【3行要約】
・上司と良好な関係を築きながら自分の意見を通す方法がありますが、多くの人が知らずに敵対関係を作り、キャリアに悪影響を及ぼしています。
・上司は大きく3タイプに分類され、それぞれに効果的なアプローチ法があります。
・「上司ガチャ」は選べなくても、諦めずに向き合う姿勢が必要であり、ボスマネジメントの技術を磨くことは、将来自分が上司になった時の重要な準備になります。
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上司と敵対してはいけない理由
ーーここからは、より上司との関係性について深掘りしていければと思います。ボスマネジメントは、どんなタイプの上司に対して効果的なのでしょうか?
中村英泰氏(以下、中村):良い質問ですよね。まず先にお伝えしておくと、どのタイプの上司に対しても有効です。先ほど、私たちいわゆる部下側は、これからの働き方において「自分の考えていることを通す」ことが大事だとお伝えしました。しかし、これをそのまましてしまうと上司VS私みたいな関係性になってしまうのです。
上司からすると「何をやってるんだ」「いや、現場はこうなんですよ」「いや、それはわかるけれど、今期これだけの数字を納めなきゃいけない時に、君は何を作ってるんだ」「いや、そうは言いますけど、だいたい課長が見てきている今の市場っていうのは5年前じゃないですか。もうオワコンなんですよ」なんてことを言ったところで、何も通りません。
最終的に、「君はそんな勝手なこと言ってていいのか」「あぁ、じゃあわかりました、私は辞めます」みたいになってしまうと、建設的ではありません。なので、意見の通し方があります。
会社は、当然世の中のニーズに応えるべく存在しています。そして上司はそれを業績という数字に置き換えたものを最大化させるためにそこに座っているのです。そう考えると、何かその会社や上司がしようと思っていることがあるはずです。上司や会社が何を必要としているのか。そこと、私たちがしようと思っていることをどう重ね合わせていくのかという発想が大事なんです。
上司の3タイプ別攻略法
ーーなるほど。対立するのではなく、まず上司の目的を考えるんですね。
中村:そうです。そうした中で、とても重要な観点があります。例えば、世の中の男性が女性にプレゼントしているものの、9割は必要とされていないものなんじゃないかという統計があります。
なぜかと言ったら、男性側は、男性が思い描く女性像に従ってプレゼントしていたりするので、本当にその女性が欲しいものとは違ってしまうのです。
ですから、もう少し相手のことをよく知ったほうがいいですね。「私が思う妻へのプレゼント」ということだと、当然喜んではくれますけれども、それが本当に必要とされているかというと、そうではない。そうすると「この間あげた服、なんで着てくれないの」という話になりますが、妻にとっては、それは着たい服じゃないんです。
職場の中でこういったVSの関係性になってしまうと、評価されないわけです。「こんなにがんばっているのに、こんなに提案をしているのに、ぜんぜん会社は評価してくれない。この間、上司に進言したけれど、いつまでたっても動いてくれない。もうこんな上司のいるこんな会社にはいられない」と、私たちの中で感情が抑えきれなくなってしまうのです。
ーー上司との関係性を壊さないために、相手に合わせて伝えることが大事になってくるんですね。
中村:重要ですね。相手が喜ぶような「あぁ、まさにそれが必要だったんだよ」というものをどのタイミングで渡せるのか。大きく3つのタイプに分けて今日はお伝えできればなと思います。
経理や財務によくいる「ルール遵守」タイプの上司
中村:1つ目は、経理や財務とかによくいる、寡黙で、どちらかというとルールを遵守するタイプの方ですね。こういう上司に対しては、ルールを遵守する姿勢が大事です。ルールが妨げられるとか、ルールを曲げなきゃいけないとか、また場合によっては、それをすることによって余分な仕事が増えてしまうかもしれないと思われてしまうと、受け入れられづらいです。
こうした上司に対してボスマネジメントするためには、まずは日頃から「私はあなたの敵ではない、味方なんだ」と示すこと。「ルールをしっかりと守る人だ」と上司に認識してもらえるように、日頃から意識する必要があります。
ーーなるほど。上司の味方であると認識してもらうところからですね。
中村:そうですね。そのためには何をしたらいいのかと言ったら、期日は守るとか、しっかりと手順どおりやっておくとか。まず上司が考えているAという方法に対して、それをしっかりと守るタイプですよ、とアピールする。
そしてここから、何をしたらいいのか。ただ「Bという方法を考えてみたのですが」と言うだけではなく「Bという方法を取り入れることによって、Aという方法と比べてこれだけ時間や工数が削減されます。ということで、1度やってみてもいいでしょうか」とか。あくまで主導権を相手のルールの下に置いた上で、どうしたらいいのかということでお伺いを立てていく流れが重要だと思います。
ーーなるほど。最初に上司のやり方を受け入れた上で、相手を立てつつ、提案していくんですね。
中村:同じようなことが家庭でも起こります。ある男性が、家に帰って妻の家事の手伝いをしようとする。まず、妻には、決められたルールがあります。それに対して余計なことをしてしまうと、かえって手がかかる。よかれと思ってやったことでも、それが相手にとってみたらノイズとなってしまうということがあるんですね。
なので、まずは相手のやり方を1度習うことが重要です。その上で、こういう変化をしてみたらどうだろうと、その相手のやり方の延長線上にあるような提案をしてみる。そうすれば、相手が気分良く承認してくれるということですね。
営業や企画によくいる“新しいことを好む”タイプの上司
中村:続いて2つ目。ルール遵守というよりはどんどん新しいことをやってみたいという、営業や企画にいるようなタイプです。そういう上司はどちらかというと、順当なルールではなく、奇想天外だったり、新しい考え方を重視します。
部下に対しても、「自分の意見を言ってくれればいいんだよ」とか「とりあえずやってみたらどうだ」とか。「エラーは仕方がない、まずはトライが重要なんだ」という方も中にはいらっしゃると思います。
そういう方に対しては、日頃の上司の特性をよく見ておいて、上司が好むものを見極める。そうは言っても、それが野球なのかサッカーなのか、ラグビーなのか、本人がどんな競技のことを言っているのかを間違えてしまうとうまくいきません。
例えば、「じゃあ中村1回企画をやってみろよ」と言われて企画を作って持っていくと、「ぜんぜんずれてるじゃないか、こんなのじゃ話にならん」ということで突き返されたりします。「やれ」と言うからやったのに、やってみたらぜんぜん認めてくれない、と私たちも心が折れてしまいますよね。
ーー時間も工数も無駄になってしまって、次からなかなか提案しづらくなってしまいますよね。
中村:そうですね。この場合にはどうしたらいいのかと言ったら、やはり上司がどんなことを日頃から好んでいるのかというところをよく見ておいて、その領域での提案をするのが重要だったりします。
細かなところですけれども、資料を作る時にはWordで作るのかPowerPointの資料で作るのか。紙ベースで持っていったほうがいいのか。場合によってはメールで送ったほうがいいのか。
もしくは事前に段階的なネゴ(ネゴシエーション)をしておいたほうがいいのか。それとも一発で持っていったほうがいいのか。いろんなタイプの人がいると思うので、そういうところをよく見ておくことが重要なのではないかなと思います。
仕事のやる気が感じられない“無気力”タイプの上司
中村:そして最後、3つ目ですね。先ほど、ルールを遵守するタイプと、奇想天外な、いわゆる営業寄りなタイプの上司ということで分けたのですが。
最後は「あまり仕事に対して乗り気ではないように見える上司」ですね。いろいろなタイプの上司がいるとしたら、当然、今の役職に対してコミットしている上司だけではないはずです。そうした時には、自分の思いを具体的にかたちにする前の段階から、「こういうことができたらいいと思うんですよね」と、小耳に入れておくだけでも違うのではないかなと思います。
というのも、自分の思いを相手にちゃんと伝えるには、「相手が受け取れるタイミング」も大事なんですね。部下側が時折そういったものを投げておくと、何かのタイミングで上司の関心がそこに向いた時に、「そういえば、これってどうなったっけ」と、言ってきてくれると思います。
「どうせ言っても無駄だから」と諦めることのリスク
ーー種まきをしていくようなイメージで、ふだんから小さく希望を伝えておくということですね。
中村:そうですね。これも同じように、家庭を例に挙げると、突然「こづかいを上げてほしい」と言っても「それは無理」となってしまいますよね。
一方で、日頃から「え~、○○さんはこんなにこづかいもらってるんだ、いいよね」「何言ってんの、あんた」みたいなやりとりがあったりとか。「実はここに行きたいんだよね」「うちの家計でそんな余裕があるわけないじゃん」みたいなのを続けていくと、「あ、日頃からあの人こういうこと言ってるな」って覚えてくれるんですね。
そうすると、「そこには行けないけれども、ちょっと方向変えて、ここだったらどう?」とか、相手から提案してきてくれたりします。
ーーなるほど。でも、こういう仕事にやる気がない上司だと、部下の立場からすると「言っても無駄かな」みたいに諦めてしまいそうですよね。
中村:そうですね。でも、いわゆる上司ガチャとも言われますが、上司がどういうタイプかというのは、部下は選べないですよね。私たちがプロとして活躍していくという自律的な思いとか主体的な考えを諦めてしまうと、いずれ年を重ねていった時に、後輩や部下から「あぁ、中村さんってダメな上司だよね」と言われたり。私たち自身が何かを阻害する要因になってしまう可能性もあります。
ですから、こういった上司を見ながら自分のありようを変えていく、そこに対してエンゲージを高めていく。そのためにボスマネジメントを使う。これは、自分が上司の立場になる時までにやっておくべき重要なトレーニングでもあると思うんです。そう思うと、私たちは自分自身の職業人生をプロとして全うしていくことを諦めちゃいけないんじゃないかなって思いますね。
関連書籍:
『社員がやる気をなくす瞬間 間違いだらけの職場づくり』中村英泰/著(アスコム)
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