楽天のUXデザイナーが明かす、“UXデザイン”の考え方を部署に浸透させるためにやったこと

どうすれば部署にUXデザインの考え方を普及させられるか?

UX Night Vol.1
に開催

2019年1月31日、Indeedが主催するイベント「UX Night」の第1回が開催されました。Indeed社内で活躍するデザイナーや一線で活躍するキーパーソンが一同に会し、デザイン手法を活用した取り組みやUXにまつわる様々な事例を語る本イベント。今回は、クックパッド、Indeed、楽天における知見を語ります。プレゼンテーション「どうすれば部署にUXデザインの考え方を普及させられるか?」に登壇したのは、楽天株式会社UXデザイナーの中川ともこ氏。楽天のWeb制作チームにおいてUXデザインの考え方を取り入れ、それを浸透させるためにやったことについて語ります。

UXデザインを普及させるためにできること

中川ともこ:今日は「どうすれば部署にUXデザインの考え方を普及させられるか?」ということでお話しさせていただきたいと思います。改めまして、楽天の中川と申します。よろしくお願いします。

私は、紙媒体のグラフィックデザイナーとしてキャリアをスタートし、ここ10年ほどはUXデザインやUIデザインに携わっております。2016年に楽天に入り、そろそろ3年が経とうとしています。

現在は、楽天のコマースカンパニーでUXデザインを担当しております。

普段使っているツールですが、パワーポイントで今日のようなプレゼンの資料を作ったり、XDでワイヤーフレームを描いたり、Photoshopで画像をいじったりしています。あと、方眼紙みたいなものにワイヤーやスケッチを描いたりもしています。ツールを見ていただくと、どんな仕事をしているのかだいたい想像していただけるんじゃないかなと思います。

楽天のコマースカンパニーは、「楽天市場」をはじめとして、お買い物や生活、レジャーに関するインターネットサービスを中心に、日々の生活をより楽しく便利にするサービスをいろいろと提供しております。私が属する編成部は、これらのサービスのWeb制作や運営を行っている部署です。

UXデザインができる人を増やす

「どうすれば部署にUXデザインの考え方を普及させられるか?」についてお話しさせていただくにあたって、組織の中における私の部署の位置付けをお話します。

楽天は、グループヘッドクォーターに属するグループ横断組織と、各カンパニーとに大きく分かれます。コマースカンパニーはこれらカンパニーのうちの一つで、私はその中の編成部にいます。

組織全体の大きさから見るとけっこう小さいところを対象としているように見えるかもしれませんが、eコマース、かつユーザーに1番近い部分を担う部署として、私たちはプロ意識を持って制作に取り組んでおります。

私が楽天に入社してからのミッションとして、「UXデザインができる人を増やす」というのがあります。というのも、実は私が今の部署に配属されたときには、いわゆるUXデザイナー、つまり専門家みたいな立ち位置で仕事をしている人が1人だったからです。

少しだけ前職の話をしますと、受託でUXデザインのプロジェクトに関わっていたんですね。そこでは1人のUXデザイナーが複数のUXデザインプロジェクトを担当するというスタイルでした。

このスタイルが当然、今の楽天にも当てはまるのではないかなと思い、自然とこのような(1人のUXデザイナーが複数のプロジェクトをリードする)スタイルになるかなと想像していたんですね。

ところが、ほどなくしていくつかの課題が浮かび上がりました。

1つめは、「プロセスやスケジュールにUXデザインそのものを入れる余地がぜんぜんないよ」という課題ですね。

2つ目は、そもそも「UXデザイナーがどんなことをしてくれるのか」がぜんぜん認知されていなかったことです。

3つ目は、組織が大きいこともあり、とにかくプロジェクトの数が膨大で、優先順位を付けて1つずつこなしていかざるをえず、多くを取り扱うことが難しいという状況でした。

そして最後は、なかなかUXデザイン人材が来てくれないんですね。こういった4つの大きな課題に直面することになりました。

3つのミッション

こういった課題を考えると、UXデザインができる人を増やすにあたって目指すべき姿としては、UXデザインのプロセスをリーディングできるUXデザイナーの数を増やすよりも、プロジェクトに関わる全員、UXデザイナーだけではなく関わる「全員がユーザー体験を当たり前に考えられる」ような文化を作っていくほうが重要なんじゃないかなと考えるようになりました。

そんな「文化作り」みたいなものを牽引できるように、約1年前、部署の中に「UXデザインラボプロジェクトチーム」が発足しました。このチームはナレッジの蓄積や共有、人材育成、コミュニティ活動といった幅広い活動を担っています。

そこで、部署ができると同時に「全員がユーザー体験を当たり前に考えられる状態」を、「全員が“UXレンズ”を通して考えられる状態」というふうに改めて定義しました。

ちなみにこの“UXレンズ”という素敵な言葉は私が考えたものでもなんでもなくて、UX MILKの記事で紹介されている言葉ですので、ぜひ読んでみてください。

この「全員が“UXレンズ”を通して考えられる状態」を実現するために、チームのミッションを掲げました。ミッションは大きく3つあって、「事例作り」「カルチャー作り」「環境整備」です。

1つ目の「事例作り」はUXデザインのプロセスを取り入れた事例をとにかく作るというものです。

2つ目の「カルチャー作り」は、UXデザインを自然に受け入れられる状態を作っていこうというものです。

3つ目の「環境整備」は、UXデザインをいざ「導入したいよ」となったときに必要な情報やツールを整備していきましょうといったミッションです。

はじめに力を入れたのが「事例作り」です。とにかく案件に入り込んでいって実績を作ることで現場の信頼を獲得していくといった、いわば「信頼貯金作り」みたいなところです。この素敵な言葉「信頼貯金」は、この間とあるイベントでビズリーチの田中さんというCDOの方が使っていたのでちょっと参考にしてみました。

次に力を入れたのが「カルチャー作り」で、これは社内外のUXデザイン関連の情報などをとにかく発信し続けることで、今まで興味がなかった層にも刷り込み的にUXデザインを身近に感じてもらいたいなという取り組みです。これが昨年とくにチームが注力したミッションです。

そして今年力を入れていこうとしているのが「環境整備」です。いざUXデザインを取り入れようとしたときに道しるべとなるような環境を整えていきたいなと思っています。

例えば今予定しているのは、先ほどのUXデザインを挟み込む余地もないような既存のプロセスにどう取り入れていくのか、プロセスを改めて定義したり、そこに必要なテクニックやメソッドを学べるような研修の導入を考えています。

カルチャー作りのために実施した4つのこと

今日はこの3つのミッションの中で、とくに昨年注力した2つ目の「カルチャー作り」の取り組みの中から4つのアクションをご紹介させていただきたいなと思っています。

1つ目はメルマガの創刊です。部署全体にリーチできるメディアとしてメルマガを創刊しまして、月1のペースで部署内外のUXデザインにまつわる情報を発信しています。社内ですぐに活用できる情報から、イベントレポートや本の紹介まで、UXデザインの情報がいつも身近にある状態を作りたいと思い、これまで5回配信してきました。

2つ目は「UX Potluck––持ち寄りUXトーク」というライトニングトークのイベントを企画しました。部署のメンバーが実際のプロジェクトの中で「ユーザー目線で考えるためにこんなことやったよ」みたいな小さな事例をライトニングトーク形式で共有してもらう社内イベントです。

身近な実践事例をいろいろ知ることで「自分の業務に取り入れるとしたらどんなふうになるかな?」みたいな、妄想でもいいから考えてもらうような場になるように、「自分ゴト化」できそうな小ネタを集めて共有する会にしました。

このイベントでは参加者に暗に感じてもらいたいことがあって、「もうみんな普通にUXデザイン取り入れてるんだ!」みたいな驚きや「じゃあ自分もそろそろ取り入れなきゃまずいな」みたいなちょっとした焦り、「そんなに肩肘張らずに取り入れられるんだ」みたいな安堵感が伝わるとうれしいなと思っています。

今までに2回開催しましたが、けっこういい感想やフィードバックをいただいていまして、満足度・理解度ともに部内の数字としてはなかなかいいものになりました。

3つ目は読書会や勉強会などの有志が集まる部署内コミュニティの運営です。UXに興味のある人たちが部署のあちこちに散っているという状況があったので、その人たちの間で「ゆるいつながり」を作っていけるような、情報共有を促進するためのチャットグループも同時に作ってみました。

勉強会については不定期ながらも12人くらい集まる回があったり、チャットグループも今のところ34人集まったりしていて、けっこういい成長を遂げているかなと思っております。

4つ目はUXデザインの意識調査の実施です。組織のUX成熟度(Maturity Level)を測ったうえで、その成熟度に応じた施策を打てるように意識調査を実施し始めました。

これは今のところ半年に1度、定点的に観測することで、成長度合いや変わっていく状況を観察していきたいなと思っています。調査によって現在の興味やスキルの度合いをざっくり掴むことができると同時に、私たちのUXデザインラボのKPIとしても今後活用していけるんじゃないかなと思っております。

今日は3つのミッションの中から2番目の「カルチャー作り」について4つのアクションをご紹介させていただきました。今年2019年は「環境整備」、とくにプロセスの整備に力を入れてサポート体制を強化していく年にしたいと思っております。

UXデザインを部署に浸透させようという取り組みは去年から始まったばかりなので、これからも試行錯誤しながら取り組み続けていきたいなというふうに思っております。

というわけで、楽天では私たちと一緒にUXデザインをリーディングしていただける人材をはじめ幅広く募集しておりますので、ご興味ある方は私に話しかけていただくか、ぜひWebサイトをご覧ください。

(会場拍手)

リサーチャーの立ち位置

司会者:中川さん、どうもありがとうございました。では今からQ&Aに移りたいと思います。質問のある方いらっしゃいますか?

(会場挙手)

質問者1:すばらしいプレゼンをありがとうございます。「全員がユーザー体験を当たり前に考えられる状態」という中でリサーチャー、ユーザーがどこに入るのかということとその役割について教えてください。この中にユーザーとリサーチャーが入っていませんが、その人たちが果たす役割はないのでしょうか?

中川:当然あると思っています。「全員がユーザー体験を当たり前に考えられる状態」は社内ロールとして描いているので、ユーザーはここにはあえて入れていません。ただ私たちの目線の先にあるべきはユーザーだということが当然であるような仕組みを作っていきたいと思っています。

リサーチャーに関しては、もしかしたらこの資料が少し古いかもしません。実は私たちのUXデザインラボプロジェクトチームとほぼ時を同じくしてリサーチチームというのも誕生しました。

今年力を入れていくプロセスの整備はリサーチチームとタッグを組んで作っていくようなかたちになるので、当然お互いに大きなロールを果たすようになるかなと思っています。

質問者1:ありがとうございます。やはりユーザーが中心にある「ユーザー中心主義」ということだと思うんですけれども、そのユーザーの考え方はリサーチャーを通して得られるものもあると思います。

もちろんUXの人たちから得られるものもあると思いますが、「リサーチャーの観点からのユーザー」という考え方もあると思いますのでチームの中にユーザーの視点を持った人は必ず組み込まれなければいけないのではないかなというのが私のポイントです。

中川:ありがとうございます。

司会者:ほかに質問ある方いらっしゃいますか?

(会場挙手)

プロジェクトの進め方について

質問者2:貴重なお話ありがとうございます。冒頭で課題の1番目に「プロセスとスケジュールにUXデザインを入れる余地がない」というのがあったかと思います。

僕も今、すごく小さいチームなんですけど働いている会社でUX部にいまして。そこで今までいわゆるウォーターフォールといった形式でプロマネなどをしている案件に、UXのアジャイルなどを取り入れていこうとがんばっている最中です。「全員がユーザー体験を当たり前に考えられる状態」の「全員」にはもしかしたらプロマネというところが含まれているかと思います。そこが個人的にUXの思想を取り入れるのが1番難しいかなと思っていて。

「今までウォーターフォールでやっていたのを今度アジャイルでやってみよう」と思わせるためになにかいいコツがもしあれば聞きたいなと思いました。

中川:ありがとうございます。アジャイルについては、実は私がいる部署ではとくに推進しているという状況にはなくてですね。

どうしてかと言うと、主にWebデザインを行なっている部署なので「サービスを作る」「プロダクトを作る」「キャンペーン1つを作る」など、規模感にもいろいろなものがあって一口に「アジャイルを取り入れよう」「これはウォーターフォールだ」みたいな定義がなかなか一緒くたにできないところもあります。

ですから、「いまはこの1つひとつのプロセスの中で小さいイテレーションを回す」みたいな形でより良いものを各フェーズの中で作っていこうといったプロセスを定義したらどうかなとは思っています。

質問者2:ありがとうございます。

司会者:ほかに質問のある方はいらっしゃいますか? 

(会場挙手)

プロジェクトの課題

質問者3:プレゼンテーションありがとうございました。このプロセスの過程で直面した困難、あるいは逆戻りしなければいけなかったケースはなにかありますか?

中川:UXデザインを部署に広めようとする動きはけっこうトップダウンで行っていく部分もある意味必要ですが、上の理解が得やすい環境にはあるかなと思っています。

一方で、例えばディレクターさんやプロデューサーさんなど、とにかくクイックに広告を作ったり短期間でWeb制作していこうとしている現場の人たちには、プロセスが延びたり余計な手間がかかったりする印象を与えてしまいがちです。そういった現場に考えが浸透しづらいかもしれないのが1番大きな課題、チャレンジかなと思っています。

質問者3:ありがとうございます。

司会者:ほかに質問者のある方はいらっしゃいますか?

(会場挙手)

質問者4:ありがとうございました。この活動をすることによって、最初のほうのお話みたいに「越境する」といったかたちで違うポジションに近い動きをしたり、兼務するような人は出てきたのかなというのと、そのような兆しはあるのかなといったところをうかがいたいです。

中川:ありがとうございます。少数かもしれませんが、いるかなと思います。もともと保守的な考え方を持っている人が多いのかなと思う中で、例えばそれこそ短いスパンでWeb制作をしている人が目の前のことに一生懸命になってしまって、ほかのところになかなか目がいきづらいといったことはどこにでもある課題かなと思います。

そんな中でもこうした活動を通してUXデザインそのものに興味を持っていただいたり、UXデザイナーはけっこう「越境しまくり」なポジションだと思いますが、そういった動きを取り入れたいと思ってくださっている方は肌感ではいるかなと思っています。

質問者4:ありがとうございました。

中川:ありがとうございます。

司会者:そのほか質問のある方はいらっしゃいますか?

(会場挙手)

「信頼貯金」がもたらしたもの

質問者5:お話ありがとうございました。私はプロジェクトマネージャーという立場で、UXデザインを積極的に取り入れていきたいなと思っている側の人間です。ただ、UXデザインやUXに関する専門部署が私の会社にはないんですね。

今やられている活動の中で兼務しながらプロジェクトと一緒にやったことで1番効果が出た施策や、逆にプロジェクトの側でなにかやってもらいたかったことなど、そういうヒントってありませんでしょうか?

中川:けっこう難しいですね。いろんなパターンがありますが、この「信頼貯金」がはじめのとっかかりとしては1番効いたんじゃないかなと思っています。

そもそも私も部署のないところから活動を始めたので、個人に対する「なにをやってくれるんだろう」みたいなワクワク感や、私がやったことに対する信頼がだんだん貯金で積もっていって、やっと安定してリクエストをいただくようになったかなと思っています。

この「信頼貯金」が現場にとっては、もしくはプロダクトマネージャーみたいな方のポジションにとっては1番響いたんじゃないかなと思います。

「PMに求めるもの」というと今すぐ答えが浮かびませんが、とにかく人を巻き込んでいかないと成り立たないプロセスだと思うので、PMやディレクターの垣根を越境して、みんなで1つのものを作っていくマインドが必要なんじゃないかなと思います。

質問者5:ありがとうございました。

中川:ありがとうございます。

司会者:そろそろお時間ですのでQ&Aはこのへんにしたいと思いますが、どうしてもという方いらっしゃいますか? OK, thank you very much, Tomoko.

中川:Thank you.

(会場拍手)

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