【3行要約】・なぜか評価される同僚は、実は上司との心理的距離感をうまく縮めています。
・職場の人間関係を「引き算」すると仕事が単なる作業になります。
・効果的なボスマネジメントで上司の後押しを得ながら自分の成果を最大化し、職場の人間関係をつくることで新たな挑戦も可能になります。
前回の記事はこちら “なぜか評価される同僚”の正体
ーーここまで、上司のタイプ別のボスマネジメントの仕方についておうかがいしてきました。実際、これまで中村さんが見てこられた中で、「この人、ボスマネジメントうまいな」と思う人はいますか?
中村英泰氏(以下、中村):いますね。実際にどういう人かと言うと、みんなと同じように働いているように見えるけれど、なんだか良い評価をもらえる同僚とか、同期とか、みなさんの周りにもいませんでしたか? 学生の頃は、ひょっとしたら「意識高い系」とかって揶揄された人かもしれませんね。
ただ、大人になっていくと、意識が低いのは問題です。「あの人はずるい、ゴマすりだからね」なんて揶揄したり、「棚からぼたもち」でちょっとずるいなと思ったとしても、やはりぼたもちが落ちてくる棚ってあるのです。
そこにいかに行っているかということですよね。先ほどのケースからすると、上司が何か進めていきたいと思っているタイミングで、すーっと入っていけるか。
同じ失敗をした時に、上司から適切なサポートを受けられるタイプと、場合によっては、サポートされず悪い評価をされてしまう人との違いって何なのかと言ったら、上司との心理的な距離感だと思うんです。
評価されない人は「職場の人間関係」を引き算しがち
ーーなるほど。先ほど、ボスマネジメントがうまい人は上司との心理的な距離感が近いとうかがいました。逆に、上司との心理的な距離感が遠くなってしまうのには、どういうパターンがあるのでしょうか。
中村:これはアドラーが言っているのですが、人間の悩みの9割は人間関係なんですね。ですから、(この人は)わかってくれないだろう、認めてくれないだろうというのは、すごくストレスなのです。うまくいかない方のパターンとしてはストレスを避けるために、仕事においての関係性を引き算していく方が多いのです。
ーー引き算というのは、具体的にはどういうことですか?
中村:例えば目の前の上司に対してですね。先ほどのパターンで言ったら、上司が営業とか企画系の人で、なんでも声をかけてくるタイプ。メールや社内チャットで済むことでも、「おぅ! ちょっと中村くん、これってさぁ」って声かけてくるタイプの人は、メンバーとコミュニケーションを取りたいのです。
そういう人に対して「めんどくさいな」と思うと、声をかけられてもチャットやメールで返したり、手で持っていけばいいのにあえてメール添付したりして、相手との関係性を自分からマイナスしていってしまうんです。
職場の人間関係を引き算すると、どんな仕事も「作業」になる
ーー上司とのコミュニケーション量を多くしていくことが大事なのでしょうか。
中村:コミュニケーションは確かに少ないよりは多いほうがいいですけれども、必要なのは質です。やはり対話というものは相手がいて私がいるはずなので、そこを重ね合わせなければならない。単にそこを引き算していって、シンプルにしていくと、どんな仕事も作業になってしまうのです。
実は、最も生産性が低いものの1つが作業だったりします。私たちが働く時間の価値を最大化させていこうと思った時に、作業が何かを生み出す機会は少ないんですね。そう思った時に、しっかりコミュニケーションをとっていかなければいけないんです。
ただ、その心理的な距離を近づけるために使ってほしいボスマネジメントってなんなのかと言ったら、決して従属することでも、マウントすることでもなく、お互いに対等な関係であることです。
上司も当然やるべきことがある。一方で、私たちもそこをやりやすくするためにできることがあるんじゃないかと思うんです。そしてそこから生み出された提案は、組織にとっても、当然上司にとっても、そして私たちにとっても良いものになるのではないか。そうした三方良しの発想を持つことが、ボスマネジメントの秘訣だと思います。
上司に「言いにくいこと」を伝える時は
ーー先ほどおっしゃった、「ボスマネジメントは、上司に従属することではない」というのがポイントだと思いました。やはり仕事をしていく上では、上司の言っていることが間違っていると思っていたり、自分のやり方のほうが正しいと思うこともありますよね。
そういった時に、上司に対して反論したり、ちょっと言いにくいことを伝える際のポイントはありますか?
中村:そうですね、アサーティブというコミュニケーションの方法があります。正解か不正解かで考えると、当然ですけどこちらが合っていたら相手は間違っているわけです。そうするとVSになってしまって、1つのアイデアが通ったとしても、間違いなくストレスが生まれます。
ですから、心理的な距離を近づけていき、組織にとっても良い状態であるためにボスマネジメントを使っていくと、最終的には心理的安全性が高い働きやすい職場になります。
そこで大事になってくるのが、伝え方を工夫することですよね。ちょっと技法的なところにはなるのですが、まずはこちらの言い分を通すよりも相手の言い分をしっかり聞いていくのが重要です。
先ほどのタイプが違う上司においても、その上司の様子をよく見ないといけません。それが大切な人であってもそうですね。何かを渡そうと思った時に、相手が本当に何を必要としているんだろうかと考える。物とか空間とか時間ではなく、ちょっとした一言だったりするかもしれません。
上司とのコミュニケーションで使えるフレーム
中村:なので、まず相手を見る。そして上司がやっていることに対して、部下からも承認が必要です。ここでよく使われるのは、「SHO」という上司を承認するフレームです。「(S)すごいですね」「(H)初めて知りました」「(O)教えてください」という、この3文字です。この言葉を覚えておくと、上司とのコミュニケーションもうまくいくんじゃないかなと思います。
上司であっても、どんな上の人であっても「すごいですね」「初めて知りました」「教えてください」って言われると、心を開きやすくなるものです。そこで初めて、「それは1つあると思います。一方で、先ほどおっしゃっていた、この場面において私が考えているのはこちらなんです」と提案をする。
そして、「私の中では、上司の考えと私の考えが重なると、さらに良い結果が生まれると思います。これに対してどう思いますか」と、最後に相手の意見を確認する。
このアサーティブというコミュニケーションの手法を用いてボスマネジメントをすることで、上司にいかに気持ちよく仕事をしてもらうのか。その後ろには、私たち自身がより仕事を通じた成果を最大化するという目的があります。
自身のQOL(Quality Of Life=人生の質)もそうですけれども、プロフェッショナルとして投じた時間や経費あたりの最終的な生産性を高めていこうと思うと、自分1人でできることよりも、上司の後押しやお墨付きをもらえたほうが、より成果の最大化を狙えます。
ーー上司と対立関係にならずに自分の意見を伝えるためには、アサーティブなコミュニケーションによって、上司を味方につけることが大事ですね。
心理的安全性をつくるのはリーダーだけの仕事ではない
ーー最後に、職場づくりにおいて部下側ができる工夫についておうかがいします。著書
『社員がやる気をなくす瞬間 間違いだらけの職場づくり』の中では、間違った職場づくりの例が書かれていました。
中村:例えば心理的安全性の高い職場を作ろうという時に、リーダーだけに任せるのではなく、メンバー自身ができることはありますか?
中村:そうですね。人は背が高くなってくると見渡せる範囲が広くなってくるので、どうしてもより遠くの大きなものをなんとかしたいなと思えてくるものです。
その最たる例が、やはり会社批判とか上司の批判であったりするのですが、そこをどうこう言ってても基本的には変わりません。なぜかと言ったら、会社というものはいろんなもので成り立っているので、何か1つの力学で大きく動いていくとは期待しないほうがいいです。
一方で、私たちが職場づくりに向けてできることはあります。もともと、本の中で「職場づくり」と言っているのも、会社が問題なのではなく、それぞれ働いている職場に問題があるんじゃないかと、単位をできるだけ小さくしたのです。
言い方を変えると、私たちが影響することができる単位というものは、大きなものよりも小さいもの。会社よりも、職場という単位でなら変えられますよ、ということです。ただ職場というものも、まだちょっと大きいかもしれません。
職場は縁がなかった人たちをつなぐ場所
中村:職場の中でのAさんと私の関係とか、事務を担当してくれているBさんと私の関係、職場の中のパートで働いてくれているCさんと私の関係、新入社員と私の関係とかを考えた時に、自分が何か声をかけるとか、その人の何か役に立てることがあるんじゃないか、という発想で動いたり。上司に対してボスマネジメントをする時に「こういうことを思っているんだけど、どう思う?」と、まず職場の同僚に聞いてみる。
それは悪口ではなくて可能性とか変化への期待を一緒に共有するということです。場合によっては自分の見方が固まってしまっている可能性があるので、「間違ってないかな」ってリトマス紙にかける意味合いでも、仲間や同僚の声を聞く。そういう関係性を作っておくと、職場の中でも動きやすくなります。
不思議なのですが、先ほど話したようなコミュニケーションを引き算していくと、職場の中にいるポジションが固定化してしまうんですね。自宅と職場をただ移動しているだけになってしまうと、なかなか自分が思っていることを具体化するのが難しくなります。
そうではなくて、職場を構成しているその他のメンバーに声をかけるとか気にかけるとか、具体的にこちら側からも何か行動していく。
昔はよくありましたけれども、週末にどこかに行ってお土産を買ってきて配るとか、朝のほんの一瞬の一幕でもそういうことがあると、物を通じて人と人との関係性がぐっと近くなったりするので。仕事上のやり取りではなく、人と人としてのつながりができてくると、職場風土も良くなっていきます。
ーー上司と自分の関係性だけにフォーカスするんじゃなくて、周りの同僚との関係性を良くすることによって、上司との関係性がまたうまくいくような流れがあるんですね。
中村:不思議ですけど、職場っていろんな線でできているんですよね。1本1本の細い線が重なり合わさると太い線になるじゃないですか。
これと同じで、仕事のメールでやり取りするAさんと私の関係性においても、「実は同じ地元だったんだ」とか「実は同じ推し活をしてるんだ」とか相手を知っていくことによって、線がどんどん増えていって、その人との関係性が切れなくなる。
そもそも職場というものは、1つのカテゴリーを通じて、縁がなかった人たちをつなぐ場所なのです。
そこを通じて、自分1人ではできない何かに挑戦できる可能性がある。そのために、良くも悪くも私とは違った考えで上司が目の前に立っていてくれるのです。その人をいかに納得させられるか、その人からいかに「いいね、やってみたらどうなの」って言ってもらえるか。そもそもつながっている同士の職場だったら、そこから(新しい挑戦のために)進み出すのも早くなります。
当然だけれども職場は人の束でできていて、関係性も束でできてるので、その束が太ければ太いほどうまくいく。またうまくいかなかった時に慰めてくれる人も出てきます。そのためにも、今日のボスマネジメントで、いかに上をイエスと言わせるのかというところは、とても重要なんじゃないかなと思います。
ーー中村さん、ありがとうございました。
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