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cookpad storeTV 〜クックパッド初のハードウェア開発〜(全1記事)

Webの会社がハードウェアを作ってみた––cookpad storeTV開発の舞台裏

2018年2月10日、恵比寿ガーデンプレイスザ・ガーデンホールにて、「Cookpad TechConf 2018」が開催されました。Cookpadのエンジニアやデザイナーがどのようにサービス開発に取り組んでいるのか、またその過程で得た技術的知見について公開します。続いて登場したのは今井晨介氏。「cookpad storeTV 〜クックパッド初のハードウェア開発〜 」と題して、Cookpad初のハードウェアである「cookpad storeTV」の開発にまつわる舞台裏を語りました。

クックパッドの新たな展開「cookpad storeTV」

今井晨介氏(以下、今井):みなさん、こんにちは。今日はご参加くださりありがとうございます。私はクックパッドの新規サービスcookpad storeTVについてお話をさせていただきます。

自己紹介をさせてください。今井晨介と言います。去年大学院を卒業して、4月からクックパッドで働いています。

今はstoreTVというサービスのディレクターとエンジニアをしています。よろしくお願いします。

さて、まず最初に聞かせてください。みなさん、storeTVってご存知ですか? 知ってる方?

(会場挙手)

まあ、あまり知らないですよね。storeTVはスーパーで料理動画を流すサービスです。こんなサイネージがスーパーの売り場に設置されていて、15秒の料理動画を放映しています。

サイネージの中にはAndroid端末が入っていて、私たちの開発したアプリが動いています。右側で料理動画を流し、左側でその素材を表示しています。QRコードを読み取るとクックパッドのレシピを見れるようになっていて、そのまま家に持ち帰ることができます。

メーカー、店舗、消費者、三者三様の価値

では、このstoreTVが誰にどんな価値を届けているのかをご紹介します。storeTVで出てくるユーザーは3人です。スーパー、買い物客、そして食料品メーカーです。

まずスーパーから見ていきましょう。スーパーはstoreTVのサイネージを無料で利用できます。好きな料理動画を選んで自由に商品の販促に役立てることができるので、例えばその日の特売商品であったり、旬のおすすめ商品を料理動画とともに訴求することができます。

次に買い物客です。買い物をしているときにスマホを取り出して今晩のレシピを探すなんて嫌ですよね。storeTVがあることで買い物客は売り場の食材に合った料理動画を見ることができます。そして今日のメニューを決めることができます。

最後に食料品メーカーです。storeTVは食料品メーカーの広告によってマネタイズを行います。彼らはスーパーの売り場で自社の商品の広告を流すことができます。テレビのCMとは違って購買前に商品を訴求することができます。しかも彼らはサイネージを設置、管理する手間がかかりません。

このようにstoreTVは三者三様の価値を提供しています。クックパッドはこれまでソフトウェアしか作ってきませんでした。今日はそんな私たちがどうやってサイネージという物理のハードウェアを作っていったかをご紹介します。

改善サイクルを回して初のハードウェア開発に挑む

ハードウェアであっても私たちのサービスの作り方は変わりません。私たちクックパッドは長年ソフトウェアサービスを開発してきました。長年培った経験からサービス改善のサイクルを回すことが得意です。ハードウェア開発でも改善サイクルを回すのがクックパッドのスタイルです。

ハードウェアはソフトウェアと違って物理的な開発が必要です。なのでソフトウェアほど細かくサイクルを回すことができません。長い時間をかけて作り込んだとしても、それが本当にユーザーに受け入れられるかどうかは当ててみないことにはわかりません。

初めて挑戦するハードウェア開発ということもあり、可能な限り開発サイクルを回しました。9月で300台、12月で3,000台、2月で5,000台と徐々に展開を進めていきました。サイクルによってそれぞれテーマは異なってきます。

第1サイクルは最小価値の検証、第2サイクルはスケール、第3サイクルは収益化がテーマになっています。

ここからはそれぞれどのような試行錯誤を行なっていったか。これについてご紹介します。

生鮮売り場で料理動画を流すということは価値があるのか?

まず第1サイクルからです。第1サイクルは去年の6月から始まりました。さて、まったく白紙の状態からサービスを作るときに一番最初にすることは何でしょうか? それは最小価値のプロダクトをユーザーに当てることです。

「生鮮食品の売り場で料理動画を流すということはスーパー、買い物客にとって価値があることだ」という仮説を私たちは立てました。どうやってこの価値の検証を行っていたかについてお話していきます。

まず検証を行うために最小限の機能のプロダクトを作成しました。アプリの機能としては料理動画を選ぶ、料理動画を流すだけです。サイネージとしての見た目は格好悪くて、裸のタブレットと市販の台座があるだけです。(サイネージを取り出して)実物がこちらになります。これを300台配布しました。

タブレットを届けるには1台ずつキッティングという作業をし、梱包、配達をする必要があります。タブレットを並べて1台ずつ設定をしていきます。1台につきおよそ10分かかります。数が多くなると時間が食われる単純作業です。

こうしてキッティングしたサイネージを配送し、スーパーの方に受け取ってもらい設置してもらいます。週ごとの料理動画を作成し配信しました。そしてスーパーの方に売り場に合わせて放映をしてもらいました。

こうしてサイネージが設置され、料理動画を放映することができるようになりました。今回のテーマである価値の検証を行う準備ができました。生鮮売り場で料理動画を流すということは価値があるのか? 3つの手法で調査を行いました。

1つ目が電話調査です。直接店舗の方に電話をかけ、どのように利用しているか、お客さんはどのような反応か、というものを聞き取っていきました。答えとして、自分の作りたい売り場に合わせて利用できるのがいいという意見や、動画を見ていて楽しいといったようなポジティブなものが多かったです。

2つ目はアプリの利用ログです。アプリの利用ログから定量的にどれだけ利用されているかを測定しました。7割以上の方が利用してくれていて、今後の改善によってより使ってくれる方は増えるだろうと考えました。

3つ目が売上です。各会社に協力お願いし、POSデータを提供してもらいました。このPOSデータとstoreTVの利用状態を比較し、効果の測定を行っていきました。storeTVを導入したところは対象商品がほかの1.3倍以上売れたりもしました。

このような結果からもstoreTVは売り上げに貢献するということが判明しました。これらの調査から、売り場での料理動画の放映は価値があると私たちは判断しました。

得意なことは自分で、不得意なことは誰かに頼る

また第1サイクルで価値検証以外にわかった問題点がいくつかあります。1つ目は動画の数です。週に3つずつ会社単位で注力商品に合わせて配信をしていました。当初の想定では動画の数はこれで事足りるかと思っていましたが、実際の現場では対象商品の売り場に設置する場所がないということもあり、売り場に合った動画を提供できていないことがわかりました。

2つ目は見た目の問題です。最小価値とは言え、裸の端末と台座ではあまりにも目立ちません。せっかく料理動画を流していてもあまり目を向けられていないということがわかりました。

3つ目はキッティングです。先ほど話したように自分たちですべてキッティングを行うと、それだけで業務が終わってしまいます。ここにも改善の余地があります。

4つ目は端末の管理です。第1サイクルではアプリの配信をG Suiteを経由して行っていました。これではアプリの更新時にインストール作業が必要になります。今後もこの作業が必要になってくると、高速にアプリの改善サイクルを回すことができません。

これらを踏まえて第2サイクルでは改善を行っていきました。第2サイクルのテーマはスケールです。スケールするうえで先ほど挙げた問題を解決していかなければいけません。

目標は3,000台配布することです。ただ闇雲に3,000台配布すると痛い目を見るのは目に見えています。前回の第1サイクルの反省を活かして工夫する必要があります。

またサービス開発では何をやって何をやらないか明確に判断し、やらなければいけないことにフォーカスしなければいけません。やったことがないもの、できないものは素直に認め、1人でやらないことが大切です。得意なことは自分たちでやり、不得意なことは誰かに頼る必要があります。

問題解決の道筋

先ほどの問題点で言うと、動画の数を増やすことは自社に設備が整っているので自分たちで解決できます。今回は毎月100本以上の動画を撮影することにしました。2列目の見た目の変更は物理的な開発が必要になってくるので、私たちではよくわからない領域です。

また3列目のキッティングも多くの人が必要な作業であり、私たちには不得意な領域です。4列目の端末の管理もやったことがありません。ではこれらをどうやって解決してきたか。これをご紹介します。

まず見た目の改善です。見た目を改善するにはケースを作る必要があります。自分たちだけでは作れないので業者さんにお願いし、仲介人を通して中国で作りました。

初めてのことなので、どのようなものが仕上がってくるかはわかりません。なので、実際に中国の工場に赴きました。その工場で大量生産前の試作品を見せてもらいました。それがこれです。「よし、できたできた!」と喜んでいました。

が、しかし、よく見てください。なんかおかしいと思いませんか? そう、ロゴがなんかバグってるんですね。すごく偽物っぽく仕上がってきました。

(会場笑)

どこでかわからないんですが、ロゴのデータが変質していました。

試作段階で気付けたので、最終段階ではちゃんとしたものを納品してもらえました。

不得意なことは1人でやらないと最初に話しましたが、1人でやらないというだけで、任せっきりではダメだということが勉強になったできごとでした。

次はキッティングです。第1サイクルでは自分たちだけでキッティングをしていましたが、今回は業者さんにお願いすることにしました。キッティングはどうしても人力でしかできない部分があります。

自分たち以外でもミスなくキッティングできるようアプリケーションを整え、業者さんにお願いしました。こうすることで3,000台を配送することができるようになりました。

次はアプリの自動アップデートです。前回まではアップデート時に手動でアプリをインストールする必要がありました。これではアプリの改善サイクルを高速に回すことはできません。

そこでMDMというものを利用し、デバイスを一元管理しました。MDMというのはモバイル端末に対して遠隔での操作や機能の制限などさまざまなことができるシステムです。

MDMを導入することでアプリのアップデートを自動で行えるようになりました。これによりユーザーのインストール操作が不要になり、アプリの改善サイクルを回すことができるようになりました。

このようにして問題点を一つひとつ解決することで、3,000台のサイネージを配布することができました。不得意なことは自分1人でやらないという選択をすることで、テーマであるハードウェアの大規模展開ができました。

売り場への最適化を目指し広告収益力を上げる

第2サイクルで見つかった問題点もいくつかあります。1つはサイネージのサイズです。実際に売り場に置いてみるとでかくて商品の棚に入らなかったり、台座の上に商品を置けなかったり、という問題点が出てきました。

またアプリの開発では、開発時に気付かないバグが店舗で発生するということが起き始めました。これらの問題を第3サイクルでは改善していかなければいけません。

次のテーマは収益化です。2ヶ月間、広告配信の基盤を開発しました。本格的な商品化を前に、多数のメーカーさんにご協力いただき、広告の配信テストを始めました。検証段階なので広告放映の仕組みはすごくシンプルです。数回料理動画を流したあと広告を流し、それをループさせます。

広告配信にはもう1つ大きな機能があります。タブレットのインカメラを用いてどれだけの人が広告を見ているのかをカウントアップしていきます。もちろん端末上で人数計測を行い、個人情報は一切残らないようにしています。

こうした広告の機能があったとしても設置されないと意味がありません。設置してもらうためには、さらに売り場に最適化していかなければいけません。そこで先ほどの問題点を解決することにしました。

ケースの高さを調整できるようにし、どこでも置けるようなものにしました。これにより設置可能な場所が増えていき、サイネージの稼働率も上がっていきました。

適切な戦略はサービスを急成長させる

次は開発進行の問題です。私たちのアプリは普通のAndroidアプリとは利用用途が少し異なります。長時間動画を安定して流し続けられる必要があります。しかしさまざまな機能の追加にともない、動画の再生が止まってしまったりクラッシュしたりし始めました。

長時間稼働ならではの、開発時には発見できない時限制のバグが発生するようになってきました。こうした不具合を売り場で発生させてはいけません。そこでコードフリーズ後に長時間動画の再生を行い、負荷の検証を行うようにしました。こうすることでリリース前にバグを検出できるようになりました。

また、先ほど話した広告接触者数を測るとなると、カメラや顔認識の機能を利用することになります。これらはタブレット上でかなりの計算資源を利用することになります。こういった計算資源を限界まで使ったときにどのような挙動を起こすのか、これも検証する必要があります。

そこで集合写真を貼り付け、計算資源の負荷検証を行っています。

実際にこれだけの数が映り込むことはないんですが、負荷検証のために可能な限り顔を並べています。実際こうした検証によってリリースする前にバグを検出できるようになりました。

実際にこの集合写真に耐えられずリリースにたどり着けなかったバージョンもありました。

こういった検証を行うことでstoreTVは安定したアプリのリリースを行なっています。

さて、まとめに入りたいと思います。ご紹介したように、このようなハードウェア開発であっても我々は可能な限りサイクルを回すことでサービスの改善をしていきました。

しかしながらすべての開発を自分でやるわけではありません。得意なことは自分たちで、不得意なことは1人でやらないという戦略をとりました。こうすることで数ヶ月の間でstoreTVというサービスを急成長させることができました。

ご静聴ありがとうございました。

(会場拍手)

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