5年で使えるようになるかもしれません。
ところで、みなさんは量子コンピュータの実物を見たことがありますか?
写真の一番左が私です。量子コンピュータってすごく大きいんですよね。高さ3メートルです。なぜこんなに大きいかというと、コンピュータの心臓部であるチップが超伝導という物体でできているからです。チップ自体は手のひらサイズなんですが、超電導というのはマイナス273度ぐらいに冷やさないと動きません。ですので、これは大きな冷凍庫なんですね。
私は自動車業界におりますので、最初はこう考えました。「どうやったらこれはクルマに載るんだろう?」。ですが、冷凍庫を小さくするのは大変です。いずれクルマに載る日が来るかもしれませんが、当面は載りそうにありません。「じゃあ、クルマに載らなくていいアプリケーションは?」と考えたときに、IoTの世界、コネクティッドの世界で使えないかと考えました。
自動車業界にとっては2つのコネクティッドがあります。1つはクルマのコネクティッド、クルマのIoTですね。もう1つは工場のIoTです。工場もどんどんインターネットにつながっています。
コネクティッドの分野は、「最適化」が課題になるといわれています。
これは経営学者のマイケル・ポーター先生が出されているロードマップです。コネクティッドは、最初にセンサーをたくさん入れてデータを見える化します。データが見えるようになったら「そのデータを使ってなにかしてみよう」という「制御」のステップがあり、制御ができるようになったら「もっとすごい制御をしよう」ということで「最適化」があり、自動化へと進んでいきます。
ご存じかもしれませんが、クルマはセンサーのお化けみたいなものです。なので、今は「それを使って何をしよう?」というステップ2〜3あたりですね。一方で工場の世界は、がんばってセンサーをいっぱい入れつつあり、だんだんデータが取れるようになってきたというステップ1〜2あたりにいます。
そういう意味で、「最適化」はこれから需要が一気に増してくる分野です。「これから」と「最適化」というキーワードで思い出されるのが、量子コンピュータです。ですので、こういった世界に量子コンピュータを使うことですごく価値が出せるのではないかと考えています。
最適化について、「量子コンピュータを使ってまでやらないといけないことなの?」と思われるかもしれません。
これは渋滞解消の例です。難しい話はしないので、なんとかついてきてください。例えば、クルマ1台あたり、目的地まで3通り経路の候補があったとします。ここにクルマは2台あり、それぞれ3通りの経路があります。
1台あたり3通りであれば、クルマ2台で、経路の組み合わせは3×3=9通りです。組み合わせによっては、渋滞してしまう組み合わせもあります。そのため、「これは渋滞するダメな組み合わせだね」ということを9通り計算して、一番良いものを求めるのが、簡単な渋滞解消のモデルになります。
ですが、クルマ1台で3通りあったものが、10台で組み合わせ6万通り、20台で35億通り、30台ではなんと200兆通りになってしまいます。今までのコンピュータでは、これを計算するのにものすごく時間がかかってしまいます。
こういった渋滞解消の計算は、基本的にはシミュレーションの世界でしかできませんでした。これを量子コンピュータを使って1分で解けるようになったら、街中のクルマを制御することで街から渋滞をなくすことができるのではないかと考えました。
これはあくまで渋滞解消の例ですが、こういったシミュレーションでしかできなかった世界を現実に持ってくることができたら、何かおもしろいことができるのではないかと思いませんか?
僕たちは、その瞬間、瞬間を最適化することによって新しい価値を生み出す「Optimize the Moment」という挑戦を始めました。
動画をお見せします。
(映像が流れる)
今僕たちは、渋滞大国のタイで渋滞解消ができないか実証実験をやっています。
バンコクなのでトゥクトゥクを動画に入れてみたんですが、細かくてなかなか気づかれません(笑)。
(会場笑)
今までのナビゲーションの場合、行きたいところに対してナビゲーションがみんなに同じルートを案内してしまうので、道路が混雑してしまいます。ですが、最適なルートを計算しようとすると非常に膨大な計算量になりますので、これを量子コンピュータでなんとかしたい、というプロジェクトです。
これによって各車のルートをばらけさせることで、街から渋滞をなくす。渋滞をなくせるということは、例えば、救急車に優先的にルートを配車してあげて、人の命をたくさん救うこともできますし、配送ルートを最適化することで物流をもっと良くできたり、いろいろな価値が生み出せるのではないかと考えています。
そんな挑戦を工場でも行っていますので、ぜひYouTubeで見てください。
タイから渋滞をなくす実験や、工場をリアルタイムに進化させる挑戦をやっています。これは、実証のフィールドがたくさんあるデンソーならではの挑戦です。
こういった活動をやってきて、最近わかってきたことがあります。最適化というのは工場やクルマの世界だけに留まるものではなくて、もっと大きな社会レベルでいろいろなことを変革できるのではないかと思っています。
例えば工場の中でも、生産最適化だけに注目すれば生産だけですが、そこで働く人たちの健康を考えたら健康の最適化にもなりますし、トレーニングの最適化など、いろいろな観点で最適化していくと、町がどんどんつながっていきます。
そういった社会のレベルで最適化したらおもしろいんじゃないかと考えています。これも量子コンピュータがあるからこそです。
量子コンピュータはまだまだ市民権を得ていません。「量子コンピュータで何をしたいですか?」と言われても、ほとんどの人って「えっ、それ何?」みたいな感じでポカーンとしてしまいます。ですが私たちは、量子コンピュータが当たり前のように動く未来をつくるために、みなさんにもっと理解してもらわなければいけません。
という意味で、大関先生と私が書いたこの本「量子コンピュータが変える未来」は難しいことも少しだけ入ってはいますが、基本的には文系の方でも読みやすい内容になっています。みなさんの身近な企業さんたちに協力いただいて、「量子コンピュータでこんなふうに社会が変わるんじゃないか」というようなものを一緒に描いています。
今日この話を聞いて量子コンピュータに興味を持ってくださったみなさんは、ぜひ今日から私たちの仲間に加わってください。一緒に未来を変えていきましょう。
ご清聴ありがとうございました。
(会場拍手)
株式会社デンソー
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