高齢化社会における「社会的処方」 地域でのセーフティーネット構築が急務
藤井:もう1つ、環境問題じゃないんですけど、今後日本が抱えていく問題として高齢者の問題だったりとか人口が減っていくところ。ここらへんって、都市環境デザインとかで関わってきたりはするんですか?
石川:そうですね。すごく大きなトピックだなと思うんですけど。ちょうど2024年から、これは個人の仕事になるんですけど、千葉の白子町の取り組みがあって。
あるクリニックさんとデジタルデバイス、こういうスマートウォッチで身体データを集めて、それを未病につなげる、ということをやっているベンチャーと3社で研究プロジェクトをやっていて。それがまさに、千葉エリアの独居老人地域での社会的ケアをどう実現できるかというお話だったんですね。
私もふだん、やはりこういう都市部にいると、けっこうアクティブに動ける方がいるんですけど、そこ(千葉の白子町)では本当に「もう家で過ごしている」みたいな、おひとりの方だったり、いろいろな方々の事情を聞くことができて。こういう人たちは、どうやって自分の終末のデザインをしていくかというのを、地域として考えなきゃいけない課題だなと思いました。
その時に、やはり「社会的処方」がすごく意味が出てきそうだなと思って。社会的処方は、関係性を処方するという考え方で、イギリスではそれを保険適用にすべき、という動きが出てきたりもしていて。薬を処方するのと同じで、社会的なつながりだったりとかセーフティーネットみたいなものをどう地域で担保していけるかということが重要になってきていると感じます。
社会的処方もいろいろなアプローチがあると思うんですけど。高齢者の方々の孤独・孤立を個人の問題、あるいは家族の問題として負担していくのではなくて、その地域である程度請け負っていく、地域で役割を担っていくという分散のさせ方が、すごく重要だなと思っていて。
今はその社会的処方というものを地域でどうやってできるかにもすごく関心がありますね。
藤井:集まりとかコミュニティを、地域でちゃんと作るみたいな。こういうのってけっこう大事だなと思うんですけど。
そういうのって、広くいろいろなところがつながって、コミュニティ同士がつながっていったほうが、たぶんもっと広がっていく環境になるようなイメージがあるんですけど。独立しちゃうと、それはそれでコミュニティが孤立してしまう気がしています。
石川:そうですね、確かに理想としては、例えば情報はすごくオープンで誰でもアクセスできるけど、実際の場所ではすごく密な状況や関係性が共存しているといいなと。
エリアをあまり広くし過ぎると続かなかったり、顔がどんどん見えなくなっているというのもあるので。規模感とかもすごく大事だなと思っているのと。
その、白子町での取り組みの中で思ったのは、実際は集まれない高齢者の方々というのが実はほとんどかもしれないみたいになった時に、そういうデジタルデバイスでその人を緩やかに見守っているという関係性が安心感を作っていったりとか、それがちゃんとお医者さんに届いているみたいなところで、緩やかに支えているみたいな状況を作れるんだなと、私自身もちょっと気づきがあって。
それはすごく、直接的なフィジカルな交流ではないけれど、つながるという意味でデバイスがつないでくれているなという。それもおもしろい取り組みだなと思っています。
10年後の東京は「見放される」危機感 地方発の取り組みを逆輸入する時代へ
藤井:最後に、未来の話をしたいと思って。今からだいたい10年後、2035年ぐらいをイメージしていただいた時に、都市というものはどう変わっていくのかなと。
先ほど言ったように、いろいろな節目節目で変わっていくものが出てくると思うんですけど、2035年ってどんな都市デザインをイメージできるのかなと。
石川:そうですね。意外とすぐですよね。東京だとたぶん2030年ぐらいまでが人口がピークみたいな。2040年代から下がっていくみたいなデータを見たことがあったので、東京はたぶん10年後でもあんまり変わらないみたいなことがあるのかなと思って。
実は、この「watage」という場所も、10年後再開発される予定地なんですね。2024年に立ち上がった場所なんですけど、10年後の再開発に向けてちゃんと市民の声だったり若者の声を届けていくというような活動として生まれました。
再開発みたいなことって、都市に住んでいるとなかなか避けられないことかなというか。駅前は特にですけど。だけれども、その手前でできることはたくさんあると思っていて。
例えば新しく開発したビルに、日本初上陸みたいな冠でテナントをいれて、話題性を一定作って、それで人を集客するみたいなものは、たぶんもう無理だと思っていて。もっと地域での役割とか価値みたいなものを本格的に考えなきゃいけない時代に突入したなと思っています。
だからこそ、10年こういう場所を作って、どういう場所があるべきかというところを地域のこれまでの資源とか歴史を見つめながら、これからをどう考えていくかをテーマにしていくようなスペースを作っています。
なので、10年後という意味では、先ほど言ったみたいに、スクラップ・アンド・ビルドということではなくて、今あるものをいかにいろいろな工夫、あるいはそういった人々のセンスとかスキルみたいなものを集結させて、おもしろく使いこなしていくところが、すごく重要になってくると思っています。
あともう1つ、私は東京に住みながらいろいろな場所に行くんですけど、同世代とかはけっこう東京を離れていっていて。その理由としては、やはりそれこそ長野、山梨とかそういうところも多いんですけど、そっちのほうが家賃も安いし広い場所を借りられるし、自分が暮らしたい生活や作りたいものを作れる環境がそろっている、みたいなことだったり。
ものづくりする人とかだと、一次資源が近い。例えば土を使う人だったら土が近いとか、インスピレーションを受けるものの近さみたいなものがすごく重要になってきていて、そういう生活とか、おもしろいエッジが立っている取り組みって今、東京の周辺で起こってきているなと思うんですよね。
ですから、ちょっと最近東京が見放され始めている感じもして、いったん見放され切って、「ヤバいヤバい」って東京がなるんじゃないかなと(笑)。それが10年後かはわからないんですけど、このままだとそういう危機感は私もあって。
なんですけど、1回、フリンジというか周辺でおもしろい取り組みをやってきたものを、ある種東京が逆輸入するみたいな時代も来るのかなと思って。
これまでって、東京でやったことを「めっちゃ格好いいからこっちでも」みたいな、「また東京みたいなのが北海道にもできたぞ」みたいな、味気ない感じだったんですけど。もっとローカルでの実践をサイト・スペシフィックといいますか、コピペじゃないかたちで、生まれてくるんじゃないかなというのを、期待したいです。
藤井:確かに、東京一極集中とかではなくて、いろいろなもの、いろいろなところにいろいろなものがその地域ならではで出来上がるというのはおもしろいですね。で、それが逆に東京に戻ってくるという。
それこそ韓国は今ソウルに、ほとんど人口が集中しているみたいですけど。日本だけじゃなくて、アジアも含めて、都市に1回集中してから、またそこから出て。
石川:そうですね。もしかしたらそういう、東京で生まれて死ぬまでいるみたいな人も少なくなってくる可能性はありますよね。
藤井:(笑)。確かに。
人生のステージに応じて選ばれる場所 一生定住の時代は終わり
石川:人生の中の活動量をグラフにすると、ちょうどゆるやかな山型のようになると思うんですけど。その活動量が高い時期、例えば20代から40代は東京という街はすごくフィットすると思うんです。
一方で、もうちょっと若い時期、例えば教育環境を考えた時に東京は選ばれるのかとか、高齢になって、人生を終えていくタイミングで東京って選ばれるのかとか考えるんですよね。活動量の差異みたいなところで、選ばれる場所地域が変わってくる感じがするなって思っています。
藤井:それは、一生の中をどこで活動するかという。
石川:そうなんですよ。どこで死にたいかなとかって考えることがあるんですけど、東京じゃないかなと思って(笑)。
藤井:確かに(笑)。それこそそれは、もう日本とかに限らず海外とかも考えられるのかなと。
石川:そうですね。だから、1ヶ所に定住というのは、私個人としてはあんまり想像がつかないというのもあるかもしれないですね。
藤井:なるほど。ありがとうございました。