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株式会社一休、榊淳氏・大西健太氏インタビュー(全3記事)

2019.04.24

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一休×データサイエンス=? 榊社長が語る、業界の課題と目指すべき場所

提供:株式会社一休

高級ホテル・高級旅館専門予約サイト「一休.com」をはじめ、高級レストラン予約サイト「一休.comレストラン」など、様々なサービスを運営する、株式会社一休。今、一休はデータサイエンスの力でサービスにさらなる価値を見出そうと模索しています。蓄積されたユーザーデータを用いてどんなことを実現しようとしているのか? 株式会社一休、代表取締役社長の榊淳氏と、データサイエンス部所属のデータサイエンティスト大西健太氏に、一休がデータサイエンスによって目指している世界について語っていただきました。前編の本パートでは、榊社長に一休のサービスの今と、データを活用して実現したいことについてお話しいただきました。(全3回)

社長に聞く、一休×データサイエンスが実現する世界

――まずは一休さんのサービスについてお話を聞かせてください。一休さんが今手がけているサービスはどんなものでしょうか?

榊淳氏(以下、榊):手がけているサービスは大きくは2つで、宿とレストランの予約サービスです。

特徴としては、高級な宿と高級なレストランですので、「こころに贅沢させよう」というビジョンで、世の中に幸せな時間を増やすことを目的としています。

――「高級」の定義づけはあるんでしょうか?

:明確にあるわけではないですが、1つはお客さまの評価が大事ですよね。お客さまがいいと思えば、我々はそれでいいわけです。じゃあ、どんなものをいいと言ってくださるかというと、家では得られないような「非日常」が得られる場所が、お客さまが求めていらっしゃる高級、上質なのかなと思っています。

――なるほど。求められるものにコストパフォーマンスもあるかと思うのですが、そっちにいくわけではないということですね。

:はい。例えば、うちの場合は明確なんですが、お客さまの評価が高いのは「価格が高いもの」です。

旅館でお客さまの平均口コミのスコアと単価を並べると、一部屋15円万以上みたいなものは口コミ4.9。10万円は4.6。あまりないけれど、6万円以下では3.8みたいに、明確に差が出ます。これはレストランも同様です。

なぜかというと、例えば旅館の場合は明確なんですが、1泊1部屋、2人で10万円以上の宿というのはいわゆる高級宿ですよね。それで満足させられなかったら、たぶん事業が継続できないということだと思います。それほど参入障壁が高くないので、参入もあるし退出もある。これが旅館という事業の特徴です。

ホテルに関しても同様です。例えば高級なホテルに泊まる場合、街中であれば、どちらかというとアーバンリゾートというか、自分を癒やすことを目的にお客さまが滞在されています。

例えば、都内の高級ホテルだと、1泊10万円くらいするわけです。その人はおそらく生活力をお持ちですよね。よく聞くのが「俺んちのリビングもいいんだよね」みたいな。

――なるほど(笑)。

:それよりもよくないとダメで、それが「非日常」ですよね。そうすると、やはり高級であればあるほどお客さまからの評価が高いわけです。

――もともと一休さんが高級なホテルやレストランにフォーカスすることになった理由はどこにあるのでしょうか?

:私は創業からいるわけではないので聞いているお話ですが、この会社はドットコムブームがあった2000年ぐらいに創業しています。その当時、雨後の竹の子のように何百もインターネット宿泊予約サイトができたそうです。

それで勝ち残っているのは、現在は楽天トラベルとなっている「旅の窓口」や「じゃらん」など、数えるほどです。ほかは全員淘汰されました。その市場環境の中で「フォーカスする」ということを当時の創業社長が決められたと聞いています。

当時は、資金調達もすごく大変だったそうです。「なんで高級層にフォーカスするんですか?」「フォーカスすると市場が小さいよね」「全部の市場を獲ろうよ」「そっちのほうがIPOプラン書きやすいよね」みたいな意見の中で、葛藤しながら「高級」にフォーカスされたと聞いています。

今でこそ我々は高級な予約サイトと言っていますが、サイトを見ていただいたらどこにも「高級」とは書いていません。だから、我々は高級な宿の予約サイトであるとか、高級なレストランの予約サイトであるということを世の中に謳っているわけではないんですね。お客さまが「一休さん、高級だよね」と言ってくださっているんですよ。

例えば伊勢丹は「我々は高級です」とは言わないじゃないですか。「高級と自分で言うのはダサい」みたいなところもあります。「高級と自称するのではなく、思われたい」という気持ちでやっています。

高級ホテル・レストラン業界における課題

――ホテル業界やレストラン業界で、高級層特有の課題はありますか?

:ホテル・旅館・レストランにそれぞれありますが、ホテルは今、インバウンドでたくさんお客さまがいらっしゃるので、業界としては非常に潤っています。

これから2020年のオリンピックに向けて、宿がたくさんできています。オリンピックまでは稼働も高いんじゃないかと想像していますが、オリンピックが終わった後も、稼働を維持できるのかは大きな課題です。

維持するためには、日本へのインバウンドが増えなければいけません。もしくは国内のお客さまがもっと泊まりに行くようにするのが、将来予見されている課題ですよね。ただ、今は課題感は薄いと思います。

旅館になると、また別の課題感があるような気がします。旅館の稼働は、月火水木金土日とずっとありますが「何室埋まりましたか?」と聞いた時に、「9割です」という旅館は本当に少ないんですよね。「半分です」とか「6割です」という旅館もかなり多いです。ということは、幸せな時間を過ごせる場所が4割余っている。それはもったいないなと思いまして、そこにご送客するのが、我々が取り組みたい課題ですね。

例えば、旅館は「金土は埋まるんですが平日が埋まらないんです。だから埋めたい」とおっしゃる。でも、旅館1泊2日10万円を、2万円にはできないわけですよ。ただ、8万円にすることはできるはず。でも、まだお客さま側と宿側で、需給がマッチしていないような感じがしますよね。だから平日稼働が余っている。

そこはなにか、とくに高級なお宿に関してはよりよいやり方があると思います。例えば、高級なお宿の場合は基本的に値引きは一切されませんよね。だから、少しのディスカウントで平日が埋まる可能性もあるので、そういった取り組みはやっていきたいと思います。

レストランは、一番課題をお持ちかなと思います。例えばですが、けっこういいレストランに、平日夜に会食に行くとします。そうすると、席、空いてませんか?

――空いてますね。

:空いてますよね、東京は。東京というか日本がそうなんですが、いいレストランの席が空いていることが多いなと思います。

本当に予約困難店と言われるような人気のお店は、ものすごく少ない。そこに集中していて、そのちょっと下のレストランは空席があって、もったいないなと思います。そこは我々としては販売させていただきたいですね。それも幸せな時間を増やすことになりますので、ぜひ取り組みたい課題だと考えています。

一休が取り組んでいること

――一休さんは、そういった課題に対して現在取り組まれていることについて教えてください。

:まず、ホテルや旅館は稼働をコントロールされています。一言で言うと、日によって値段が違うわけです。同じ宿の同じ食事でも、月火水木金土日で値段が違う。そうやって需給のバランスをコントロールされています。航空会社もそうですよね。

例えば、ゴールデンウィークに10連休がありますよね。そこで我々は施設さんにおうかがいして、「ここどうですか? 入ってますか?」「いや、この間大きなキャンセルが出てね」とか、そういうお話をおうかがいして、「じゃあこういうプランで、うちで販売するのはどうでしょう?」みたいなかたちで、施設さんとのリレーションをベースにした活動を一生懸命やっています。

我々はそこでお得な商品が獲得できたら、それをうちに商品として登録いただけるので、それをどういうお客さまに、どういうかたちで売っていくかを、データサイエンスを絡めながら一生懸命売っていく。それが、我々がやっていることです。検索結果をパーソナライズするとか、この商品は誰に伝えるとか、そういったことは徹底してやっています。

レストランはまったく別です。レストランは基本的に固定プライスで、ハッピーアワーぐらいしか価格が変わるものはありません。我々がレストランにおうかがいすると、例えば「月曜日のこの時間が弱い」「日曜日の夜7時以降が弱い」「土日のランチが弱い」など、さまざまな課題があります。

そこで、行く予定がなかった人に行っていただけるような商品を一緒に考えたり、「ちょっと早く着いたら、1ドリンクがつきます、といった特典をつけてみてはいかがですか?」「飲み放題プランにして、通常2時間のところを3時間にされるのはどうですか?」など、いろんな商品を提案しながら、そこに新しいお客さまをお送りする努力をしています。ダイナミックプライシングですね。

我々はダイナミックプライシングをベースに、商品を変えたり値段を変えたりといったご提案をして、実際にご送客します。我々のお客さまは、基本は予約するタイプのお店なので、イメージとしては、集客したいお店に行列を作るのがゴールです。予約なので実際に行列はできないんですけどね。

でも、例えばテレビで「ここのラーメンおいしいよ」と言ったら、次の日に行列ができているじゃないですか。我々は、いいなと思うお店に対して、集客にお困りだったらそこに行列を作るようなところを目指しています。

レストラン業界の空席をどう解決するか

:もっと言うと、例えばあるお店がだいたい8割のお客さまを予約で埋めようと思っているとします。よくある話なんですけど、残り2割は、もしかしたら突然、今日はいけるというお客さまがいるかもしれないし、「今空いてますか?」と入ってくるお客さまもいる。そのように、2割は空けているというお店で、夕方19時から土砂降りだったとしますよね。そしたら、もうその2割は壊滅的なわけですよ。

僕がそのお店の店長だったら、「Amazon Dashボタン」みたいな「集客したい!」ボタンを押したいですよね(笑)。だって、社員も揃っていて、食材もあって、席もあるわけですから。

また別の話で、例えば、銀座の懐石&ステーキみたいなお店があったとして、いつも1食1人1万5,000円で予約を取っているとしますよね。ある日の予約はどんどん埋まっていくんですけど、「この日は全席売れました。でも、この日は売れませんでした」みたいなことがあるわけですよ。

それをあとから言われても、「売り切れなかった日は、ちょっと値下げしても売ればいいじゃん」と思うじゃないですか。でも、お店の人からするとそのコントロールだけでも大変なんですよ。「じゃあ、いつから値下げすればいいんだ?」とか。

そういうお店に対して事前にご相談しておいて、「当日までは1万5,000円で埋まるかもしれないから、1万5,000円で売りましょう。その日の夜中0時を回った瞬間に、いくらまでだったら値下げしていいのかをあらかじめ決めましょう」というように、自動的にやれば、毎日満席になりますよ、たぶん。

それを「この日、売り切れていない。じゃあ1万2,000円のプランを作って……」というのを毎日やるのはものすごく手間なので、そういったことも含めて提案できればと考えています。これはあくまで1つの例です。お店のご状況によりますからね。

例えば、毎日売れ残っているお店があるとしますよね。それはもう、1万5,000円の値付けに無理があるかもしれません。

――そうですね。

:失礼ながら申し上げると。毎日売れ残るんですよ。「あんまり埋まりすぎると高級感が損なわれるから」とか「隣の席の人の声が聞こえるから、埋めないようにしているんだ」という事情があればいいんですが、「埋めたいと思っていて埋まらない。なんとかしてください」というのは、なかなか難しい。

でも、時々は埋まる、という場合はやりようがあるというか、もっと上に行けるチャンスがあると考えていますし、こういうレストランはいっぱいあります。

――旅館やホテルは、空いているのが日〜木ということですが、レストラン業界だとバラバラなのでしょうか?

:そうですね。

――だから決めづらいということなんですね。

:それもありますし、よくよく考えていただきたいんですが、ホテルは企業です。「何月何日に、どの部屋をいくらにする」みたいものが、会社の業績にすごくインパクトを与えるので、それを考える専門の人がいます。

競合のプライスを見ながら「じゃあ、うちはこの日はいくらで」みたいに、緻密なことをやられているわけですよ。「嵐のコンサートが入った、売るぞ!」みたいなことをやっていらっしゃるんですよ。

でも、レストランはそれぞれ規模が小さい。その方々にレベニューのコントロールはやっぱり難しいので、我々はそこをお手伝いをして、1人でも多くのお客さまにいい時間を過ごしてもらいたいなと思っています。

一休に集まるデータの特徴

――そういったレストランやホテル・旅館に提案をするためのベースになっているのは、おそらくこれまで一休さんで使われているデータの積み重ねだと思います。そういったデータにはどんな情報が詰まっているのでしょうか?

:まず1つ、顧客別の予約情報はありますよね。だから、「どのお客さまが、どの施設さんにご訪問して、どういう食事をされて」というデータは全部たまっています。

そのもう少し手前の情報としては「どのお客さまが、どの商品を閲覧したか」「その商品にどれぐらい興味を持ったか」「何秒閲覧したか」も全部データがあるので、「この人、この商品で迷ってる」などを全部、リアルタイムでも把握しているし、過去のデータもあります。それは大きな情報だと思っていますね。

――それらのデータを使って具体的にやりたいことについて教えてください。

:レストランに関して言うと、日本人の特徴かもしれませんが、偏差値が好きですよね。食べログスコアとか、Top100とか、Top1000みたいなものですね。あれはどちらかというと、「あなたたち、全員同じ味覚でしょ」という前提に立っていますよね。

――そうですね。

:それはその方たちがやればよくて、僕たちはもう少し先に進みたいと思っています。もう1つの軸が「あなたの好み」という軸です。「あなたにとっての5.0はここ」と言いたいというのが、データ活用の前提にあります。

飲食の場合、実際にレコメンドのモデルを一緒に開発してるとすごくよくわかるのが……例えばA君にとっての4.0や5.0はどんなお店かというのを「こういうお店です」と提示してあげるじゃないですか。そうするとA君はこう言うんですよ。「いや、ごめん。今日の俺は違う」と。

なぜかというと、「デートに行くA君」「お母さんとご飯に行くA君」「会社の人と出かけるA君」は、全部別人なんです。相手によって行くお店を変えるから。だから、かなり多重人格なんですね。

そのかけ算の中で、この人は今なにをやろうとしているか。3人でデートに行くってなかなかないじゃないですか。だから、例えば「2人」で検索していると、「これはきっとデートだ」となるようなものを、すごく考えています。

最適なレコメンドを実現するための2つのポイント

:レストランにはもう1つ、難しい理由があります。ホテルや旅館の場合、「リッツカールトン」と言ったらなんとなく高級なイメージがありますよね。でも、あるレストランの名前を言った時、高級かどうかのジャッジの材料がないというか……例えば「オテル・ド・〇〇」と言われたら高そうとか、そういう感じじゃないですか。本当に高いかどうかはわからないですからね。

だからそこは、「お店に詳しい」そして「あなたに詳しい」という2軸があれば、あなたに最適なレコメンドの確度が上がるんじゃないかなと考えています。

僕たちは、予約データを持っていて、閲覧のデータも持っていて、その方たちがどういうレストランへ行って、どんなレーティングをしたかも見ています。800万人のユーザーがいるんですが、800万人のユーザーをN次元のベクトル空間に投影することができるわけです。一人ひとりがベクトルみたいなものですから。

例えば、A君というベクトルに一番近い20人を集めてきて、「A君ライクな20人はどこが好きなのか?」を使うと、いろんなことができます。僕たちがやりたいことの1つは、そういうことですね。

――ホテルや旅館の場合はいかがですか?

:ホテルや旅館の場合も同様にやっていまして、かなり精度が高くできてるような感じがしています。突然あなたに対して「ねぇ、今度旅館行かない?」とはならないですよね?(笑)。

――確かに(笑)、そうですね。

:「旅館に行く」という「僕」はほとんど同一人物なんです。基本的に奥さんなど親しい人と行きますよね。もちろんいろんな人がいるので、相手が違う場合もあるかもしれませんが……。いろんな人と旅館に行く人も、その人は見栄を張りたいという目的なので、基本的には同じ人ですよね。なので、その人がけっこう特定されやすい特徴があります。

あとは、お客さまも商品の高低を比較的わかっている。ヒルトンと言ったら「あっ、ヒルトンね」となりますよね。強羅花壇と言ったら「強羅のあの旅館ね」となりますよね。なので、レコメンドやターゲット配信は、あまり高度なデータサイエンスを使わなくても、お客さまからの支持を得られているような感じがあります。レストランはまだまだです。

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