【3行要約】
・部下の離職は突然起きるように見えますが、実は事前のサインを見逃している可能性があります。
・世古詞一氏は、ハラスメント意識の高まりで上司が本音を聞きづらくなっていると指摘。
・離職を防ぐには、日頃の観察と具体的な問いかけ、そして部下の主体性を引き出す1on1の実践が重要です。
前回の記事はこちら 本連載では、過去に取材したビジネスパーソンを再び訪ね、その後のキャリアや働き方、職場観・人生観がどのようにアップデートされたのかをうかがいます。今回は、1on1の第一人者である世古詞一氏にインタビューしました。
部下の離職サインを見逃さないために
——ふだんの1on1で「大丈夫です」「問題ないです」と言っていた部下が突然辞めてしまうことがあります。部下のエンゲージメント低下に気づけないのは、上司部下間の関係性やコミュニケーションに要因があるのでしょうか。
世古詞一氏(以下、世古):そうですね。最近はハラスメントやコンプライアンス意識の高まりで、上司がプライベートの話にどこまで踏み込んでいいかわからず、聞けなくなっているんです。
上司は本音を聞きたいけど聞きづらい。部下も聞かれないから答えない。お互い当たり障りのない業務の話で終わってしまうので、上司は部下が何を考えているか把握できていないんですよね。あとは、離職のサインに気づきましょうとよく言われますが、そのサインが行動に出ている時点で、もうかなり末期に近い。

——部下側も割り切って態度に出しているということですね。
世古:はい。「前は残業していたのに最近は定時で帰る」「前は文句を言っていたのに最近は言わない」「会議での発言が少ない」といった変化が見えた時点で、1on1で「最近気になっているけど、何かある?」と聞くネタにはなります。
ただ、部下もそこに至るまで悶々としていたものがあるわけです。その手前の内面的な段階、モヤモヤの段階で話ができているかが大事です。だから、サインに気づいた時点で聞いても、部下からすると「こうなるまで気づいてくれなかった」「もう遅いです」という状態かもしれません。
——本来は、部下がモヤモヤを抱えている段階で話が聞けているといいんですね。
部下の本音を引き出す質問の仕方
——ふだんの1on1で聞けていればいいということですね。
世古:そうです。例えば「2日前の会議で少しモヤモヤしていそうだったけど、どうだった?」とか具体的に聞くと、「あれは納得していなくて」と話してくれます。それを逃すと、部下の中で不満が溜まっていきます。
——上司が気にかけてくれない、ということでさらに不満を募らせてしまうこともありそうですね。
世古:そうです。部下も表立って言わない人が増えていると思います。選択肢も増えているので、「わからないならこの会社、もういいかな」という判断をするわけです。
——上司がすべての部下の変化に気づくのはかなり難しいですよね。
世古:そうですね。でもできれば1on1だけに頼らず、ふだんから部下のことを見てあげると、より質の高い1on1になります。
例えば「最近、モヤモヤしたことはある?」と大きく聞くと、「どうですかね」とあまり答えが返ってこないんです。でも、具体をぶつけると出てきやすくなります。「あの会議の時にモヤッとしていたようだけど、どんなことを考えていたの?」と具体的に聞かれると、答えやすくなります。
——大きな質問をされると、何について聞かれてるか前提がわからないから、話しづらいというのもありますよね。
世古:そうです。少し具体化してあげると答えやすくなります。それを的確にするにはふだんからアンテナを張っておく必要があります。「これ、次の1on1で聞いてみよう」とメモしておくといいですね。それを繰り返していると、部下も「こういう話をしていいんだ」と学習でき、信頼関係もできてきます。
「次回の1on1のテーマ」を決めておく
——なるほど。ふだんから部下の行動をメモしておくということですね。一方で、意識はしてるけど忙しくてなかなか難しいという方も多いかと思います。多忙なマネージャーがすぐ真似できるような、1on1の質を上げるテクニックやコツはありますか。
世古:まず、1on1をどういう場にしていくかを部下とあらためて話してみるといいです。というのも、上司が1on1を負担に感じる理由は、部下の1on1に対する認識が低いからなんです。部下としては、「自分がわからないことを上司に言えばいい」という感覚なんですよね。
——何も考えず1on1に臨む部下が多いということですね。
世古:そうです。上司が楽になるためには、部下に目的や、どういう時間にしていくかを一緒に考えてもらう。できれば準備してきてもらいます。最初は負担になるかもしれませんが、「次回のテーマはどうするか」「何を準備しておけばいいか」を話しておく。例えば「次回は業務の振り返りをやろうか。そのためにどういう準備をしてくるといいかな」といった具合です。
——お題があると、部下も考えやすいですね。
世古:そうです。「これをやれそう?」「負担感ある?」「このくらいならできそう?」とすり合わせて落としどころを見つけます。「じゃあ、作ってきます」となれば、次の1on1ではそれをたたき台にしながら、「これを見ながら強みを考えてみます」といったことができます。予告編を一緒に作っていくイメージです。
1on1の質を高めるカギは上司ではなく「部下」
——1on1の中で次回の1on1の話をするというのは新鮮ですね。1on1は上司が主導でやるものと思っている方が多いと思いますが、どう思われますか。
世古:本来、1on1は部下のための時間なので、部下が主体でやるべきなんです。ただ、その認識がぜんぜん浸透していません。上司に対してはいろんな会社が1on1の研修の機会を作って啓蒙しているんです。
でも、部下に対してはあまり啓蒙できていないケースが多い。上司にまず啓蒙して「それを部下に伝えてね」と言うんですが、上司もなんとなく理解はしたものの、部下に伝えるほど深く理解できていないので、抱え込んでしまう。本来の趣旨や部下が主体だということを伝えきれていないんです。
私は最近、部下側の1on1研修の機会が増えているんですよ。
——部下向けの1on1研修というのは珍しいですね。
世古:はい。もちろん順番としてはまず上司です。上司がこういう場が大事だと思わないと、場自体がセットされないので。次に、これを継続させて質を高めていくキーパーソンは部下なんです。部下が「この時間は忙しいので仕事をしたい」「意味はあるんですか?」という状態だと、良い時間にならないわけです。
部下に目的や、こういう準備をしてくるんだという認識がないと良くなりません。部下側の1on1研修をやると、みんなそろって「あ、1on1ってそういうことだったんですか、」と言うんです(笑)。「普通に業務のことを聞くんじゃないんですね」「そういうことをやるんですね」と目から鱗という人が多いんです。それくらい部下の認識がまだ浸透していないんですよね。