【3行要約】・従来の会議では上司が答えを教えすぎるため、部下が自分で考える機会を奪っています。
・白潟敏朗氏は、部下から意見が出ない時のための「○×プレート会議術」を提唱します。
・ファシリテーターは意見を否定せず、「そのこころは?」と問いかけることで、部下の思考力を育み、会議を活性化させることができます。
前回の記事はこちら ゲーム感覚で思考力を鍛える「○×プレート」会議術
——メンバーが発言しない会議で、全員から意見を引き出す方法はありますか。
白潟敏朗氏(以下、白潟):本(
『頭のいい上司は死んでも答えを教えない。』)でも3つ紹介していますが、一番簡単にできるのは「○×プレート」を使う方法です。通販サイトで安価に購入できるので、会社で用意して各自に配ります。そして会議で「今日は○○の企画について意見交換しよう。意見はあるか?」と問いかけます。
意見が出なければ、「では私がたたき台の意見を言うので、みんな考えてほしい」と言い、マネージャーが「こういう企画はどうだろうか」と投げかけます。その際、同調を防ぐために「この○×プレートで反応を教えてください。私のアイデアがいいと思ったら○、違和感があったら×を挙げてください」と伝えます。

「違うと思ったら×を挙げて」と言うと誰も×を挙げないので、「違和感があったら」という表現がポイントです。
そして30秒から1分ほど全員に考えてもらい、一斉にプレートを挙げてもらいます。この30秒は、参加者にとって非常に緊張する時間になります。
——それぞれが自分で考えなければいけないですよね。
白潟:そう、周りに同調できませんからね。そしてプレートを挙げたら、必ず「そのこころは」と理由を聞きます。そうすれば、なぜ○や×にしたのかを答えなければなりません。
しかもこの時上司は、一番考える力がないと思われる人から指名していくとよいでしょう。例えば「△△さんは、どうして○にしたの?」というように聞きます。
——考える力がない人から指名するのは、同調を防ぐためですか?
白潟:はい。これは上司が「今まで部下に答えを教えすぎてダメにしてしまった」と自覚し、部下の思考力を育成したいと考えている場合に有効な方法です。
一般的な進め方としては、○と×を挙げてもらった後、少数意見の人からプレゼンしてもらい、質疑応答を行います。次に多数意見の人にプレゼンしてもらい、同様に質疑応答をします。これで全員の意見が出揃います。
2回目の投票のポイント
白潟:そして「ここまでの意見を踏まえて、もう一度プレートを挙げよう」と、2回目の投票を行います。一斉に挙げてもらい、今度は×が○に、あるいは○が×に変わった人の意見だけを聞き、再度質疑応答と意見交換をします。
——そこで意見が変わった人だけに絞って聞くのはなぜでしょうか。
白潟:なぜだと思います?
——(笑)。議論を踏まえてどう考えが変わったかを聞くことで、会議が効率的に進むからでしょうか。
白潟:そうですね。仮にマネージャーの意見(○)が正しければ、○を挙げる人が増えることで、意見が浸透したと判断できます。
逆に、○が多数派だったのに×に変わった人が増えた場合は、なんらかのデメリットやリスクが指摘されたということです。その意見を聞くことで、マネージャー自身も「確かにこれは危険かもしれない。やめておこう」と意思決定できます。
どちらに転んでもマネージャーにとっては有益な意見しか出てきません。2回目は意見が変わった人だけから話を聞き、最後にマネージャーが意思決定をするのが最も効率的な流れです。
これを会議のたびに繰り返すと、今まで考えてこなかった部下は、最初はミーティングに出るのが怖くなるかもしれませんね。しかし、回数を重ねるうちに、テレビ番組のようなゲーム感覚で楽しめるようになってきます。そうして「考えることは楽しい」と思わせることができれば、しめたものです。
——おもしろい方法ですね。
3ヶ月〜半年で部下が急成長する
白潟:この方法に慣れてきたら、次は紙を使います。上司がA案、B案、C案と3つの案を紙に書いて配り、どれが一番良いと思うか印をつけてもらいます。そして、一斉にその紙を掲げてもらうのです。
そして、また同じように意見交換をします。これを繰り返すことで、選択肢の中から最善のものを選ぶ力がつきます。さらにレベルが上がったら、「私の意見は○○です。なぜなら××だからです」というように、理由まで書かせるシートを用意します。これを一斉に提出させれば、論理的思考力が鍛えられます。
——最初は○×の2択、次に3択以上の選択式、最終的には自分の意見を記述させる、というように段階的に進めるのですね。
白潟:そうです。このように進めていくと、3ヶ月から半年ほどでミーティングは非常に活性化し、部下は大きく成長していくでしょう。
——楽しみながら実践できるのが良い点ですね。
ファシリテーターが「やってはいけない」3つのこと
——ファシリテーターである上司側は、具体的にどのような点に気をつければよいでしょうか。
白潟:良い質問ですね。基本は、「違う」という言葉を絶対に言わないことです。例えば、部下が「私の意見は□□です。なぜなら……」とプレゼンした直後に、「それは違うだろう! 何を考えているんだ!」と言われたら、どう思いますか?
——次から発言できなくなってしまいます。
白潟:そのとおりです。ですから、発言を頭ごなしに否定することは絶対にやめるべきです。
——では、代わりにどのように伝えればよいのでしょうか。
白潟:意見が間違っている場合、その意見と理由の間に論理的なずれがあることが多いです。ですから、「そのこころは?」と聞いてあげる。すると、「意見と理由が少しずれているように感じるけど……」と再度問いかけてあげる。すると「確かにずれていますね。もう一度考えます」となります。
また、○×プレートで自分以外の全員が○を挙げ、1人だけが×だった時に、「どうして×なんだ? おかしいだろう」といった発言は慎まなければなりません。少数意見の人から理由を聞けば、上司も冷静になれます。

理由を聞けば、「視点がずれているな」とか「視野が狭いな」、あるいは「そういう切り口で考えたのか」といったことがわかり、落ち着いて対応できます。そして、「こういう切り口で考えたらどうなる?」といったアドバイスがしやすくなります。
「なんで?」ではなく「そのこころは」と聞く
——本人がどういう意図でその結論に至ったのかを、まず聞くことが大事なのですね。先ほど、意見に対して「そのこころは」と問いかけるとのことでしたが、このフレーズはなぜ有効なのでしょうか。
白潟:理由が述べられていない場合は、その背景を聞いてあげるべきですよね。「どうしてそう思ったの?」と聞いてもいいのですが、少し長いです。「そのこころは」は6文字で、意図が伝わりやすいのです。
「そのこころは」と聞かれて意味がわからない日本人はいないでしょう。質問は短いほうが伝わりやすいので。
——確かに、「なんで?」と聞かれると、責められているように感じてしまいます。
白潟:「なんで?」は史上最悪の聞き方ですね。責められている、怒られていると感じさせ、相手を防御的にさせます。せめて「どうして?」にすべきです。しかし、「そのこころは」のほうがより柔らかく、相手を尊重している印象を与えます。
——他に、言ってはいけないフレーズはありますか。
白潟:頭ごなしの否定に加えて、話を途中で遮るのも最悪です。「私の意見は○○です」と言った部下に対し、理由を語る前に「それは違うだろう」「ぜんぜん考えていないな」などと途中で口を挟むと、相手は否定される以上に落ち込みます。
ですから、①話を遮らずに最後まで聞く、②聞いた直後に否定しない、③聞いた直後に自分の考えを押しつけない。この3点が、アクティブリスニングのプロとして重要なスキルです。
——部下の理由を聞いて「間違っている」と感じても、答えは教えないのですね。
白潟:教えません。「そのこころは」と聞いて、視点がずれていると感じたら「こういう視点でもう一度考えてみて」と促します。それを繰り返すことで、部下は自ら正解にたどり着きます。時間をかけてコーチングしてあげることが大切です。
部下が間違っている時の伝え方
——答えを教えずにヒントを出すのは難しそうですが、何かポイントはありますか。
白潟:答えが間違っている時、部下の視点はほぼ確実にずれています。例えば、お客様のことを考えず、社内事情だけで「こう思います」と意見を言う部下には、「社内的には良い意見だが、お客様から見たらどうだろう?」と問いかけます。そうすれば、「確かにお客様視点ではマイナスかもしれません。もう一度考えます」となるはずです。
他にも「部下から見たら良いかもしれないが、もし君が私(上司)の立場だったらどうする?」と視点を切り替えさせたり、「我々の部門では良くても、他の部門ではうまくいくかな?」と問いかけたりします。
「社長の立場で見たらどうなる?」という問いかけも有効です。このように視点を切り替える問いかけをいくつか用意しておけば、ある程度は対応できるでしょう。
それでもうまくいかない場合は、「穴埋めクイズ」を使います。例えば、「仕事の生産性が高いハイパフォーマーは毎日仕事を○○○○」のように、重要な部分を伏せ字にします(正解は「振り返る」)。
紙に書いて「○は文字数だ。考えてごらん」と渡します。これは半分ヒントを出しているのと同じです。
それでも答えが出なければ、「1文字目は漢字だよ」「2文字目は『り』だよ」というように、少しずつヒントを出していけば、最後は自分で答えにたどり着けます。この穴埋めクイズを使えば、答えを教えずに導くことができるでしょう。
——答えを直接教えるのではなく、視点を切り替えさせたり、さまざまな切り口で伝えたりすることがポイントですね。
白潟:はい。視点を変える問いかけと穴埋めクイズを覚えておけば、基本的なコーチングはできるようになると思います。
——会議が活性化しないと悩んでいる管理職は多いと思いますが、リーダーがファシリテーションのスキルを磨くことも重要ですね。
白潟:そうですね。会議を活性化できていない上司は、その原因が自分にあると気づいていないことが本質的な問題です。
自分が日頃から答えを教え続けているので、部下が今さら自分で考えられるはずがありません。それを棚に上げて「うちのメンバーは頭が悪い」「アイデアが出ない」「適当に仕事をしている」と人のせいにしていますが、本質的には管理職自身の育成力がないことが問題なのです。