【3行要約】
・「自分で考えられない部下」の増加が組織の課題となっていますが、実は上司の「親切心」が原因となっているケースが多いです。
・白潟敏朗氏は、質問に即答する上司の行動が、部下を思考停止状態に陥らせると指摘します。
・会議で誰も発言しない組織は危険信号であり、上司は部下の思考力を育てるため「答えを教えない」姿勢を貫く必要があります。
「自分で考えられない部下」が生まれる原因
――白潟さんは、これまでいろいろな中小企業やコンサルの現場を見てこられたと思いますが、
『頭のいい上司は死んでも答えを教えない。』を書かれた背景として、どんな課題感があったのでしょうか。
白潟敏朗氏(以下、白潟):私が35年間コンサルタントとして、1万2,700社ほどの会社とご縁を持つ中で、ものすごく感じることがあります。それは、若手リーダーから社長まで、部下からの質問に答えてしまうということです。思考停止病患者をどんどん増殖させている状態ですね。
――部下が自分で考えられなくなってしまうということですね。
白潟:そうです。常に聞いて答えを教えてもらって動くので、完璧に指示待ちにもなります。これを半年続けると本当に深刻な状況になります。
さらに、時代背景としてAIが登場し、今やAIも答えを教えてくれます。AIと上司の両方が答えを教えてしまうと、部下は思考停止に陥ってしまうでしょう。上司がその状況を理解し、部下に考えさせる環境を作らない限り、日本の中小ベンチャー企業は衰退していくでしょうね。
ーー上司が答えを教えると、具体的にどんな危険性がありますか。
白潟:例えば、個人目標を達成できない状況で、本来なら「どうすれば目標達成できるか」を原因から分析し、解決策を考えてPDCAを回すのが、優秀なビジネスパーソンです。ところが、実際には「マネージャー、個人目標を達成できないのですが、どうすればいいですか」「こうしなさい」「わかりました」という会話で終わってしまいます。
それでやってみて、また「うまくいかないのですが、どうしましょうか」「では、こうしなさい」「わかりました」といったやり取りが繰り返されるのです。
クライアントワークであれば、「お客様からこういう相談が来たのですが、どう答えたらいいですか」「こう答えたらどう?」という具合です。これでは完全に伝書鳩です。このような状態が続くと、自分で考えることをやめてしまい、思考力が著しく低下してしまうでしょう。
ーー個人のキャリアにおいても成長ができないですよね。
白潟:成長できないどころか、考えないロボット同然になってしまいます。実際、いろいろな会社を見てきましたが、そういう方がほとんどです。それは上司が悪いのです。だから、伸びる会社が少ないのではないでしょうか。
ーー個人が考えなくなると、組織にはどのような打撃があるのでしょうか。
白潟:課題の原因を考えなければ課題解決されず成果は出ませんから、チームとしても会社としても成果が上がらなくなります。結果、社長が立てた目標は半永久的に達成できないでしょう。AIがさらに進歩すれば、彼らは居場所がなくなってしまうでしょう。
上司が「良かれと思って」している勘違い行動
ーー部下にすぐに答えを教えてしまうのは、何が原因なのでしょうか。
白潟:上司側の理屈としては、まず「質問に答えるのは上司の務めだ」という考えがあるでしょう。次に、部下に考えさせるのは面倒だからです。どうせ正解は出てこないと高をくくり、自分で教えたほうが楽だと考えてしまうのです。
ーー上司自身が、手間をかけるくらいなら自分でやったほうが早いと思ってしまうのですね。
白潟:そうです。あとは「冷たい上司」だと思われたくない。「親切だ」と見られたいという気持ちもあります。このあたりが主な理由でしょう。
ーー部下からどう見られるかを気にしてしまうという面もあるんですね。全部自分で決めてやり方まで細かく指示する上司も多いかと思いますが、そういったマネジメントの仕方は、どのような悪影響をもたらすのでしょうか。
白潟:「答えを教える」ことと「仕事の指示をきめ細かくする」ことは、非常によく似ています。結果として、きめ細かく指示をすれば、部下はまたロボットになってしまう。もたらす影響は同じです。
ーーいわゆるマイクロマネジメントですね。
白潟:そうです。ただ、「答えを教えない」ことと「細かく仕事を指示する」ことの違いは、後者の場合、仕事ができる人からするとモチベーションが下がるという点です。いちいち細かく言われると嫌になりますよね。
誰でも、やり方は自分のやり方で進めたいものです。ところが「このやり方でやれ」と指示されたら、少し嫌じゃないですか?
ーーはい、あまり細かく言われるとやる気がなくなってしまいます。
白潟:そうですよね。ですから、やる気がなくなる、モチベーションが下がるというデメリットが加わるのが、仕事を細かく指示するケースです。答えを教えるだけの場合は、部下のモチベーションが下がることはありません。
ーーなるほど。マイクロマネジメントは上司自身も「いけないことだ」と気づきやすいですが、「答えを教える」のは良かれと思ってやっているため、問題に気づきにくいわけですね。
白潟:おっしゃるとおりです。
会議で意見が出ないのは、リーダーが「教えすぎている」サイン
ーーありがとうございます。これまでさまざまな組織を見る中で、「この組織は危ないな」あるいは「リーダーが教えすぎているな」とわかるサインはありましたか。
白潟:そうですね、会議の様子を見れば一番簡単にわかります。例えば上司が「よし、今回はこの企画をみんなで考えよう。何か意見はあるか?」と問いかけても、誰も発言しない。
しびれを切らした上司が「意見はないのか。じゃあ私はこう思うが、どうだろう?」と提案すると、「マネージャー、最高ですね!」と賛同の声が上がる。「じゃあ、これで行こう」と。こうなってしまうと、部下が自発的に意見を述べることは、ほぼなくなるでしょう。
ーー意見を求められても誰も発言せず、最終的に上司が決めるのを待つような空気になるわけですね。意見を求められても「わかりません」「意見はありません」と自分の考えを言わなくなってしまうのでしょうか。
白潟:そうですね。ただ、そこまで正直に言うと上司からの評価が下がるので、あまり口には出さないかもしれません。
正直な人以外は、ひたすら黙っているでしょう。あるいは、優秀な部下が数人いる場合は、その人の意見に同調するだけになります。「Aさんの意見、すごくいいですね。私も賛成です」とか「それ、私も言おうと思っていました」というように。こうしたケースが一番多いのではないでしょうか。
ーー一部の優秀な社員だけが発言し、上司とだけ会話しているような会議はよくありそうです。
白潟:そうですね。結局、発言するのはマネージャーと1~3人程度の優秀な部下だけ、ということになるでしょう。