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【連載】指示待ち部下の指導法(全4記事)

最低限の「目の前の仕事」しかしない部下への伝え方 「自分で考えられない」メンバーを育てるマネジメント術

【3行要約】
・「最近の若手は指示待ち」という声がありますが、実は若手のモチベーションの低さはどの時代にも共通する課題であることが明らかになっています。
・池田めぐみ氏は部下を「消極的」「順応的」「孤立的」「模範的」の4タイプに分類し、各タイプに合わせた育成法が重要だと説明しています。
・抽象度の高い役割期待を伝える、意見を求める文化をつくる、信頼関係を再構築するなど、タイプ別の適切なアプローチで主体性を引き出せます。

いつの時代も、若手は中堅層より「モチベーション」が低い

ーー最近、「指示待ちの若手が増えている」と悩むマネージャーの声をよく耳にします。こうした状況の背景には、どんな要因があるとお考えですか? 実際、最近は指示待ちの部下が増えているのでしょうか?

池田めぐみ氏(以下、池田):「今時の若いものは..」「○○世代は、やる気がなくて困る」みたいな声も聞きますが、(※1)ある研究では、Z世代のような今の若者だけが特別に意欲が低いわけではなく、どの時代でも若手は中堅層と比べてモチベーションが低い傾向にあることが示されています。

中堅になると、できる仕事が増え、自分が組織にどのように貢献できているのかも見えやすいため、主体的に動きやすくなります。一方、若手は議事録などの見習い業務が中心で、自分の仕事の意義を感じにくい。また「自分はまだ下っ端だから」と遠慮してしまい、主体的な行動を取りにくいんですね。

つまり、“若者が指示待ちになった”のではなく、いつの時代も若手はそう見えやすい。結果として、上司は常に同じ悩みを抱えてきたのかもしれません。

部下の4つのタイプ

ーーいつの時代も若手が主体的に動きづらい背景がある一方で、実際の職場にはさまざまな部下がいますよね。どんな部下のタイプが存在していて、その中で「指示待ち」と見なされやすい人にはどんな特徴があるのでしょうか?

池田:部下のタイプの分類には、フォロワーシップ研究が参考になります。(※2)Kelleyらは、部下つまりフォロワーを「批判的思考の高さ」と「関与の積極性(働きぶり)」の2軸で5つに分類しています。

まず、建設的に物事を批判しつつ、一生懸命働く人は模範的フォロワーと呼ばれ、最も理想的なタイプです。一方で、働きぶりは熱心だけれど批判的に考えないタイプは順応的フォロワーと呼ばれます。この人たちは、上司の指示には従うものの、自分から改善案を出すことはあまりありません。

その左側にいるのが、いわゆる「指示待ち」に最も近い消極的フォロワーです。物事を批判的に捉えて業務改善することも、与えられた範囲を超えて仕事をすることもあまりないタイプ。新人層は、経験が少なく何をすべきか見えにくいため、ここに分類されやすいです。

また、組織の問題点には気づくのに動かない孤立的フォロワー、その中間にあたる現実主義的フォロワーといったタイプもいます。

最低限のことしかやらない、自分で考えられないタイプ

ーーフォロワーにはいくつかのタイプがあるのですね。上司の側から見ると、いわゆる「指示待ち」に見えるのは、消極的フォロワーだけでなく、順応的フォロワーや孤立的フォロワーも含まれるケースがありそうです。こうしたタイプごとに、上司はどのように関わると良いのでしょうか?それぞれの対策を教えてください。

池田:まず、消極的フォロワー──必要最低限のことしかしなかったり、改善策を自ら考えるのが苦手なタイプ──に対しては、タスクだけでなく“抽象度の高い役割期待”を伝えることがとても重要です。

このタイプが主体的に動けない背景には、「仕事=目の前のタスク」と捉えてしまい、主体的に提案したり全体を見て動くというスタイルを経験していないことがあります。ふだんから「これをやっておいて」とタスク単位で仕事を渡されていると、自分から一歩踏み出すイメージが持ちにくいんですね。

たとえば編集者の例で言えば、原稿チェックのタスクだけを渡すのではなく、「あなたの役割は、書籍の部数を伸ばすこと」「読者に新しい気づきを与える本をつくること」といった、“より高いレベルの役割”を共有する。

そうすることで、部下は「自分は何のために動くのか」を理解しやすくなり、主体性を発揮するヒントを得られます。

さらに、抽象的な目標を提示された段階では「何から始めればいいの?」と戸惑うこともあるため、最初の一歩につながるヒントを具体例として示すのも効果的です。

そして何より大切なのは、自分から行動した瞬間を逃さず褒めることです。小さな行動でも「今の判断はとても良かったよ」と価値づけることで、“主体的に動くと認められる”という成功体験を作れます。これが、消極的フォロワーが行動スタイルを変えていくきっかけになるのではないでしょうか。

自ら判断して動く「主体性」を持ってもらうには

ーーよく働くけれども批判は苦手な「 順応的フォロワー」を、より主体的な“模範的フォロワー”に育てていくには、どのような関わりが有効なのでしょうか?

池田:順応的フォロワーは、一生懸命働き、与えられた指示にもきちんと従うという点では非常に頼りになる存在です。一方で、批判的思考や建設的な意見発信が弱いため、自ら判断して動く「模範的フォロワー」に成長するには一段階サポートが必要になります。

まず有効なのは、「意見を求める文化」を意図的につくることです。順応的フォロワーは、上司に逆らう、場を乱す、といったことを避けようとしがちで、「意見を言っていいのか」がわからない場合が多い。そのため上司の側から、

「この案について率直な意見を聞かせてくれる?」「改善点があるとしたら、どこだと思う?」と“考える機会”を定期的に与えると、少しずつ批判的思考が育ちます。

意見を言ってくれた時の扱い方も極めて重要です。言った直後に否定したり、「いや、それは違うでしょ」と返してしまうと、順応的フォロワーはすぐに「やっぱり言わないほうがいいんだ」と殻に戻ってしまう。まずは感謝を示し、その意見をどう扱うかを丁寧に説明することで、「発言しても大丈夫」という心理的安全性が形成されていきます。

「がんばっても評価されなかった」経験がやる気を下げる

ーー順応的フォロワーとは異なり、現場には「問題点には気づくけれど、自分から動かない」という“孤立的フォロワー”もいます。こうしたタイプには、どのように関わると効果的なのでしょうか?

池田:孤立的フォロワーについては、実は少し切ない研究知見があります。もともとは模範的フォロワーだった人が、リーダーや組織との関係性に嫌気がさし、孤立的なスタイルに移行してしまうケースがあるんです。

「意見を言っても変わらなかった」「がんばっても評価されず不公平を感じた」「信頼が裏切られた」といった経験が積み重なると、改善点には気づける能力があるにもかかわらず、“もう関わらないほうが傷つかない”と学習してしまう。

だからこそ、孤立的フォロワーには単なる「やる気がない人」として対応するのではなく、過去の挫折や孤立の背景を想像しながら関わることが大切です。

そのうえで効果的なのは、彼らの批判や問題提起を、しっかり拾い、実際の改善につなげる“動き”を見せることです。「あなたの指摘が役に立っている」と伝えることで、徐々に“再び関わってもいいかもしれない”という安心感が芽生えます。

また、孤立的フォロワーは“見えるところでは動かないけれど、気づく力は高い”という強みがあります。その強みを認めるためにも、「その視点は非常に助かる」「あなたの気づきがチームの改善につながった」といったフィードバックを返し、貢献の実感と“居場所”を取り戻してもらうことが重要です。

孤立的フォロワーは、本来チームにとって非常に価値の高い存在。ただ、組織との関係性がこじれているだけで、潜在的には模範的フォロワーに戻る力を持っています。だからこそ、彼らに“戻ってきても大丈夫”という居場所を示し、信頼を再構築するプロセスが何より重要だと思います。

「新人の意見こそ価値がある」と考える

ーー最後に、実際に指示待ちといわれる部下が主体的に動けるようになった組織の事例や、印象的なエピソードがあれば教えてください。

池田:実務家のみなさまのお話をうかがっていると、特に新人や若手の場合、「自分はまだ下っ端だから……」という意識が強く、改善点を言いづらかったり、主体的に動くことを遠慮してしまうケースが非常に多いと感じます。個人の性格というより、構造的に“主体性が発揮されにくい環境”になっていることも少なくありません。

例えば、上司がいつも正解を持っていて、指示を待つのが前提の文化だと、若手は「余計なことは言わない方がいい」「出しゃばると怒られるかも」と学習してしまいます。このような環境では、どれだけ「主体的になれ」と言っても、動くのは難しいでしょう。

一方で、うまく主体性を引き出している企業もあります。そうした企業は、まずこの構造に気づき、「新人(部下)の意見こそ価値がある」という前提に切り替えている点が特徴的です。

ある企業では、「むしろ新入社員こそ、業務改善のヒントを最も持っているはずだ」という考え方を明確に掲げ、新人の意見を積極的に歓迎する文化づくりに取り組んでいました。入社式で社長が全社員に向けてこのメッセージを伝えたり、四半期に一度、新人が業務改善を提案できる機会を設けたりしています。

こうした取り組みによって、新入社員が「意見を言っても良いんだ」「自分でも組織を変えられるかもしれない」と実感できる機会をつくっていくことで、主体的に動く人材を育てられるのかもしれません。

(※1)Schröder, M. Work Motivation Is Not Generational but Depends on Age and Period. J Bus Psychol 39, 897–908 (2024). https://doi.org/10.1007/s10869-023-09921-8

(※2)Kelley, R. (1992). The power of followership. New York: Consultants to Executives and Organizations, Ltd.

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