スマートニュースの今

浜本階生氏:みなさん、こんにちは。「SmartNewsって今どんな感じなの?」というタイトルでお話しさせていただきます、スマートニュース株式会社・共同代表の浜本と申します。どうぞよろしくお願いします。

本日は、お忙しいなか当社のイベントにお集まりいただきまして、本当にありがとうございます。

最初に僕の自己紹介をさせていただきますと、スマートニュースの共同創業者兼、現在は共同CEOを務めております、浜本階生と申します。

僕は13歳のときにプログラミングを覚えて、それ以降はずっとソフトウェア開発、ものづくりに取り憑かれたような感じで生きてきました。「SmartNews」の起ち上げ期においては、サーバサイドのニュースの収集エンジンから、クライアントサイドのiOSのアプリの実装まで、一応全部担当していました。

そんなスマートニュースなんですけれども、「Deliver the world's quality information to the people who need it.」「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」という言葉をミッションに置いています。

今、高度情報化社会と言われているわけですが、この現代において人がどれだけすばらしい貢献を世の中に対して行い、どれだけすばらしい人生を送れるかは、情報によって左右されると思っています。

その人がどれだけ良質な情報に触れることができて、どれだけ多様な価値観に触れることができ、見識を広げて、あるいは深めて、その結果、世の中に対して今度は自分がなんらかの貢献ができるようになる。こういう重要な役割を情報が担っていると思います。

この大切なテーマに、スマートニュースは技術の力で直接向き合おうと考えています。

SmartNewsが生まれるまで

SmartNewsがiOSアプリとして世の中にリリースされたのは、今から6年以上前、2012年の12月です。さらにそこから遡ること3年ぐらい、良質な情報を届けるメカニズムを自分なりに探求して、僕が個人プロジェクトとして行っていた取り組みがありますので、前史として少しだけご紹介します。

最初は、2010年ぐらいに開発を始めたWebクローラーがありました。この左の写真はその一部なんですが、自作のサーバを10台くらい稼働させて、大量のインターネットコンテンツを収集して解析をするということをやっていました。

そのうちにその基盤技術をニュースアプリケーションに応用するアイデアが生まれまして、2011年に、SmartNewsとはまったく違う、「Crowsnest」という名前のプロダクトとしてリリースするに至りました。

このCrowsnestは、ニュースアプリケーションという意味ではSmartNewsと一緒なんですが、パーソナライズの機能を最大の特徴としていたWebアプリで、残念ながら事業としてはうまくいきませんでした。

その学びをもとにして、基盤の技術は共通のものを使いつつも、より多くのユーザーに受け入れられるプロダクトのデザインを考えて、再チャレンジしたのがSmartNewsです。これが2012年の12月にリリースされました。

数字で見るSmartNews

このトークのテーマは「今どうなってるの?」ということですので、その話題に移りたいと思います。

最初に今日お伝えしたいことを先に言ってしまいますと、この「SmartNewsって今どんな感じなの?」という問いに対して、答えは「日本だけでなく、米国でも躍進が続いています。日本のTech Startupとして前例のない『単一プロダクトによるグローバル市場での成功』を実現すべく、全社をあげて、野心的な挑戦に取り組んでいます」、こんな答えになります。これ以降のスライドで具体的な説明をしていきたいと思います。

まず、ファクトとして、SmartNewsが現在どのような成長をしているのかをお話ししたいと思います。

SmartNewsはリリース以降、過去最大のペースで成長しています。しかもその成長は日本だけではなくて、米国でも大変著しいものになっています。

こちらはつい先日プレスリリースで発表したものですが、SmartNewsは日米で4,000万ダウンロードを突破しました。これは日本のニュースアプリとして見ると圧倒的No.1の規模です。

グラフを見ていただくと、直近の成長のカーブの角度がとりわけ大きくなっているのがわかると思います。3,000万ダウンロードを突破したのが去年の5月でして、そこから10ヶ月足らずで4,000万ダウンロードを突破したので、1ヶ月に100万ダウンロードかそれ以上のペースでユーザーを増やし続けていることになります。

ランキングの観点で見ても、SmartNewsは2018年を通じて、iOSとAndroidを合わせて、日本でダウンロードされたアプリの中で総合3位でした。これはけっこうすごいことだと思っているんですが、そのような実績をあげました。これはInstagramよりも上、Yahoo! JAPANよりも上、メルカリよりも上ということになります。

しかもダウンロードされたユーザーのアクティブ定着率や、あるいはユーザーあたりの滞在時間というエンゲージメントの指標で見たときも、あらゆるアプリの中でトップクラスのパフォーマンスを発揮しています。

これが全体的な状況です。

アメリカでの躍進

SmartNewsの2018年の米国での成長には目を見張るものがありました。まだ日本に比べると絶対的な知名度や絶対的なユーザー規模は低いので、本当のインパクトが出てくるのはこれからなんですが、すでにいくつもの権威ある米国のメディアがSmartNewsに注目しています。

例えば、これはハーバード大学のジャーナリズム研究機関の「Nieman Lab」の発表記事なんですけれども、SmartNewsを「2019年に最も成長が期待されるニューストラフィックソースである」と言い切っています。

こういった米国での躍進を背景に、去年からはテレビコマーシャルもはじめましたので、ご紹介したいと思います。例えばこんなものを放映しています。

(CMの映像が流れる)

あとは、こちらは……。

(CMの映像が流れる)

このようにスマートニュースのミッションである「良質な情報の追求」、その大切さを真正面から訴えるアプローチになっていて、これがとてもよい成果をあげている状況です。

これが一応ファクトとしてSmartNewsが日米で成長しているシチュエーションです。ここからは、そんなSmartNewsがどんな挑戦を行っているかを説明していきたいと思います。

インターネットが社会を分断する時代

今お見せしたテレビコマーシャルの2本目では、青い服を着た女性と赤い服を着た男性が、自分がニュースをどう見ていたかということを話す構成でした。これ、気づいた方もおられると思いますが、現在米国が直面している社会の二極化、分断の構造を象徴的に暗示しているのです。

つまり、青い服は民主党支持者を主体とする、いわゆるリベラルな人たちの層。逆に赤い服は、共和党、あるいはドナルド・トランプ大統領の支持者を主体とするような、保守の層を表しています。

こちらはPew Research Centerという機関が調査した結果のグラフなんですが、過去20年ほどで、米国では保守とリベラルの層の乖離、立場の二極化があまりにも進んでしまったと言われています。お互いがその異なる立場の理解を深めようとせずに、むしろ罵倒し合ったり攻撃し合う、排除し合うという構造になってしまっています。

ちなみに、右上にあるこの写真は、実は僕が撮った写真です。先月米国に出張に行ったんですが、デモ行進に遭遇しました。これはサンフランシスコなんですが、もともと大変リベラルな土地柄で、市民が一色「反ドナルド・トランプ」というかたちで固まってしまっているような状況です。

「なぜ社会の分断が進んでいるのか?」ということは当然気になるわけですよね。ちなみに米国でもこうしたことが言われていると同時に、世界的にも社会の分断が懸念されている状況です。

その変化の理由の1つだと指摘されているのが、実はインターネット技術です。とりわけ、インターネットでより多くのユーザー、より多くの収益を集めるために必要とされるパーソナライズの技術、これが実は社会を分断させてしまったのではないかと言われています。

例えば、Facebookのニュースフィードを見ると、友達がシェアしたニュースがたくさん並んでいて、そこにまた友達の「いいね!」がたくさんつくわけですね。

リベラルな友達が多ければ、自分のフィードにはリベラルなニュースばかりが出てくるようになるし、読めば読むほど、「いいね!」をつければつけるほど、その傾向がアルゴリズムによってどんどん強化されていきます。これが一般的に起きると言われていることです。

これはあたかも、パーソナライズのフィルターが作り出す泡の中に一人ひとりが閉じ込められてしまうような現象であることから、イーライ・パリサーというアクティビストによって「フィルターバブル」という名前で呼ばれるようになり、注目を集めました。

「Personalized Discovery」

実際、2016年の大統領選挙でドナルド・トランプが当選した時、僕はサンフランシスコに出張していたんですが、その当選に呆然とする市民の様子を目の当たりにして、ショックの大きさをまざまざと感じました。

サンフランシスコの人たちからすると、多くの人たちのFacebookのフィードには、ずっとヒラリー・クリントンを支持するようなニュースや、それを応援する書き込み、クリントンの優勢を伝えるニュースばかりが並んでたので、まさかトランプが当選するとは夢にも思わなかったわけです。

つまり、本来、社会の壁を壊して自由さやオープンさをもたらしてくれるはずだったインターネットのプロダクトが、皮肉にも社会の分断を促進してしまっているのかもしれない。これは大変悲しいことだと僕は思っています。

スマートニュースはインターネットでニュースを扱う企業ですので、本当にそのような問題の当事者となりうるわけです。責任の重さと、スマートニュースがこの問題を適切に解決したときにもたらすことができる意義の大きさを強く感じていまして、そこでスマートニュースが掲げているコンセプトがあるんです。

技術コンセプトとして「Personalized Discovery」という言葉を掲げています。これは、人が消費したいものを単に供給するという原理ではなくて、「人が本当に必要としているはずのものは何なのか?」と、それを届けるという、真のニーズに対応したパーソナライゼーション技術を追求するというコンセプトです。

食べ物に例えて言うなら、確かにみんなお菓子やジャンクフードが好きですし、短期的には満たされます。ただ、本当に豊かな食生活を送って健康に生きるためには、時々そんなお菓子やジャンクフードも楽しみつつも、総合的に見ると栄養のバランスが取れたメニューをレコメンドしなければいけないと思うんですね。

このように、社会のためになるパーソナライズを作り出したいと思っているのがSmartNewsです。

技術追求がプロダクトに成長をもたらす

このような社会貢献のできる情報のレコメンデーション、パーソナライズ技術の追求がSmartNewsの特徴ですが、もう1つ重要なポイントがありまして、それは「技術追求がプロダクトの成長に直接的な貢献をもたらしてくれる」という点です。

SmartNewsは、ニュースを閲覧してくれる多くのユーザーに対して自社で開発した広告を配信して、そこから収益をあげるというビジネスモデルになっています。

ニュースと広告はどちらもコンテンツですので、究極的に言うと、より良質なニュースを届けるための技術と、より適切な広告を届けるためのいわゆるアドテクノロジー。これは同じコンテンツレコメンデーション技術に収斂していくと言えます。

スマートニュースのエンジニアの挑戦というのは、より良いコンテンツのレコメンデーションやパーソナライゼーションの技術、それからユーザー体験を磨くことです。するとなにが起きるのか。

より多くのユーザーが、満足度高く、SmartNewsのユーザーとして定着をしてくれます。そして、それが高い収益性を生み出します。そしてその収益が、今度は、グローバルな取り組みを進めるため、あるいはユーザーをさらに増やすための活動の原資となります。

つまり、エンジニアリングの力を直接的に使って、プロダクトが成長するためのポジティブ・フィードバック・ループを作り出すことができる。これが技術観点から見たときのSmartNewsが持っている最大の特徴の1つだと考えています。

開発責任者はサンフランシスコに

さて、ここまでSmartNewsにはどんな技術的挑戦があるのかというお話をしてきました。続いて、グローバルな挑戦に取り組むためにどんな人たちがスマートニュースに集結して、どんな組織体制を作り上げているのかをご説明したいと思います。

まず、プロダクトの開発体制についてです。現在スマートニュースのプロダクト開発を率いている総責任者は、実は日本人ではありません。サンフランシスコに勤めているJeannie Yangという人物が、SVP of Productとしてプロダクト開発責任を担っています。

彼女は、みんなでカラオケをしてセッションを楽しめる「Smule」というプロダクトを作った会社のChief Product Officerとして、全世界で5,000万アクティブユーザーを実現した、すごい経歴の持ち主です。去年からスマートニュースに参画して、「One Product, One Team」の哲学に基づく、グローバルプロダクト開発体制を作ってくれています。

このコンセプトはどういうことかというと、日米で異なるタイムゾーンや言語、物理的環境でありながらも、その活動のコードベースは1つ、そしてチームも1つ。1つのユニバーサルなアプローチをみんなで作っていくという原則の下で、クロスファンクショナルな開発チームを、サンフランシスコと東京を結ぶかたちで組成しています。

事業開発の体制

次に、事業開発の体制についてです。もちろんこれは日本と米国でそれぞれあるのですが、今日は主にグローバルな取り組みをご紹介したいので米国の事業開発体制についてお話しすると、現在それを率いているのがRich JaroslovskyというVP for Contentの人物です。

彼は米国で「オンラインメディアのguru」と呼ばれています。なぜかというと……米国で最初に作られたインターネットメディアの1つは『Wall Street Journal』のオンライン版です。これができたのが1996年なんですが、相当な黎明期ですよね。

この頃に、このデジタルジャーナリズムの可能性に賭けるということで、オンライン版の『Wall Street Journal』を起ち上げたのが、このRich Jaroslovskyです。

彼はほかにも、世界最大のデジタルジャーナリズム団体である「Online News Association」を起ち上げたり、スタンフォード大学の卒業生ネットワークの中心的役割を務めたりしています。

このRichの強いリーダーシップによって、米国では300社を超える主要なメディア企業とのパートナーシップが結ばれています。自社イベントでは著名なジャーナリストたちを招聘しています。例えばこの人はDan Ratherといって、『60 Minutes』という非常に有名な番組のアンカーマンだった人物です。

活動は3拠点

こういったグローバルな事業を推進するための強力なリーダーシップがあるんですが、物理的なオフィスの環境についても説明させてください。

この東京のオフィス以外に、サンフランシスコとニューヨークの2拠点、合計3拠点でのプロダクト開発体制をとっています。とくにサンフランシスコが大きくて、エンジニア、プロダクト、マーケティング、メディア事業開発、こういった複数のチームが一緒に仕事をしています。

ちなみに、所在地は赤いマークを置いてあるところなんですが、ここはサンフランシスコのTech Startupがとりわけ多い「2nd Street」と呼ばれる通りでして、すぐ近くにLinkedInの本社やYelpの本社があり、優秀な人たちが集結して仕事しているような場所です。なので、グローバルなプロダクト開発の潮流を感じるには最高のロケーションです。

ニューヨークは、やはり世界的なメディア企業の本社が多く、マンハッタンにその拠点を構えていることから、事業開発を中心としたメンバーが活動しています。

こういったグローバルな物理的オフィス環境を、それぞれどのように相互接続できるようにしているかということもお話しします。

事例の1つとしては、「Go Global」と呼んでいる全社グローバルイベントがありまして、毎年秋に日米のメンバーが全員東京に集結して、全社戦略の理解を深めています。

あとは、制度の1つに海外の自主渡航を奨励するものがありまして、スマートニュースの正社員は、年に2回まで、自己申請にもとづいて、好きなかたちで1週間海外滞在できます。その使いみちは完全に自由なんですが、エンジニアの場合は、だいたい自分の興味があるテックカンファレンスに参加する用途で制度を活用しています。

とくに技術系のカンファレンスは、かなりの数がサンフランシスコやその周辺のシリコンバレー界隈で開催されているので、よくあるパターンとしては、そのようなイベントに参加しつつ、サンフランシスコのオフィスで仕事をするというパターンが多くなっています。

では、そろそろまとめに入らせていただきます。

まず、現在SmartNewsは、ファクトとして、日米の両国で過去最大ペースの成長を続けています。

その成長の背景には、普遍的であると我々が信じている「良質な情報を世界中に届ける」というミッションがあり、それをさらに技術の力で牽引しているという、大切な特徴があります。

そして最後に、そうした挑戦を可能にする最高のチームがあります。このチームに加わってくださるみなさんを絶賛募集しておりますので、ぜひ一緒に大きなチャレンジができたらと思っています。

以上です。どうもありがとうございました。

(会場拍手)