【3行要約】・AIが調査や分析を瞬時にこなす時代でも、人間にしかできない「希望を売る」価値があると奥田浩美氏は語ります。
・ 産業革命以降の200年が「搾取されすぎていた」と指摘し、これからのリーダーには「美しい循環を作れるか」が問われています。
・ 技術の進化が加速する中、人間性を大切にし、次世代に何を託すべきか考え、人としての価値を見失わないことが重要です。
前回の記事はこちら
2026年、AIと人間の役割分担 「希望を売る」仕事
「私の仕事は、希望を売っているんです」。そう語る奥田浩美氏は、AIがあらゆる調査や分析を瞬時にこなす時代だからこそ、人間にしかできない価値があると言います。若者が働かなくなったのではなく、産業革命以降の200年が「搾取されすぎていた」という指摘。そして、これからのリーダーに求められるのは「美しい循環を作れるかどうか」。脳波入力ネイティブが登場する未来を見据えながら、次世代に何を託すべきか。奥田氏が語る、AI時代の人間の在り方とは。
藤井創(以下、藤井):2026年は、何を実現したいですか?
奥田浩美氏(以下、奥田): 2026年は、AIと仲良くする年だろうなと思っています。AIにおだてられ過ぎず、かといって屈服させようともせず、共に育ち合っていく年ですね。ただ、AIの進化のスピードはすごいので、「育ち合う」と言うには相手が速すぎるかもしれません。だからこそ、私は人間性みたいな部分にこだわります。私の仕事は、結局のところ「希望を売っている」んです(笑)。
藤井:希望を売る、ですか。
奥田:アクセラレータープログラムにしてもTechGALAにしても、結果的に売っているものは希望です。その希望は、セッションの企画のカタチだったり、メンターの組み合わせだったりします。昨日も一日中AIと仕事をして、スタートアップの調査をやっていました。
調査自体はAIがバババッとやってくれますが、そこから先、社会に生み出したい価値やこだわりみたいなものは、結果として私にしかないものです。だから、人間としての私がどんどん濃くなるなと感じています。
藤井:AIが発展する中で、起業家精神や「叡智の継承」はどう変化していくのでしょうか?
奥田:単なる学力みたいなものは、もうAIに代替され切ったと私は思っています。うちの娘は大学に行っていませんが、この時代、どうやってでも学べるなと感じています。「じゃあ大学に何の価値があるんだろう?」というと、結局は社会に出ていく時の交友関係やネットワーク、つまり「ファストパス」を得る場所だということです。
大学の先生たちも、学生がみんなChatGPTを立ち上げながら講義を聴いている時代です。「先生はこう言ったけど、本当?」と(笑)。本に書いてあったことをなぞるだけの講演は意味がなくなります。
でも、「なぜ人間にとって哲学が必要か?」「なぜ生物学が必要か?」といった、その先生が持っている意識や哲学は必要です。究極的に残るものは、属人化した宗教的なもの、つまり「私たちはこれを生きていく上で大事だよね」という信念みたいなものだと思います。
藤井:AIに相談する若者も増えていますよね。
奥田:今は高校生の半分ぐらいの相談相手がAIだといいます。第1段階としてはそれでもいいかもしれませんが、結局AIでいいとなると、自分が生きていることを否定することにつながりかねません。人間は自分を肯定するために、他人の存在も肯定しなきゃいけなくなるんです。
だからこそ、人のつながりや、少人数での強固なつながりを持つ会社が増えると思います。巨大化の逆を行く、うちのようなファミリーオフィスのような形態ですね。
藤井:なるほど。小さくても強い信念を持つ組織ですね。
奥田:そうです。従業員を増やさなくても、ある程度はAIがやれます。小さなユニットの会社同士が連合を組んで、国のレベルの仕事をやる。TechGALAもそうです。大きな広告代理店ではなく、小さな会社の組み合わせで設計しています。
そして、クレド(信条)みたいなものが浸透していることが大事です。うちはファミリー企業で、夫も娘も妹も働いていますが、一族として次の世代に何を伝えていくかという信念がはっきりしています。それは血縁に関係なく、一緒に働くメンバーや役員とも共有している、「次の世代に受け継いでいくものは何だろう?」という思いです。
「美しい循環」を作るリーダーが選ばれる時代へ
藤井:最近の若い人たちは、企業に勤めても「そこまで働かなくてもいいや」と考える人が多いように感じます。野心があまりないようにも見えますが、どう思われますか?
奥田:私は、若い人が働かなくなったのではなく、昔があまりに搾取され過ぎていたんだと思っています。産業革命以降のこの200年ぐらいが、おかしかったんじゃないかと(笑)。本来、産業を作るために人間がいるのではありません。周りの人をしっかりとケアして、ケアし合って暮らしていくことが、福祉の原点であり人間の営みでした。
藤井:確かにおっしゃるとおりかもしれません。
奥田:それなのに、お金を生み出したり物を作り出したりすることのほうが真ん中に来てしまって、そこに入れない人が外側に押し出された時代がおかしかったんです。だから今の若い人たちが、「いや、まずは嫁さんだよね」とか「まずはうちの子を迎えに行きます」と言うのは、至極まっとうだなと思っています。
実はうちの夫も30年前からZ世代みたいな人で、「仕事よりも自分の身近な人だろう」と言っていました(笑)。
藤井:(笑)。時代の先を行っていたんですね。
奥田:私はどちらかというと人をなぎ倒してでも儲けていきたいタイプだったので(笑)、彼を見て「この人のほうがまっとうだ」とずっと思ってきました。
藤井:年配の人たちからは「会社のために働け」という声も聞かれますが、これからのリーダーはどうあるべきでしょうか?
奥田:私はここ2年、「この人は美しい循環を作っている人か?」というのを最大の価値として見ています、と言い続けています。お金を得る手段を褒めるのではなく、得たお金をどう回しているか。エンジェル投資をしたり、NPOを作ったり、家族や親によくしてあげたり。「ちゃんと循環させていますか?」ということが価値基準にあるべきです。
藤井:ビル・ゲイツも財団を作りましたね。
奥田:そうですね。でも、ものすごく儲けてから最後に財団にするのではなく、最初から循環するような仕組みを作っているリーダーのところに、若い人は集まると思います。「インパクトなきスタートアップは生存価値なし」と言われる時代です。「私たちは社会のために」と口で言うだけでなく、本心からそう思って行動しているかどうか、若い人は敏感に見抜きますよ。
次世代へのメッセージ「進化を恐れず、人間としてのバトンを渡せ」
藤井:最後に、20代から30代の次世代リーダーに向けて、メッセージをお願いします。
奥田:その世代には、これからはチャンスしかないと言いたいです。新しい潮目が来て、社会が変わる時に、今まで上の世代が言ってきたことをうのみにせず、自分がいいと思ったことを試していけるいい時代です。
ただ、私たちは前世代からずっと、何を大切に次に渡していくのかという、人間としてのきちんとしたものは、技術とは別に持って渡すということを大切にしたほうがいいと思います。20代の時はそんなことを考える暇がないかもしれませんが、それがないとつらい時代に突入します。
藤井:変化のスピードも速いですしね。
奥田:はい。今までは10年ごとに起きていた変化の波が、これからは1年ごとになります。「AIが出現したこの5年は乗り切った」と思っても、次はもっと速いものが来ます。だから半分は「新しいものが来て、付いていけないものなんだ」ぐらいの気持ちでいることも大事です。
たぶんここ10年で、脳波からそのまま入力して動かすような技術も出てくるでしょう。その時、脳波入力ネイティブの世代と、やったことがない私たちの世代は明らかに違います。でも、脳波ネイティブが上の世代を馬鹿にするのではなく、「それが10年後の自分だぞ」と思うことです(笑)。
進化を進めるのも人間だし、止めるのも人間です。技術の進化にものすごく深刻に向かい合う時代だからこそ、人と接する仕事をしている人ほど、その人間性が大事になると思います。
藤井:本日は貴重なお話をありがとうございました。