【3行要約】
・指示待ち部下の問題は多くの管理職が悩んでいるが、実は上司の指導方法が原因となっているケースが多くあります。
・難波猛氏は「指示待ち部下」の前に「指示出し上司」の存在があると指摘します。
・上司は部下への問いかけ方を変え、自律的な行動を促すマネジメント術を身につけることが重要です。
「指示を待ったほうが楽だから」と自分で考えなくなる部下
——難波さんは著書
『ネガティブフィードバック 「言いにくいこと」を相手にきちんと伝える技術』を出版されていますが、上司の指導の仕方が、部下にどのような影響を与えているとお考えですか? 具体的にどのようなメカニズムで指示待ち状態が生まれるのか教えてください。
難波猛氏(以下、難波): 「指示待ち部下」が生まれるのは、「指示出し上司」の存在が先にあります。
一般的に上司の方が組織全体や経営に関する情報を多く持ち、プレイングマネージャーなら経験も豊富なため、「こうしたら良い」「こうして欲しい」という正解を持っている場合があります。かつ、上司には時間的制約や目標達成などのプレッシャーもあり、指示を出して早く問題を解決したくなります。上司には「指示を出したい誘惑」があるということです。
一方の部下側にも、「指示を待ったほうが楽」「上司の指示なら失敗しても心が痛まない」という「指示を待ちたい誘惑」があります。
しかし、部下に考えさせる前に上司が指示を出す関係が固定化されると、部下は自分で考える習慣が失われて、さらに指示待ちになります。まず、問いを立てて部下に行動を考えてもらいましょう。
イエス・ノーではなく「あなたはどう考えますか?」と聞く
——何を聞いても「特にありません」と返ってくる部下や、指示がないと一切動かない部下も多いと思いますが、そうした指示待ち部下に対して、自律的な行動を促すための効果的な問いかけ方や対話の進め方について教えていただけますか?
難波:まずは「イエス・ノー」のクローズドクエスチョンではなく、「あなたはどう考えますか?」というオープンクエスチョンを意識しましょう。
指示待ちに慣れている状態の部下や、上司に緊張している部下からは、すぐに答えが出ない場合もあります。その際は、「あなたの意見がまとまるまで、ゆっくり考えてください」と伝え、沈黙と間をしっかり取りましょう。
また、問いかけに関しては「失敗したらどうしますか?」「なぜできなかったのですか?」という否定的な表現ではなく、「どのようにしたら理想的な状態になれそうですか?」「今後の改善に向けてどのような行動が有効だと思いますか?」と肯定的な感情を想起させる表現を意識しましょう。
ロジカルに部下を説得しようとしない
——「指示待ちをやめて成長してもらいたいが、パワハラのリスクもあり強く言えない」という悩みを持つマネジャーが増えています。指示待ち部下に対して、関係性を悪化させずに「耳の痛い話」を伝える方法を教えてください。
難波:「性格」ではなく「行動・事実」に基づいて伝えましょう。「主体性を持ってほしい」と性格に焦点を当てると、部下にすれば「上司から主体性がないと言われた」「人格を否定された」と感じて、精神的な苦痛につながります。
そうではなく、上司から見て「主体性が欠如していた」と感じた具体的な行動について話し合うことで、「発生しているギャップを一緒に解決しよう」という対話につながり、人格攻撃とは受け取られにくくなります。
また、ロジカル(論理的)に部下を説得しようとせず、相手のエモーショナル(感情的)な動きにも注目してみてください。
言葉では「はい」と答えていても、表情や口調が納得していない様子が見られる場合は、「納得できない点があれば、何でも聞かせてください」と伝え、不安や不満を率直に話してもらうことで、お互いの認識のギャップが明らかになります。
「やる気がない」と否定するのではなく「やらない目的」に注目する
——指示待ち部下が自ら動かない背景には、どのような理由が隠れているのでしょうか? また、上司はそれをどのように見極め、対処すればよいのでしょうか。
難波:アドラー心理学の「目的論」では、「できない理由は存在しない、やらない目的があり選択している」とされています。
たとえば部下が「時間がなくて新しい仕事に挑戦できない」と言う場合、「今の業務をやったほうが得/新しい仕事を増やすのは損」と考えて、やらない選択をしている可能性があります。
上司はそれを「やる気がない」と否定するのではなく、部下の行動を妨げる「やらない目的」を傾聴して掘り下げましょう。
その上で、「やらない選択をし続けた結果、長期的にあなたの望む状態になりますか?」「挑戦する選択をするとしたら、上司として何かサポートできることはありますか?」と未来に目を向ける問いかけをして、一緒に解決策を考えていきましょう。
上司が立てた行動計画では「上司に決められた」と感じてしまう
——指示待ち部下の場合、「自分で行動計画を立てて」と言っても動けないケースもあるかと思います。「ここまでは上司がやってOK」「ここから先は部下に委ねるべき」という、見極めのサインや基準があれば教えてください。
難波:人間には「一貫性の原理」があり、「自分で決めたことはやり遂げたい」「自分の言葉に嘘をつきたくない」という習性があります。
行動計画は可能な限り本人に立ててもらい、上司としては「私や組織として支援できることはありますか?」とサポートする役割に徹しましょう。
上司が立てた行動計画では「上司に決められた」と感じてしまい、一貫性の原理が働きません。
ただし、行動計画は立てて終わりではありません。ロンドン大学フィリッパ・ラリー博士の「How are habits formed」という研究論文によると、人間が新しい行動を習慣化するには平均66日必要とされています。
新しい行動が習慣化されるまで、1on1などを通じて3ヶ月程度はフォローアップを行い、「あなたの変化を応援している」「あなたに注目している」というメッセージを継続的に伝えていきましょう。
日常のマネジメントで築く信頼関係
——著書では「何を言うか」より「誰が言うか」が重要だと指摘されています。指示待ち部下に対して効果的なフィードバックを行うために、派手な施策ではなく、上司の日常のちょっとした振る舞いで「これは効く」と感じているものがあれば教えてください。
難波:人間関係におけるポジティブ・ネガティブの適切な比率「ゴットマン率」によると、ネガティブな関わりが「ポジティブ4:ネガティブ1」の比率を下回ると、組織内の人間関係が毀損すると言われています。
いざという時のフィードバックが機能するためには、日常的に部下へポジティブなコミュニケーション(感謝・賞賛・声掛け・笑顔・相づち・挨拶・傾聴)を積み重ねることが重要です。
「無理やり8割も褒める点を探す」ということではなく、肯定的なコミュニケーションと接触機会を意識的に増やすことが大切です。特にテレワーク等で接触頻度が減りがちな場合、意識的に部下とのタッチポイント(接点)を増やす必要があります。
——難波さん、ありがとうございました。