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「リーダー任せのチーム」から脱却するマネジメント術(全3記事)

すぐ「どうしたらいいですか?」と聞いてくる部下の対処法 頭の良い上司が絶対にしないこと

【3行要約】
・「どうしたらいいですか?」という質問にすぐ答えを教えてしまう上司は、知らず知らずのうちに部下の成長を阻害しています。
・白潟敏朗氏は、紙に書いて考えさせる手法や緊急時の1分間ミニミーティングなど、実践的な育成術を紹介。
・上司は「自分を失業させる」ことを目指し、組織全体に「答えを教えない文化」を浸透させることで、3〜5年で自律型組織への変革が可能だと提言します。

前回の記事はこちら

部下が答えに詰まったら「席に戻って考えて」

——前回は会議の場面でお話しいただきましたが、ふだんの業務で部下に「どうしたらいいですか」と答えを求められたら、どう対応すればよいのでしょうか。

白潟敏朗氏(以下、白潟):ふだんの業務でも同じです。部下から「マネージャー、ここがわからないのですが」と聞かれたら、「○○さんどう思う?」あるいは「○○さんはどうしたい?」と問いかけ、まずは答えを待ちます。

この時、上司が「どう思う?」と聞くと、部下から返ってくる最も多い回答は「わかりません」です。これが最大の落とし穴です。「わかりません」と言われたら、上司はどうすると思いますか。

——つい答えを教えてしまいますよね。

白潟:そうです。「わかりません」と言われると必ず答えを教えてしまう。そう言われても条件反射で教えず、「そうか。では、紙に書いて考えてきて」と伝えるんです。付箋でも白紙でもかまいませんから、紙を渡し、「席に戻って考えてきて」と促します。これは上司にとってもプラスで、部下が考えている間、自分の仕事を進められます。

さらに、部下は紙に答えを書いて持ってくるので、上司は赤ペンで指摘を入れるだけで済みます。「ここをもう少し考えて」「ここの切り口を変えてみて」「ここがおかしい」と指摘するだけで、もう一度考えさせることができます。その赤ペンがヒントになるんですね。

パソコンのメモではなく「紙に書き出す」効果

——忙しいとつい、部下に考えさせる前に答えを教えてしまう方も多いと思いますが、このやり方なら部下が考えている間に仕事ができて、上司も助かりますね。

白潟:そうですね。そもそも、「紙に書く」ことは「考える」こととほぼ同義です。論理的思考力が不足している人は、幼少期から紙に書いて考える習慣がないんです。特にZ世代のようなデジタルネイティブは、常にスマホが手元にあり、答えはすぐに検索できます。そのため、自分で紙に書いて考える機会が少ないのです。

——パソコンのメモなどに書き出すのではなく、「紙」に書くことが重要なのでしょうか。
例えば、チャットで自分の考えを送って、上司に添削してもらうのでは意味がないのでしょうか。

白潟:そうですね。もちろん簡単な連絡は別ですが、お客様へのクレーム報告など、重要な内容については、紙に書いて考えたほうが脳は活発に働きます。脳科学の世界では、キーボードで打つのと手で書くのでは、脳への刺激が増えると言われています。ですから、紙に書いて考える癖をつけることが極めて重要なのです。

「わからない」と書き出すと糸口が見えてくる

——なるほど。一方で、「答えを書き出して考えて」と一度席に戻したものの、一向に回答が出てこないという状況もあるのではないでしょうか。

白潟:それこそが、考える力が育つ環境です。例えば、「なぜ私は個人目標を達成できないのでしょうか」と質問に来た部下に、「○○さんどう思う?」と聞き、「わかりません」と返されたら、「では紙に書いて考えてみて」と促します。

「私は個人目標を達成できていない。なぜならば……」ここまでは書けますよね。しかし、考えることに慣れていない人は、その理由が書けないことがあります。その場合は、矢印を描いて○を書き○の中に「原因がわからない」と書けばいいんです。

そしてその○から、また矢印を引っ張って○を書き、もう一度原因を考える。それでもわからなければ、「やっぱりわからない」とまた書く。これを繰り返すのです。すると不思議なことに、5~6回繰り返した頃には、少しだけ答えの糸口が見えてくるのです。

——頭の中だけで考えず、一度「わからない」と正直に書き出すことがポイントなんですね。

白潟:そうです。「わからない」と紙に書くことに、多くの日本人は抵抗を感じます。テストの解答欄に「わからない」と書いたら怒られますよね。

でもロジックツリーのように矢印と○を描き続けると、リズミカルな作業が脳を刺激し、頭が働き始めるんです。私もこの事象を何度も見てきましたが、だいたい5~6回目で変化が起きます。

もちろん、6個目に出る答えが正解とは限りませんが、「もしかしたら○○かもしれない」という仮説は出てきます。さらに考え続けると、10個目あたりで、より適切な原因が見えてくるのです。

緊急時は「1分」でできるミニミーティングを

白潟:あとは、緊急のケースについてもお話しします。例えば、お客様からクレームの電話があり、「マネージャー、クレームです。どうしましょうか」と相談されたとします。この場合は時間がないので、つい答えを教えてしまいがちです。

しかし、それでも答えを教えてはいけません。1分あれば対応できます。まず、「お客様に『申し訳ありません、1分だけお待ちいただけますか』と伝えて」と指示し、電話を保留にさせます。そして、「今から私が対応案を言うので、○か×で判断して」と、再び○×プレートを使います。

1分しかないので、上司は最初の選択肢として、わざと間違った対応案を提示します。部下は焦って○を挙げるかもしれませんが、「今の対応でいいのか?これは×だ。次!」というように進めます。そして、3~4問目あたりで正しい対応案(○)を提示します。部下が○を挙げたら、「では、まずその対応をしてきて」と指示します。

そして重要なのは、電話対応が終わった後に、必ず振り返りのミーティングを行うことです。

「最初の案は、なぜ×だったと思う?」と聞くと、部下はすでにお客さんに正しい対応をしているので、理由を理解できています。「確かにあの対応をしていたら、炎上していました」といった答えが返ってくるはずです。

このように、1分しかない場合は○×プレート、3分あるなら紙に3択を書いて選ばせる、というように、状況に応じてミニミーティングを行うんです。これを実践すれば、時間がない時でも答えを教えずに済みます。そうでなければ、その部下は一生クレーム対応ができないままですからね。

——クレーム対応となると上司も焦って教えてしまいがちですが、そこをぐっとこらえる必要があるんですね。

キャパオーバーになっている管理職へ

——ここまでお話しいただいたような「教えない」コーチングを実践すると、部下が育成され、上司の負担も減っていくように感じました。

昨今、プレイングマネージャーが業務過多でキャパオーバーになっている状況が問題視されていますが、そうした状況の打ち手について教えていただけますでしょうか。

白潟:マネージャーは定期的に仕事の棚卸しを行い、どの仕事をやめるか、どれを部下に任せるかを決める習慣をつけるといいと思います。しかし、日々の業務に追われていると、まとまった時間を作れないのが実情です。

ただ理想は週に1回、1時間でもじっくり考える時間を設けることです。カフェなどに行って環境を変えて、「これはやめるべきではないか」「これはそろそろ部下に任せよう」と判断する習慣をつけることが大切です。

——自分の仕事を一度俯瞰して見直すということですね。白潟さんご自身も、マネージャー業務でキャパオーバーになった経験はありますか。

白潟:もちろんあります。その時は週に1回は必ず振り返る時間を確保していましたし、3日に1回、1日に1回と、振り返る頻度を増やして、仕事の整理を行っていました。年に1回は1泊2日の個人合宿もしていましたね。

「一番優秀な上司」の特徴

——仕事の整理において、どの業務を手放して部下に任せるか、その切り分けのコツはありますか。

白潟:コツというより、理想の上司像を目指すことが重要です。理想の上司とは、自分自身を○○させることができる上司です。○○は漢字2文字です。何が入ると思いますか?

——自分を……成長させる、とかでしょうか。

白潟:ブー!残念ながら違いますね。

——なんでしょう……ヒントはありますか?

白潟:漢字2文字です。優秀な経営者や幹部のほとんどは、この考え方で動いていると思います。ちなみに、マネジャー直下のチームメンバーは何人いますか。

——メンバーは5人くらいですかね。

白潟:では、その5人がマネジャー並みの実力をつけるためには、何をすればいいと思いますか。

——マネージャーが今やっている仕事を、メンバーもできるようになることでしょうか。

白潟:すばらしい、大正解です!マネージャーの仕事を部下が担えるようになれば、部下は一番成長しますよね。そうなると、マネージャー自身はどうなりますか?

——マネージャーは……不要になります。

白潟:そうです。それを漢字2文字で言うと……そう、「失業」です。

自分を失業させることができる上司が、一番優秀なのです。結果として、あなたや他の誰かが次のマネージャーになります。会社が成長していれば、その元マネージャーは部長や役員へと昇進していく。そうして組織全体が成長・拡大していくのが理想です。

理想的な組織は3年〜5年で実現できる

白潟:部長は役員へ、役員は取締役へ、というように昇進していけば、最後は社長が不要になります。私が前職のトーマツイノベーション(現ALL DIFFERENT株式会社)で社長をしていた時、50歳で退任したのですが、それはまさしく、私がいなくても会社が回るようになったからです。

私が幹部に答えを教えず、幹部が事業部長に、事業部長がマネージャーに、マネージャーがリーダーに、リーダーが先輩に、先輩が後輩に、後輩が新入社員に、そして新入社員が内定者に「答えを教えない」。この文化を8階層にわたって徹底しました。

最終的には、内定者からの質問に新入社員が「○○さんどう思う?」と返す。150人規模の組織で、そこまで徹底できたのです。そのおかげで会社は成長し、結果として私が要らなくなった。組織としての究極の理想はそこにあるのです。

——この「上司が答えを教えない」というアプローチが、組織全体の活性化につながるのですね。

白潟:そうです。実際、自分がマネージャーに質問して「どう思う?」と返されたら、どうですか。その上司の口癖が移り、後輩にも同じように問いかけるようになるでしょう。この文化は伝播していくんです。そうすると、社内では「私はこう思いますが、どうでしょうか?」という、自分の意見を持った上での相談しか行われなくなります。

これは理想的な組織の姿ではないでしょうか。しかも、3年から5年で実現可能です。そのためには、社長から幹部へ、幹部からマネージャーへ、そしてマネージャーから部下へと、トップダウンで「答えを教えない」文化を浸透させることが重要です。

——社長、管理職と、組織の上層部から意識を変えることが大事ですね。白潟さん、ありがとうございました。

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