デンソーにおけるMaaS時代に向けた取り組み

田内真紀子氏(以下、田内):みなさん、こんばんは。今日はMaaS開発についてお話しさせていただきます。

デンソーの中でMaaSに関わる人間には比較的転職組が多いんですが、私は最初からデンソーにいまして、2005年入社です。このMaaSに関する開発を始めたのは3年前で、デンソー内では珍しく、クラウド側のモビリティサービスを実現するための基盤技術、つまりクラウドの開発をメインでやっています。

車載技術とモビリティサービスの開発は、QCDの観点で言っても、例えばクルマだと4年に1回新しいものが出るのに対して、サービスは2〜3ヶ月で新しいものが更新されていったり、ヒットすればすぐに世界中にスケールしたりします。

先ほど及川卓也さんが「ITとの融合」とおっしゃっていましたが、まったく違う文化を持つ車載技術とIT技術を融合して、新しい技術を世の中に出していき、実際にモビリティサービスを使う方に対して価値を提供できるような技術の開発を行っています。

今は100年に1度の大変革期と言われています。その中でデンソーは、「すべての人に移動の自由を提供する」というところを目指して、技術開発を進めています。

実際にMaaS開発部でどういったことをやっているのかをここから説明します。

従来、デンソーはお客さまから仕様をもらって、その仕様をもとに開発するスタイルをとってきました。ですが、MaaS領域のお仕事は、上流の社会仮説を立てるところから行い、システム要件を見出し、PoC(Proof of Concept)を回すという活動をしています。

具体的に上流は、イノベーションの発信地まで出向いていったり、いろんな有識者の方と話をしたりして、社会仮説を作っています。これをベースににして次期システムにはどういうものが必要かと、開発要件を自分たちで策定し、PoC(Proof of Concept)を回して、システムをお客さまに提案する。そういった開発を始めています。

実際にイノベーションの発信地へは定期的に現地に出向いており、変化や動向を観測しています。

西海岸ならサンフランシスコだったり、ITではシアトルだったり、技術ではニューヨークだったり。あとはロンドンも、モビリティサービスや社会的な部分での変化が大きいので、定点的に調査しています。

海外のモビリティ動向

田内:事例をお伝えすると、社会動向として、ニューヨークでは、社都市化が進んでいて、渋滞が現実的な問題になっているんですね。都市単位で、バスや自転車はレーンを分けて、なるべく渋滞に巻き込まれないようにですとか。

ロンドンでは、今年4月から市内に自家用車で入ると、時間帯によっては課金されるといった取り組みが始まっています。このような具体的な対策を、現地で実際に体験してり見たりしてきています。

ユーザーの移動価値感について、まず、クルマは所有するのではなく、シェアして利用する感覚がすごく強いです。

都市内は渋滞もありますし、駐車場の問題もあります。例えばニューヨークですと、週末で30分停めるのに3,000〜5,000円もするんですね。2時間も停めておいたら、簡単に1万円もかかってしまうんですよ。なので、ちょっと移動するといったときに、自家用車を使うのは現実的には難しいです。

ニューヨークの市自体も、例えばUberなど、ライドシェアを使うことを推奨していて、実際に人の移動が従来と少し変わってきているのが、定点的に調査していくとわかってきます。

結局、都市化が深刻化してきて、消費者は、物を買うよりも利用するという価値感に変わってきている。それに対して、業界も活発に動いているというところがあって、モビリティサービス自体も今後急増してくると思っています。

とくに直近だと、北米や中国といったところでマーケットが広がっていくんじゃないかという仮説が立てられています。また、AmazonやGoogleといった具体的なITプレイヤーさんも、業界の中に入ってきています。

ですので OEMさんもビジネスシフトや協業が激化しているんじゃないかなと仮説を立てています。

モビリティサービスについて、これはあくまで予測ですが、具体的にどれぐらい出てくるかというと、(スライドを指して)この青いところがモビリティサービスの事業なんですけれども、2030年ぐらいには、従来の事業の8倍ぐらいになる予測が出ています。

クルマを使ったサービス事業者が増える

田内:モビリティ事業といっても、すぐにサービスカーのみに変わるわけではありません。都市がいきなりIT化してスマートシティみたいに変わるわけでもないので、ビジネスとしては、従来の物売りとと、車をサービスとして利用する形態のもの(スライドではCaaSを指して)等、混在してくると考えています。

例えば、「トランクデリバリー」のように、クルマを宅配ボックス代わりに利用するというようなサービスが実際に出てきています。自宅に荷物を宅配してもらうと不在になっちゃうので、会社の駐車場に停まっている自分のクルマに宅配してもらうといったかたちでクルマを活用するようなサービスです。

MaaSは、都市の移動の1つとしてクルマが使われていくようなサービスを指していますが、今後これらの事業も並列して存在してくると思っています。

サービスの事業構造については、(スライドを指して)今後はクルマを利活用してくれる3rdパーティさんとの事業がどんどん増えていくんじゃないかと思います。先ほど話したように、事業が8倍に増えるというのは、やっぱりここが大きくなるからなんですよね。

そうすると、テクノロジーの観点でいけば、いかにこの3rdパーティさんを巻き込んで事業を拡大していくか、クルマを有効利用してもらえるかがビジネスを大きくしていくところだと思います。そういったところに必要なもの……「どういうデータを公開するのか?」「クルマにアクセスしたいんだけど、どうやってアクセスするの?」といった技術が大事になってきますので、そのあたりの技術開発をメインに取り組んでいます。

実際に、直近で出てくるサービスのユースケースを作成し、(スライドを指して)機能やデータをリストアップしていくこともしており、そこから、クラウドとクルマに対してどういった技術が必要かを考えています。

デンソーはモビリティサービスを提供したい方やプラットフォーマーなりたい方々に技術を準備しようと考えています。デンソーはクラウド側の技術として「デジタルツイン」と、クルマ側の技術として「Mobility IoT Core」というECUの開発として進めています。モビリティとサービスをつなぐ役割を果たせるような技術を開発しています。

デジタルツインについて

田内:デジタルツインについてお話しします。

先ほど、及川さんのお話でも「デジタルシャドー」というものが出ていたと思います。モビリティの位置情報や時間などをクラウド側に正確に写像していき、そこにサービサーの方がアクセスすることで、実際のリアルな情報にアクセスできるようにします。

逆に、リアルタイムに写像しているので、このデータをいろんな解析やサービスに活用する。そういうことに使えるようなクラウド側の技術を開発しています。

クルマ側は、クルマに対して制御をしたり、データを収集したりすることを安全に行えるような仕組みのECUを作っていて、それがMobility IoT Coreになります。

このデジタルツインとMobility IoT Coreとを連携することによって、リアルのクルマとサービスをうまくつなげてあげる、システムとして動くようにつなげてあげるということを現在行っています。

今、デンソーではMobility IoT Coreとクラウド側のSDKを出しており、これはOEMさんやサービスを提供したい方に、開発などで使ってもらえるものになっています。 今年のCESからお客様にはお話をしていて、新しい価値につなげるお手伝いができればいいなと思っています。

実際にこれが実車評価の映像です。

Mobility IoT Coreの試作品になります。

クルマはレクサスのRXを使いまして、このように車両のデータを収集しています。これは、ダイレクトにスマートフォンからBLEを使って制御をかけたり、実際にトランクデリバリーのユースケースでちゃんとサービスとして使えるレベルなのかを、いろんな制御パターンで試して評価をしています。

(スライドを指して)これがクラウド側から制御をかけていたり、さっきお話ししした画像データですね。今、画像データを解析したり、画像データをクラウドで使うニーズがすごくホットなので、実際にリアルタイムで動画を撮ったり、画像をクラウドに上げて解析したりといった評価を始めています。

最後に、基本的には技術開発は(愛知県の)刈谷で行っています。やっぱりやるんだったら、シアトルとかに行ったほうがいいんじゃないかということで、シアトルに分室を作りました。作ったのはうちの上司ですけど(笑)。

Amazonのヘッドクオーターの裏側に作っていまして、シアトルのダウンタウンです。シアトルで開発をやりたいという方、ぜひ一緒にやりましょう。

以上になります。ありがとうございました。

(会場拍手)

コックピットシステム開発部の役割

司会者:ここまでは、MaaSのお話でした。ここからは、コックピットシステム開発部の山下からCESでの展示内容をもとに話してもらいます。

山下晋吾氏(以下、山下):みなさん、こんばんは。及川さんの話と田内の話で、インプットが多く、疲れてきたと思いますが、私からはかなりやわらかい話をさせてもらおうと思います。

私はコックピットシステム開発部というところで、メーターやクルマのセンターにある表示器など、運転席を囲むところの機器の開発部隊に所属しています。その中でエクスペリエンスデザイナーをしていて、「我々が提案する技術でどういう体験が起こりうるのか?」みたいなところを提案していくのが私の役割になります。

今回、この場でお話しさせていただくのは、2019年のCESに展示したコックピットのコンセプトのお話です。

いきなり内容の説明をしても雰囲気すらわからないと思うので、まずは映像を見ていただきます。

VRを用いた展示

山下:将来のコックピットを考えていくときに、いわゆるハードのモックアップを展示してどうこうというのではなく、今はないけど「こんな技術があったら」「もしもこんな前提があったら」というところも含めて、かなりいろんな仮定を置きながら、「それがあったらどうなるの?」という“体験”を展示しています。今回はそういう未来の体験を超リアルなVRで展示しました。

そのVRで「こういう未来ってアリですかね?」というような問いを世の中に投げかけたかったんです。では、映像を流しますね。

(映像が流れる)

(映像を指して)小さいクルマが出てきました。このクルマに乗りながらVRをします。これ自体も結構おもしろくて、あとで説明させていただきますが、VRはほんといろんなひとに乗ってもらってたくさんの共感を頂きました。

実際のVR映像はこのようになっていて、同乗者の方と一緒に、未来の移動体験をしてもらいます。その移動体験の中で、キーテクノロジーがいくつか入っていまして、それをストーリーとして体験いただくようなVR展示になっています。

「移動を、ものがたりに。」

山下:ではスライドに戻します。雰囲気はあんな感じです。広くて賑やかな会場の中に、ギンギラギンのクルマを置いて動かしていました。

あの場で何をメッセージにしているかというと、このひと言に尽きると思います。「移動を、ものがたりに。」これが、我々の提案のコンセプトワードになります。

このプロジェクトそのものは、とあるハードウェアデバイスがあって、「そのデバイスが実現できる未来のコックピットを考えてほしい」という話で、私のところにお仕事の協力依頼が来てスタートしています。

「クルマ」を移動体として捉えたときに……A地点からB地点に行くときに、その間にたくさんの土地を移動しますよね。そういった連続的な場所の変化が「移動」だとすると、それが効率的に、便利になります。それもすごく大きい価値で……世の中のほとんどのクルマがそういった理由でサービス化していきます。

そういう時代は確実に来ますが、「その中で、ひょっとしたら我々が忘れていることがあるんじゃないの?」ということを思いました。それが、「クルマって便利になるだけなのかな?」ということ。シンプルに言うと、そういう話です。

僕はすごくクルマ好きなんですけど、クルマで楽しいと思うときは、例えば小さい頃、親父にスキーに連れていってもらったときの小さな発見で、トンネルとトンネルの間、山間に民家があって洗濯物が干してあって、「こんなところにも人が住んでいるんだ。この人たちの生活はどんなものなのかな。どんな人が住んでいるのかな」といったことを考えたりするときや、もしくは、誰かと出かけたときに「もう1回来ようね」「〇〇を連れて来ようね」といった気持ちになるときでした。

このように、移動することで生まれる新しい物語みたいなものがあるんじゃないかと、我々プロジェクトメンバーは信じています。

クルマが利便性が向上したあとに残るもの

山下:何が言いたいかというと、クルマがもっと便利になる時代は絶対に来るので、「どうやったらおもしろくなるかな?」ということを考えたときに、「移動することで、新しいものを見つけて、新しい物語が生まれていく。そうした移動の価値を、未来のテクノロジーを使って描いてみたらどうか?」と考えるようになっていきました。

例えば、さきほどのコンセプトの映像の中で実際に出てくるのは、夏に移動しているんだけど、「どうやらこのあたりは春になると桜が満開になるらしい。それはどういう景色だろう?」ということで、窓ガラスにAR的に桜を映して、「これだけ桜が満開になるんだったら、次は、家族みんなで花見に来よう」といったものです。

最後に星空の映像がありましたが、「どうやらここは冬になると、星がすごくはっきり見えて、澄んだ空気の中、きれいな星空が見えますよ」というクルマからの語りかけに対して、「じゃあ、そのときにどういう星空になるんだ?」「こんなに綺麗になります」「それなら、子どもを連れて来よう」など、場所が持っている魅力みたいなものを探し続ける、そんな移動の楽しみ方があるんじゃないかということで、この「移動を、ものがたりに。」には、そういうメッセージが込められています。

そのあたりを描いたというか、そのコンセプトを映像化したものになります。

(映像が流れる)

スライドのタイトルにもなっていて、この映像にも出てきた「Driving Reimagined」というのが展示のタイトルだったりします。「移動というものをもう一度イメージし直したときに、そこに何があるんでしょうか?」というような意味です。

今の内容を軽く日本語で書き起こしたものがこれです。

先ほどからお話に出ているとおり、デンソーはやっぱりテクノロジーの会社なので、社内の議論はどうしても技術がメインになってきます。こういう詩的なメッセージは、そういう意味では珍しいのかなと思います。

「自分たちがやっているテクノロジーが誰に何を与えるのか、誰の心を動かすのか、誰の身体を動かすのか、世の中を変えるのかといったものを想像しながら、テクノロジーに触れたいよね」という投げかけがエンジニアからもあって、こういう詩的な表現になっていたりします。かなり熱いメンバーが集まってくれたプロジェクトです。

どこかに行かなければ知らなかったことって、すごくたくさんあります。移動とは、なにかに出会うこと、全身で体験することです。それをデンソーが支えることで、新しい場所に走り出すときに、その人だけの特別な物語になる。そんな話を提案しています。

これらは、いわゆるコンセプトストーリー、絵空事、妄想事だったりしますけど、「じゃあ、そこにデンソーのテクノロジーがどう絡むの?」というところは、やっぱりちゃんと伝えていかないといけません。

VRののストーリーが訴えたいこと

山下:VRのストーリーも含めてざっとお話しします。

一番最初、VRの中で目的地を決めるシーンがあります。自動運転になったという前提で、いわゆる自動運転というのは、ちゃんと目的地を決めないと走り出しません。では、目的地を決める場合、いつまでも目的「地」なのでしょうか?

例えば、目的の行動だったり、目的の人だったり、目的の気持ちだったり、そういうものであってもいいよねという話があって、自然と会話の中に、人工知能なり対話エージェントが入ってきます。例えば、「子どもを思い切り遊ばせたい」とか「妻と仲直りがしたい」とか、そういうものがあってもいいと思います。

それが旅になっていく。そういうドライバーや乗員の感情を引き出して、それを旅にしてくれるようなシーンを描いていますし、関連する技術とかもいろいろ描いています。

出かけたときに、例えば、その場所が持っている情報であったり、人が持っている情報だったり、情報はそこら中にあるはずなので、そういうものをどう結びつけるかがテーマになってくると思います。

あのコンセプトのストーリーの中には3人います。自分と同乗者ともう1人同乗者がいるんですけど、あの3人があの場所に行ったときの、過去のドライブ体験みたいなものを思い起こさせるようなシーンが描かれています。

情報提示の世界はこの先情報体験として磨かれていくべきで、「どういう意味を持った情報を、どういう意味を受け取ろうとしている人に与えてあげるか?」といった話が絶対に出てくるだろうなという、そんなシーンを描いています。

最後は、先ほどからメインで話している……(スライドを指して)こういう星空が見えちゃいます。「星空が見えちゃいます」はすごく雑な言い方ですけど、移動することで生まれる出会いが、乗員の新しい体験として価値あるかたちとしてどのようにデザインされるか。そんなお話です。

体験を伝えるためにリアリティにこだわる

山下:このあたりの話を含みながらストーリーにして、VRに展示しました。そのVRも、単純にゴーグルをかけるだけではありません。先ほど、この小さいクルマが走っていましたけど、これはトヨタ車体さんの「コムス」という電気自動車です。

これが、VRに合わせて動くんですよ。実際のクルマのドライバーの席のビューなんですけれども、実際にクルマが動き出したときには、Gを体感するようになっています。送風機がついているので風も来るし、匂い発生器がついているので匂いも来ます。シートも振動するし、ハンドルも振動します。VR-CARという名前で公開してるので調べてみてください。

かなりリアルなVRにしたんですが、コンセプトはやっぱり絵空事で、すごく自分勝手な妄想だという悩みがあって。じゃあ、僕たちが描いた妄想に、どのようにしてみなさんに参加していただこうかと考えたときに、徹底的にリアルであるべきだと考えました。

要は、アンリアルをリアルに感じてもらう。そういうテーマ性を持った展示です。僕たちが考えた体験の中で、主人公になってもらって、あなたの目で見て、耳で聞いて、鼻で嗅いで、背中を通して感じていただく。そういうコンセプトの伝え方みたいなところも、今回の展示ではかなり力を入れました。

これ自体は、コックピットの開発部隊ではなく、また別部隊の技術者が協力してくれました。

デンソーにおけるデザインの立ち位置

山下:私がデンソーにジョインしたのが2年半ほど前です。 もともとは、家電製品のエクスペリエンスデザインをやっていました。スマートフォンが一番キャリアとしては長かったです。技術屋さんの「こういうことができるんだけど、なにか考えて」というところから始まって、いろいろ提案したり、ホームコントローラーや新しいモバイルの模索など、様々なことをやっていました。

なぜこのお話をしたかというと、エンジニアの中にあるデザイナーの立ち回り方みたいなところの基礎を作った経験なんです。

私は技術開発部隊の中にいることにこだわっているんですが、それはデザインという領域そのものが、すごく力が弱いと思っているからで、でもエンジニアと組むとすごく強い力を発揮する領域だと思っているからなんです。

そういったデザインとエンジニア周辺とのコラボレーションみたいなところで、例えば今回のCESのプロジェクトも、開発部隊、VRCARを作る部隊、広報部隊、そして社外ともむちゃくちゃコラボレーションして、いろいろやっています。社外のコラボレーションの影響もめちゃくちゃ大きかったです。

社内にはいろんな才能が転がっているし、社外にも力強い協力者さんがそばにいてくれる会社なので、かなりおもしろい会社ですよ。こんなところで、私の話は終わろうと思います。ありがとうございました。

(会場拍手)

社内にシリコンバレーを作る

司会者:最後は、MaaS開発部デジタルイノベーション室の石田です。

石田晋哉氏(以下、石田):こんばんは、石田と申します。よろしくお願いします。

(スライドを指して)これはQiitaの広告記事なんですけど、私も出ていますので、ぜひまだ読まれたことがない方は読んでいただきたいと思います。

ちなみに、(写真には)4人いますが私は向かって左から2番目です。

(会場笑)

及川の話にもありましたが、「クルマを作っているだけじゃ、もうやっていけない」という世界が来ています。

もともとデンソーは、カーメーカーさん向けに自動車の部品ですとか……物を作って商売をしていたんですが、サービスという考え方が出てきて、そのサービスを作っている人たちは、ここ(スライド中段部分)が一番強いんですね。サービスの価値自体はここで生まれています。

サービスをどうやってうまくユーザーに届けるのかということで、データを吸い上げて、分析して、パーソナライズします。みなさんのスマートフォンなどをインターフェースとして、アプリケーションなどを通じて現実世界にフィードバックする。それでみなさんにいろいろな体験を提供するということになってきました。

そんな世界が来ている中で、今まで自動車業界にはいなかった人たちが新たに競合になってきているので、彼らのやり方を学ばないといけません。今、社内にシリコンバレーを作ろうという流れになっています。

シリコンバレーのやり方を学んで実践する

石田:本当にシリコンバレーそのものを作りたいわけではなく、彼らのやり方を学び、実践し、体得するということです。デンソーは、過去にはボッシュから技術供与を受けつつ、部品メーカーとして独り立ちした時代もありまして、とにかく先行している人たちに学ぶところから始めると。それはソフトウェアや、サービスに関しても同じです。

同じ道具さえ集めればよいかというとそうではなく、自分たちの道具として使いこなせるようにならなければなりません。なので、道具を使って実践していって、自分たちの文化を作り出していくというのが、社内にシリコンバレーを作るという話の実際のところです。

これをやるために立ち上がったのが、私が所属しているデジタルイノベーション室になります。拠点は新横浜です。

2017年4月に、部長の成迫ともう1名で、はじめは2名だったんです。「何すんねん?」という感じだったんですけど、次の月には5名ぐらいになって、この時点で1つ目のチームが立ち上がりました。

デジタルイノベーション室では、サービス開発するときはスクラムというアジャイル開発手法を取り入れているんですけど、ここで1つのスクラムチームができてやり始めました。だんだん人数とプロジェクトを増やし、今はこんな感じです。

ここで、2018年4月に緑のグラフが急に出てきているんですけど、別の大きなプロジェクトが立ち上がって、2つの方向性を持って伸びていっている感じです。今の体制はもうちょっと複雑になっていますが、割愛します。

入社してから取り組んだこと

石田:私自身は2018年1月にジョインしまして、初めはスクラムの開発チームでデベロッパーとしてやっていましたが、3ヶ月後ぐらいにもう1つ別のプロジェクトに移って、今に至ります。

前の2人はわりとビジョナリーな話をしていましたが、私はどちらかというとインフラ系エンジニアということもあり、現場視点でどんなことがあったのか、時間が許すかぎりお話ししたいと思います。

2018年1月に私が入って、そのあたりから作り始めたサービスが(スライドを指して)これです。

及川の話にも出てきましたが、1年ぐらいで作り上げて、本番リリースしました。詳細は割愛します。

いわゆるIoT系のサービスです。これは車載器なんですが、カメラやセンサーなどがついていて、ここでデータを収集して、データ処理をして、先ほどのスライドで見せたシステム的なものを作りまして、フロントエンドサーバがあって……スマートフォンの画面などに表示します。それを、AWS上にRailsを使って実装してコンテナで走らせています。デプロイではTerraformを使うなど、いろいろなものを使っています。

このあたりのもっと詳しい話は、先日開催されたデブサミでも紹介していますので、そちらをご覧いただいてもいいかと思います。

先進的な技術を取り入れる

石田:デンソーはクルマの部品メーカーですが、すごくいっぱい工場を持っており、その工場にもIoTの波が来ていまして、どんどんIoT化を進めています。そちらも、先ほどあったようなIoT基盤が必要で、そこをサポートするかたちで先の緑のグラフの方のプロジェクトに入りました。

俗に言う(生産)ラインの自動化や最適化です。退職を目前に控えたベテラン技術者たちのものすごいスキルを若手に伝えるために、その方々のノウハウをデータとして収集しなければなど、他にもいろんな話があります。

クルマの部品などのハードウェアを高品質で大量に製造しているデンソーの工場ですが、ソフトウェアに関しても、高品質なものを生み出していきたいと考えています。

ソフトウェアエンジニアの方が見たら何のロゴかわかると思うんですけど、あえて攻めるという感じで、まだ製造業ではあまり使われていないようなツール・OSS・クラウドサービスを導入して、実際に使っています。

こういったものをどんどん先行して取り入れることによって、デンソーの社内で、あるいは日本の自動車産業界で、また製造業の中で、先進的なソフトウェア開発のエンジニアを育てたり、サービスを出したりといったポジションを獲得していけるといいなと思っています。

技術顧問の及川もそうなんですけど、さまざまなテクニカルアドバイザーがいて、実は今週から『Kubernetes完全ガイド』を書かれた青山真也さんが、テクニカルアドバイザーに就任しました。

それぞれ第一級のアドバイザーのみなさんからも学びながら、先ほど申し上げたようなソフトウェアファクトリーとしてどんどん成長していきたいなと思っています。青山さんと一緒に仕事をしたいという方がいらっしゃいましたら、ぜひお越しいただければと思います。

Kubernetes完全ガイド impress top gearシリーズ

「ひみつきち」でプロダクト開発

石田:ここまでは主にツールの部分の話でして、スクラムもフレームワークということではツールです。もう1点、はじめに文化という話をしましたが、そちらでもおもしろい取り組みをしています。私は「ひみつきち」と呼んでいるんですが、働く環境を自分たちで作るということで、先ほどお見せしたようなツールを使って、サービスやソフトウェアを作るという活動をしています。

上司に隠れてこっそりやるという意味の秘密基地ではなくて、子どもの頃に、裏山や公園のちょっとしたドーム的なところを見つけたら、友達と一緒にダンボールとかで壁を作って秘密基地を作ったと思うんですけど、そんなノリで楽しく仕事できる環境を自分たちで作って、楽しくプロダクトを作っていきましょうというのがコンセプトです。

(スライドを指して)これは実際のオフィスの様子です。「MVP」と呼んでいます。Minimum Viable……普通はProductなんですが、Project Roomと言っています。

ここには部屋があって、照明、電気、Wi-Fiだけがあって、あとはなにもない状態です。机も椅子もない。全員ラップトップが支給されていて、床があるので、このように座って、文字通り膝の上にラップトップを置いて仕事ができます。

そこから始めて、本当に自分たちに必要なものをAmazonやアスクルなどで買って付け足していくという感じで、自分たちの働きやすい環境を作っています。

これはちょっと古い写真なんですが、一時期はこういう感じになっていました。ここでデモをしていて、それをみんなで勉強しているシーンです。椅子や机は全部可動式で、「勉強会するよ!」と言ったら、ここにフォーメーションを作って、みんなで画面を見ながら勉強して、終わるとまたバーッと崩して、元のフォーメーションで仕事をするということをやっています。

天井から垂れているケーブルは電源です。せっかくラップトップを持っていても、みなさん電源がないと生きていけません。電源はだいたい壁にあるんですけど、電源ケーブルの長さが決まっているので、エンジニアのみなさんは、このケーブルの長さの半径でしか生息できないんですね。

(会場笑)

そこで、天井にレールを敷いて、そこから電源ケーブルを垂らすようにしました。

プロジェクトの途中で人が変わったり、チーム編成を若干変えたりといったことがあるんですけど、そういうことにも柔軟に対応しつつ、自分たちで配置を変えながらやっています。

石田:お手本にしているのがこの本(『ジョイ・インク 役職も部署もない全員主役のマネジメント』です。読まれたことがある方もいると思うんですけど、この本に書いてあることを、どんどん吸収して、自分たちなりにできるところを実践して、自分たちの働く環境やその中での動きぶりを文化として作っています。

社内の人材とコラボレートする

「ひみつきち」は秋葉原にあるんですが、Factory IoTのプロジェクト用に作ったもので、けっこういい感じです。働いている本人たちも「楽しい」「うれしい」と言っていますし、見学に来られるみなさんも好印象です。

それに気をよくして、さらにもう2つの「ひみつきち」を立ち上げました。これは先ほどみたいに1つのプロジェクトに対してというわけではなく、もう少し全社的なものにするつもりで作ったんですけど、目的を変えて2つ立ち上げています。

この2つのひみつきちには共通して、デンソー社内で人材をかき集めてコミュニティを作って活動していくという部分がベースにあります。このロゴもデンソーの社員が作っています。

外部のパートナーを探さなくても、あるいはWeWorkのような偶然の出会いを演出する場を求めて、そこに行って出会うということをしなくてもいいんです。

デンソーには、希少なタレントを持った人たちがすごくたくさんいるので、そういう人たちと一緒にコラボしながら、サービスなりプロダクトなりを作っていくというのがこの活動です。みなさんもデンソーに入られたら、ぜひこちらで活躍していただきたいと思います。

ありがとうございました。

(会場拍手)