成功者の義務としての「GALA」と、2時間を確保したVIPたちの宴
藤井:今おっしゃった「循環」というのが、エコシステム的なことにつながるのかなと思います。TechGALAではどのようなハブになっていくイメージですか?
奥田:TechGALAの「GALA」という言葉を付けたのは私なんですが、海外ではセレブリティやお金を持っている人たちが「ガラパーティ」などで、お金や名誉がある立場として目立って社会的に何かを訴えますよね。それで寄付をしたり、アートを支援したりする活動です。
私は日本にその部分が足りていないと思っていて。「お金を稼いだ、成功した、いろんな名誉を得た」という人が、その名誉も含めたエネルギーとお金を社会に回す仕組みを作りたいんです。
藤井:テクノロジーの世界でガラパーティをやる、ということですね。
奥田:そうです。TechGALAのカンファレンス自体はいろんなセッションで組み立てられていますが、初日の夜に、本当にCxOレベルや自治体のトップを集めたVIPバンケットを行っています。愛知県知事も名古屋市長も名古屋大学総長も、中経連(中部経済連合会)会長も全部そろう。かつ、各中部地区の企業のトップが100人ぐらい集まる場を作りました。
そこで、そういった人たちがスタートアップを単に「支援」するのではなく、この地域に一緒に作り上げていくのが大事だよね、という合意形成から回していくことを初年度からやりました。
藤井:それは他のイベントとは違うところですね。
奥田:違うと思います。「私たちがホストなんだから、コンソーシアムのトップ5人は絶対に2時間ホストするんだ」ということを、どんなセッション作りの企画よりも頑張って調整しました。それが私の中の誇りです(笑)。
藤井:(笑)。それはすごいことです。
奥田:そういう時に言ったのが、「日本国の晩さん会で、天皇陛下が5分だけ挨拶して退席しますか?」ということです。これは日本国の威信を懸けてやるパーティなんだから、と。私たちがやるVIPバンケットは、この地域に何が必要で、どういう人たちと一瞬で縁を組んでその後何かを生み出すんだ、ということを2時間に詰め込んでやるんだと宣言しました。
藤井:結果、みなさんが集まったんですね。
奥田:集まります。トップだけが来るというのを成り立たせて、「なんで集まっているんだっけ?」という問いに対して、「私たちの地域をもっと世界を考える地域にするんだ、誇りを持つんだ」という、シビックプライドの醸成につながっています。
藤井:シビックプライド、最近よく聞く言葉ですね。
奥田:この30年でかなり失ってきたものだと思うので。私たちはどこかの会社のリーダーである以前に、ここに杭を打っている一人の市民として、リーダーとして何ができるのかをもっと地べたのレベルから考えていく。それが結果的に会社も良くすることにつながると思っています。
インド式「カオス」のリーダーシップと、日本の「揺らぎ」の価値
藤井:TechGALAのセッションの中で「カオス」という言葉が出ていました。これは冒頭の「破壊」の話ともつながるのかなと思うのですが、なぜカオスが創造性に重要なのでしょうか?
奥田:日本人はカオスをちゃんと理解していないと思っています。私も理解していませんでした。カオスとは「ごちゃごちゃでルールのない状態」だと思っていたんですが、インドで感じたのは違いました。カオスとは「小さなルールを持つサークルがたくさんある状態」なんです。
藤井:小さなルールを持つサークル、ですか。
奥田:そうです。それぞれの人の中にはちゃんとしたルールとコミュニティがあって、それが自分の理解できないものとしてその場にたくさん存在している、ということです。決してルールがないわけではない。ということは、それぞれのルールを尊重しつつ、でも合意はできないんです。
対話でぶつからないようにするために、日本だとベン図で重なる部分を作って、その重なるところをみんなで大事にしようとしますよね。
藤井:そうですね、3人いたら重なる部分を探します。
奥田:でも、カオスの世界ではそれはできません。リーダーシップとは、3人がいたらその3つが入るような「大きな丸い輪っか」を描けることなんです。その円が大きければ大きいほど、リーダーとして意味を持ってきます。
ただ、すべての人を入れればいいかというと、時には冷酷に「この円にしましょう」と決めたり、「10のうち1つは入れ切れないけど、これを従えていこう」と判断したりする必要があります。
世界的なリーダーにインド人が多いのは、これが理由です。「100人を率いていきます」という時、日本人は100人を時間をかけて一つの輪っかに入れ込もうとしますが、インド式のカオス型リーダーは、「100人いたら5人ぐらいはその輪っかから外れるもんだな」と最初から思っておくんです(笑)。
藤井:なるほど。
奥田:思っておいて、それでもみんなが一番大きく入ってこられるような自分の円を描いて、そこに来られる人をザーッと急いで連れていく。そこからポロポロ落ちても、「それは仕方ないね、私たちは違う人間なんだから」と。
でも、そこからこぼれ落ちた人に対しても、次のプロジェクトの時にはまた「ここの円に入るか?」と声をかける。こぼすことも破壊だし、そこを気にしないことがスピード感につながります。
藤井:日本だと一つに閉じ込めようとしてしまいますが、スピード感を考えるとカオス的なアプローチが必要なんですね。
奥田:そうですね。大きい輪を作って、スピードを持って進む。若干こぼれていくのも仕方ないけれども、だからこそ「誰も取り残さない」というテーマはずっと持っておく必要があります。
藤井:日本でも今後はそうなっていくのでしょうか?
奥田:そうなっていくと思います。ただ、「じゃあ日本はどうするか?」という時に、日本の精神性みたいなものをもう一度掘り起こして大切にしよう、という活動も盛り上がってくると思います。
例えば製造業で言うと、手のひらでしかわからないようなものづくりの研磨みたいなもの。10年前なら「たくさん作らなきゃいけないから中国に工場を作りましょう」といなくなってしまった部分です。でも、これから先、産業はどんどん緻密になっていきます。
その時に、「私たちの手にこもっている念みたいなもので物を作る」といった精神性は、失ったら一瞬でなくなりますが、まだ日本には少し残っています。
こだわりというか、お金を大切にするのか、何かを研ぎ澄ますことを大切にするのか。日本はまだそこで揺らいでいますが、その揺らいでいる部分があることが、いいことなんじゃないかなと思っています。
藤井:揺らぎ続けたままでいいと。
奥田:そうです。揺らぎ続けて、残っていることが大事です。例えば私はお正月に漆塗りのお重箱を使っています。食洗機にかけられないし、洗剤で洗えない。合理性とは真反対なんですが、やはりお正月という時に気持ちを整えて、母から受け継いだお重を出す。
そういった、人間の幸せな部分に直結することを代々伝えてもらっているわけです。それを捨てるのはもったいないですよね。AIの時代に、人間としての趣味やこだわりをなくしたら、「自分じゃなくてもいいじゃん」という人間になっていくので、こだわりはすごく大事だと思います。
(次回へつづく)