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マネージャーが知っておきたい、幸福度の高い職場のつくり方(全2記事)

うつ病が多い職場は「V字の人間関係」が多い 「幸福な人」と「不幸せな人」を分ける職場の法則

【3行要約】
・生成AIの発展により「担当の仕事だけやればいい」という従来の働き方が通用しなくなり、多くの企業や個人が変革を迫られています。
・矢野和男氏によれば、AIは人間の創造性を拡張するパートナーであり、正解のない問題を解決する上で人間とAIの協業が不可欠です。
・矢野氏は著書『トリニティ組織』で、V字型ではなく三角形の人間関係を職場で構築することが、創造性を高め、幸福度と生産性の両立につながると提言しています。
本連載では、過去に取材したビジネスパーソンを再び訪ね、その後のキャリアや働き方、職場観・人生観がどのようにアップデートされたのかをうかがいます。
今回は、『トリニティ組織―人が幸せになり、生産性が上がる「三角形の法則」』著者の矢野和男氏にインタビュー。前回2021年9月のインタビュー時から4年が経った今、幸福度の高い働き方についての最新の知見をうかがいます。

生成AIで働き方も人生もまるっきり変わった

——前回矢野さんにインタビューさせていただいた際には、日立製作所で半導体の研究をされていたところから、幸福の研究をされるようになった経緯をうかがいました。前回インタビューした2021年当時から現在にかけて、どのような変化がありましたか?

矢野和男氏(以下、矢野): そうですね。まず社会的に一番大きい変化は、なんといっても生成AIの登場ではないでしょうか。AIという、あらゆるものの前提がひっくり返る地殻変動が起き、我々の働き方、生き方、組織のあり方のすべてが大きく変わってきています。

さらに、我々の会社では生成AIのその先ということで「創造AI」というものを作っています。そこでは、なにか1つのテーマに対して、600人の「異能」たちが自律的に協力し合って解いてくれます。AIによって、1人の人間が600人の部下を扱えるという、まったく新しい状況が生まれています。

——AIが進化して、矢野さんご自身の研究対象も変わっていったのでしょうか?

矢野:私の人生や生き方、働き方がまるっきり変わっています。何しろすべてをAIと一緒にやっています。このハピネスプラネットも、経営をやりながら実際のソフトウェアやAIを自分自身で作ることはなかなかできなかったのですが、もう完全にAIでエンパワーされてしまいました。

隙間時間があればAIで(ソフトウェアを)作っている感じです。今までとは比べものにならないほど生産性が上がっているので、そのあたりが非常に違うかなと思っています。

「担当の仕事だけやる」は通用しなくなる

——矢野さんご自身の働き方も生成AIでだいぶ変わったとのことですが、組織がAIの進化によって受けた影響はありますか?

矢野: それはもう抜本的に変わったと思います。単純なところで言うと、「人を雇うのかAIに投資するのか」という、多少二分論のような議論が世の中でずいぶん出てきていますし、アメリカなどではそれが雇用にずいぶん影響を与えているという報道もあります。

我々も、今までよりも人を増やすのを少し控えようと、当面はAIでできることはAIでやろうという判断をある程度はしています。それから、なんといっても言語を扱える万能の物知りがいて、しかもそれをどう使うかも自由にできるということですから、無限の可能性が出てきています。

特に人間は、これまで組織を作って、ある部署や担当、専門といったところに1人の人間を閉じ込めてきました。今までの世界ではある程度の範囲しか体験や知識を持ち得なかったからです。だから担当や分担を分けて、「1人の人間はここまでしかわからないし担当できないよね」となっていたわけです。

ところが、例えばうちの「FIRA」という創造AIなどを使うと、あらゆる人が世界中の英知を集めた「異能」たちをいつでも使える状態になってしまいます。そのため、ある種の担当に押しとどめておく理由がほとんどなくなり、どんどんそういう壁が壊れて溶けていく。

大谷翔平選手の二刀流がもっと進化するイメージです。「十刀流、二十刀流」みたいな人が続々と出てくると思っています。今までは、ピッチャーとバッターを両方やるなんてプロの世界では無理だと思われていました。

あれもきっと、大谷選手が育ったYouTubeやスマホがある世界だからこそ実現できたと私は思っています。今、特に創造的なAIがある世界では、AIも創造力を持ちます。そうしたAIの誕生によって、人間の創造性はものすごく拡張されます。

そんなことを前提として育つ世代が、5年、10年経って出てくるわけです。まあ、5年もかからないかもしれませんが。今の若い人はスマホを使いこなしてバリバリそうなってくるので、そうなると企業においても、ある特定の領域や担当に枠をはめて「それだけやっていればいい」ということはなくなっていくと、私は思っています。

「AI vs 人間」という構図が間違っている

——組織としては生産性が上がったり、少ない人数でたくさんの仕事ができるようになったりするのは、すごく良いことのように思えます。一方働く個人の幸福度は、AIの進化によって、どんな影響があったのでしょうか?

矢野: そこが非常にポイントです。AIの捉え方には2つあって、1つは人をAIに置き換えるということですね。

——AIに仕事を奪われるというのはよく聞きますよね。

矢野: でも、人間らしくない仕事はいくらでもあるので、それをAIにやってもらうのは大いに結構なことです。

もう1つは、これも(ダグラス・)エンゲルバートという人が1960年代から言っていますが、人の力を増幅する、あるいは拡張するということです。AIをひっくり返してIA(Intelligence Amplifier:AIを人間の知能を置き換えるのではなく、補助・拡張するものとして捉える発想)と言ったりしますね。

やはり人間と一緒にやらざるを得ないことはいっぱいあります。意思決定をしたり、責任を取ったり、人を動かしたり、人に共感してもらったり。こういうことはAIが助けてはくれるけれども、人間と一緒にやらなければならない。

でも、よくメディアなどでも「AI vs 人間」と言われますよね。これはAIがやるべきか、人間がやるべきかという分類で論じられることがとても多いのですが、それはフレーミング自身が間違っていると思っています。「AIがやるか、AIで増幅された人間がやるか」ということです。

AIは道具というよりはむしろ、人間とAIが一体になって仕事に取り組んでいくことになるのかなと思っています。その時に非常に大事なのが、IAで人の創造性を拡張するということです。単に検索して情報を持ってくるだけだったら、もう20年前からずいぶんやっています。

そうではなくて、あくまでもその人の能力を拡張して増幅する。特に、そもそも正解が存在しているような問いは、AIのほうが基本的にはぜんぜん得意です。博士レベルの問題とか、世の中に解ける人が何人もいないような問題でもAIは楽々解いてしまいます。

一方、ビジネスのほとんどの問題は正解がありません。だから、どこかに正解があってそれを検索してきたり、学習して答えればいいというやり方でできる問題ではありません。イノベーションや革新、経営などもそうですが、こうした問題がほとんどのビジネスの価値を決めます。ほとんどの価値が生まれてくる活動は、創造的な活動です。

「生産性」と「幸福度」が上がる条件

——AIによってこの創造的な活動ができるようになることで、幸福度も上がっていくのでしょうか?

矢野: そうです。まさに創造性は、経済的に生産性があることと、人がウェルビーイングで幸せであることの交点にあります。要するに、社長から末端まで人が創造的だったら、いろんな制約や壁があってもそれを乗り越えていけるので、当然お金が儲かります。

そして、人が創造的であるというのは、実は幸せの根幹にある状態なのです。これは幸福やウェルビーイングの研究で今までいろいろ言われてきましたが、そこまで強調されていなかった点です。

ウェルビーイングとか幸せという言葉は、曖昧じゃないですか。多義的で、いくらでも違う捉え方ができます。それに対して、その中核にある創造性というのは、もっとシャープです。そして、先ほどの生産性にも人間の幸せにも非常に強烈に効いています。

——創造性が高いと、生産性も幸福度も高まるんですね。

矢野: 例えば料理を作るのでも、創造性がない料理作りはつまらないでしょう。制約があるからこそ創造性を発揮したりするんです。「今日の冷蔵庫にあるもので、しかもこの季節に合ったものを作りたい」「昨日ラーメンを食べたから今日は麺類じゃないものがいい」とか。

 そういう文脈があるからこそ、逆にその時固有の創造性が生まれる。そういうことは仕事でも毎日のようにあります。あるいは、決められたことをやるだけでなく、それをさらに見直していこうとすることは、すべて創造的な営みです。

なので、創造性ということを中核に置くと、この利益や生産性という経済面と、人の幸せやウェルビーイングということが重なります。我々がより創造的になるのをAIが助けてくれる、あるいは我々の創造性を増幅してくれる。そういうものを我々は目指して、実際2ヶ月前に、「FIRA」というかたちでデビューし、記者会見をやって、サービスも開始しました。

「幸福な人」と「不幸せな人」を分ける職場の人間関係

——ここまでAIと幸福度の関係性についておうかがいしました。ここからは、著書『トリニティ組織―人が幸せになり、生産性が上がる「三角形の法則」』の内容にも触れていきたいと思います。まず書籍の中で書かれていた、幸せな人と不幸せな人の違いについておうかがいできますか?

矢野: これもさっきの流れとつながるのですが、創造的な人にはいくつか特徴があります。あるいは、創造的な集団、家族、組織にも当てはまります。

1つは、本の中にも書いたのですが、単に幸せか不幸かということではなく、常に「挑戦」と「自分の力を発揮しているか」という2軸で捉えることです。

より挑戦しながら、緊張状態も受け止めて、さらに前に進んでいく。習熟してくるとある程度楽になってきますが、そこでまた次の挑戦の旅に出る。こういうスパイラルを継続的に行っているプロセスが、幸せで生産的な状態です。これがまさに創造的な状態なのです。

こういうことを自分もできる、あるいは職場としても盛んに行われているような状況を作るには1人ではできません。「じゃあ、どういう人間関係の人たちができているか?」というのを大量のデータで解析すると、そこに人間関係の「トリニティ」、三角形の関係が見えてきます。

うつ病が多い職場は「V字の人間関係」が多い

矢野:我々の人間関係の中に、わりとよく話す人もいれば、たまにしか話さない人もいますよね。ふだん、職場で自分がよく話す人を2人、思い出してみてください。その人たち同士が話をしない関係性は、V字型になります。一方で、この2人が話をする関係だと三角形になる。自分の周りにV字が多いのか、三角形が多いのかが重要です。

V字が多いと、うつ病になりやすいです。逆に言うと、うつ病が多い職場というのはV字の人間関係が多いということです。

——自分と仲の良い人が2人いて、その人たち同士は特段仲良くない、というのは職場以外でもよくあることですよね。これが三角形になると、なにか良いことがあるのでしょうか。

矢野:そうですね。例えば、ある人がお子さんを産んで、共働きで働いています。その人の近くには、自分のお母さんも、旦那さんのお母さんもいます。よくどっちとも話します。でも、この2人が直接話すことはありません。

そこである時、子どもが熱を出しましたと。「私も旦那さんも出張や仕事でどうしても行けない。どっちかの親に子どもを見てもらいたいんだけど、どっちに頼もうか?」みたいな状況になった時に、V字だと困るんですよ。

——自分が間に入って、2人の意見を聞かないといけないですね。

矢野: そうそう。そもそもどっちに先に打診しようか、いろいろ板挟みになるわけです。一方、実際私の知り合いで、この2人の姑さんが一緒に飲みに行くほど仲良くなってしまったというケースがあります。そうすると、「えっ、(孫の)○○ちゃん熱を出したみたいよ。この前は行ってくれたから、私、行くわね」みたいになる。

——話が早くてありがたいですね。

「組織図」どおりのコミュニケーションが危険な理由

矢野: そう。これが三角形です。職場でもそういう関係はいっぱいあって、例えばあるプロジェクトに参加したとします。プロジェクトリーダーとは別に、自分を評価する上司が別にいて、この2人(プロジェクトリーダーと自分の上司)がちっとも話さないと、自分が板挟みになってしまいます。

あと、家庭を例に出すと、私が家内とよくしゃべっている。家内は娘とよくしゃべっている。私が直接娘と話さずにいつも家内経由になっていたりすると、「娘なんだから直接話したら?」みたいになってしまう。

——(笑)。家庭でも仕事場でもよくあることですよね。

矢野: もちろん、遠い関係だったらつながることはめったにないので仕方ありません。「わりと近くにいるのに、なんでこんなにつながらないの?」というのが問題なのです。

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