【3行要約】
・部署間の対立や縦割りの弊害を打破するため「管理職全廃」に踏み切ったネットプロテクションズですが、その過程では3年で社員の半数が入れ替わるという大きな組織変革がありました。
・代表の柴田紳氏は、権限を握り指示を出す「管理職」を廃し、チームを支え自律を促す「カタリスト」へと役割を再定義したことで、肩書きに頼らない人格的成熟が組織の鍵になったと語ります。
・「部下が動かないのは管理職側に問題がある」という自省から、社長自らがアンラーニングを実践し、上下関係のないフラットな組織で成果を最大化させるためのマインドセットを明かします。
本連載では、過去に取材したビジネスパーソンを再び訪ね、その後のキャリアや働き方、職場観・人生観がどのようにアップデートされたのかをうかがいます。今回は、
『管理職を全廃しました 社員全員が自走する「ティール型組織」』著者で、株式会社ネットプロテクションズ 代表の柴田紳氏にインタビューしました。
縦割り組織に抱いた危機感、そして「管理職全廃」へ
——ネットプロテクションズさんでは2012年に管理職全廃という大胆な決断があったかと思います。ここに至った具体的なきっかけやタイミングについておうかがいできますか?
柴田紳氏(以下、柴田):2001年からこの会社に来て25年やっていますが、最初の10年ぐらいはいわゆる普通の組織としてやっていました。最初の20人とか30人はいいですけど、50人ぐらいになってくると各部署にマネージャーを置く必要があったんですね。
しかし、どうしてもマネージャーがマネージャーとして振る舞ってしまうんですよね。部下は自分のものという感じで、それぞれが城を作って、セールスとか運用とかリスク管理とかシステムとかを作る。
そうすると、それぞれの部署で目標が異なるので、部署間で必ず対立するしお互いに悪口を言い合ってしまう。これはすごく多いと思いますが、縦割りになって横のコミュニケーションが阻害され、あと階層でもまた阻害されてしまう。人は育たないし、部署間とか上下関係もだいたい仲が悪い。そこでずっと苦しんでいたんですよね。
特にうちの企業モデルが、全部署が協力し合わないと前に進めない事業なので、営業が何かを売ろうとしても、どれぐらいのリスクになるのかをちゃんと読まなければいけない。また商品も「売ればおしまい」ではまったくないので。
営業が売ろうと思ってリスクの高い商品を売り込んだり、イレギュラーなことを勝手に約束したりすると、後で運用側とかシステム側はめちゃくちゃ苦しいので「ふざけるなよ」となります。なので、うちの場合は縦割りであることが許されなかったんですよね。
このあたりで組織作りにずっと苦しんでいて、本当に考えた結果、やはりミドルマネジメントが鍵だと。ここが上から指示する人、一国一城の主みたいな感じではなく、部署をサポートしてくれて、それぞれがちゃんと成長できるように、あるいは部署間の連携もうまくつないでくれる人がそろわないと無理だなと思いました。
なので、管理職を必ずしも廃止しようというよりは、ちゃんと部署を支えられて、かつ連携をしてくれるマネージャーをそろえたかった、という感じです。
——管理職全廃に至るまでは、マネジメントのあり方を変えるという目的があったんですね。
柴田:そうですね。そこがチャレンジで、結局今も一定の部署ごとに「カタリスト」は存在しているので。
——そのカタリストというのはどういうものなのでしょうか?
柴田:世間一般のマネージャーという役割とはけっこう違っているのですが、カタリストはその部署の責任も取るし、チームをうまくつないでいく役割。部署の責任は負うけど、トップダウンで上から指示を出すわけではないという感じです。マネージャーっていう言葉自体が誤解を招きやすいので、カタリストっていう言葉に変えたんです。
上司・部下っていう概念はうちではないんですよね。普通に若い人の話を聞いていても、「上司がさぁ」とかっていう声はほとんどないですね。
——マネージャー職を廃止してから代わりにこうしたやり方を導入されたんですね。
管理職廃止に反対した人はどうなったのか?
——まず管理職という責任を持つ人の意味合いを変えたんですね。この管理職を撤廃された時に、反対された方も多くいたのでしょうか?
柴田:2012年から2013年の1年で、事実上、今の風土がほぼ出来上がったので、この方向で行くぞ、とやっていきました。そこから3年で50人中半分が辞めているんですよね。
その時に「その方針、意味がわからないわ」と思った人たちは辞めているので、「経験豊富な人ほど若い人を支えるべきだよね」みたいな人が残っていました。
だから正式には2017年、2018年に人事制度を変えた時にマネージャーという役職を廃止して、カタリストというかたちに変えたんですけど、その変えた時には、一切抵抗はなかったですね。
「肩書きやポジションを重視する人」こそ辞めていった
——なるほど。そこで残った方はどういったタイプの方が多かったのでしょうか?
柴田:どうでしょう。でもまさに、肩書きやポジションを重視する方は、そのタイミングで合わなかったのかもしれないですね。
——マネージャーという肩書きを重視されるような方とか。
柴田:そうですね。そういうのじゃなくて、メンバーが活き活き働いてくれて成長してくれて、結果しっかり成果も出るのであれば、そのためには自分が上に立たなくてもいいよね、もしくは自分がみんなからすごいって言われなくてもいいよね、という方は残りました。なので、この役割を担える人って人格的な成熟も求められると思いますし、そこはかなり重要なポイントですね。
社長が権限委譲するも、管理職は部下に渡さず……
——確かに。もともと管理職だった方は、自分の仕事がなくなっちゃうんじゃないかと不安になった方もいらっしゃるかなと思うんですが、そういった方への説明だったりとかキャリアへの配慮はどんなふうに行われたんでしょうか?
柴田:ただ、2012年、2013年で議論をし尽くした上で残っていたので。あと、僕もその前からずっと権限委譲し続けていたんですよね。ただ2010年、2011年ぐらいだと、ミドル層のところで権限が止まっていたんですよね。
——じゃあ、そこの中間管理職の方の権限がかなり厚くなっている状態だったんですね。
柴田:そうですね。そこからさらに下りるようになったみたいな感じですかね。
——なるほど、社長が自ら権限委譲をしていく姿を見せることが大事だったんですね。
柴田:そうですね。なので昔は、権限を渡すんだけどそこから先がうまくいかなくて、また壊しにいかざるを得なくて……とかで本当に苦しかったですね。
制度変更への抵抗がゼロだった理由
——そうなんですね。管理職を全廃したというのは、段階的に移行されていったということなんでしょうか? それとも一気に変えたのでしょうか。
柴田:2017年、2018年に人事制度を変えた時には一気に変えています。人事側とか僕も含めて議論をして、「ここ、こうしよう」ってなってバーンと発表しました。「抵抗が出るかな」とさすがに少し懸念していたんですけど、まったくなくて、もうスルッといきましたね。「そりゃあ、うちではマネージャーとか世間一般のものと違いますよね」みたいな。
——徐々に話し合いとか社長の姿を見せていったことで、抵抗感もなく移行できたんですね。
柴田:そうですね。でも、本当に2012年、2013年の議論が終わったところで、実質上はそうなっていたからだと思いますね。