ソフトウェアとハードウェアのエンジニアリング

池澤あやか氏(以下、池澤):いろいろと細かいところや聞きたいところがたくさんあると思うので、どんどん聞いていきたいなと思います。

私、自己紹介がまだでしたね。私はふだんはタレントをしております。週にタレントの仕事が2日ぐらい、残りはベンチャー企業でソフトウェアエンジニアをしています。

ふだんは、私たちの会社では「コネクティッド・ロック」と呼んでいるんですが、いわゆるスマートロックのAPIの開発をしています。どうぞよろしくお願いします。

ということで、モノを扱うソフトウェアのお話がいろいろできればいいかなと思っています。ソフトウェアオンリーのサービスとモノを含めたソフトウェアサービスには、違いがあると思いますが、及川さん、デンソー社内を見てみていかがですか? スピード感とか開発のリズムとか、結構違いがあるのかなと。

及川卓也氏(以下、及川):そのとおりです。どちらかというと、僕はずっとソフトウェア側で入ってきています。デンソーはハードの人なんですね。ハードの中の組み込みというものです。

とくにクルマは人の命を預かっているものなので、いわゆるアジャイルとめちゃくちゃ相性が悪いんですよ。ウォーターフォールで作られていて、V字型のモデルを忠実に守っているので。

でも、これはこれでやらなければいけないところがある一方、最近は車載のソフトウェアも2ヶ月に1回とか高い頻度で更新しなければいけないものもでてきており、その要求に応えられる仕組みを考えなければいけない。

なので、OTAと言われているAndroidなどのスマホでも使われている技術を、いかに車載にも適用するか。でも、このOTAにしても「どこまで勝手にアップデートしちゃっていいの?」ということがあるので、そこはやっぱりすごくおもしろいけれども、大変だという感じです。

ハードとソフトの距離

池澤:現場の方的には、いかがですか? 

石田晋哉氏(以下、石田):正直なところ、最近のハードウェアは全部ソフトウェアで駆動されているので、内部で制御されているとか。なので、本当にソフトウェアなしで純粋にハードという世界は、もう世の中にほとんどありません。

あとは、そのソフトウェアとハードウェアの距離がどれだけ遠いかが問題です。それは、クルマとクラウドは非常に遠いと思いますし、業界も違うので、それなりにハードルがいろいろあります。

逆に及川が話していたWindowsとIntelは、ソフトウェアとハードですが、非常に近いんですよね。だから、それがうまく組み合わさって市場を席巻したところがあって。

ハードルが高いがゆえに、いろいろとチャレンジしたり壊していかないといけないところとか、アプローチの仕方とかいろいろと考える余地があって、そこは非常に楽しいし、やりがいのある領域だと思っています。

2030年のクルマのかたち

池澤:ありがとうございます。今回のクロストークではテーマが設けられているので、うかがって行ければと思います。「未来のモビリティ社会はどうなってほしいですか?」。

私、実は免許を持っていないので、今まではこのモビリティに「誰かが運転するモビリティに乗る」みたいな選択肢しかありませんでした。将来的にはそういう人たちが免許なしでも使えるモビリティみたいなものが生まれてくるといいな……と思っているんですけど。

あとは、人間って万能ではないので、必ず事故を起こしてしまったりするなかで、その「事故を起こす」ことがなるべくなくなる社会がくるのかな? とか。そんなことについて、お聞きしたいと思います。2030年ぐらいの社会について、どんな社会を描きながら開発されているのかなというのは、すごく気になります。

田内真紀子氏(以下、田内):そうですね。私は1980年生まれなんですけど、その時って、「21世紀になったら(車などが)空を飛ぶんじゃないか?」みたいなこと、あったじゃないですか?

池澤:あっ! そうそう。子どもの頃、思っていました。

田内:今考えたら「あれ? 飛んでない」みたいな。「『タケコプター』みたいなものがあってもよかったんじゃないか?」とか、すごく思ったんです。

本当は、例えばおじいちゃんおばあちゃんも子どもも、それほど「クルマを運転する」とか「移動」ということを意識していなくて。

今は「移動」というと、「消費する時間」「暇を潰さないといけない」とか、そういう時間になってしまっているんですが、2030年ぐらいの時代になったときは、移動中でも英会話をやりたい人はやるし、クルマの中で仕事をしたい人はすればいいですし。そういう「移動」を意識しないような世界に、30年よりも早い段階でなってくるんじゃないかなって、私は予想しています。

池澤:でも、10年しかないんですよ。及川さん、どう思われますか?

手段としての移動

及川:その空飛ぶクルマ(を想像していた人)って、1980年生まれじゃないですか。僕はそれよりもっと前に生まれているんですけど、その時にも「今頃は、空飛ぶクルマがあったはず」なんです。

でも、空飛ぶクルマはできそうですよね。今は実際に、そういうものがいろんな国の施策やベンチャーで出ているので、2030年ぐらいには出てきてもおかしくないんじゃないかな?

田内:ドローンは、飛び回ってるかもしれないですね。

及川:そうそう。ちょっと「移動」に関して言うと、その「移動」が目的ではない可能性がある。「移動」が手段の可能性もあるわけじゃないですか。移動しなくても済むようになっていることも、テクノロジーの発達により、例えば30〜40年のスパンで起きているんですよ。

これは僕がよく言っている例ですが、航空会社などは1980年代の時にどこが競合だったかと言ったら、電話会社だったんですよ。要は、ビジネスユーザーは出張しなくなって、電話会議で済ませると。今は実際に僕らも、リモートワークなどで、移動しないで仕事をすることが増えているわけじゃないですか。

でも、よく考えると、いろんな苦痛がなければ、商談に行ったほうがいいわけですよ。だからモビリティサービスは、それを実現するんじゃないかな。たぶんこれは、デンソーががんばればできるんじゃないかな?

なので、「移動をしなくて済むようになった」とみんなが思っている。それは移動が「苦痛」であり、その間にやることがなく……というところがあるんだけれども、それが快適性をもってむしろポジティブな体験ができるならば、「実際に会ったほうがいい」という思いがあるならば、直接会うようになるんじゃないかなということです。

移動が苦痛で無くなる時

及川:今日、先ほどのコックピットのところでも出ていたみたいに、移動のところが「別の体験だ」と言うことができるようになり、「実際は会ったほうがよかったんだけれども、諦めていたこと」が、「もう一度会う」ことで実現できるようになっていくんじゃないかなと。

山下晋吾氏(以下、山下):そうですね。すごくありがたいご意見だなと思いながら(笑)。

僕らも話していて、「自動運転になったときに、何がうれしいかな?」という時に、「後ろの席で子どもや友達が盛り上がっていることに、ドライバーが初めて参加できるときがくるのかもね」という話もしていて。

そうなってくると、今は「運転」というタスクをしょうがなく負っているドライバーと、それ以外の「申し訳ないけど、ごめんね」と言いながら、後ろの席で盛り上がっている人たちとで分断されていたものが、1つになる。

1つになったときに、移動の時間の過ごし方が絶対に変わるはずなんですよね。それはたぶん、使い方は幾通りもあって。ビジネスをする人もいるだろうし、睡眠をする人もいるだろうし、なにか自分の趣味に興じる人もいるだろうし。私が先ほどお話しさせていただいたみたいに、「移動そのものをどう楽しもうか?」ってなると思うんですよ。

すごく多様化するなかで、クルマ屋さん・サービサー・サプライヤーというものが、それぞれなにを準備しなければいけないかについて、みんなが様子を見合いながら「じゃあ、何をする?」「どうする?」みたいになっている、混沌とした状況かなと思います。

デンソーが見ている未来

池澤:みなさんは未来の開発をされていると思うんですけれども、どのぐらい先の未来ならば「確実にこの未来が来る」みたいに、現実感をもって開発できているんですか? これは、けっこう素朴な疑問なんですけど。

山下:クルマの開発スパンはすごく長いし、デンソーで開発している期間と、実際のカーメーカーさんもしくはサービサーさんと一緒にやるフェーズもあるので、それに加えてのこの未来の見えなさなので、何とも、ですね。

いまのモデルに縛られているかぎりは、やっぱりそこそこの時間がかかってしまって、それぐらいの時間をもった情報でしか確度がないみたいな。実情の商品開発は、いわゆる古くてステップが限られたモデルになっているかなと思います。

池澤:ちなみに、けっこうソフトウェア領域を専門にされている石田さんは、未来のモビリティ社会についてどう考えられていますか?

石田:すみません、あんまり考えていないです……。

(一同笑)

ハードウェアの会社でソフトを開発すること

池澤:ありがとうございます。じゃあ、次の話題にいきますか(笑)。

(一同笑)

石田:ソフトウェアは、本当に変化が激しいので。あるツールを使っていたら、1ヶ月後にもっといい別のツールが出てきて、「おっ、どうする?」みたいな。そういう日々の話とかもあるので、あまり先のことは考えても仕方がないかな? というのはありつつ。

5年のスパンでクルマを出すのであれば、そのコンセプトを実証・実現するためのソフトウェアを作らないといけない。そういう意味では、5年スパンでちょっとずつ出しながら検証するという、それこそアジャイル的なサイクルなんだろうなと思います。

池澤:石田さんの場合は、普通のWebサービスみたいなものを開発している人たちとだいたい同じコミュニティにいて、同じような技術を使っているような印象がありました。

そういった文化の中と、実際のモノの所有スパンみたいなものもだいたい決まっているような、モノにまつわるソフトウェアみたいな分野と、そういうところで葛藤があったりとか。あとは、「ここは、そういうWebサービスだけの会社とは違うよ」みたいなポイントがあれば、教えてください。

石田:そういう意味で言うと、ハードウェアがくっついてくるので、ハードウェアのライフサイクルで、デンソーとしてはビジネスが完結するんですよ。部品でも車載でも、なんでもいいんですけど。

それにソフトウェアを紐付けるのであれば、ソフトウェアもその時間や期間で成長し続けなければいけないというのがあるので。逆に言うと、そういうビジネスをがっちり掴むことができたら、強いビジビリティを業界や社会で持てるので、そうできれば非常におもしろいなと思っています。

そういう意味で、本当に部品だけではなく、コックピットやサービスというかたちで人目に触れるところへ出ていくことが大事で、そこはソフトウェアが一番重要な鍵を握っていると思うので。

クルマだと身近なものなので、いろいろと自分たちでも発想できますし、だからおもしろいと思います。それを自分たちで作れるんですから。

池澤:「体験を作る」ということに、なんだか感覚が近いんですか? すべてのものは体験ですけど。

石田:そうですね。だから、例えば「免許を持っていないけど、移動できるようになったらうれしい」と思ったとするじゃないですか。それを、デンソーみたいなポジションの会社だといち早く実現できるんです。もちろん、コマーシャルなプロダクトとして出す分にはもっと時間がかかるんですけど、自分が作って自分がはじめに体験できるという、そういう開発者としての楽しみはあると思います。

デンソーのソフトウェアの楽しさ

池澤:ありがとうございます。ちょっとお二人にも聞きたいんですけど。議題の2番目の、「デンソーのソフトウェアにはどんな楽しさがありますか?」について、聞きたい!

山下:僕はエンジニアじゃない……。

(一同笑)

池澤:デザイナーでいいです(笑)。デザイナーの目線からで。

山下:いや、そうなんですよ。このトークテーマを見た時に、「あっ、なんか来る場所を間違えたかな」って焦ったんですけど(笑)。

まぁ、どうでしょうね。さっき石田が言っていたハードもソフトもデザイナーもいろんなタレントがいて、それが目の前で作られていくところはおもしろい。実際に「コックピットの試験車両を作ります」とかは、ものすごく大変なんです。

ちょっとデザイン的な要素が足りなかったりはしますが、「技術を作ろう」「クルマを作ろう」ということに対するモチベーションがすごく高いとか、なにより「クルマが好きだ」みたいなところがあるので、仕事もカチッとやるし。生真面目な人間が多かったりするので、そういう人たちに、僕みたいなふわっとした人間がふわっとした話を持っていって。

最初は正直、社内アイデアソンみたいものをやって、「どうですかね?」みたいな話をした時もすごくすべったんですけど、何回かやっていくと、やっぱりつながる人たちがいて。そういう人たちとやっていくと、モノを作るための考え方とか「何が必要か?」ということが、すごく広い知見の中でできていくことの、近いところにいるのはおもしろいですね。

やっぱり会社の規模もあるし、もちろん外のつながりもあるし……みたいな話になってきますけど、少なくともそういうところがあるのは、やっぱり恵まれているなと思います。それよりもスケールがでかくて深い話ができているのかな? という実感はあるので、そこは喜びです。

チャレンジができる会社

池澤:田内さん、いかがですか?

田内:そうですね。私は転職したことがないんですけど、なんでデンソーに入ったかというと、ひとえにチャレンジができる会社なんですよね。

要はうちって、世の中にない「一番はじめに出したぞ」みたいな、そういう技術がすごく多いんですけど、そういうことにわりと寛容ですし。上司などとの風通しがいいので、「これをやりたい」と言ったら、ちゃんと説明はしないといけないんですけど、最後にはやれるんですよ。

そういうチャレンジができることと、世の中に価値(のあるものを生み出す)というか。今までは普通に過ごしていると、「新しく出てきたものを使う」という立場でしかなかったと思うんです。

例えば「移動」を変えるだとか、そういう未来や生活を変えるものを自分たちで考えて生み出して、それをグローバルに展開できる企業なので。そういったところが、やっぱり私は一番魅力的だなと思って、この会社に入っています。

面白い分野を全部やっている会社

池澤:ありがとうございます。及川さんはさまざまな業界を渡り歩いて、そこからいろんな未来につながるような気づきを得たりされていると思うんですけれども。そういった立場からデンソーという会社を見て、「ここに一番可能性を感じる」とか、逆に「ここに可能性を感じているからこそ、こういう人材がいるといいな」みたいなお話が聞ければいいかなと思います。

及川:この領域はおもしろいんですよ、やっぱり。今は、別にデンソーと関係ない話としても「最近の技術で何がおもしろい?」と聞かれら、ロボットや移動に関わる技術だったり。移動って言ったら、ドローンまで入ってくるわけですし。流行りの機械学習でも、画像認識は当り前としていろんなことをやっていますし。あと、データを採って……というIoTですよね。そういうものを全部やっている領域で、デンソーはまさにそれをやる会社だし、やれる会社ですと。

あと、ハンドクリームも作ってる。

田内:「moina」です。

及川:あれ、なんでしたっけ? 海藻……藻でしたよね?

田内:藻です。

及川:藻なんですよ。わけがわからないでしょ? みんなポカーンとしてるけど。

田内:藻でハンドクリームを作って(笑)。

及川:そうなんですよ。藻でハンドクリームを作って。僕は「なんか余興でやっているのかな?」と思ったら、この間ユーグレナと提携していて、「うわ、本気だったんだ」みたいな感じ。なんだかよくわからないものをたくさんやっているんですよ。

いったん開けちゃったワインボトルを保存するための、ワインセーバーなんかも出しています。なので、基本なんでもできるし、なんでもやれる。

先ほど言われていたみたいに、中にいる人はめちゃくちゃ優秀だし、もし海外で働きたいと思ったらいくらでも外にグローバルな拠点があるし、田舎や自然が好きならば刈谷に行けばいいし……まぁ、とてもいい(笑)。

(会場笑)

東京支社も日本橋にあるし、(提携先が)秋葉原にもあるし、新横浜にもあるし、品川に研究所もあるし……ということで、もう基本なんでもできるところがある。今まさに、業界的にも本当におもしろいところをやられているなというところがあるので、おもしろいと思います。

池澤:確かに。コンピュータって今まで物理的には動かないものだったと思うんですけれども、そのコンピュータがクルマ・モビリティに搭載されることで、自ら外界に接触できる。

そして、その外界に接触することで生まれる変化の妄想を膨らませたり、妄想を技術によって実現させたり。そういう未来を作っていきたい方にはすごく向いているかもしれないなと、私も今回のお話を聞いていて強く実感しました。

というわけでそろそろお時間が来ました。ご清聴ありがとうございました。

田内:ありがとうございました。

(会場拍手)