【3行要約】・成果を出せば人間関係は不要と考えていた小玉歩氏は、その考えを改め、むしろ非合理的な人間関係への投資が長期的な成功につながると気づきました。
・同氏は「AIが台頭する時代だからこそ、人間にしかできない非効率なことで差をつけるべき」と指摘します。
・自分が絶好調の時こそ人間関係を大切にし、相手に時間を使うことで、いざという時に助けてもらえる関係性を構築していくことが重要です。
前回の記事はこちら 成果を出していれば「職場の人間関係」は不要だと思っていた
——前回、これからの時代は業務スキルで差がつきにくく、より人間性が重視されるようになるとうかがいました。前作
『クビでも年収1億円』を書かれた時(2012年)は、業務で成果を出していれば、職場の人と関係性を作る必要はないという、今とは真逆の考え方だったんですね。
小玉歩氏(以下、小玉):そうですね。どちらかというと「自分1人で成果を出す」みたいな感じだったんだと思います。ほかの人との関係性をあんまり考えずに、自分1人で何かに取り組み、効率良くこなして結果を出していけばいい。それ以外はどうでもいいという感じでした。
当時僕は、例えば9時出社だったら8時55分に会社に行っていましたし、(定時が)17時半までだったら17時半になった瞬間に帰っていました(笑)。1時間前に来ている先輩とか、全部の飲み会に参加している先輩とかは、「超無駄なことしてるな、この人」って思っていました。
プライベートの時間を削って会社にそんなに時間を使って、早く来たからってそのぶんの給料が出るわけじゃないし、なんなら飲み会で10歳〜20歳上の上司と飲んで「何が楽しいの?」みたいな。自分の好きなことに時間を使ったらいいのに、と思っていたんです。でもそういう人たちは今、すごく偉くなっているんですよ(笑)。
——職場の人間関係やコミュニケーションに時間をかけた人が出世しているんですね。
小玉:仕事ができるのは大前提として、やはり選ぶのは上の人じゃないですか。そうなった時に、同じくらい仕事ができる人がいたら、最終的には「あいつ、良いやつだから」みたいな理由で選ぶんですよね。
「80点の仕事をする付き合いの悪いやつ」と「80点の仕事をする付き合いの良いやつ」がいたら、絶対に後者を選ぶに決まっているんですよ。だって自分たちからしたら、後者のほうが仕事がしやすいじゃないですか。そういうのがわかっていなかったんです。
世の中は合理的に動いていない
——決裁権のある人は、最終的には「自分が仕事をしやすい人」を選ぶということですね。
小玉:そうです。世の中、合理的に動いていないことに気づいていなかったです。
——人間的な魅力を感じて選んでもらうというのも、それはそれで難しいと思いますが、小玉さん自身は、80点のままで選ばれるためにどんな工夫をされてきましたか?
小玉:僕は起業してからずっとオンラインスクールをやっていて、最初は自分が講師・主催者をしていました。生徒が何百人といたりするので、一人ひとりに教えていられないから社員に入ってもらってサポートしてもらっていました。
自分がなるべく動かずに、効率的に多くの生徒を受け入れられる体制を作ってたんですけど、このままではダメだなと思ったんです。全員とZoomをしたり、より深いコミュニケーションを取るために、飲み会をやって朝まで一緒にビジネスの壁打ちをしたり。そういうことに時間を使うようにしました。
——コミュニケーションを増やして相手に時間を使うようにしたんですね。
小玉:そうですね。効率的にやるのをやめて、一人ひとりにたくさん時間を使うようにしました。しんどかったですけど、それによってだいぶ変わりましたね。なぜならば、ほかの人がやっていないから。
「そんな一人ひとりに時間をかけていたら疲れるじゃん」というのと、「そんなことやらなくても別にスクールに人は入ってくるし、効率的にやればいいじゃん。(そのやり方じゃ規模を)拡大できないじゃん」といった理由で、誰もやらないんですね。
短期的に見れば無駄でも、長期的に見れば自分を助ける
——とはいえ、誰もやらないことをやろうとしたら、業務が滞ってしまったり、自分のやりたい仕事がぜんぜんできないこともあるのではないかと思いました。どのように考えていくのがよいでしょうか。
小玉:これは難しいのですが、どの時間軸で見るかだと思うんですよ。例えば1週間、1ヶ月、3ヶ月で見た時は、「時間がかかって他にやれることがなくなる」となるんですけど。
こういう非効率なことを1年続けてスクールのメンバーが成果を出した時に、評判が良くなって、さらに多くの人たちがスクールに来てくれることがあるかもしれない。そして、このスクールの人たちが成長した時に、自分がやっているようなサポートを一緒にしてくれたら、もしかしたら先々、自分の負荷が減るかもしれないとか。どこまで先を想像できるかだと思います。
たぶん全部時間軸の問題で、短く見たら全部無駄だし大変って思うかもしれないですけれども、長期的に見たら意味があることだし、自分を楽にする。そういうふうな想像力を持てるかどうかですよね。
だからポイントとしては「時間の投資」だと思うんですよね。フリーランスの人とかも、とにかくクライアントに時間をいっぱい使ったらいい。例えば恋人がいて、自分にすごく時間を使ってくれる人と、ぜんぜん時間を使ってくれない人だったら、使ってくれる人のほうがいいじゃないですか。仕事も同じだと思うんですよね。
——確かに。相手から信頼を得るとか選ばれるためには、相手に時間を使っているところを見せるのも大事ですよね。
小玉:そう思います。
ほんの少し期待を超えるだけで「唯一無二」になれる
——書籍の中でも、「期待以上の行動」をするのが重要だと書かれていましたね。そこで、ビジネスパーソンは具体的にどんな行動をしていけばいいのでしょうか。
小玉:期待以上って、そんな大げさである必要はないと思うんですよね。遥かに期待を超えようとしたら、「そんなの無理じゃん」って思うじゃないですか。ちょっと期待を超えていればいいなと思っています。
本でも書きましたが、僕がヒルトンホテルに泊まった時に、チェックインの際に「サインしてください」と言って、ペンを左側に置かれたんですよ。というのも、僕は左利きなので、ペンがすぐ手に取れるように左側に置いてくれたんですよね。
その時すごく感動して聞いてみたら、「(以前宿泊した際のデータの)メモに左利きだと書いてあったので」と言われました。それで、絶対次からヒルトンに泊まろうと思ったんですけど、次に別のヒルトンに泊まったら普通に右に置かれました。人によるんだなと(笑)。
——本当に人によって差が出る部分ですね。
小玉:たぶん全員同じ(データの)画面を見ているんですよ。でも、そこに気づくかどうかは人による。気を遣う人って、(相手に)気を遣われていることにも気づくと思うんですよ。なので、相手の気遣いに対して「この人はわかってるな」「できるな、こいつ」みたいに思う。
そう考えている人って、ある程度何をするにもセンスがあるというか、結果を出していると思います。だから、ちょっとした気遣いをすることで、そういう結果を出す人に見つけてもらえると思うんです。
——それが仕事のチャンスにもつながっていったりするんですね。
人が見向きもしないものにハマり続ける
——20代で「合理的にやること」を絶対視していた時代から、年齢を重ねて、それだけでは通用しないと気づいていったんですね。
小玉:それはすごくあります。でも、合理的にやる部分はやったらいいと思うんですよ。僕はAIを否定しているわけでも「使うな」と言っているわけでもなくて、なんならすごく使っているほうだと思います。
AIを使える部分は使って、それで生まれた時間を何に投資するかとなった時に、そういう人間にしかできない「非効率なこと」をして差をつけたらいいんじゃないのかなと思います。みんながAIを使っているのに使っていなかったら、遅れを取ってしまいますから。
——なるほど。若手ビジネスパーソンは、AI以外ではどういうスキルを学んだほうが良いのでしょうか。
小玉:そうですね。「どんなスキルを身につけたらいいですか?」と聞かれたら、当たり前のように「AIを使えたらいいよ」っていう話になる。でも、それをもって5年後、10年後に何か大きな成果が得られるか、ずっと食っていけるようなものになるかっていうと、ならないです。
なので、何でもいいから没頭したほうがいいです。特にみんながやっていないものをやったほうがいい。例えばちょっと前だったら、みんなして「プログラミングだ!」とか言っていたじゃないですか。でもみんながプログラミングをやったら、その中で優れていないと自分のバリューって出せないですよね。当時、誰も「AIだ!」って言っていない時にAIを学んでいたら、今頃すごいことになっているはずです。
でも今、世の中が「AIだ!」ってなっている時に、今からAIを学んでも厳しいと思うんです。
とはいえ、世間が「プログラミングだ!」って言っていた時に、AIに注目できたかっていうと、狙っては無理じゃないですか。だから結局、何が来るかわからないので、興味を持ったものをやり続けるという胆力が必要です。
この時、「流行ってるから」「次はこれが来るから」とかで選ばないほうがいい気がします。間違いなく言えるのは「打ち込んでいればそのうち絶対なんとかなる」ということです。「あいつ変なことやってるな」と思われるようなものに打ち込んだほうが、今の時代は価値が出ると思います。
成果を気にせず「ハマる」経験が、いずれ自分を助ける
——なるほど。それぐらい継続できるものは、やはり好きなものじゃないと難しいですね。
小玉:僕は元来そういうところがあるんですけれども、けっこう何にでも興味を持ってハマるんですよね。そこにわりと時間を投下したり、場合によってはお金をすごく使ったりします。
ことビジネスで見た時に「じゃあそれ、事業として儲かるの?」みたいな話がありますが、そういうのはいったん置いておいて、自分の興味の赴くままハマっていくことが大切なんじゃないのかなって思いますね。その経験は長い目で見たら、絶対に回収できますから。
——「これ仕事に役立つのかな?」ということは考えないのが大事なんですね。一方で、小玉さんみたいに元来ハマりやすい人もいれば、趣味がなかったり、何にもハマれない人もいるんじゃないかなと思います。その場合はどうしたらいいのでしょうか。
小玉:これはもう、いろいろやってみるしかないです。たぶん「好きなことがわからないんです」とか「見つからないんです」って言う人に限って、経験の種類が少ないんです。なので何でもやってみるのが大事です。
——人からお勧めされたものでもいいから、とにかく試してみることですね。