【3行要約】・「ワークライフバランス」という発想が慢性疲労を招き、多くのビジネスパーソンの健康と生産性を低下させています。
・欧州で法制化されている「勤務間インターバル」という考え方では、休息時間を固定することでオフのタイムマネジメントが可能になります。
・個人がオフの時間を意識的に管理し、最高のパフォーマンスを発揮する準備をすることで、組織全体の生産性向上につながるでしょう。
前回の記事はこちら 「ワークライフバランス」の考えが「慢性疲労」につながっている
——前回、具体的な休み方のコツをお話ししていただきました。ここからは、疲労をためない働き方についてうかがいたいと思います。疲れにくい職場を作るためのポイントを教えていただけますか?
片野秀樹氏(以下、片野):まず、私が嫌いな言葉に「ワークライフバランス」があります。それはなぜかというと、ワークが最初にあって、残り時間でバランスをとろうっていう発想になってしまうからです。慢性疲労の状況ではワークの割合がどんどん延びて、残業しなければいけなくなります。
そうすると結果的に「ライフ」にあたる時間がどんどんなくなっていっても、あまり意識しなくなる。ワークをやった後で、残り時間でなんとか寝て回復しようとバランスをとるんですけど、回復できないんですね。その状態が、慢性疲労につながっているというのが現実です。
そこで私が今、ワークライフバランスの代わりの言葉として使っているのは、「勤務間インターバル」です。
「オフ」のタイムマネジメントの重要性
——勤務間インターバルとは何ですか?
片野:これはもともとEUでできた言葉で、1993年にEUで法制度化されました。勤務時間が終わってから翌日の勤務時間までの間、これを勤務間インターバルと言います。だから、勤務時間と勤務間インターバルを合わせて24時間になるわけです。この考え方が日本人には必要なのかなと思っています。
先ほどお話ししたように、勤務時間の発想になると、「ライフ」を後ろ倒しにしてしまいますよね。勤務間インターバルというのは、これをフィックスしようということなんです。EUには、連続11時間以上の休息時間を勤務間インターバルとして取らなければいけないという法律があります。ですから仮に、12時まで残業したら、翌日は11時以降じゃないと出社できないんですね。
——へぇ、なるほど。
片野:この11時間という時間が適切かはさておき、私はこのフィックスすることがとても大切だと思っています。フィックスされると、自分の中でオフのタイムマネジメントができるようになるんですね。
みなさん、オンのタイムマネジメントはしますが、オフのタイムマネジメントはしないんです。ですから、オフのタイムマネジメントをし始めると、何時間寝て、どのくらい1人の時間があるか。どのくらい通勤時間があって、どのくらい家族との時間があって……と、どのようにやったら一番効率的なオフが取れるのか、マネジメントするようになるわけですよ。
今の日本って、仕事が忙しい時に「残業したらいいや」と、オンをどんどん後ろ倒ししますよね。残り時間で寝ればいいかと考える。
だから残業したら、翌日までの勤務間インターバルが短くなるわけですよね。これが1日だけならいいですけども、毎日続いて、勤務間インターバルの時間を圧縮してしまうと、翌日の仕事に響くわけです。本来持っている能力が発揮できない中で働きつづけ、慢性疲労につながります。
なので、オフを先に考える。あるいはオフをフィックスする。この発想をぜひみなさんには持っていただきたいと思います。
日本人より「休み」も「収入」も多いドイツ人
——なるほど。今のお話を日本企業で実践するためには、どうしたらよいでしょうか。
片野:今、諸外国で基幹産業が一緒と言われるのがドイツです。自動車ですよね。そうした中で日本はGDPもドイツに抜かれてしまいましたがほぼ一緒。年間の労働時間は日本と比べるとドイツは非常に短いです。日本人よりも年間で30日以上長く休んでいるわけですけど、収入は日本人よりも高い。それって何が原因ですかというと、生産性の問題ですよね。生産性をドイツと同様に高めることが、現実的にできるんじゃないかなと思うんです。
それに倣ってどうするかというと、まさに勤務間インターバルの発想を日本企業も持つべきですし、持たないとどこまでいっても負のスパイラルに入ってしまいます。
——実際、こうした改革は日本企業で導入されてきているのでしょうか。
片野:そうですね。今、国も動き始めていますし、一部の業界ではもう勤務間インターバルの発想がスタートしています。特に運輸業、運転手さんたちは勤務間インターバルという発想はもう生まれていますし、法制化もされているので、遅かれ早かれ一般企業にも少しずつ入ってくると思います。
——最初に片野さんがおっしゃっていた、日本人の長時間労働が美徳とされている風潮が、少しずつ変わってきているのでしょうか。
片野:そうですね。長時間労働でも昔はバランスが取れていたんですけども、今はもうバランスが取れなくなっている。オンラインで本当に24時間働ける環境になってしまっている。
経営者層はなんとなくバランスが取れた時代に生きていた人たちなので、「そんなのなんとかなるんじゃない?」と思ってしまう傾向がありますが、今の時代はそうではない。その中で私たちがやらなければいけないのは、自分から積極的に余白を取りにいくことです。
余白を作って能力を発揮しなければいけない。短時間で効率的にどう仕事をするか。そこに意識を向けないと、本当に私たち自身の体がもう持たなくなっているわけです。
まずは働く個人の意識を変えることから
——経営者層がここの課題感を持って組織制度を変えることが有効なのかなと感じました。一方で、働く個々人が変わることで、組織にどんな影響があるのでしょうか。

おそらく、自分自身の意識が一番大切なのかなと思います。特にオフはプライベートの時間なので、会社としてはなかなか介入できないところだと思うんですね。そうなった時に、自分自身がどのようにオフをしっかり取ってマネジメントし、その結果、どうパフォーマンスをオンタイムに出せるかがポイントになると思います。
例えばアスリートは、オンタイムで良い成績を出さないと評価が下がってしまうので、オフをどうするかを真剣に考えるんです。大谷翔平選手なんか10時間ぐらい寝るって聞きますよね。
しかし、一般のビジネスパーソンに「あなたは何時間寝たら一番体調が良いですか?」と聞いても、答えられないことが多いと思います。これってオフのマネジメントをしていないんですよ。プロのアスリートは試合のためにオフをしっかり取り、最高の状態で臨むことを求められています。
アスリート同様、私たちもお金をもらっているということはプロですよね。これはもう一人ひとりの意識だと思います。その意識を持っていないと、当然長時間労働になるし、効率も高まらない。
個人の意識として、オフをどうやって取り、何時間ぐらい寝るのがベストで、何時間前に食事を済ませるか。そういうルーティンによっていかにオンタイムでパフォーマンスをしっかり出すかを意識すると、短時間労働にもなると思います。
それはまさに正のスパイラルになると思います。そういう意識が生まれると、いかに生産性を高めるかという発想になる。例えば「この会議ってもうちょっと生産性が高められますよね」とか。みんなが生産性とか効率ということを意識する。なのでしっかり活力を高めた状態で仕事に臨むという意識が生まれると、社内の雰囲気も変わってくると思いますし、生産性も当然高まってくるんだろうなと思います。
——片野さん、ありがとうございました。