【3行要約】
・「がんばっているのに報われない」と感じる人は多いが、その原因は目標設定の高さにあるかもしれません。
・堀田秀吾氏によれば、習慣化には平均66日かかり、意志や根性だけでは継続できないという科学的知見があります。
・効果的な習慣形成には「目標の細分化」「進捗の公言」「既存習慣への上乗せ」など、環境設計の工夫が必要です。
本連載では、過去に取材したビジネスパーソンを再び訪ね、その後のキャリアや働き方、職場観・人生観がどのようにアップデートされたのかをうかがいます。
今回は、明治大学教授/言語学博士の堀田秀吾氏にインタビュー。勉強やダイエットのような努力を継続させるための効果的な方法について、科学に基づいた最新の知見をうかがいます。
人生のQOLを上げる鍵は「習慣化」にある
——著書
『科学的に証明されたすごい習慣大百科―ハーバード、スタンフォード、オックスフォード… 人生が変わるテクニック112個集めました』がベストセラーとなりましたが、実際に、今何か習慣化したいけどうまくいかない、という人が多いのでしょうか?
堀田秀吾氏(以下、堀田): そうだと思います。人間は放っておいたら習慣化できない仕組みになっています。新しく始めることは基本的には面倒くさいことです。だから、最初は無理してやっていても、何日かすると疲れてやめてしまう。
ただ、結局クオリティ・オブ・ライフ、QOLを上げるためには習慣化が必要なんです。クオリティ・オブ・ライフを上げたいと思っている人はたくさんいますが、習慣化はやはり難しいわけです。この本の最初にも書きましたが、習慣化は自分の意志や根性でどうにかなるものではありません。しかも、(習慣にするには)平均で66日かかると言われていて、けっこう時間がかかります。だから途中で挫折してしまう人が多いんです。
——この本では、どういったものの習慣化について主に書かれているのですか?
堀田:ダイエットから仕事、貯金まで、かなり網羅的に扱っています。
——大きく言うと、何かしらの目標達成をしたい人に向けて書かれているんですね。
堀田:そうです。自分の中の何かを変えたいなら、今の習慣とは違う習慣をしなければいけないということです。
現状で満足している人は新しいことを習慣にする必要がありませんが、ダイエットしたい、貯金したい、パフォーマンスを上げたいなど、何かより良いものを求めようとしたら、習慣化することが結局重要になってくるんですね。
報われない努力をしていないか?
——がんばっているけど報われないとか、がんばり方を間違えている人も多いかと思います。そういう人はどういうパターンが多いのでしょうか?
堀田:がんばっているけど報われないというのは、たぶん目標が高過ぎるんですよ。もっと手軽にクリアできる小さな目標達成からやっていくのが大事です。大きな目標を細分化して、「今日はこれをやろう。明日はこれをやろう」というように、小さな目標を達成していくようにする。毎回達成感があれば次のことをやろうと思えます。それが続いて、習慣化しやすくなるということです。

——目標が大き過ぎると、それを実現できるリアリティを持てないですよね。
堀田:はい。それに、達成感も得られないから飽きてきてしまうんです。達成感は報酬系なので、いわゆるやる気のスイッチの1つです。日々こなせるような小さな目標に落とし込んで、進捗をつけていくと、「やった、10日もできている。よし、次は20日まで目指すぞ」となります。
でも、大きな目標だと自分が今どれだけ進捗しているかもわかりにくい。達成感も毎日得られるわけではないから、やはり面倒くさくてやめてしまうんですよね。
——日々達成できる小さな目標に落とし込んでいくのが大事だということですが、そのコツはありますか?
堀田:例えば、大きな目標は「英語を話せるようになりたい」だとします。そして「これを達成するには何をやったらいいか?」という時に、例えば朝、歯を磨く時に単語を5個覚えるとか、歩きながら耳で単語を10個覚えるとか。そういうのを日々こなしていけば、いつかは達成できます。そして、少しずつ負荷を上げていけばいいんです。
目標達成率が1.8倍に。進捗の「見える化」と「公言」
——そういった目標は、決めても途中で忘れたり、なんとなくやめてしまったりすることが多いと思うのですが、そういう場合はどうしたらいいですか?
堀田:それは、書き出していないからです。ちゃんと書いて、見えるところに置いておく。そして進捗も記録しておくのが大事です。一昔前に「レコーディング・ダイエット」が流行りましたが、あれは記録していくから進捗が見えるのが良かったんです。
「今日は食べ過ぎたな」と数字で表せると、「じゃあ、明日は食べないようにしよう」と調節できますよね。でも、何も記録を残していないと適当に流してしまうから、例えば3日連続でサボっていても気づかなかったりする。シールでも何でもいいですが、わかるように見える化しておけば、「やばい、もう2日も休んでいる。今日やらなきゃ」という気持ちになります。
——進捗を見えるようにするのが大事なのですね。
堀田:そうなんです。ドミニカン大学のゲイル・マシューズという人の研究で、おもしろいものがあります。「考えるだけ」「書き出す」「書き出したことを人に伝える」「書き出して、細かい日々の目標を設定して、それを人に報告する」「その進捗まで報告する」という何段階かで実験をしたわけです。
その結果、書き出して進捗を人に伝えた人は、「ただ考えているだけ」の人に比べて達成率が1.8倍に上がったそうです。だから、人に伝える、誰かが見ているということも大事なんです。
——目標を人に伝えることで、そこまで効果が上がるんですね。
堀田:直接人に伝えられなくても、今の時代はSNSがあります。私自身は冬になると冬眠のために太るのですが(笑)、春になると「痩せなきゃ」と思ってダイエットをします。何をするかというと、日々「今日何キロだ」とか「今日はこういう運動をした」というのをXで投稿するんです。進捗を報告しているわけですね。そうすると毎年2ヶ月で7キロから10キロ痩せます。
——すごい。堀田さんも実践されてるんですね。目標を人に話すことで、ある種逃げられない状況を作るということですね。
堀田:そうですね。「コミットメント」というやつです。進捗が見えているのも大事です。他の人から「こいつ3日もやっていないじゃん」と言われるのが嫌だからやる、というのもありますよね。
挫折しないための3つのTips
——他に、「この人はがんばり方を間違えているな」と感じるパターンはありますか?
堀田:そもそも行動できないという人がいると思います。人間の脳は自分の体の状況をモニターしていて、脳自体は見ることも聞くことも感じることもできないので、「体が今どんな状況なんだ?」というのを頭の中で分析しています。その状況に応じて最善の状態に体と心を整えてくれるのです。
例えば動物は、相手を威嚇する時に体を大きく見せようとします。人間も同じで、背中を伸ばして仁王立ちすると、これは戦闘ポーズのようなものです。
なので私たちも姿勢を良くしてみると……脳は体をモニターしているので、「今、戦闘態勢なんだ。じゃあ、テストステロンを上げて、ストレスホルモンを下げて、よりストレスフリーに戦えるようにしてあげよう」というように、脳が自分の体の状態を分析して整えてくれます。だから、とりあえず動き出すと、脳の側坐核というやる気のスイッチが押され、エンジンがかかるのです。
——脳が騙されてやる気が出てくるんですね。
堀田:脳はエンジンみたいなもので、無理やりにでも動かすと後は勝手に回り出します。やりたくなかった掃除でも、やり始めるとついついいろんなところまでやってしまう、あのパターンです。だから、1つ目のTipsは「とりあえずまず体を動かす」ということです。
——体を動かすというのは、勉強だったらまずは机に向かうといったことですか?
堀田:何でもいいんですけど、何か行動を始めるということです。掃除するなら、まず立ち上がる、でもいい。
——その「最初の一歩が踏み出せない」という人はどうしたらいいのでしょうか。
堀田:やる気だけではどうにもできないので、それしかできない、そうせざるを得ない状況を自分で作っていくのが大事です。
例えば、「体を鍛えたい」という人がいつでも行けるジムを契約しても、正直行かない人が多い。でも、そこにトレーナーを雇っていて、約束の時間までに行かないと次から予約が取れなくなるとしたら、これはけっこうな縛りになり、背中を押してくれます。「待たせているから悪い、だから行こう」「高いお金を払っているから行かなきゃいけない、だから行こう」となりますよね。
朝走る時に家族に一緒に走ってもらうとか。家族だけ走って自分だけ走らないと格好悪いから、自分も走るようになります。そんなふうに、周りをどうやって自分を動かすための環境に整えていくかが大事です。
そして3つ目が「ハビット・スタッキング」です。今すでにある習慣に、何か新しいことを上乗せしてくっつけてあげるんです。例えば、歯を磨いている時に英単語を5つ覚えるとか。ダイエットをしているなら、歯を磨いている時は空気椅子の状態でやるとか。
——無意識でできている習慣にくっつけることで、続けやすくなるんですね。
堀田:そうです。毎日やることだから自然に習慣化していく、と言われています。この3つを意識してやるといいのですが、これらを知る前にやろうとすると、「根性でがんばろう」となって結局失敗するわけです(笑)。