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国産有人宇宙機という夢 - 宇宙輸送インフラ構築への挑戦(全3記事)

小型カプセルで世界一の技術を持つ日本が、宇宙輸送で勝てる理由 2026年「あおば」打ち上げ、2030年代に有人宇宙機を実現する東北発ベンチャー [1/2]

【3行要約】
・日本の小型カプセルで物資を高精度に地球へ持ち帰る技術は世界一と評価されており、東北発ベンチャーのElevationSpaceがこの技術を民間事業化しています。
・同社の小林稜平氏は2026年後半以降に実証・回収衛星「あおば」の打ち上げを予定し、JAXAとの共創や内製化による高品質・低コストの実現を目指しています。
・2030年代には有人宇宙機の実現も視野に入れており、ISS後の商業宇宙ステーションからの物資回収など、宇宙輸送インフラの構築に挑戦しています。

前回の記事はこちら

世界一の技術を東北から。実証・回収衛星「あおば」で未来を拓く

――小惑星探査機「はやぶさ」が示した、小型カプセルで高精度に地球へ物資を持ち帰る技術。世界一と称されるこの日本の技術が、いま民間ベンチャーの手で事業化されようとしています。株式会社ElevationSpaceは、月面サンプルリターンから宇宙ステーションでの実験成果回収まで、宇宙と地球を結ぶ輸送インフラの構築を目指します。2026年後半以降に打ち上げ予定の実証・回収衛星「あおば」、そして2030年代の有人宇宙機実現へ。東北から世界に挑む小林氏が描く、宇宙産業の未来とは。

藤井創(以下、藤井):ispaceさんとの月面輸送のように、資源を持って帰るということも考えていらっしゃるのでしょうか。

小林稜平氏(以下、小林):そうですね、はい。そこも当然1つの領域になってくると思っています。

「はやぶさ」とかはそうなんですけど、小型のカプセルで高精度に地球に戻す技術っていうのは、日本がこれはもう世界一と言ってもいいような技術領域です。アメリカとかロシアとか中国というのは、やはり人が乗るような大型のものをずっと開発してきたんですが、日本は予算規模もそんなに大きくなかったところもあって、有人というよりかは小型のところでずっと積み上げてきていました。

今はビジネスとして求められているのは、小型で高頻度に宇宙に行って戻ってくるっていう、こういう輸送インフラですので、まさにたまたま日本が積み上げてきた世界一の技術領域のところが事業化できるような環境に今います。

我々はJAXAさんとも、J-SPARCという枠組みで共創活動をさせていただいて、国として培ってきた技術を民間としてしっかりと実用化していく。そういう座組でやれているっていうのは大きな点でもありますし、そういう技術の応用の幅としては、資源を持ち返ってくるところも含めてですね、幅広くは展開していきたいなとは思っていますね。

藤井:ispaceさんとの月面のプロジェクトについて、もう少し詳しく教えていただけますか。

小林:はい。ispaceさんに月まで運んでいただいて、試料をispaceさんのほうで採取して、それを我々の再突入カプセルに載せます。月面から離陸する時もispaceさんのほうで離陸いただいて、月の軌道から地球の軌道に戻るところに乗せていただいた上で、我々のカプセルを切り離して、我々のカプセルが狙った場所に戻していくっていう、そういう流れですね。

藤井:再突入のところは御社の技術になるということですね。ispaceさんの前回の挑戦はうまくいきませんでしたが、その点について心配などはないですか?

小林:そうですね。でもやはり月面開発とか宇宙開発は非常に難しい領域ですし、むしろ1回とかで成功することのほうが少ない領域です。特にロケットなんかは3、4回くらい失敗するのが当たり前っていうふうに言われているような世界ですので、月面着陸もそこと同じかなと。3回目のところも応援したいなと、私的には思っています。

さらに言えば、ここで培った技術っていうのは、当然ispaceだけとの協業だけではなくて、他にもいろんな応用ができますので、そういう意味でも非常に重要なプロジェクトなのかなと思いますね。

藤井:そして、2026年後半以降には実証・回収衛星「あおば」を打ち上げられるとのことですが、これは御社が全面的に開発されているのでしょうか。

小林:そうですね。この「あおば」という衛星に関しては、我々のほうで、戻ってくるためのエンジンから、衛星のバスシステムと呼ばれる制御のシステムとかソフトウェアも含めて、あと再突入カプセルも自分たちで作っています。

さらに衛星全体を自分たちで開発している。これもですね、かなり特徴的でして。我々の特徴は大きく2つあると思っていまして、1つは日本が培ってきた世界一の小型カプセルで高精度に戻す技術という部分と、もう1つは、主要な技術を内製しているという点です。

例えば我々は、後ろにありますけど、エンジンとかも自分たちで開発していまして、戻ってくるための高推力なエンジンですとか、あと耐熱材料。これに関しては最初の衛星は他社さんとの協業なんですけれども、それ以降のものは自分たちで開発したものを使っていくっていう試作レベルのものを今、福島の工場で行っています。

こういうところを含めて、衛星全体を自分たちで作っているっていうのが特徴でして、エンジンを載せている宇宙機ってたいていはエンジンは外から買ってくることが多いんですね。

一方で我々、交通網っていう輸送サービスを掲げている観点で、エンジンってやはり一丁目一番地、非常に重要なものだと思っていますので。もちろん燃え尽きずに狙った場所に戻す技術自体もそうなんですけれども、エンジンなども含めて内製していって、非常に高いクオリティと、低いコスト、そして高い自由度を持ってこの事業を展開していきたいというのが、主に我々が思っているところですね。

藤井:仙台や福島など、東北で事業を展開されているのには何か理由があるのですか?

小林:はい。やはり私自身、ずっと東北で生まれ育ったっていうところもありますし、技術のオリジンが東北大学からまず創業してっていうところでもあるので、そこは大切にしていきたいなというのは1つあります。

特に個人的な思いで言うと、生まれ育った東北に貢献したいなという部分もありまして、地方経済っていうのは今すごく衰退していっている中で、それを変えるのってその地域に大きな、新たな産業を作るっていうことしかないと思っていまして。それで言うと宇宙ってそれができるほぼ唯一くらいの産業だと思っているんですよね。

例えば中部地域にトヨタさんとか自動車メーカーがいて、だからこそあそこの周りに製造業のサプライチェーンができているような、同じようなことが宇宙産業でもこれから起こると思っていまして。その中心を、僕自身はせっかく育ってきたっていうところもあるので、技術のオリジンもあるので、やはり東北に置きたいなと思っています。

東北からそういう日本を代表するような企業を作っていく。そういう挑戦が自分自身はしていきたいなと。それがミッションにもある、「誰もが宇宙で生活できる世界を創り、人の未来を豊かにする」って言っていますけど、この「人の未来を豊かにする」って、宇宙産業としてっていうのもあれば、この挑戦を通していろんな人、一人ひとりに夢や希望を持ってもらうと。

こういう効果もあると思っていますので、その点でもこの地域からの挑戦っていうのは、私自身もしっかりやっていきたいなと思っていますね。

そういう思いを持っている中で、南相馬市さんと我々は連携協定を結んで工場を持っています。非常に広大な実証フィールドがあって、ロボットテストフィールドとかを含めて試験環境も整っている。

特に震災があったので、新たな産業作りとか、何か新たにやらなきゃいけないという、地元の方々の思いもすごくあって、宇宙っていうのは大きな可能性として南相馬市さんも力を入れてやっているというところで、南相馬市さんと我々は連携協定を結びました。

仙台のほうで設計とかモジュールレベルの開発とかを行いつつも、最終的な衛星の組み立てっていうのは今、福島の工場で行って、開発での連携をして、東北地方でものづくりをやっていっているというところです。

藤井:「あおば」の開発の進捗状況はいかがですか。

小林:はい、今は非常に順調に進んでいまして、地上試験用のモデルはもうすでに完成しています。「あおば」という衛星はですね、宇宙開発においては、だいたい地上試験用のモデルを1個作ります。

ほぼ打ち上げられるものと同じようなモデルなんですけど、それを作って、宇宙環境を模した地上での試験を通して設計の検証を行って、それが問題なければ、今度はフライトモデル、実際に打ち上げられるモデルの製造・組み立てに移っていくっていうステップなんです。

この地上試験モデルのところはすでに完成して、地上試験もすでにクリアしていますので、今フライトモデルに移りつつあるような、そういったフェーズになっています。非常にマイルストーンに関しては順調に達成して進んでいっていると思います。

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