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「見たことのない本」で、出版業界の未来を拓く(全3記事)

ミッション・ビジョンは不要 「LINEの既読スルー」で企画を決めるライツ社の生存戦略 [1/2]

【3行要約】
・「理念なし、ミッションなし」を強みに変えた出版社があります。
・ライツ社代表・大塚啓志郎氏は30歳で4,000万円の借金を背負い独立し、「2,000万円なら失敗しても返せる」と決断。
・企画会議も市場調査もなく、LINE上の反応だけで企画を決める独自の手法で、出版業界に新しい風を吹き込んでいます。

「手帳ショック」と給与カット、そして独立への決意

理念なし、ミッションなし、企画会議もなし。多くの企業が当たり前に持つものを、あえて持たない出版社があります。給与カットをきっかけに、子どもが生まれたばかりの30歳で4,000万円の借金を背負い独立したライツ社代表・大塚啓志郎氏。「LINEの既読スルー」で企画の良し悪しを判断するという、型破りな経営の裏側に迫ります。

藤井創(以下、藤井):まずは大塚さんのご経歴や人となりについてうかがいできればと思います。もともとは京都の出版社で編集長をされていたそうですが、30歳を過ぎてから明石で会社を立ち上げられましたよね。そもそも、なぜここ(明石)に来て独立しようと思われたのでしょうか?

大塚啓志郎氏(以下、大塚):前の職場には新卒で入社しました。若い会社だったので、数年経って27歳くらいの頃には事業部長を任されるようになったんです。独立したのは、それから3年経った30歳くらいのタイミングでした。

きっかけを簡単に言うと、その時に「給与カット」を言い渡されたことなんです。前の会社は出版だけではなく、いろんな事業を一つの会社でやっていました。その中で一番大きかったのが雑貨部門で、会社全体の売上の7割くらいを占めていたんです。

ところが、そこで何が起きたかというと、iPhone、つまりスマホがバーンと普及したんです。その影響で、文房具が以前ほど売れなくなってしまいました。僕はこれを「手帳ショック」と呼んでいるんですけど、手帳って実は雑貨の中でかなり売上が大きい商品なんですね。手帳本体だけでなく、付属するシールや付箋といったあらゆるものが一気に売れなくなり、雑貨部門の売上が前年比3割減くらいまで、バコーンと落ちてしまった時期でした。

藤井:なるほど、スマホの普及がそこまで影響していたんですね。

大塚:一方で、僕が見ていた出版部門はどうかというと、売上の割合自体は少ないけれど、僕が事業部長になってからは前年比120パーセント、120パーセント、120パーセントと、ずっと右肩上がりで売上を伸ばしていたんです。でも、会社全体の不振を理由に「給与カット」と言われてしまって。

その時、ちょうど子どもが生まれたばかりのタイミングでもありました。会社のことはすごく好きだったんですが、「自分がこれだけ頑張っても何の影響もないのか」という思いと、「このままでは家族を養っていくのが難しいかもしれない」という危機感を抱きました。そこで、「じゃあ転職するか、独立するか」という二択になったんです。

ただ、前の会社も京都の出版社だったので、僕は関西の事情しか知りません。出版社のほとんどは東京にありますよね。今から東京へ行って働くというイメージがどうしても湧かなかったんです。かといって、関西で転職先の出版社を探そうとしても、一般書を出している出版社自体がほとんどないので難しい。

それなら、独立したほうが自分たちの好きなことができるんじゃないかと考えました。そもそも前の職場でも、一つの会社の中で出版部門を任してもらえていたので、やり方はわかっています。「それやったら自分でやろう」ということで、今日後ろにいる営業の髙野(翔)と一緒に地元の明石で独立しようと決めた、というのが流れですね。

2,000万円の借金は「失敗しても返せる」金額

藤井:お子さんが生まれたタイミングでの独立というのは、なかなか思い切ったご判断だったのではないかと思いますが……。

大塚:そうですね。ただ、前の職場はもともと給料が安かったうえに、さらに給与カットと言われていた状況でした。もし僕が大手企業にいて、そこから独立するという話だったらリスクが大きいじゃないですか。収入もガクンと下がるでしょうし。

でも、給料が安くてカットされた状態から独立するのって、別にリスクがあまり増えないというか(笑)。どっちみち後がない状況でしたから、それなら自分たちの努力がちゃんと報われるほうがいいし、より自由にやれるほうがいいなと思ったんです。

藤井:その当時はすでに出版不況と言われていた時期だと思いますが、それでも「いける」という勝算みたいなものはあったのでしょうか?

大塚:いや、勝算とかは特に考えていなかったですね。

藤井:とりあえず、今よりは良くなるだろう、といった感覚でしょうか。

大塚:それもなかったです。単純にそれしか選択肢がなかったんです。先ほどの繰り返しになりますが、関西で転職先がない以上、独立するしかなかった。それに、同じリスクを背負うなら、自分たちで楽しくやれるほうがいいだろうなと思ったんです。

ただ、皮算用だけはしっかり髙野がExcelで出していました。創業するにあたっていくら借りる必要があって、その借りたお金で何年以内にどれぐらいヒットを出せば軌道に乗るのか、というシミュレーションですね。あくまで机上の空論ですけど、髙野曰く、「勝算は7割〜8割」と思っていたと。

その数字を、前の職場で出版させていただいた起業家の方々にお見せしたんです。「だいたい4,000万円借りる必要があるんですけど、2人で独立する予定なので、2,000万円ずつ借りれば独立できる計算なんです」と。そうしたら、「ああ、2,000万円だったら失敗しても返せるよ」って言われたんですよ。

藤井:「返せる」と言われたんですか?

大塚:「4,000万円を1人で背負い込むのはけっこうきついけど、2,000万円だったら、君はまだ30歳だしぜんぜん返せるよ」と。若い時って、借金の金額だけで重たく感じてしまうじゃないですか。でも、先輩経営者から「返せるんだ」と言われた瞬間に、「あ、それならいけるな」って思えたのは大きかったですね。

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