【3行要約】
・環境問題への配慮が当たり前となる中、既存アセットの活用が都市デザインの新たな方向性として注目されています。
・都市環境デザインの専門家である石川氏は「若者世代は環境意識が高く、テクノロジーとの融合や社会的処方が重要課題」と指摘。
・10年後の東京は地方に「見放される」可能性もあり、人生のステージに応じて居住地を選ぶ時代の到来に備えるべきとのことです。
「環境負荷を考えざるを得ない時代」既存アセットの活用が求められる都市デザイン
——建物を建てるにも環境を考えざるを得ない時代になりました。若者世代にとって環境問題への取り組みは「当たり前」になっている一方、AIやスマートシティなどのテクノロジーとどう向き合うかが課題となっています。高齢化が進む中で求められる「社会的処方」とは何でしょうか。
10年後、東京は地方に「見放される」のでしょうか。都市環境デザインの専門家が語る、スクラップ・アンド・ビルドから脱却した新しいまちづくりの可能性と、人生のステージに応じて居住地を選ぶ時代の到来についてうかがいました。
藤井創氏(以下、藤井):確かに、今は建物を建てるのも何をするにもそうですけど、環境を考えないわけにはいかないかなという気はするんですけど、やはりそこはけっこう今までの都市環境デザインの部分から変わっていく感じがありますね。
石川由佳子氏(以下、石川):まだ東京は建っていますけど、たぶん、もうあんまり新しいものって、建てられなくなってきて、今いろいろな素材も高いし建設費も高いし、そもそもみんな求めていないみたいなところもあって(笑)。
時代のニーズや行っている方向と、これまでの建て方というギャップは、たぶんみんな感じてきているんじゃないかなと思っていて。
なので、そもそも状況として今までのような効率良く建物みたいなものを建てられなくなってきているのが1つあるのと。
たぶん既存のアセットというものをどう使っていくか。空き家もそうですけど、今あるものをどうやって低コストでも意味があるかたちで活用していくか。
リノベーションとかもそういう文脈だと思うんですけど、そういう話になってきた時に、たぶんそういう環境の視点だったりとか環境負荷の話は考えざるを得ないみたいな。
考えたいから考えているというよりかは、もう世の中が考えざるを得ない状況になってきているというところが、1つあるのかなというふうに思っています。
若者にとって環境問題は「当たり前」のこと SNSで格好いい発信をするリーダーの存在
石川:あとは、今私が立ち上げから関わり、企画運営をしているコミュニティースペース「watage」という拠点で、「気候“神田”若者会議」という、日本若者協議会という若者の政治参加とか議会への提言とかをやっているチームと一緒にプログラムをやっているんですけど。
やはりこの10代、20代の世代の環境意識って、すごくナチュラルというか、当たり前。たぶん我々とかその上の世代が思っている、環境問題を義務としてやらなきゃいけない、あるいは無理やりやらなきゃいけない、取り組まなきゃいけないものじゃなくて、本当に人生や生活の当たり前として、「それ、普通、取り組むよね」みたいな態度がけっこう身近というか、そういう感覚がしていて。
なので、たぶん街とかも5年でなくなるものを作るわけじゃなくて、10年、30年、あるいは100年。もっと残るものを作っていく中で、これからの世代の感覚もフォローしていかなきゃいけないと思っていて。
そういう若者たちが選ぶ環境とか場所って、ちゃんとそういう気候のことや環境のことを考えた場所だったりとか、そっちのほうが気持ちいいよねって思うし、そういうところが自然に淘汰されていくのかなという感じは、今の動きを見ていて思いますね。
藤井:今の若い人って環境意識がすごく高いなとは思うんですけど、それって、何が原因だったりするんですか?
石川:もうやはり「ヤバい」という状況を見過ぎたというのはあるのかなと思って(笑)。だって、もう夏とかもう大変なことになっているじゃないですか。でもそのビフォーアフターを我々は知っているから言えるけど、もうこれがデフォルトで、もうずっとヤバいみたいなのが、生まれてからだと(笑)、それをなんとか生きるためにしなきゃってたぶん思うし。
そういうSNSの発信の中でも、より若者の中でもリーダーシップを持っているような人たちが、ちゃんとそういうことを発信して伝えている。
それを真面目な人たちが言っているだけじゃなくて、見せ方だったり世界観としても格好いいものを持っていて、それがたくさん出てきていると思います。そして、そういうコミュニケーションの仕方もすごくオープンに、裾野広くやっているなという印象もありますね。だからそれが格好いいってなっている感じもします。
藤井:それがすごい。
スマートシティへの期待と課題 AIが無法地帯な現状をどう整理するか
藤井:一方でというか、この前大阪万博に行ってきたんですけど、スマートシティであったりとか、デジタルとか、日本のブース以外でもそういうのがけっこう多くて、それはそれでおもしろかったんですけど(笑)。
ただそこって、要するにデジタルな世界、先ほどの環境とちょっとまた反対……反対でもないんですけど、ちょっと違うかなと思ったりして。このスマートシティとかそういうところを上の世代は目指していたりとか、そういうのはあるのかなと思うんですけど。
そういう都市に対してのテクノロジーについては、なにか思うところとかはありますか?
石川:技術とかはどんどん使っていけばいいと思っていて、その技術によってもっと余白が生まれたりとか、できることって増えてくると思うので。
フィジカルなそういう実践だけじゃなくて、テクノロジーとかそういうものをうまくどう使っていくかを、私たち側ももっと勉強しないといけないし、地域での実践にテクノロジーを入れていきたいなというのはすごく思いますね。
藤井:なかなかデジタルが行き過ぎちゃうと、みたいな意見もあって。例えば今AIがそれこそ、世の中でいろいろなところに入り込んできて、それが嫌だなという、反対する人たちも一定いる中で、それをどううまく取り入れていくかみたいなのを考えていたりしますか?
石川:それはなかなかいろいろな問題がありますよね。昨日それこそ、そういうのを企業と議論している哲学者の人とお話をしていたんですけど。
やはり最近すごく企業倫理みたいなところで、そういうAI倫理みたいなものであったりとか、AIでの採用みたいなところをどうやって取り扱っていくべきなのかとか、そういう話を企業とも話をしているらしいのですが、そこらへんは今はけっこう無法地帯な感じですよね(笑)。
急速に技術は広がっていますけど、まちづくりの分野でも今後さらに議論されていく領域かなと思いました。
藤井:AIだったり、それこそロボットもそうですし、自動運転車とかというものも、テクノロジーが入ってくるところかなと思うんですけど、そういうところも当然都市の動きというか、動いていくところに関係してくるのかなと思うので、そこらへんとどううまく折り合いをつけるのかが、気になるところでして。
石川:そうですね。ちょうどこの間、
ポッドキャストで「移動」について話していたんですけど。それこそ東京とかって、やはり「LUUP」などのマイクロモビリティができてだいぶ移動の仕方が変わったなというふうに思っていて。
これまでってけっこう鉄道会社が駅前を開発して、そこの地価を上げて、その周辺に人が住めるようにするスタイルだったと思うんですけど。
駅前至上主義みたいなものから解放され始めている感じもあって、渋谷もやはり駅から遠いところにメチャクチャいいコーヒースタンドができたりとか、周縁に、それこそ駅中心じゃない、駅と駅の隙間の部分に魅力ある店舗だったりとか目的地が出来始めるという動きが出てきている。
マイクロモビリティも、けっこうその変化の起因になっていると思っていて、そういうサービスができるようになって、都内の移動の仕方も変わりますし、それによって盛り上がっていくエリアのヒートマップみたいなのが変わってきている感じはおもしろいなと思って見ています。
藤井:確かに、昔は駅から離れるともう何もないところだったけど、今はいろいろなところにカフェもあるし、パン屋さんとか、そういうのは駅から離れたところにも確かにある。