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マネージャーが知っておきたい、幸福度の高い職場のつくり方(全2記事)

社員を不幸にし生産性を下げる職場の人間関係 データで証明された、“チームメンバー”としか話さない職場の問題点

【3行要約】
・矢野和男氏によれば、職場の人間関係は「三角形の法則」が重要であり、無駄に見える雑談や人間関係こそが、組織の成長と創造性を支えているのです。
・組織図の階層構造だけでは対応しきれない問題が増え、「V字型」の関係性は人々を不幸にし、生産性も低下させてしまいます。
・リーダーは部署を超えた三角形の関係性を意図的に作り、リモートワーク環境でも15分のランダム雑談など、つながりを生む仕組みを導入すべきです。

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本連載では、過去に取材したビジネスパーソンを再び訪ね、その後のキャリアや働き方、職場観・人生観がどのようにアップデートされたのかをうかがいます。
今回は、『トリニティ組織―人が幸せになり、生産性が上がる「三角形の法則」』著者の矢野和男氏にインタビュー。前回
2021年9月のインタビュー時から4年が経った今、幸福度の高い働き方についての最新の知見をうかがいます。

なぜ組織は不幸で非生産的な「V字型」になってしまうのか

——書籍『トリニティ組織―人が幸せになり、生産性が上がる「三角形の法則」』の中でも、「仕事を効率良く進めるために、V字型が組織で仕組み化されていった」と書かれていましたね。どうして組織がV字型ばかりになってしまうのか、あらためて詳しくお話ししていただけますか。

矢野和男氏(以下、矢野):組織というのは、どの時代においても、ある種の複雑な顧客や取引先に常に向き合っています。でも複雑なものだと、誰がどう動いていいかわからないから、担当とか責任者とかを決めなければいけません。

それを決めているのが、まさに組織図です。誰が責任を持つか、誰がメンバーの足りないところの面倒を見るかというのを階層的に決めています。集団はみんな違うバックグラウンドを持っているので、わかりやすくなければ駄目なのです。

なので階層的に分解していくというのは、わかりやすくするためには絶対必要です。でも、複雑で常に動いている時代の環境に適応するためには、それだけでは対応しきれないことがいっぱい起きます。

それを見直したり、突発的なことに対応したりするためには、横や斜めにいろんな仲間がいて、その間で調整していかなければいけません。

——組織図どおりに直属の上司と部下でコミュニケーションをとるだけでは通用しないことが起きてくるんですね。

矢野:もともと組織図というのは、すべて上司が部下とつながるV字の固まりなので、ただの1個も三角形がないんです。だから組織図どおりにコミュニケーションをしていたら、データで証明された不幸で非生産的な集団に必ずなってしまいます。 

 一方で、仕事上の仲間がいて、何か自分がやらなければ対応できないことがあること。それを自分事として自ら決定して動けることは、幸せの根幹にある自己決定につながります。

自己決定できている状態が創造性を発揮している状態なのですが、そういうことが幸せだということを、みなさんにちゃんと知っていただきたいんです。

人間関係は「無駄」が大事

——先ほど、うつ病が多い職場はV字が多いとうかがいましたが、なぜなのでしょうか?

矢野: これもいろいろ理解の仕方はありますが、近くにいるのにつながりがないというのは、用事だけの関係ということですよね。ある程度近くなったら、ちゃんと仲間同士にならなきゃいけない。仲間というのは結束、連帯、信頼といった人間としての関係です。それは、自分を含めたこの3人が一種のコミュニティになるということなのです。

三角形というのはコミュニティの最小単位だと考えられています。例えば、近所によく行くラーメン屋さんがあるとします。店主とは、ただラーメンを食べさせてもらうだけの関係。隣の八百屋さんのおじさんもそこに行くけど、ただ食べさせてもらうだけ。これだとV字型じゃないですか。

でもある時から、カウンターで隣に座った八百屋のおじさんと話すようになったら。ラーメン屋の店主と、八百屋のおじさんと自分の3人のコミュニティができたということになります。

もう1点、三角形の関係性は、コミュニケーションコストがかかりますよね。 だけど、人間関係は無駄が大事なんです。

——無駄がないと孤独感を抱いてしまう?

矢野: そうそう。しかも、決められたことをやっているだけの組織だったらまだいいのですが、今、そんな組織はどこにもありません。決められたことはもちろんやらなきゃいけない。でも、決められたことからはみ出るような状況がいっぱい生まれるわけです。そこで「V字の役割がこうだったからこれしかやりません」みたいな状態だと仕事が回っていかないんです。

つまり、三角形がないと「言われたことだけやっていればいいや」ということになりがちです。それは実は時代の要請を無視していたり、周りの環境なんかどうでもいいということにつながります。思っていなくても結果的にはそうなってしまいます。

「成長しない」=「衰退していく」ということ

——なるほど。多くの上司は部下に「言われたことだけじゃなくて自分から考えて動いて」と言いますよね。

それも、自分と上司のV字の関係性だけで考えるのではなく、三角形の関係性を作ると、自分の影響できる範囲も広がるというか。「自分の仕事の範囲を広げて動く」ことができるようになるのかなと思いました。

矢野: そうですね。この世の中で静止しているものはありません。成長しないということは、衰退していくということです。だから組織は常に成長しなければいけないのです。ということは、さっきの(挑戦し続ける)スパイラルを一人ひとりが回していかなければ駄目なのです。

組織全体としての(挑戦の)スパイラルを回し、一人ひとりもスパイラルを回している。それをみんなで応援し合っている状態が、三角形という人間関係に表れます。常に挑戦しているスパイラルの状態では、ますます仲間作りが大事になります。だから、メンバーを孤立させちゃ駄目なんです。

働きやすさと生産性を両立させるには

——ワークライフバランスが重視される今、働きやすさと生産性向上をどうやったら両立できるのかという議論もありますが、先ほどのお話だと、そこは両立していけるものだということでしょうか。

矢野: 働きやすいから生産性が高いんじゃないですかね。挑戦のスパイラルを回して、常に前に進んでいるから生産性も高くなる。

ただ今までは、わりと標準化されたパターンにはめて物事を考える、人をそこに押し込めるということがやられてきました。ルールなんかもどうしても一律にしたくなりますし。

ですが、これからはまさにAIの時代で、しかも標準化された杓子定規なことは機械とかAIのほうが得意なので、より付加価値を高めるような仕事が求められる。そのために、先ほど言ったようにAIと一緒に道を作っていくということですね。

 なので、働き方なんかももっともっと柔軟になるべきだと思います、これは私の意見ですが、例えば標準化の一番根源にあるのが、時間で管理するというところだと思うのです。

——何時から何時まで働くというようなことですね。

矢野: はっきり言って、アウトプットや生み出した価値というのは、時間とはまったく関係ないですね。その質にはもう100倍、1,000倍の違いがあります。しかも、そもそも足し算できないですからね。

例えば、AということをやってBをやるのと、BをやってAをやるのではぜんぜん意味が違います。単純作業だったら、AをやってBをやるのと、BをやってAをやるのは同じです。一方知識労働だと、AをやってBをやるということは、Aの経験と思考を持ってBをやるから、Bの意味がもう変わっているのです。

前に何が起きたかによって、その起きていることの意味が変わる。あるいはそこで何が生まれるかもまったく違います。みなさん、まだまだ足し算思考で物を見ていますよね。それはぜんぜん非科学的なのです。でも、こうしたことを今の制度設計に考慮するのは難しいからできていないのです。

管理職がやってはいけないこと

——現場の管理職が生産性を高める上で、すべきことや、してはいけないことを教えてください。

矢野: やってはいけないことは、「あなたは、言われたことだけやっていればいいんだ」という部下への態度や方針です。やはりリーダーは、一人ひとりに創造的になってもらうことを、求めなければいけないと思うのです。

どんな仕事にも創造性を発揮できる余地を作らなければいけないし、作れると思うのです。逆に発揮する余地がないような仕事の設計をしたとしたら、それ自身が間違っていると私は思っています。

非常に単純に見えるようなことでも、工夫の余地は必ずあります。だから上司側が、目の前の仕事の意味を伝えること。一見作業に見えるものであっても、少なくとも部下に「創造性を求めている」ことは言わないといけないですよね。

「V字」の関係を「三角形」に変える具体的な方法

——ありがとうございます。ちょっと先ほどのお話に戻るのですが、職場ですでにV字の関係性が出来上がってしまっていて、そこから三角形に変えるには、マネージャーはどうしたらいいのでしょうか?

矢野: そうですね。三角形の関係性は、単純に分けると2つあります。1つは雑談や立ち話、昼食を一緒に食べる、飲み会に行くといった、わりとインフォーマルな関係。仕事としてやれと言われていることではない関係です。それはそれですごく大事です。特に雑談や休憩時間の過ごし方は、生産性や創造性に非常に影響があるということは、もういろんなデータで出ています。

ただ、やはり職場はあくまでも仕事の場なので、「決められたことをちゃんとやる」ということは、もともとの担当やV字の中でやりましょうと。

その範囲だけで対応できない事態が起きた時に「これはちょっと担当が違う人たちで集まって、どういうことをやったらいいか検討してよ」とリーダーが指示する。三角形だからこそ、そういう検討ができるんですね。

つまりリーダーがすべきこととしては、V字の別のブランチにいる人たちを集めて、部署やチームをまたがって見直さなければいけないこと、あるいは対応が十分できていないことを、「この3〜4人で検討して、1週間後に提案してきて」みたいに、仕事をちゃんと作ってあげる。これがマネージャーの重要な仕事です。

——特定の個人だけに振るんじゃなくて、チームでの仕事を作ってあげるということですね。

リモートワークでも「三角形」を作る、15分のランダム雑談

——矢野さんご自身も、マネージャーとしてV字ばかりだったところから三角形の関係性を作った経験があるのでしょうか。

矢野: そうですね。私自身もそういう三角形を作るというのを相当意識してマネジメントしてきました。ハピネスプラネットでは、オンラインで朝に15分ぐらい、ランダムに選んだ3〜4人で雑談するというのをやっています。従業員は30人弱なんですけど、3〜4人ずつ別の部屋にして雑談してもらいます。

——おもしろいですね、それはなぜやろうと思ったんですか?

矢野: やはり縦割りになってしまうと、特にリモートワークだと用事がある人としか話さなくなってしまうんですね。三角形の関係を作りにくくなりがちなんです。

なので、たまたまアサインされた同じ部屋にいる3〜4人と、(会社への)不満とか不便とかも話してもらっています。こうすることで、ふだん業務の話しかしなかったのを、もう少し雑談的な話ができるようになります。

しかも、経営者や管理職にとってもいいことがあります。そういうのを週に3〜4回やっていると、「そういえばあの人はこんなことを言っていた」とか、「最近こんなことをしていたって聞いたよ」みたいな話がものすごく風通し良く聞こえてくる。だから、私とみんなの距離がすごく近くなります。

——メンバー同士だけで雑談することで本音も話せるし、回り回って上司も部下の状況を知ることができるんですね。

矢野: ええ。実はけっこう組織内のネットワークの中にはバイパスが巡っているので。ランダムで選んだような遠い関係性の人でも、何ステップでその人に届くかという距離が、もう極端に急に短くなるのです。

 「あっちの部署は、何をやっているかわからないよね」とか不満が出る前に、こういう取り組みをして、時間を投資するだけの価値があると思っています。「みんな忙しいのにこんな雑談をしている暇はないんだけど」って言う人たちもたぶんいると思うんですけど。問題が顕在化してから対策するのでは遅いので、こうした取り組みをしています。

——リモートだと特に関係性が固まりがちなので、こうした三角形の関係性を作る取り組みを重視されているんですね。矢野さん、ありがとうございました。

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