自分より優秀な人しか採用しない

清水亮氏:チームビルディングは非常に難しい問題ですね。いろんなものを解決しなきゃいけないし、いろんな報酬を与えなきゃいけない。報酬っていうのは、1つはお金ですけれども、ただ、お金だけでは人は動かないです。それは間違いない。特に優秀な人はお金だけでは動きません。もちろん、お金をあげなきゃ動かないんですけど、お金だけではやっぱり動いてくれない。

僕がいつも心掛けているのは、これは全社員に対して言えることなんですけど、僕より優秀な人じゃなきゃ採らないんですよ。どの部署であっても、どの仕事であっても。僕より優秀であってほしいし、僕より優秀であるべき。その優秀っていうのが、領域の問題だと思っていて。すべてにおいて、僕より優秀な人を探すのはめちゃくちゃ難しい。それは、僕の能力が高いからではなくて、ジャンルが違うからですね。

けれども、例えばプログラミング能力。Javaのプログラミング能力については、僕よりできるって人はいっぱいいるわけです。もしくは、いろいろです。料理が僕よりできるとか。時間管理が僕よりできるとか。いろんな職種があります。僕より根性あるとか、僕より真面目とか。僕より神経質だとか。

社員に働いていただいている

まずは、よく言っているんですけど、僕は社員の人たちに、働いていただいていると思っているんですよ。それはなんでかというと、会社っていうのは、実に人生80年のなかの半分ですよ。20歳から60歳まで。40年間働くわけじゃないですか。人生の半分のなかの、さらに1日の大半の時間を会社で過ごすわけですよね。僅かなお金をもらって。人間の人生、その時間の持つ価値に比べたら、その対価として会社が払えるお金なんていうのは、全部、はした金なんです。いくら払おうと、働く側にとってはすべてがはした金になっちゃうんです。だって、人生のほうがずっと価値が高いんだから。

その人は、どんなことにも時間を使えるんですよ。自分で会社作ってもいいし、もっと給料がいい会社に行ってもいい。もっと楽な仕事に就いてもいい。早く帰れる仕事に就いてもいい。どんな仕事でもそうやっているわけです。その人たちの時間を、僕らは、すごく安いお金で貸してもらっているっていう考え方が、まず第一。しかも、僕より能力が高い人。僕にできないことをやってくれる人。だから、まず、そこが大事です。

お金では人材を集められない

僕としてみれば、社員の人たちからしたら、「働いてやっている」って思ってほしいんですよ。「清水のために働いてやっているんだ、おれたちは」と。間違っても、「働かせていただいている」って思ってほしくないんです。「本当にあいつはどうしようもないヤツだし、この会社の給料安いし、ろくでもないんだけど、おれはあえて清水のために、あえてこの会社のために働いてやっているんだ」と。

なぜか。おもしろいことやっているから。おもしろいことさせてくれるから。人に自慢できることをさせてもらえるから。たまに批判もされるけど、それでも、新しいことやらせてもらえるから。まず、そこが大事です。そこが大前提で。極端な話でいうと、どんな大金払っても優秀な人は来ないです。もう何千万円払っても、来ないです。

例えばですよ、どうしてもこの人が欲しい、と。「おれよりも高い給料払います」と。「年収3,000万円払うから来てください」と言うとするじゃないですか。来ないですよ。来るかもしれない。でも、来たところで、働いてくれないです。その人は金目当てなんだから、所詮。金目当ての人を雇ったってしょうがないです。

だから、僕はどうするかというと、「あなたのやりたいことをやりましょう」と。「あなたがやりたいことを一緒にやりましょう」と。「僕はこういうことをやりたい。あなたはこういうことをやりたい。その折り合いをつけて、ここを一緒にやりましょう」と。そういうふうに口説くわけですね。

「あなたの生活を脅したくないから、あなたが今貰っている給料と同じか、それ以上払いますよ」と。でなかったら、大きな会社からヘッドハンティングはできないですよ、うちみたいな小さな会社に。そうやって家族を説得してくるんですよ。

うちの、特にenchantMOONを作っているチームにも僕が出向いて行って、頭下げて、「奥さんもこうやって説得してください」とか、「給料これだけ出しますから」と。「働いてください。一緒にやってください」と頼まないと働いてくれないです。だから、チームビルディングって、まずそこからだと思うんですよね。

自分が雇った人を信じる

そのときに、僕が大事にしているのは、まず、働いてもらっているっていうのが一番大事なんですけど、もう一つは、決してセコいことを言わないってことですかね、経営者としては。自分がお願いして雇ってきたわけですから、今更、「給料高い」とか、「有給休暇取り過ぎなんじゃないか」とか、絶対言わない。

僕はむしろ、「休暇取ってない人は全部取ってくれ!」と言っています、僕の部署では。ほかの部署は知らないですけど、僕は「とにかく休暇は全部取ってくれ」と。「残業もなるべくしないでくれ」と。ちゃんと家に帰ってほしいんです。

それはなぜかというと、ちゃんと休んだ人が一番ちゃんと働けるんですよ。人間って休みすぎると、「こんなに休んじゃ、まずいんじゃないかな」と思って、働く気力が湧いてくるんですよね。僕は何度もそういう経験しているんで。

僕はドワンゴっていう会社でサラリーマンやっていたときに、裁量労働制だったんで、会社来なくてもよかったんですよ。あまりにやる気なくなったとき、無断で5日間くらい実家帰っちゃったんですよね。実家に帰って、「あんな会社やってられっか」とかって言って、1日ビデオずっと見ていたら、さすがに3日目ぐらいに、「おれ働かなくて大丈夫なのかなぁ」みたいな(笑)。「 働きてーな」みたいな感じになって戻ったっていう経験があるんですけど(笑)。

ちゃんとした人って、そうだと思うんですよ。プライドがあるから。自分が生きて、無為に時間を過ごすのが、すごくプライドが傷つけられるから。遊んでりゃいいと思うんですよ、基本的に。遊ばせてればいいというか。その人を信じて、任せる。自分が連れて来たんだからね。というのは、まず大事かなぁと思います。

おもしろいことで人材を集める

もう一つ。もっと大事なのは、あとの話にもつながるんですけど、例えば、enchantMOONの開発の場合、東浩紀さんという高名な哲学者さん。あと、樋口真嗣さん。ゴジラの映画監督。そして、安倍吉俊さんっていうイラストレーターさん。とかが参加してくれているわけですけど、普通こんな人たちって、いくら払っても参加してくれないです。忙しいから。

こういう人たちを口説くっていうのはどういうことかというと、「おもしろいことをやっています」ってことしかないわけですよ。この人たちに頼んだときのギャラっていうのは、言えないぐらい安いですよ。だけど、「おれがこんなおもしろいことをしようとしているんだ」と。「一緒にやんない?」って言ったら、それは乗ってくると。

これって、結局、イベントを企画するのと一緒で、「こういうおもしろいこと、おれ考えているんだよね」って。「一緒にやろうよ」と。「そうしたらもっとおもしろい。一緒に悪だくみしようよ」と。一味を増やすっていうかね。海賊団みたいなもんですよね。

社員が成長するように仕事を与える

そのとき、いつも思っているのは、僕、社員によく聞くんですけど、ある社員がいるじゃないですか。うちの社員は、だいたいみんな素晴らしく優秀なんです。1人でいくらでも働けて、1人で何倍でもレバレッジ効いて、普通の会社の何十人月も働けるやつ、いっぱいいるんですね。こういう人たちに、僕がいるじゃないですか。僕なんかヘナチョコなわけですよ。

だって、平日にこんなところで喋っているわけですから(笑)。働いてないわけですよね、言ってみりゃ。この時間も、みんな働いているんですよ。でも、これ残業じゃなくて、朝が遅いから今働いているんですけど。ここ大事ですよ(笑)。朝が遅いから働いているだけです。朝早く来た人は帰っています。(注:本講演は平日19時より行われた)

この人たちの能力が100だとするじゃないですか。僕がなにか仕事を頼むじゃないですか。この人たちの能力、100使ったら駄目なんですよ。なんでかっていうと、この人は、「清水とやっても、おれ成長しねぇな」みたいになっちゃうんですよ。

人間って常に変化するから、この人に頼むとき、150のこと頼むんですよ。「それは無理だ」って思うんだけど、じゃあ120、じゃあ110って落としていくと、「じゃあ110ならやってもいい」って言って、110やるじゃないですか。「ここまでできたなら、ここすぐ10だよ?」みたいな。「あと30じゃん」ってやると、気がついたら、その人の能力は1.5倍になっているわけですよ。

力を引き出すことが上司の役割

これはドワンゴの頃からそうだし、その前、僕の上司の森(栄樹)さんって方がNTTデータにいた頃からそうらしいんですけど、すごいプログラマーのことを「スーパーカー」って呼ぶんです。普通の車が時速100kmしか出ないところを、スーパーカーは300km出せると。ところがどっこい、スーパーカーだけでは300km出せないんですよ。ドライバーが必要。凡人が乗っても、300km出したら死んじゃうでしょ? 僕はスーパードライバーを目指す、というのをずっと昔から言っていて。

僕はいつも、古株の社員とかプログラマーとかに、時々確認しているわけですよ。「あなたの能力がちゃんと引き出せていますか?」と。「あなたが与えられた仕事は、つまらなくないですか?」と。「おもしろいですか?」っていうことを、常に意識しています。おもしろい仕事を与えている限り、人は働いてくれますし、自分の能力以上のことをしてくれます。

社員のwillを大事にして能力を引き出す

これは、コンピュータと普段向き合っているからこそ思うことで。コンピュータも買って来たら、ただの機械なんですよ。当たり前ですけど。ところが、僕は、同じ機械なんだけど、ほかの人と違う使い方をすることによって、その機械の性能を何十倍にも引き出すことができる。だからプログラマーなわけで。

これをわかりやすく言うと、例えば、ゲーム機ってあるじゃないですか。ゲーム機のプログラムって非常にわかりやすくて。なんでかというと、ハードウェアがまったく一緒だから。誰が作っても同じハードで動くんですよ。ところが、差が出るわけですよ。「この会社のゲームはすごい」と。「この人のプログラムはすごい。この人はイマイチ。この会社は全然駄目」。大会社だろうが、ベンチャーだろうが、関係ない。プログラマーの能力だけで差がつくんですよ。こんなおもしろいマーケットはないですよね。こんなおもしろい場所はない。

iPhoneもそう。「この会社が作ったゲームは良くできている。綺麗に動く、速い。気持ちいい。こっちの会社はイマイチ」。これがソフトの力なんですね。だから、そういう意味では、彼らがハードだとして僕がソフトだと。つまり、こっちがコンピュータだったり、わかんないけど、ぼくを操る社会の裏の存在だったりとかがいて(笑)。

たぶん、これがループしてる。ある時は、この人に実は僕が操られているかもしれないし、いろいろあるんですけど、この人がやりたいことしかやらせないですからね。だから、僕はとにかくwillを一番大事にする。この人はなにやりたいのか。将来どうしたいのか。自分はどうなりたいのか。

最初に必ず面接のときに聞くのは、「将来の夢はなんですか?」。簡単なやつだったら、「すぐ叶えて来い」って言うんですよ。例えば、うちの会社に「就職してもいいよ」って言ってくれる人がいて、「将来の夢はなんですか?」と聞いたら、「パリに行くこと」って言うから、「じゃあ1ヶ月後でいいから、パリにとりあえず行って来てくれと(笑)。そのほうがきっといいと思うよって。後回しにする必要ないから、行ってきなさいという感じで、パリに行ったことで夢が広がりますから。次の夢が出て来るから。今度はパリに永住したい、と。「じゃあ、うちの会社で働くの間違っているよ」と。

(会場笑)

そんな話も実際ありました。