【3行要約】・「スタートアップ不毛の地」と呼ばれていた名古屋が、TechGALAの開催を機に急速に変化。地域の誇りとテクノロジーの融合が新たな可能性を生み出しています。
・ 奥田浩美氏は「成功者の義務としてのGALA」という概念を提唱し、地域のトップ層が2時間のホスト役を務めるVIPバンケットを実現。
・ 日本独自の「揺らぎ」の価値を守りながらも、インド式「カオス型リーダーシップ」を採り入れることで、AI時代における人間らしさと効率性の両立を目指すべきと提言します。
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「スタートアップ不毛の地」を変えた1年 TechGALAと名古屋の可能性
「スタートアップ不毛の地」と呼ばれていた愛知・名古屋が、わずか1年で変貌を遂げました。その立役者の一人が、2025年に「TechGALA」を立ち上げた奥田浩美氏です。知事も市長も企業トップも、2時間はホスト役として場に留まる――そんな前代未聞のVIPバンケットを実現させた交渉術とは。さらに、インドで学んだ「カオス型リーダーシップ」の本質と、AI時代だからこそ守るべき日本の「揺らぎ」の価値について語ります。
藤井創(以下、藤井):イベントの話が出ましたので、少し「
Interop Tokyo」のお話もうかがいたいのですが。
奥田浩美氏(以下、奥田): はい、1992年から関わっていますね。
藤井:あれも随分長く、私も毎年取材に行ったりしていましたが、そこに関わっていらっしゃったというのは驚きです。
奥田:1992年、93年に情報を得て、93年にラスベガスへ行き、誘致するメンバーと一緒に視察をしました。1994年が第1回開催なんですが、そこから15年ぐらいカンファレンスの運営統括をしていました。
藤井:そうだったんですね。そして最近では、一番新しい取り組みとして「
TechGALA」があります。昨年(2025年)、初開催されたTechGALAについて記事化もさせていただきましたが、開催場所が名古屋だったというのがポイントだと思います。東京や大阪などがある中で、あえて名古屋という場所を選んだ理由は何だったのでしょうか?
奥田:やはり、人間の暮らしと、物の手触りみたいなものが一番表現しやすい場所だからです。「じゃあ僻地でやればいいじゃないか」ということではなく、人間が思い立った時に、暮らしと物作り、そしてもっと空中戦から地上戦まで全部やれる地域として、あの地域が最高だと思いました。
藤井:空中戦というのは?
奥田:AIの世界ですね。そして地上戦というのは、椅子やテーブル、家から車まで、すべてがテクノロジー化していく世界のことです。その中で、それでも「人間」というものが中心にいるんだということを考えやすい場所として、日本の中でもものすごくいい場所なんじゃないかなと思っています。もちろん、あの地域からオファーがあったということも大きいですが。
藤井:確かに、愛知にはトヨタ(自動車)もありますし、ものづくりがありつつも、いろんなものが混じり合っているおもしろい場所ですよね。
奥田:おもしろい場所ですよね。首都になることはなかったけれど、ずっと力を持っている人が生まれたり、そこを通り過ぎたり、それを受け入れたりしてきました。他に行くことも引き止めず、それでもちゃんと誇りを持っている。逆に言うと、この地域にはコンプレックスがあるという点も、私は大好きなんです。
藤井:コンプレックスですか。それは首都に対して?
奥田:コンプレックスって、結局「ここが足りない」ということに気づける人ということなので、何も希望を持たない人にはコンプレックスもないと思っているんです。
藤井:なるほど。以前、他のメディアで「ヘルシーな嫉妬」という言葉を使われていましたよね。
奥田:ああ、そうですね。それに近いものです。「ヘルシーな嫉妬」というのは、20年、30年前にスタートアップが一度盛り上がった時、起業家たちがよく言っていた言葉なんです。
藤井:そうなんですね。
奥田:「あいつができるんだったら、自分もできるはずなのに」という気持ちです。その「あいつ」は、イーロン・マスクのような遠い存在じゃ駄目なんですよね(笑)。誌面には書けないかもしれませんが、例えば同じ大学、同じクラスだったのにあいつが成功した、みたいなところから、「俺もやれる」というエネルギーがバッと湧いてくる。それが健全な嫉妬です。
藤井:そこがないと、何かを作ろうという気概にならないと。TechGALAの話に戻りますが、2025年の初開催を終えて、うまくいったこと、あるいはそうでなかったことなど、感想をお聞かせください。
奥田:うまくいったことは、まず愛知をはじめとするあの地域が、わずか1年前まで「スタートアップ不毛の地」とみんなに言われていた状況を変えられたことです。本当に1年と3ヶ月前ぐらいですね。私はどこに行っても「このスタートアップ不毛の地をどうにかしましょう」と言い続けてきましたが、わずか半年、1年経った今では、そう言う人がもういません。この変わりようとスピード感はすごいなと思います。
それはTechGALAの価値だけでなく、「STATION Ai(ステーション・エーアイ)」という場ができたこと、そして長らくアカデミアが素地として頑張っていたという深い産業層があったからです。TechGALAは、その最後のいいとこ取りというか、「ほらっ!」と成果を見せる役目ができたという意味でうまくいきました。
藤井:「スタートアップ不毛の地」と言われていた理由はどこにあったのでしょうか?
奥田:理由は、やはり自分たちが豊かであることを意識しているからですね。この地域の人たちは豊かで、それなりに大企業の中でイノベーションも起こしているし、誇りもあります。だから「豊かさ」と「スタートアップ」は真逆のものだというマインドを持っていただけのことなんです。今までは、すべてを剥ぎ取られた移民がゼロから人を蹴り落としてやっていくようなスタートアップのイメージが強かったんだと思います。
藤井:なるほど。
奥田:でもこれからは、インパクトスタートアップもそうですが、豊かな地域で人を豊かにするためにスタートアップが何かを起こす時代になってきます。アメリカでも今、起業している人の半数以上が40代以降だと言われています。若さで戦うというよりは、ある程度の素養を持った人たちが「社会のためにここが変わっていくといいぞ、かつお金がここに集まってくるぞ」という動機で動かしているんです。
藤井:確かに、日本だとスタートアップは都心に集中しがちですが、地方でも頑張っているところはありますね。例えば島根のRubyWorld Conferenceなどもそうです。
奥田:ああ、まつもとゆきひろさんの。
藤井:そうです。あそこでもちゃんと企業が育っています。その中でも名古屋は、東京や大阪とはまた違う素地があるように感じます。
奥田:そうなんですよね。言葉にすると残酷なんですが、すべての地方がうまくいくかというと、そういうことはありません。結局スタートアップはエネルギー量、つまりお金の流入量が幅を利かせますから(笑)。
ある程度、今までスタートアップに向いていなかったお金、つまり埋蔵金がいっぱいあるところは強いんです。そういう意味で、私はあの地域を選んで一つの勝ち筋を作りたいなと思っています。
例えばトヨタやブラザー工業といった会社は、日本国内でこそ大量のスタートアップ支援をしているわけではありませんが、世界的にはものすごい金額の投資をしていて、投資側としてのプレイヤーになっています。
そういう人たちを日本の側にちゃんと向けて、循環を作ることがいいんじゃないかと思って、あの地域に一つ杭を打とうとしています。