【3行要約】
・投資や金融商品の情報が溢れ、若者までもが老後の資金に不安を抱く現代――しかし、その不安の背景には構造的な問題が潜んでいます。
・『お金の不安という幻想』著者の田内学氏は、無料の情報の裏にいるスポンサーの存在により、問題解決が「金融商品を買うこと」にすり替えられていると指摘。
・個人は「お金を増やす」ことを目的化せず、人的資本や社会関係資本を育て、本当の豊かさを追求すべきだと田内氏は提言します。
『お金の不安という幻想』著者にインタビュー
——田内さんが新刊
『お金の不安という幻想 一生働く時代で希望をつかむ8つの視点』を書こうと思われた背景からおうかがいします。今のビジネスパーソンが抱えている「お金の不安」というのは、どういったものだと捉えていらっしゃいますか?
田内学氏(以下、田内):今って、とにかくお金の不安を煽るような情報がすごく多いですよね。いろんなところで話をしに行くと、世の中でお金の不安が広がっているな、と感じています。例えば大学生ぐらいから「投資しなきゃ」って言う人が多い。「なんでそんなに早く投資をやりたいの?」って聞くと「いや、老後が不安で」と言われることが、驚くほど多いんです。
こうした不安の増大は構造的な問題だと思います。僕らが情報をSNSやWebで無料で受け取れるようになったことが大きいです。
情報は無料に見えますが、見えないところにスポンサーがいるわけですよ。昔だったら新聞とか本を買って情報を手に入れてましたが、今は企業が広告費を払って情報を届けています。資本主義って基本的には「いろんなものをお金で解決しようね」っていうシステムですよね。
例えば「お米の価格が上がりました、電気代が上がりました」という時に、どう節電するか、どう生産を増やすかを考えるべきですが、金融業界がスポンサーの情報網では、金融商品を買ってもらうために「インフレ対策として金融商品を買いましょう、投資しましょう」という、金融商品の解決策にすり替えられてしまうわけです。
問題解決が「金融商品を買うこと」にすり替わっている
田内:それもよく考えると、インフレで金利が上がれば、高い金利だってお金を借りる人がいるわけですよね。努力して貸し出しを増やして金利収入を得れば、預金者に還元することもできる。ところが、それよりも金融商品を買ってもらって、その手数料で稼いだ方が確実に儲けられる。
だからこそ、銀行などの金融機関が情報の出し手となって、SNSとかで「投資ですごく稼いでいる」っていうアカウントとPRでコラボしたりする。
要は、情報にお金を出しているのは僕らじゃなくて企業なわけです。すると僕らは自然に「客になることによって、いろんな問題を解決しよう」となるわけです。客として飼い慣らされてしまうんです。
——確かに、いつの間にか「自分で投資をしてお金を増やさないといけない」というのが当たり前になっていると感じます。この認識も、無意識に取り込んでいる情報から形成されていたんですね。
田内:そう。「お金を銀行に眠らせても仕方ない」という言葉も、「あなたたち銀行は金融のプロとして預かったお金をちゃんと貸し出しに回して稼ぐべきでしょう」という本来の責任から目を逸させて、個人の自己責任にすり替える効果を持っています。そうすると、いわゆる社会をよくするための投資活動ではなくて「金融商品をどう買うか」って話ばかりが世の中に溢れてしまいますよね。
「お金の不安」は伝播していく
——確かにそうですね。そういった「どう投資をうまくやっていくか」っていう本もすごく多いですよね。
田内:お金を使って解決するほうが企業側にとってはいいわけだから。SNSとかで「これくらい投資がうまくいった」と情報発信する人たちを見て、投資をやっていない人が焦ったり、努力していない自分を責めてしまったりするんですね。さらにさっきの話で「問題はお金で解決しなきゃ」となっていった時に、そういう情報に翻弄されやすくなる。その情報の出し方がけっこう巧みなわけですよ。
例えばよく「金融教育、大事だよね。アメリカに比べたら日本は遅れてるんだ」と言われますが、アメリカの学生たちがそれぞれの銘柄選びとか、投資信託はどれがいいかとか、インデックスはどうかなんてことに精通しているとは思えません。あちらの教育の本質は、社会の仕組みを教えることであり、どの商品が儲かるかのようなテクニック論とは別物です。
——なるほど。ある種不安を煽ることによって、より消費させるように向けられているんですね。書籍の「お金の不安は幻想だ」っていうフレーズが非常に印象的ですが、詳しくおうかがいできますか?
田内:まずお金の不安を持つこと自体を否定しているわけじゃなくて、問題の根本は別のところにあるんですよね。例えばマクロ的に見た時にも、今お金が足りないから僕らの生活が苦しいように見えるんだけれど、給付とか補助金を出して電気代を安くしたりしたとします。でも問題は、そもそもモノやエネルギーが足りなくなっていることにあるんです。
お金を配っても豊かにならない、日本の構造的な問題
田内:お米の価格が上がっているにしても、建設費が上がっているにしても、作られる量が少なかったり建設する作業員を確保することが難しくなっている事実があります。そこでみんなにお金を配ったところで、ただ価格が上がるだけですよね。
——モノ自体が足りないから、価格が上がっていくんですね。
田内:これまで日本の「失われた30年」とか言われていた期間の中では、「お金があればもっとモノを買えるのに」とか「みんながお金を使えば経済が回るのに」っていう時代は確かにありました。ところがそうこうしているうちに、日本の生産力が落ちてしまった。昔はよく「円安になったら日本のモノが売れるよね」って言われていたけれど、円安になってもそんなに売れていないのが現状なんですよね。
今でも失業率は十分低いですし、働き手が足りない状態。そこで、農業で高齢化が進んでいるという時に、若い人たちが仕事としてやっていけるように制度を整えていったり、参入しやすくするようにしたり、作る量自体を増やさないと問題は解決しないわけですよ。
あと労働という意味で言うと、人が足りない中で「より高いお金を払うからこっちで働いてよ」というのも、価格に反映されるだけ。そこで大事なのは人を増やすか、もしくは効率化を進めることのはずなんです。「お金不安だよね、だからみんなで投資がんばりましょう」というので解決するはずがないんです。