【3行要約】・1on1は多くの企業で導入されているものの、ただ漠然と対話するだけでは部下の成長につながらないという課題があります。
・世古詞一氏は、上司と部下の「共同プロジェクト」として1on1を捉え直すことで、より実りある時間にできると提案しています。
・管理職は部下と協働してテーマを設定し、対話の終わりに5つの成果を確認することで、1on1を有意義な成長機会に変えることができます。
前回の記事はこちら 本連載では、過去に取材したビジネスパーソンを再び訪ね、その後のキャリアや働き方、職場観・人生観がどのようにアップデートされたのかをうかがいます。今回は、1on1の第一人者である世古詞一氏にインタビューしました。
1on1を上司と部下の「共同プロジェクト」に
——前回、1on1は部下が主体性を持って取り組むことが大事だとうかがいました。部下に「次回の1on1で何をするか考えて」と言ったり、部下主導にしてしまうのがいいのでしょうか?
世古詞一氏(以下、世古):うーん、メンバー側がすごく飲み込みが早くて、準備してきてくれる人だったらやりやすいんですけど。丁寧にやるとすると、まず「どういうことをやっていこうか?」ってお互いに確認しながら進めていく。
——なるほど。丸投げにはしないんですね。
世古:最初は上司が考えてもいいんですけど、「次にどういうことをやってみたい?」と、徐々に渡していく。シンプルに言うと、やはりテーマを準備してきてもらうということです。でも、それがなかなか浮かばないんですよ。
なので、まずは「1on1のテーマの洗い出し」をテーマに話してみるんです。この時間でどんな話ができるのかなっていうのを話し合う。こういうテーマの一覧を見ながら、「この中でぴんと来るものはある?」と、自分たちの言葉に直したりしながらテーマを作っていく。
——おもしろいですね。
世古:そうするとフラットな関係性になるわけですよ。上司が聞いたことに答えるんじゃなくて、まずこのツールとかを目の前に置いて、お互いに見る。かつ、テーマを部下に選ばせると、部下は少なくとも「テーマを選んでいる」という主体性が生まれるんです。

あと「1on1の終わり方」もけっこう重要なんです。今日の成果を確認しましょう、と言って、この5つの項目を部下に見せて、「この中で今日話していたのが該当するものはある?」と聞く。
1on1終了の前に確認すべき5つのこと
——5つの項目というのは、どういったものですか?
世古:5つというのは、1つは知らなかった情報の獲得とかインプット。部下にとって「この時間の中で話していて、自分が知らなかった話が1個でもあれば成果」と言えます。「他の部署でそういうことをやっているんですね」「それは知らなかったです」とか。
あとは、問題/課題の発見・解決。上司がアドバイスして解決することもあるし、できたら部下側が自分で解決策を見いだすとより価値が高まります。あとは、問題発見のほうがより価値が高いんですね。問題解決はもう問題が顕在化しているわけですが、この対話によって、あらためて「自分のこの問題に気づけました」となったら、それも成果と言えます。
3つ目が、思考に関すること。考えが深まったり、広がったり、整理されたり、明確になったり、気づきが生まれたり。
あと、気持ちとかモチベーションの変化。「今日は話を聞いてちょっとすっきりしました」とか、「今回の異動の背景を知れて納得できました」といった気持ちの話。最後はアクションプラン。「こういうことをやってみようと思います」というものですね。
この中で1個でも該当するところがあるか、最後に確認するんです。1on1は終わり方が大事で、せっかくいい話をしていても流れちゃうと、「雑談して終わりました」みたいな感じになっちゃうんですよね。
——確かに。月に1回とかだと、先月に1on1で話したことを忘れてしまいますよね。
世古:忘れますよね。やはり最後、総括して終わる。そのためには材料としてこういったツールを使うと、考えやすくなると思います。
——確かに。それをすることによって、「今回はあんまり実りがないものだったな」ってなったとしても、「どうしたら次回に活かせるかな」って考えるきっかけになりますよね。
世古:そうなんです。よく上司の方がいうのが「1on1がうまくいっているか、いっていないかってわからない」。
だから、毎回じゃなくていいので、例えば「今日の1on1の有意義度で言うと5点満点の何点だった?」って部下に聞いてみる。「まあ、3.5点とかですかね」みたいな(笑)。「足りない1.5点って、どういうところだと思う? 何があると、この1on1はあなたにとって有意義になってくるんだろうね?」とか。
こういうことを課題としてまたお互いに考えていくと、次にどうしていけばいいかっていうことになっていくし、一緒に作っていく感覚が生まれてくるんですね。
今こそ「上司の語り」が求められている
——2人のプロジェクトみたいなものなんですね。より距離も近くなる感じがしました。
世古:そうそうそう。なんなら「何々さんが評価をもっと上げていくための作戦会議やろうよ」でいいんですよ。そもそも「どうやったら評価されるか」って、ぜんぜんわかっていないメンバーが多いと思うんですよ。

——なかなか聞きづらいですよね。
世古:上司もパッと答えられる人は少ないと思うんですね。そういうテーマがあったら、上司は真剣に考えるし、評価制度に問題意識が立つんですよ。そうすると会社理解も進むし、メンバーに対する意識も高まる。だから、上司としてはそういう問題意識をもらう場にもなるんですよ。
——上司にとっても部下にとっても有意義な時間になりますよね。ちなみに、いま1on1が周知され、今日お話しされたような課題も見えてきた中で、今後1on1はどんなふうに変わっていくと思われますか?
世古:いろんな会社で研修とかコーチングをしていて思うのが、今多くの場で大事だと言われている「傾聴」とか「質問」って、けっこう難易度が高い。問題解決じゃないパターンのコミュニケーションをしていくのって本当にしんどくて、どうしても「コト」の話になるし、問題解決の話にいっちゃうんですよね。そこでさっきの「人」の話にしていくというのは時間をかけてやっていかなきゃいけないなと思うんですね。
もう1つあるのは、傾聴とか質問力を磨いても、部下がまだ未成熟だったり、考えるための材料を持っていなかったり、経験がなかったり、聞いてもなかなか出てこないっていうケースはけっこう多いと思うんですよ。
——確かに。
世古:よく聞くのが、「聴いているんですけど、部下が黙っちゃうんですよね」というケース。やはり、上司がいろんなことを語っていくとか、伝えていくことも大事だと思っています。これは仮説ですけど、心理的安全性とかハラスメントとかの意識が高まっている中で、上司も自分が語ってインスパイアしていくというのができない。言うと説教くさくなるんじゃないかとか思って、語る人も減っていると思います。
そこで、自分の思いとか、自分がどう考えているかとか、経験とかをまず語っていくっていことからやってもいいと思うんですよね。いわゆる、自分の物語をちゃんと語っていくということです。
——上司が先に自己開示することによって部下も話しやすくなりますよね。
世古:そうですよね。組織の話をするにしても、組織の説明だけをするんじゃなくて、それについて自分がどう思っているか、どういうふうに考えてきたかとか、自分の経験も含めて話をする。
上司の深い部分を知るようになってくると、部下側も少し語れるようになってきたりすると思うので、上司自身が語っていくっていうことを少しやっていくのがいいんじゃないかなと思います。
——世古さん、ありがとうございました。